|
225/
Re[1]: 「穢れた翼」 |
・投稿者/ tom
・投稿日/ 2002/11/26(Tue) 09:58:05
| 部屋の隅で、どの位そうしていたのだろうか?気が付くと 辺りは夕闇が落ちてきていた。 入り口の辺りで、人の気配がする。「大丈夫か?」心配そうに顔を覗き込む人影。 逆光になっていて、顔を確かめる事が出来ない。 腕で光をさえぎり目を細めるが、効果はなかった。 「誰?」尋ねる声は擦れて相手に届かなかったようだ。 黒い影が、ゆっくりと自分に向かって近づいてくる。 Goroの心は 恐怖に包まれた。 奴が、とうとう来たんだ。俺に復讐しに来たのか? 焼け付くような焦燥感。すぐに逃げなければ 捕まってしまう。 そう思うが、焦れば焦るほど、体が言う事を利かなくなる。 這うようにして入り口から遠ざかろうと もがくが壁際に追い詰められ、何処にも逃げ場が無くなった。 「・・・嫌だ!!こっちに来るな!やめろ!やめてくれ!!」 半狂乱になって暴れる、Goroをその人物は 強く抱きしめる。 「しっかりしろ。俺だよ、Takuyaだ!判るか?」 軽く頬を叩き 正気づかせようとした。 「放せ!!」意外とも取れる強い力で、GoroはTakuyaの手を払い除ける。 「おい。」伸ばした手をTakuyaは、引っ込めた。 視界の隅に、注射器が見えたからだ。 「Goro、お前!!」怒鳴りつけかけた言葉を飲みこむ。 そのまま、丸くなりブルブル振るえているGoroを、哀れんだ目で見つめた。 「一人で背負い込むなって、言っただろうが・・・。」 まともな状態じゃないGoroに、どうやって接していいか判らない。 せめて落ち着かせようと、そっと脅かさないように、乱れた髪を撫でてやる。 「あれは、お前が悪い訳じゃないんだ。」 「イヤダ・・・オレは・・・ゴメンナサイ・・・。」 断続的に呟く言葉が、微かに聞こえるだけで、まともな返事は返ってこなかった。 今のGoroに Takuyaの言葉は届いていないみたいだ。 それならば、これ以上刺激しない方がいいだろう。 諦めて、踵を返そうとした時、Goroの視線が自分を見ている事に気が付いた。 黒目がちな瞳が 不安げに揺れているが、ほんの僅かに正気に返っている。 「助けて・・・。」そう言うと泣きながら、しがみ付いて来た。 両手をしっかりと腰に回し縋り付く仕草は、おびえる子供そのものにしか見えない。 「怖いよ、お願いだから独りにしないで。気が狂ってしまいそうなんだ。」 繰り返し、繰り返し自分を責め続けていたのか?そして一人で悩んでいたのだろうか? 只でさえ痩せていた彼の肩は この数日間で 更に細くなっていた。 産まれたての子猫のように頼りなく見えるその姿。 傷付き脆くなっているその心は ほんのちょっとした刺激を与えただけで砕けそうだ。 takuyaは、腰を落として、視線をGoroと同じ高さまで下げる。 「忘れろ。それが一番だ。」 「無理だよ!!だって、俺が・・・俺が、あの時 彼を銃で打ち殺したんだ。」 両手を前に突き出し、わなわなと震えたままの手で、顔を覆う。 「まだ、手に感触が残ってるんだよ。」 「お前が打たなければ、俺が打ってた。同じ事だったんだ。」 あの仕事の時、裏切りを働いたのは、何時も仕事に行く前に立ち寄るバーの店長サミーだった。 もっとも、酒場の店長と言うのは 表の顔で、裏では情報屋を生業としている。 彼ら、「BARDMAN」に 仕事の情報を流してくれていたのは 彼だった。 その、サミーが 俺達を裏切り 銃を向けた。 とっさに気が付いたGoroが、仲間を助ける為、打ち返した弾が 彼の心臓を打ち抜いたのだ。 殺らなければ、こちらが殺られていたのだ、俺達は 生き残り、奴が死んだ。 それだけの事だと、Takuyaならば、割り切る事が出来る。 しかしGoroは、その事で苦しんでる。彼が弱いのだとは思いたくない。 だが、自分達が仕事をしていく上で 不必要な感情を(それも致命的な)持っているとは言える。 元々、こいつは優しすぎた。今更悔やんだ所で、どうなる訳でもない。 それならば、これから前に行くためには どうすればいい? 物思いに沈み黙り込むTakuyaとは、反対にGoroは、感情が高ぶり次々に言葉を吐き出していた。 折角 落ち着きかけていたのに、又 妄想の世界に入り込んでしまったようだ。 「ほら、両手が血に染まってる。拭っても、拭っても落ちないんだ。」 takuyaに、両手を差し出すと、狂ったように笑い出す。 ケラケラと、泣き笑い状態で「ほら、見て。」と両手を見せる。 「何にも付いちゃいない。幻覚だよ!しっかりしろ!!」 少し強めに頬を叩くと、Goroは急に力尽きたように、黙り込んだ。 「いいか?落ち着いたか?」 その問いに答えず、Goroは、何処か遠くを見つめていた。 「ねぇ。俺は、もぅ飛べないのかな?」 虚ろで空虚な呟きを発し そのまま心だけを飛ばしていってしまいそうに見えた。 限界だな。Takuyaは そう思った。 これ以上Goroを、巻き込むと本当に 彼の精神は参ってしまうだろう。 今なら、クスリも、禁断症状が出るほどではないようだ。辞める事は出来るはず。 「休むんだ。そうすれば、又 飛べるようになる。」 優しく声をかけ、立ち上がらせると、ベットへ運んだ。 大人しく横になるGoroに、毛布を掛けて額の上に手を置く。 「眠るんだぞ。」 「うん。ねぇ、Takuya。俺の翼は、まだ白いんだろうか?」 「ああ、心配ない。真っ白だ。」 「そう、よかった。翼には 付かなかったんだ。」 その言葉を最後に、Goroは 眠りに落ちた。 夢の中で更に自分を責めているのか 苦しそうな呼吸で、眉根を寄せる。 彼を救う方法は、一つしか無い。それは辛い選択だが苦しむ姿を見るのは もっと辛い。 ほとんど家具らしき物も無い部屋の中を見回すと 拳銃を探しだす。 見つけた銃を構えると『カチッ』撃鉄をあげ、Goroの頭に標準を合わせる。 安らかな眠りを。祈るような気持ちで、引き金を引き『BANG!』心の中で呟く。 『カッン』銃からは小さな音がしただけだった。中に弾は、入っていない。そんな事は重さで判っていた。 「OK。こいつは 貰ってくぞ。」クルリと銃を一回転させて懐に 仕舞いこむ。 それから眠るGoroの傍らに膝付き耳元に口を寄せTakuyaは、すべて忘れるようにと暗示を掛けた。 成功したのだろうか? ・・・暫くしてスヤスヤと規則正しい寝息をたて始めたの聞いて、安堵する。 起さぬように、気を使いながらTakuyaは 部屋から表に出ると、タバコに火をつけた。 やりきれない思いと一緒に煙を吐き出し、これからやるべきことを考える。 まずは、他のメンバーにも 話をしなければならないだろう。 説得するのに、手間が 掛かるとは思えない。 どのみち、潮時だと 誰もが心の片隅で思っていた事のはずだ。 考えがまとまると、足元にタバコを投げ捨て、踏み消す。 踏みにじられたタバコから連想する 不吉な思いを振り払い顔をあげる。 視線の先には、明かりが消え真っ暗になった窓が映っていた。 見つめるtakuyaの瞳の中には、愛しさと切なさが交じり合った深い感情があった。 Goroに暗示を掛けた時、一つのキーワードとなる歌を残したのは自分の未練だろうか? いや、だが何時か、その歌が彼を救う事が、あるかも知れない。 やり直しは 利かない。迷うな! 自分を叱りつけ、振り切るように背中を向けると、まっすぐ前を見詰め一歩踏み出す。 「さてと。行きますか・・・。」 呟くと二度と尋ねてくる事はないであろうその場所を後にした。
|
|