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母さんたちが帰ってきたら、いつになったら葉月ちゃんを家に帰せるか判らない。
大急ぎで・・・あ、これだな。チャック。
一気に引き下げると、ぴったりとくっついていた全身ががばがばに緩んだ。
「ぷはぁ・・・・」
髪の毛を掴んで前に引っ張る。あっさりと俺の頭の皮が滑って脱げた。
うなじの所から背中が割れていて、腕を引き抜いてそこを広げて上半身を・・・あれっ?何で・・・この光景は俺には見えるはずないのに?
首から乳房にかけて、濡れたセミロングの髪の毛が貼り付いていて、ふるふると揺れる胸にはピンクの乳首がピン、と尖がっていて・・・
「葉月!早くッ!」
「えっ?あ・・・・うん。」
股間が・・・嘘だろ?なんで俺が・・・
そこからお腹の中までが、うずうずと、何ていうか・・・変な感じだ。
完全に抜け出た所で、茜ちゃんはフローリングにだらしなく脱ぎ捨てられた俺の皮の背中ファスナーを閉じた。茜ちゃんはベッドのタオルケットを剥がして、全身ぬるぬるに濡れている俺の、葉月ちゃんの体をごしごしと拭いてくれる。
「ひゃあああん。ちょ・・・あああぅ・・・」
全身がふにゃふにゃと柔らかい。女の子の体って、こんなにも男と違うものなんだ。
間一髪、母さんたちが帰ってきた。
「お帰りなさい〜。」
「お邪魔してます。」
リビングのソファから立ち上がって、ぺこりとお辞儀をする。
「あら、葉月ちゃん。」
「いらっしゃい、茜ちゃんのお友達ね?うちのバカ息子は?」
バカは余計だろう。
「なんかね、寝てるみたい。ナオ兄。」
「そう?じゃあちょうど良かったわ。ケーキ買ってきたのは内緒にしとこう。葉月ちゃん、だっけ?美味しいケーキ買ってきたからお茶飲んでいって。」
ベッドに頭をぶつけたのが原因なのか、何故か俺の意識はこの葉月って女の子に移ってしまっている。ぺっちゃんこだった俺の体は、今では元通りになってベッドに寝ている。俺は引きつり笑いを浮かべながらケーキを食べている。
脳味噌自体は入れ替わるわけ無いから、俺は葉月ちゃん本人なんだろう。
頭をぶつけた衝撃で俺の意識が一時的に葉月ちゃんに?
そのうち元に戻るのだろうか?
「葉月、どうしたの?顔色悪いよ?」
「えっ・・・あ、うん。大丈夫。美味しいね、ケーキ。」
「しっ!うちのバカ息子、このケーキ大好物なのよ。早く食べちゃって片付けちゃおうね。」
母さん、つくづくアンタって人は・・・
「お邪魔しました〜。」
お辞儀をする俺を皆はにこにこと見送ってくれている。
「じゃあ明日学校でね、葉月。」
「うん、じゃあね茜。」
さて、困ったぞ。俺は俺のままで、この子の家なんて知らないし。
「そうか・・・学生証あるかな?」
歩きながらスクールバッグを漁ると、ブランド物のパスケースがあった。
定期券と一緒に学生証を発見。
俺は、自分を俺だと思い込んでいる葉月ちゃん本人なんだ、と自分に言い聞かせながら携帯の地図を見ながら歩き始めた。
「ひゃ!?」
携帯震えて茜からの着信を表示している。
「も・・・もしもし?」
『葉月ちゃん、今日は有難う!絶対お礼するからねっ。』
「あ、うん。いいよ。それで・・・お兄さんはまだ寝てる?」
『ううん、さっき起きてきたけど、ちゃんと何も覚えてないみたい。大丈夫だったよ。』
「えっ・・・?そ、そうなんだ。おかしい所とか無かった?」
『ううん、いつものお兄ちゃんだった。』
「そうなんだ・・・」
電話を切る。
やっぱり俺は葉月ちゃんなんだ。
俺自身は家でちゃんと目を覚ましたんだから。
早く・・・葉月ちゃんが目を覚まさないと俺は・・・
夕暮れの中をとぼとぼと駅から出る。
短いスカートから綺麗な足。
制服を押し上げる大きな胸。
風になびくセミロングの髪。
そして意識は俺のまま。
「はあぁ・・・」
可愛い声でため息をつき、俺は・・・
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