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朝日新聞に「経済気象台」という、社外の経済人、学者らに匿名で執筆してもらっているコラム欄があります。7月1日のその欄に、緊縮・グローバリズム・EU万歳の朝日新聞方針とは異なる立場のコラムが掲載されています。書き出しはこうです。
>英国が国民投票でEU(欧州連合)離脱を選択し、世界経済に激震が走っている。短期的には金融市場の動揺に警戒しなくてはならないが、日本を含め各国とも政策対応を間違えなければ恐れるには足りない。ちなみに日本の財政破綻懸念をいう人が、円高は円が安全資産とみられている証拠だというのは奇妙である。有事の円高は、日本の財政破綻懸念には全く根拠がないことを示しているのではないか。
朝日にこんな「本当のこと」を書いていいの?と心配になりますが、たぶん社は急いで「財政破綻するぞー」という反論をどこかのエコノミストに書かせると思います。
さてコラムは「移民問題が今回の国民投票の争点の一つであった」のは確かだとした上で、「移民は国民の不満の一種のはけ口として使われている」と言い、こう続けます。
>底流にある英国を覆う閉塞感と国民の怨嗟の声は根深い。経済危機の最中に緊縮財政を進めて国民に犠牲を強いるエリート層の裏切りに大衆が反乱を起こす、という構図が世界中で出来上がりつつある。
>離脱派は過去の郷愁にとらわれた排外主義者ばかりではない。英国在住の保育士・ライターのブレイディみかこ氏は、離脱派の原動力がエリート層に見捨てられたと考える末端労働者の怒りであり、リベラル派にも離脱派への共感が存在することを伝えている。
そして最後に朝日新聞に対する皮肉とも受け取れる言葉で締めます。
>日本では、リベラル派を名乗る人々でも緊縮財政を褒めそやす傾向がある。社会保障の充実をうたいながら、消費税増税の痛みに耐えなくてはならないといった意見もある。しかし緊縮は人々の不満をかき立て、リベラルな世界を破壊する。そのことを今回の国民投票は示している。
緊縮財政を賞揚し、社会保障の充実を要求しながら消費増税しろと叫び続けるリベラル派(!)。まさに朝日新聞がそれです。「日本では、」と書かれていますが、EU支配層もおおむねこんな感じでしょう。
このコラムと関連して思い出すのは、『経済政策で人は死ぬか』という本です。不況時の財政政策には「緊縮」と「景気刺激」とがあって、現実には両者の組み合わせが行われるわけですが、「緊縮」を強く打ち出した場合、死者が増えるという統計的相関があることがこの本で示されています。
●デヴィッド・スタックラー、サンジェイ・バス『経済政策で人は死ぬか―公衆衛生学から見た不況対策』草思社、2014年
日本でも小泉首相が「痛みに耐えて…」と言い始めた頃から財政収支だけは少し好転しましたが、自殺者が年3万人を超えるという異常事態となりました。しかも、この本によれば、緊縮中心の政策を取って経済再生(景気回復)に成功した国は一つもないといいます。これも構造改革路線以降デフレっぱなしの日本にもあてはまるでしょう(この本は日本の分析はしていません)。
長くなりましたが、一つ重要なことを付け加えておきますと、グローバリストたちの中に人の命を屁とも思わぬ貪欲な金の亡者がたくさんいるように、その犠牲となる労働者たちもまた決して「清く正しく美しい」わけではなく、欲にまみれたただの人間だということです。だからこそ「恨み」がつのってくるとスケープゴートを作り出して迫害し、殺すこともいとわなくなってしまう。イギリスに限らず、ドイツでも、フランスでも強まる一方の「反」移民の空気はこうして醸成されてきました。それが人間というものです。
そんな恨みが渦巻く世の中を作ってはいけないのです。国を動かすエリートたちにはもっと責任を持ってもらいたい。反移民な人たちを、リベラルの仮面かぶって「極右」と罵っている場合じゃないのです(一朝日新聞購入者より)。
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