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3. プレビシットとの近似について
いったん総選挙から離れて「国民投票」に目を向けてみます。
国論を二分するような政策問題について国民の意を直接問う方法として「国民投票」(referendum)がありますが、その中で、政権の維持拡大を目的とした国民投票は特に「プレビシット」(plebiscite)と呼ばれ、フランスやドイツの苦い経験から、近代民主主義においては避けるべきものとされています。参考までに「衆議院欧州各国国民投票制度調査議員団報告書」(2007年)から引用してみます(277頁、人名のアルファベット表記等は省略)。
>フランスでは、ナポレオン・ボナパルトによる第一帝政期及びルイ・ナポレオンによる第二帝政期において、皇帝が国民投票を通じ、形式的には人民に直接依拠しながら強権を発動するかたちでの統治(bonapartisme)が行われた経験から、権力者とその統治を正当化するための人気投票・信任投票を「プレビシット」と呼んで通常の国民投票と区別し、警戒を強めてきた。
ttp://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_kenpou.nsf/html/kenpou/toku/report2005.pdf/$File/report2005.pdf
ナチス政権においても政権・政策の正当性を示すためにこの「プレビシット」が繰り返されたことは、以前芥屋さんも指摘していた通りです。
もちろん、今、私が疑問を呈している衆議院解散・総選挙は国民投票とは別物です。しかし今回の総選挙は(前回もですが)、上掲引用にある「権力者とその統治を正当化するための人気投票・信任投票」 に近似しているのではないでしょうか。そうであるならば、総選挙は国民投票とは違うと言って思考停止するよりも、悪しき国民投票「プレビシット」との内的同質性に着目し批判する方が有意義でしょう。
今回の総選挙の目的として安部総理は2019年の消費税増税について増税分の使用目的を変更する考えである旨を明らかにし、「約束した増税分の使用用途を変更することであるので国民の意思を尋ねなくてはならない」と述べました。しかしそれならまず、その案をしっかりと練って具体化し、国会に提出して議論すべきでしょう。何のために国会があるのか。総理のこの姿勢には、代議制民主主義を軽視し、議会の頭越しに、権力者が人民の信を得たという形をとって権力行使を恣にするという「プレビシット」の性格が端的に現れています。
安部総理はもう一つの解散・総選挙の理由として、北朝鮮危機を取り上げ、「選挙で信任を得て強力な外交を推進する」と述べました。しかし「信任」はまずもって国会から得るものです。そのための方法として「信任投票」というものが憲法に規定されています。総理大臣は国会で選ばれるのだから当然のことです。国会をすっ飛ばして「選挙で信任を得て・・・」という安部総理の言葉もまた実に「プレビシット」的であるといえるでしょう。
このように、今回の解散・総選挙には必然性がありません。おそらく臨時国会で普通に政策審議をやれば、森友・加計問題を追求されてまた支持率が落ちるのは目に見えている、自民党内に蠢いている「安部降ろし」も気になる、そこで延命を図るためには北朝鮮問題のおかげで少し支持率が回復した「今」しかない、という判断なのでしょう。
どうやら安部内閣ももう長くなさそうです。
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