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ここ、は……?
辺りに立ち込める不快なアンモニア臭、目の前の大きな鏡、ピンク色に塗られた壁。
見慣れているようでそうではない空間。男の俺には縁の無い(と信じたい)場所。
公衆トイレのようだ。それも、女性用の。
と、いうことは……
「どうやら、成功したようだね」
男の自分には出せない奇麗なソプラノボイス。今の俺が女の子になっていることがそこからもうかがえる。
――思えば、ここまで漕ぎ着けるのも一苦労だった。
俺は実験によって、さまざまな人物に自分の意識を貼り付けるということが出来るようになったのだが、いかんせん完成度が低く危険だったのだ。
というのも、貼り付ける人物を指定出来ないのである。(まったくのアトランダムと言う訳ではないが)
俺が思念を飛ばし、それの波長に合った者にだけ有効というなんともよく分からない縛り。麗華さんの趣味だろう。現にあの人は合わなかったし。だから逃げられなかったんだけれども。
だから、買い物に連れて行ってやると言われた時には、心の中でガッツポーズしたものだ。
麗華さんの罠である可能性もあったが、そんなものは気にしていられなかった。
その時俺は辺りかまわず思念を発信して、さまざまな人に俺を植え付けた。
それがこうして一人の女の子に根付き、今この時に花開いたのだ。
作戦が上手く言った俺は、上機嫌のまま公衆トイレを後にした。
――元の自分の体だったもののことなど、一切忘れたままで。
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