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これはまずいことになった。目の前の競泳水着を着た長髪の女の子が、こちらをジト目で見つめている。
まさかここに来てすぐに見つかるとは思わなかった。
どうして辺りをくまなく確認して、人影がないかどうか見てから侵入しなかったのか。きっと、目の前に女子更衣室なんてものがあったからこうなったに違いないんだ。
なんであそこの窓は曇りガラスなんだ。これでは外から中が見えないだろうに。
設計者はどうかしている。
……閑話休題。さて、どうしたものか。当初の予定とは随分かけ離れてしまうけど、こうなっては仕方が無い。逃げるか。
「あっ!? う、動いた!?」
彼女が余所見をしている隙に全力で這う。さっきの彼女が追ってきているようだが後ろは決して振り向かない。捕まったらどうなるか分からないのだ。
駆ける、駆ける、駆ける。
そして、一直線にフェンスの方へ向かおうとして――
ツルッ、ドボン。バシャン。
プールの中に落ちた。それはもう奇麗に。おそらく今年のベストショットだろう。慣れない体というのを忘れていたからこうなるんだ。
……もう這い出す気力も残っていない。このまま俺は消毒用の塩素のようにプールに溶け込んで、ここで一生を過ごすのだろう。今までの監禁生活と変わりない。いや、もっと酷いかもしれない。
ははっ、必死こいて逃げ出した結果がこれだなんて笑えないな……
そうやって意識を手放しかけた時――それは起こった。
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