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バジル二世さんが言及している点について若干コメントします。
足らない税収を補うために政府が借金を積み重ねていくと、将来の増税が予測される。だから、たとえ今減税や給与アップがあったとしても、やがて来る増税を見越して、消費者はお金を貯蓄に回すのではないか、という点についてです。
前提として、お金は無からは生じず、まずは中央政府がどこかから借りるという形をとって世に出されることは押さえておきたいと思います。つまり貨幣を発行することができない個人と違って、貨幣を発行する大元である政府は借金(借金して返し、また借金して返し、という運動)があることが常態です。ただ、借金があまりに増えていくと、野放図に貨幣を発行していると解釈され、貨幣の生命線である「信用」が損なわれます。そうなると最悪ハイパーインフレになるから、この「信用」だけは絶対に確保しておかなくてはなりません。
わざわざこんなことを書いたのは、世間では「国の借金」なるものが、必ず返済しなければならないもの、と誤解されているフシがあり、マスコミも「大変だ―」と煽っている気がするからです。問題は借金の額ではなく、信用を棄損しかねない状況にあるかどうかであり、日本の通貨「円」はどうみてもそんな状況にはありません。ハイパーインフレどころか、政府・日銀が2年のうちに達成するとした2%のインフレ目標にすら遠く及ばない状況、つまりは未だデフレから脱却できていない状況です。生活を圧迫するインフレを心配しなければならないようなお目出度い状況では全然ないのです。
マイルドなインフレに持っていくことができれば、税収増とインフレ効果によって政府の負債は相対的に減ります。アベノミクスはそれを狙って、(1)異次元緩和による円高是正とインフレ期待の喚起、(2)積極財政による需要創出及び実体経済の駆動、をやるということだったのですが、実際には(1)によって円は安くなり株価上昇は成功していますが、(2)をやめてしまったために日銀口座にお金が積み上がるばかりで、実体経済は停滞したままです。当初から(3)として「構造改革」があったので嫌な予感はしていましたが(というのも(2)と(3)は反りが合わないから)、案の定です。
で、何が言いたいかというと、「どうせそのうち増税が来るんだからお金は使わないでおこう」というふうなマインドは、これまで書いてきたように、政府がデフレ下でなぜかデフレ継続政策をとっているところに起因するということです。今のやり方を続ける限り、どうせ増税されるんだから、というマインドこそが合理的ということになります。そしてその合理がさらなる停滞を作り出す。社会保障費は増えるばかりで大変、だから税収が足らないので緊縮財政、まだ足らないので消費税増税――「国の借金」とやらではなく、こういう「縮み志向」の悪循環の方が日本人とりわけ若い世代を閉塞感に陥れ、ひいては子や孫の世代に大きな負債を残すことになっていることに気づくべきでしょう。
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