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遠目から見ても分かるくらい、その女性の姿はボロボロだった。
スーツの所々は破け、ボタンははずれ、スカートには穴が開き、髪には泥がこびりついていた。さらに、服もちゃんと着ておらず、それが彼女の異様な様を引き立たせいていた。
だというのに、それを気にする素振りも無く、俺たちから、ふらふらと遠ざかっていく。
明らかに異様。どうしようかと、彩菜に目配せすると、彩菜は頷いた。
そして一言、
「私が行ってくるね。彼女、何かされてるかもしれない。」
と、告げて走り出した。
正義感の強いあいつのことだ。いてもたっても居られなくなったのだろう。
だが、あいつ一人に任せるわけにもいかない。いくらハイエンドクラスのデビルバスターとはいっても、彼女はまだ女子高生だ。こんな危険な場所で、一人きりには出来ない。
すぐに、もう見えなくなった彩菜を追いかける。
だが、その時にはもう彩菜は女性の下にたどり着いていた。
「大丈夫ですか!?いったい何があったんです!?」声を荒げている彩菜。
「助けてぇ……助けてよぉ……」か細い声で助けを求める女性。目の焦点が合っておらず、どこか不気味だ。
「ねぇ……助けてよ……」
「ううん……話が噛み合わないな。もしかして私の声は聞こえてないのかな?」そう言って彩菜は思案し始めた。色々と考えてみるが、なかなか考えがまとまらない。
そして、彩菜が女性に背を向けたとたん、女性に変化が起こった。
髪の色は紫に、爪は伸び、目は充血、体格も逞しくなる。変わり果てたその姿は幽鬼か。
そして、その爪でもって彩菜に襲い掛かる!
「がぁああああ!!」
「……えっ!?」
とっさには反応できず、彩菜は目を伏せ、ささやかな防御とばかりに両腕で顔を守った。だが、こんな防御が役に立ちはしないのは、彩菜自身が良く分かっていた。
(こんなところでヘマしちゃうなんてなぁ……)そう思い、彩菜は目を閉じた。
だが、何時までたっても、敵の攻撃がこない。彩菜が恐る恐る目を開けると、そこには、
「まったく、危なっかしいわね。私が追いつかなかったらどうするつもりだったの?」
――蝙蝠のような翼を広げた、淫魔の女王が居た。
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