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「はい?」
「身の回りの世話なんて本当はどうとでもなる事。葉月を作らなきゃならなかった理由はね、霊力の強くなりすぎた皐月を隠しきれなくなるって思ったから。器を二つにして霊力を割れば暫くは凌げるかなって思ってたけど。今のあなた達は当時の測定値をそれぞれもう越えているわ。」
「聞こうと思ってたんですけど、今の技術で人間のクローンなんて・・・」
「無理に決まってるじゃない。あんまり深くは聞かないで。でもその体は多分完璧。中国産だけど。」
なんだ中国って。何かすご〜く嫌な気分になったぞ・・・
「うぐっ?」
口を押さえる。猛烈な吐き気。全身ががたがたと震え、汗が噴出してくる。
「葉月?」
「ゲボッ・・・・んんんっ・・・」
声が出せない。体の震えが激しくなり、胃液が逆流して口を押さえた指の間から噴出した。涙で何も見えない。
「ちょっと・・・大丈夫?」
携帯のバイブの音がして、弥生が携帯電話を開いたようだ。
しばしの無言。メール?
「まさか・・・」
どんっ!
シートに背中が押し付けられるほどの急加速。
弥生は携帯で誰かを呼び出している。
「もしもし?挨拶は後でッ!アンタに頼むのは癪だけど、頼むわ。うちの周りに張った結界に多数の接触があったの。・・・うん、かなりの数。あの子が危ない。こっちは20分で行くわ。・・・そんなにかかるの?・・・とにかくお願い。」
俺は両手でシートベルトを握り締め、全身を襲う極度の不快感に耐えていた。
ETC料金所のバーに車の屋根が接触する音。
一般道に飛び出したアウディは渋滞の列から対向車線に飛び出して加速していく。非難のクラクション嵐。
「葉月、しっかりしてッ!貴方が頼りなのよ!」
くそっ、そんな事言われたって体が動かない。
丘陵地を切り開いて作られた集落の最上部に、昔からあった古い道が伸びている。その行き止まりが家だ。家に近づくにつれて不快感は頂点に達しそうな勢いで俺の体を襲っている。
車が急停止した。
見えた。
手の甲で涙を拭い、俺は震える手でバッグの中の拳銃を探した。フロントガラスの前に広がる光景は、普段通りの輪郭を持ちながら異質の色に染まっていて、その中を何かが漂うように動いている。
弥生はグローブボックスを開き、黄色いゴーグルのようなものを取り出して顔に装着した。
「これはウチが開発して防衛省に納品した物の次の試作品。あなたには見えないかもしれないけど、これを着けるとあいつ等を見ることが出来る。何なの?この数・・・まさかあの刀が原因?」
次にシートの下から弥生が引っ張り出したのは・・・銃だった。
確かイングラム?短機関銃でかなりのスピードで連射出来たはず。
「結界は破られていない。でも急ぎましょう。大丈夫?立てる?」
声は出せないが、何とか車を降りた。
イングラムの吐き出した対魔弾は玄関に続く小道を塞いでいた何かを吹き飛ばした。金色に輝く結界の中に入り、弥生が玄関を開く。玄関には皐月の靴と、同じぐらいの大きさの見慣れないローファーが2足。
「ううう・・・・ぐす・・・」
すすり泣く声。
「皐月っ!?」
声のするリビングのドアを開く。目に入ったのは皐月と同じ学校の制服を着た少女二人だった。
「あっ、こんにちわっ。お邪魔してます♪」
「朋子ちゃ・・ん?」
にこやかに笑って挨拶する少女は、俺たちに向かってぺこり、とお辞儀をした。
その右手はもう一人の少女の腕をねじり上げている。
「イタイッ・・・やめてよぉ・・・トモ・・・・ぎゃあああっ!?」
腕を捻りあげられていた女の子の肩から嫌な音がして、腕が変なほうに曲がった。そのまま失神した少女を朋子と呼ばれた少女は無造作に突き飛ばした。
「あっ、こんにちわっ。お邪魔してます♪」
こちらに一歩、歩み寄る。
「あっ、こんにちわっ。お邪魔してます♪」
ニコニコと嬉しそうに笑いながら。
「オジャマシテマス♪」
「う、わ・・わあああああっ!」
「葉月っ!ダメ!!」
俺は・・・
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