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ひび割れ今にも崩れ落ちそうな壁、何の価値も無さそうなガラクタ、気持ちばかりの小さな子供用の家具。ざっと見たところこんな所だ。
窓は無く出口は正面のドアのみ。しかしそこもしっかりと塞がれていて脱出できそうに無い。
……待て。ならなんでこの女はここにいる?どうやって入ってきた?
俺の疑念に気付いたのか、女が話しかけてくる。
「あら?その様子じゃ気付いたのかしら、私がここにいるのがおかしいって事」
「ああ。ドアが塞がれていたらこの部屋から出ることはもちろん、入ることも出来ない……例外を除いてな」
「例外……私を疑っている、というわけ」
「そうだ。ドアを塞いだのがお前なら、この状況は簡単に説明がつくからな。
なにせ、入った後にドアを塞ぐだけだ。俺を閉じ込めるためにな」
「そう、残念だけどその推理はハズレ。私は確かにドアを塞いだ……でもあなたをここに閉じ込めようとは思ってない。むしろ助けてあげるつもりよ」
そう自信たっぷりに答えた女。所謂どや顔だ。
この女、いったい何がしたいんだ?助けるつもりならば、脱出口は確保しておかなきゃならんだろう。それを塞ぐメリットが無い。
だがこの目……ただの馬鹿には見えない。何かの秘策があるのか?
「助ける、と言ったなお前。どうやってここから脱出するつもりだ?」
「簡単よ。これを使うわ。」
そう言って女は胸元から何かを取り出した。小さくてよく見えないが、液体の入った小瓶……か?それでどうやって?
「これは元々あなたの会社で秘密裏に行われていた研究の試作品よ。
その顔を見ると、トップのあなたにさえ知らされてなかったようだけど」
その女の予想通り、俺はこんなものが俺の会社で作られていることなんて知らなかった。いつの間にこんな物を?
……だが問題はそこじゃない。
「その秘密裏に行われてる研究を何故お前が知っていて、その試作品を持っているんだ!?お前はいったい何者なんだ?」
「はいはい。私について聞きたいのは分かるけど、残念ながらもう時間が無いの。早くこれを飲んで」
そう言って強引に試作品とやらを飲まされた。うっ……これは激烈にまずいな。舌がおかしくなりそうだ。
そんなことを気にしていられたのも束の間、体中が熱くなり始めた。
意識もだんだんと薄れていき、気がつくと――
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