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589/ OVA−LR紹介小説スレ
・投稿者/ RR
・投稿日/ 2006/04/14(Fri) 02:45:47

    投稿用紹介小説専用スレです、紹介小説はこちらに投稿してください
    ただし

    ・投稿要項と違って作品においては特に制限は設けておりません 精一杯の手を尽くして魅力あるキャラを書いてみましょう

    ・約10kb以内のものはそのままキャラページにに掲載。約10kbを超えるものは別ページを作成しますのでそちらにリンクを張ることになりますのでご了承ください。

    たいした決まりごとはありませんが以上です では投稿をお待ちしております



590/ 小遣い稼ぎ
・投稿者/ 熊ボーダー
・投稿日/ 2006/04/14(Fri) 22:16:32

     無機質な部屋がある。
     ここはガレージの一室。ガレージと言ってもACだけではなく、レイヴンも賃貸マンションのように住み込みできるようになっている。ここはレイヴンが住むためのスペースである。
     企業にコネがないレイヴンは、大体ガレージに住んでいる。市民権が無いため、普通のマンションなどには泊まることができないのだ。
     
     部屋には冷蔵庫に小さなテーブルとその上にあるノートPC、あとコンクリートの床に絨毯が引いてあるだけで、ベットらしき物は見当たらない。
     その代わり、絨毯の上に寝袋が置いてある。まだ人が入っているようで、間隔あけてもぞもぞ動いている。
     しばらくすると目覚ましが鳴り、寝袋の中にいた人物が目を覚ました。
      
     起きる時の行動は早い。目覚ましが鳴った瞬間に寝袋から抜け出し、洗面所へ顔を洗いに行く。
     その後着替え終わるまでに合計で20秒程。朝は短い。時間は大切に。イノフィロの信条である。

    「おはようございます! いやぁ独り身でも挨拶は良いですね!! 」

     癖でついつい挨拶してしまう、その後は決まって寂しい気持ちになってしまう。
     いつも通りだと彼は思い、いつまでこの生活が続くのだろうと考えたりして、

    「一生こんな生活が続くのでしょうか・・・・いやいやいやいや」
     
     頭をぶんぶん振り、今考えたことを抹消する。答えが解っているのに考えて一体何のためになるのだろうか。
     考えて鬱になるぐらいなら考えない。現実逃避かという声もあるが、イノフィロはそんな事は気にしない。
     考えすぎて自殺する人もいるのだから、何も考えないと言うのも別にいいではないだろうか。

     ふと時計を見ると6時半、今日は人と会う用事があるのだ。珍しく。
     すぐに頭にバンダナを巻き、黒のジャンパーを着て外へ出る準備を終わらせる。

    「朝っぱらからいい出会いはあるかなぁ。今日はいい天気ですし、期待しちゃいますよ!! 」 

     外へ出て手袋を着ける。外は寒くない、むしろ暖かい位だ。手袋を着けるのは安全の為であり、気候は関係ない。
     そう遠くない目的地へ向かい、イノフィロはガレージを出発した。 



     自転車で。








    「・・・・で、あんたは自転車で来たせいで遅刻したと」

     目の前のソフィアと言う女性は明らかに不機嫌を声に出した、そりゃ1時間近くも遅刻すれば当然である。

    「ははは、そりゃ仕方が無かったんですよ。高速は自電車じゃ乗れないんですから、一般道だと時間がかかるのは仕方ないですよね。いやぁ失敗しました」

     お前は高速乗る気だったのか、自転車で。

    「あんたさぁ、高速をチャリで乗らせてくれると思ってたの? 」
    「だって横っちょ見ると意味深なスペースがあるじゃないですか、もう間違いなく歩道ですよねあれ! 」

     なめられてる。この阿呆に。
     ソフィアは頭が熱くなるが、すぐに冷める。こんなアホに怒ってもまたネタにされるだけだ。
     ならば、とソフィアは思う。こういう阿呆には喝を、馬鹿には鉄拳を。

    「私を何だと思ってるの? 新人のぺーぺーが私のスケジュールを崩さないでくれるかしら」

     凄みのある声に、イノフィロは一瞬引く。本能的にこれ以上怒らせてはいけないと言うことを悟った。

    「す・・すみませんでした・・・・」
    「よろしい。良かったわね、今日はあなた以外は予定入っていないから。」
    「ふーん、毎日スケジュールがみっちりなんですか。情報屋って思ったより忙しいんですね」
    「まあね、あんた私の事なんだと思ってたのよ」
    「そりゃ悪趣味の若作りばあさんだと! 」
    「・・・・やっぱりあんたは解ってないみたいね」

     ソフィアの背後に不動明王が見え始めたあたりでイノフィロは話題を切り替えた、これ以上無駄話すると殺されかねん。

    「ではそろそろメインの話に。今回言ってたのはこれですよね? 」

     と言って懐から四角いカードを取り出す、一世代前に使われていた磁気式の物で、今はあまり使われていない。

    「さっさとその話切り出しなさいよ・・・・で幾らがいいの? 」

     イノフィロは人差し指を立てて、

    「1000C はどうですか?」

     ソフィアは首を振り、

    「重要度の低い施設の情報なんでしょ? 内容はたかが知れてるわ。出して300ってとこね」
    「そりゃこっちが破産しちゃいますよ、800で! 」
    「500、人の事けなしておいて何よその態度」
    「・・・・650! これ以上まけられませんよ!! 」
     
     真剣なイノフィロの顔を見て、ソフィアはため息をついた。そして、
    「650で良いわ。ほら、さっさと頂戴」

     イノフィロは満面の笑みでカードを渡し、ソフィアに口座の番号を教えた。

    「ははは毎度、これからもおおきに」

     そういって席を立ち、自転車の元に向かっていった。
     彼の後姿を見てソフィアは吐息を1つ、ついた。




     後日、ソフィアはふと新聞を開くとある記事が目に入った。普段ならなんともなしに見逃してしまう程の小さな記事だ。
     そこには小さな見出しにこう書かれていた。

     『高速に自転車乱入』 と。

649/ 彼女の一日
・投稿者/ スぺランカー
・投稿日/ 2006/04/29(Sat) 01:54:09

    「……ん」

     カーテンの隙間から差し込む光がベリエスの覚醒を促す。
     目蓋は重く身体の反応も鈍いがのろのろとベッドから起き立ちあがる。そしてカーテンを開け、下着姿の身体に光を浴びる。地下都市特有の人工の光。自然の朝日とは違うがそれでも十分に効果はあるようで、いくらか頭が醒めてゆく。
     屈伸など簡単な運動で身体をほぐし、そしてあることに気付く。若干、左腕の義手の調子が悪い。
     耐久力重視の義手を選んでいるのだが、やはりACの操縦という過酷な動作にさすがの義手も耐えかねてきているのだろう。

    (今度義肢師に診てもらおうかしら)

     そんなことを考えつつ自室を後にする。

    「あら。おはよう、ベル。」

     リビングに出ると聞き慣れたどこか包容力のある声が耳に入る。姉のメリエスがベランダで布団を干している。

    「あ〜、うん……おはよう、姉さん」
    「また下着で寝たの? 風邪引きますよ?」
    「あ〜、わかったわかった。」

     適当に返事してあしらうと、いっつも空返事なんですから…、とメリエスはため息を吐く。
     性格は正反対だが、一卵性双生児というだけあってベリエスとメリエスは顔立ちが非常に似ている。しかしトリニティの隊員やC-LAWSの他のメンバーに名前を間違えられたことは滅多に無い。性格や普段のファッションというのもあるが、最大の理由はバストの大きさ。
     一卵性なのにどうしてこうも違うのか、と思う程にメリエスの胸はデカイ。故に、周りでは「デカイのがメリエス、小さいのがベリエス」という不名誉な認識が出来てしまっている。いや、実際にはベリエスの胸は一般的な大きさをしており、けっして小さいというわけではないのだが、比較の問題でそういう認識になってしまっているのである。
     ベリエスは姉のバストを見て軽い絶望と嫉妬を覚えるが、とりあえずそのことは横に置いておき、キッチンの冷蔵庫からミルクのパックを取り出してお気に入りのアンティークカップに注ぐ。それを一気に飲み干すと身体の芯から醒めていく感じが全身に染み渡る。ちなみにベリエスがミルクを飲むのは、カルシウムが豊富でしかも吸収率も良いという理由で、「バストが成長する」などという迷信を信じているわけでは無い………たぶん。
     カップを置くと同時にリビングの端末が軽快な音を鳴らす。依頼メールの着信である。
     ベリエスが慣れた手つきでキーを操作すると画面に新着の依頼が表示される。依頼主はトリニティ。

    「姉さん。さっそく仕事がまわってきたわ。」
    「あらあら、ずいぶんと早いですね。」

     ゼカリアから二人へトリニティ本部直属の実動部隊「C-LAWS」へのお誘いメールが来たのが5日前。それに対してOKの返事を出したのがその翌日。メリエスがOKの返事を出したのは別にトリニティの理念に共感したとかそういうワケでは無くただ単に保身の為である。そして特に反対する理由も無くベリエスはOKしたのだ。

    「補給基地を防衛しつつ敵機の迎撃……アタシら向きの仕事ね。」
    「あら、これ緊急の依頼だからすぐに向かわないと。」
    「…まったく、人使いが荒いわね。」

     指示されている基地はベリエス達の借用しているガレージから近い。そのためにベリエス達に依頼がまわってきたのだろう。
     ベリエスが私服に着替えを済ませてパイロットスーツをバッグに押し込む。スポーツバッグを担ぎ、リビングに出るが姉の姿は無い。メリエスの部屋を覗くと、パイロットスーツをきっちりと畳み丁寧にバッグに詰め込んでいる。

    「姉さん、早く!」
    「あ、先に外で待っててください。」
    「っんとにもう!」

     言われた通り先に出ようとするが、ふとメリエスのパイロットスーツが新品であることに気付く。

    「姉さん、スーツ新しいの買ったの?」
    「ええ」
    「なんで?」
    「ちょっと入らなくなってしまったの……その…胸が。」
    「う……」

     ベリエスがげっそりとしてうなだれる。パイロットスーツは耐久性と柔軟性に優れ、多少身体が成長しても平気なように造られている。しかしそれで間に合わないという程に胸が育ってしまったというのだこの姉は。

    「うぅ……神は不公平だわ……」

     ベリエスはがっくりとうなだれ、口の中だけで呪詛の言葉をつぶやいいて玄関に向かう。
     彼女の一日はこうして始まった。

676/ 無法者その名は《デスペラード》
・投稿者/ 新人
・投稿日/ 2006/05/03(Wed) 20:36:13


    今日も無事に依頼を果たし1機のACがガレージへと歩いてくる。
    このACのパイロットはいつも以上に静寂したガレージに疑問を抱きつつも何時もの用に何時もの場所へと愛機を移動させる。
    愛機をハンガーに固定させコックピットのハッチを開きリフトを使い降りる。
    “おかしい”おそらくレイヴンはそう思っただろう。
    ガレージには人一人すら見あたらない、いくら休憩しているからと言っても必ず交代で誰か一人は待機しているはず。
    だが、現に静寂が全てを支配している、とにかく誰かを呼ぼうとしたその時。
    突然“カタ”と物音が聞こえレイヴンは誰か来たのかと思わず音のした方へと視線を向ける。
    しかし、何もない……無虚と静寂が支配する空間のみが存在する。
    視線を元に戻すと目の前に見知らぬ男が立っていた、反射的に身構えようとするが身構えることも出来ずに―――

    「死にな」
    俺はそう言い、レイヴンの脊髄をナイフで切り裂く。
    動く事すらままならない状態で崩れるように倒れるレイヴン、後の処理は彼奴等がしてくれる手筈になっている。

    戦場では活躍できたかも知れないが、例えレイヴンと言えどACから降りちまえば一人の人間だ、ナイフ一本で殺れる。
    戦闘のプロ、戦場の死神とまで云われるレイヴンですらこんな楽に殺れるのだ、もはや整備班如き俺の敵ではない。

    「此奴は貰ってくぜ、多少損傷してるが、それなりの値段で売れるだろ」
    誰に言った訳でもなく俺は呟き、とりあえずリフトを使ってACのコアに飛び乗る。
    「どこから入るんだ?」
    問題はここからだ、俺はACに関する知識はほとんど無い、昔俺を助けてくれた奴のACを少し操縦した程度だ。
    ハッチの開け方など知るわけがない、ましてやコアが違うから場所すら判らん、とりあえず手当たり次第探せば、コックピットのハッチを強制開放するスイッチか何かあるはずだ。

    「お、おいどうしたんだ!ん?貴様そこで何をやっている!」
    「チッ、見つかったか」
    交代かどうかは知らないが休憩していた奴がガレージに来たのである、無論そいつが最初に見たのは同僚とACの元持ち主の無惨な姿だろうが。

    「全員起きろ!緊急じta…」

    ナイフを整備士に投げるが少し遅かったらしい、通信機らしき物を使われ休憩中の奴らを起こしてしまったようだ。
    何とかハッチを開放させる事に成功し、俺は急いでコックピットへと滑り込む。
    狭い・・・それが第一印象だった。

    『全システムオールグリーン、戦闘モード起動します』
    「サッサと動けよこのクソACが!」
    ACに掛けられたハンガーを無理矢理破壊してゲートに向かって歩き出す。

    「ゲートを閉めろ、奴はACを盗む気だ!」
    一部の者はゲートを操作する部屋に、一部の者は俺を止めようと果敢にACの足に飛びついてくる、残っている奴は逃げ惑う。

    「鬱陶しい奴等だ、此奴は今日から俺の物だ、邪魔するなら死ね」
    ACの片足を一人の整備班に合わせ踏みつぶす。
    そんなことを繰り返していた為その間にガレージのゲートを閉められてしまった。
    「チッ、小賢しい奴等だ。ン?」

    体当たりでもして強引にゲートをこじ開けようかと考えていたその時、ふとガレージの片隅に置いてあるパーツを発見、どうやらハンドグレネードのようだ。
    ライフルを置きグレネードを拾い、装備せずにゲートの方へと投げる。
    「そら、これで通行可能だろ?」
    そこへすかさず右腕に装備されていたライフルを乱射、銃弾は見事にハンドグレネードを捉え爆発する。
    コックピットのハッチは開きっぱなしなのでとりあえず左腕で爆風は防ぐ、まぁ防がなくても俺は全身擬体、そんな爆風程度で死にはしないが、後の整備がめんどくせぇ。
    ゲートは見事に粉々に吹き飛び足下をウロチョロしてた整備班も爆風で死に絶えた。
    ブースターを咆吼させ、勢い良くガレージから飛び出す。

    「ひゃっほうーーー、強奪成功♪」

    だが喜びもつかの間、正面にはMT6機が立ちはだかるように待ちかまえていた。
    おそらく、ガードの連中だろう、騒ぎが大きくなりすぎて駆けつけてきたようだ。

    『貴様が誰か知らないがこれ以上好き勝手はさせんぞ』
    「うるせぇ!てめぇも邪魔するなら死にな」
    両腕のライフルを手短に居たやつに向けて乱射、あっさりと黒煙を上げ倒れる。
    だがその報復として反撃をもろにくらう事になる。
    軽量二脚なので反動で仰向けに倒れそうになるが、オートバランスが作動し辛うじて転倒は免れる。

    『軽率で軽弾みな行動でACを盗めると思ったのか?』
    「痛ってえな、自慢じゃねぇが俺はMTなら何回か強奪したことがあるぜしかも企業からって左手が動かねぇ?」
    余裕たっぷりで嫌みを言うMTのパイロットに対し、挑発がてら中指だけあげようと思ったら左手が動かん、と言うか左手どころか左上半身が機能していない、って言うか潰れてる。
    よく考えればコックピットのハッチ開けっ放しだったな、しかも閉め方分からねぇ、そんな状態で攻撃を食らえば当たり前か。
    さっきも言ったが俺はACに関する操縦はド素人だ、しかもハッチ開けっ放し。
    対する相手はMTと言えど紛争時代を生き抜いたパイロット達と察することが出来る、素人から見ても分かるように俺の方が断然不利だ、と言うか確実に死ねる。
    そんな状況下でも俺は笑っていた、死に対して恐怖した訳でもなく、パニックになった訳でもない、勝利を確信していたからである。

    5機のMTが今まさに攻撃を行おうとした瞬間、1機のMTがどこからともなく飛んできたグレネードの直撃を受け大破する。
    そして、次の瞬間には3機のMTが乱入していた。
    疾風の如く現れた3機のMTは見事な連係攻撃を見せ、一機がブレードで切り裂き動きを止め、その後ろから来た奴がショットガンをぶち込み深手を負わせ、さらにその後ろから来た奴がバズーカを撃ち込みとどめを刺す。
    常に1対3の状況を作り、その戦法はまるで獣のように狡猾で繊細、尚かつ的確な攻撃方法で一機また一機と確実に葬って行く。
    対するガレージの奴らは部隊をまとめていたベテランを失ったのか突然の乱入者に混乱し味方同士で攻撃し始める始末、僅か1分もせずに5機のMTは壊滅してしまう。

    乱入者の一機はまるで頭部のない《ケ○プファー》の姿をし、また残りの二機はその機体にやや胴体に埋まり気味に付けられた頭部が付いた形をしている。
    前者は“旋風”の意を持つ《ワールウィンド》後者はその量産型MT“疾風”の意を持つ《シュトルムヴィント》である。

    『戦闘モード解除、通常モードに移行します』
    ふつうの奴ならこの音声を聞けば多少は緊張が解けるだろうが、俺はちょっと違った、体が疼くまだ殺りたりない、もっと殺らせろと。
    「何だ?俺の獲物は無しか?」
    不完全燃焼で終わった俺は思わず口に出してしまう。
    『コックピットのハッチ開けたまま戦闘する奴が何言ってんだ?』
    「うっせぇよ」
    赤髪の少年にからかわれる。
    『お姉さんに叱られても私は一切責任は持ちませんから』
    「うっ」
    ピンクの髪の少女の痛い一言で何も言い返せなくなる。
    彼女の言うお姉さん、つまり《霊暗眼》の事であり、俺の命の恩人である。
    その為、死すら恐怖しない俺が唯一おそれる存在でもある。

    『も〜直ぐ〜、本隊〜がと〜ちゃ〜くしま〜す』
    「りょ、了解した」
    独特な口調で喋る緑髪の少年、どうも俺はこいつのペースに合わせられない。


    その日から俺は自分をレイヴンと名乗る事にした。

    俺の体と家族を殺した奴と同じレイヴンに、そうすれば何時かはあえるだろう、

    その時は必ず・・・・

    ・・・・必ず殺してやる!

681/ 南十字の復讐 オルガ
・投稿者/ マーク
・投稿日/ 2006/05/04(Thu) 14:43:47

    「くそどうしてこんなことに・・・」
    俺は銃を片手に物陰に隠れていた。
    「ジャックは・・・・マイクは・・・マリアは・・・」
    あたりを見回してみたがいない
    「くそ・・・」
    そうつぶやいた瞬間
    「ここにいたぞー!」
    慌てて逃げ出そうとした。瞬間数人の男に取り押さえられた。顔を地面におしつけられ息苦しさに無理やり顔を上げると目の前にスーツ姿の男が立っていた。
    「ああ、汚らわしいこいつもさっきのガキどものように研究所に送りなさい!!」
    俺がありったけの憎しみでそいつをみるとそいつは
    「こっちをみるなノマドが」とつばをはいて
    「女の方はくれてやる」といった。見るとそれはマリアだった。
    それをきいた奴らがマリアをどこかに連れて行った。程なくして彼女の悲鳴が聞こえた。
    俺は誓ったこいつらに俺の何百倍もの屈辱と苦痛を味あわせてやると・・・
    そして・・・

    今、俺は自分の愛機ヘルキャットから必死に命乞いしているやつらをモニターを通して無感動に見つめていた。
    「かっ金ならいくらでもやる土下座しろと言われればする。だっだからいのちだけは」
    あの時の男が目の前でそんなことを言っている。
    「・・・・・貴様らは「人類清潔委員会」そういう風に命乞いをしてきた人達を何人ころしてきた?」
    「静かにそして幸せに暮らしていた奴らの幸せをどのくらい奪ったと思ってるんだ?」
    「もっもうあの組織からは手を引くだっだからこのとおりだあ」
    今度は土下座をしている。
    「いい事を教えてやる」
    顔上げてぽかんとしたかおでこちらを見ている。
    「15年前てめえがノマド狩りをしたスラムで最後までてめえをにらみつけていたガキがいただろう」
    「そいつはなあ・・・俺だ」
    奴は驚きの表情と絶望の表情を浮かべた。
    「まっまさか・・・」
    「あの世でジャックとマイクそしてマリアに謝るんだな」
    そういって俺は奴を




    グシャ




    踏み潰した。






    「これで4個目か・・・」
    オルガは炎上している施設を見つめながらいった。
    「あいつらがいる限り俺のような奴は増える一方だ」
    (ならば滅ぼせばいい)
    そんな声が聞こえた気がした。

690/ 赤い足跡 - レッドフットプリント
・投稿者/ 天秤
・投稿日/ 2006/05/07(Sun) 01:07:32

    今日、この街で死人が出た。アタシが住むこの地区で死人が出た。
    死んだのは知り合いだった。お気に入りだった屋台のオヤジだ。
    犯人は見つかっていない、が、どんな連中がやったかは見当がつく。
    あの薄汚いノマドどもに決まっている。先日、支払いで揉めていたのが証拠だ。

    気に食わない。屋台のオヤジはお前らに何か酷い事でもしたのか?
    気に食わない。立場が弱ければ何をしても許されると思っているのか?
    気に食わない。あの連中は此処がどこか分かっているのか?

    此処はクーロンシティだ、アタシらの街だ。お前らの街じゃない。
    それをあのヨソモノどもに思い知らせてやる必要がある。
    ガード?だめだ。ポリ公どもはブルーカラーが被害者だと動かない。
    だったら自分がやるしかない。アタシはもう二度と自分の居場所を失ったりしない。
    そう、アタシが砦になるんだ。アタシの街を、仲間を、居場所を守る正義の砦に。
    そして思い知らせてやるんだ。アタシから居場所を奪おうとしたらどういう目にあうのかを。

    そうだ、見せしめとして潰してやろう。虫けらの様に、ゴミの様に。
    二度とアタシの居場所に手を出さないように。

    凄惨で、美しい、真っ赤な足跡に変えてやろう。

    『 私の居場所を荒らす奴らはみんな踏み潰してやるッ! 』

726/ バンガードの受難
・投稿者/ シン
・投稿日/ 2006/05/13(Sat) 01:10:41

     ――目が覚めた。

     いや……起こされた、と言った方が正しいか。オレの体にのしかかる十数匹の猫たちに。夜、ベッドに入るときは一人なのに、朝になったらこの有様ですよ。ホント勘弁してください。微動だに出来ないんです。その上、何か暑くて熱いんです。

     と、いつもこんな感じで朝を迎える。もはや、ベッドの上にオレの居場所は無い。

     起こしてくれるのがカワイイ彼女だったらどんなに嬉しいことか。
     いや、うん、猫も十分カワイイけどね。それとは何か違う……こう……ね。
     とりあえず、オレに彼女はいないということを分かっていただきたい。年中無休で募集してるんだけどなぁ……。どうして出来ないんだろう。

     ちょっとした理想を掲げてこの世界に飛び込んだ訳だが、レイヴンなんてモンをやってると精神的に結構クルんだよね。そう、メンタル。だって、人の命奪ってるだぞ? この世界を少しばかり甘く見過ぎてた。
     他のレイヴンは平気かも知れないけど、正直言って非常にキツい。未だに慣れない。
     集中力とかにはかなり自信がある方だけど、それとはまた違う精神力が必要らしい。要するに、オレは打たれ弱い。

     何か真面目に語っちゃったけど、簡単に言えば「打たれ弱いオレを支えてくれる人が欲しい」ってこと。待てよ……? 同じレイヴンなら分かってくれるかも……範囲を広げてみるか。

     話が思いっきり脱線してしまった。

     カワイイ猫たちに起こされたオレは冷蔵庫を開ける。そこには冷蔵庫の三分の一ほどを占領するミルクティーが。
     これは午前の紅茶、通称「ごぜティー」だ。そのごぜティーをコップに注ぎ一気に飲み干した。
     朝起きてからのこの一杯がたまらなく美味い。いや、ごぜティーはいつ飲んでも美味いけどね! 特に美味いって意味ね!

     また話が脱線しそうな気がしたのでこの辺でやめておこう。

     オレはいつも通り朝食を済ませると、今日は依頼を受けていない日だということを思い出した。ま、依頼が無いことに越したことは無い。
     それに、疲れが溜まってかなりダルイし。
     
     
     

     ……何でこんなに疲れてんだ?

     
     

     ……思い出した。確か、昨日の依頼でヒドい目に遭ったんだ。


     その依頼ってのは、テロ集団から襲撃予告があった施設の防衛だった。
     ちなみに、その依頼主はレイヴン。どうやらテロ集団の規模がかなりのものらしく、手に負えない可能性があるとか何とか。
     助けを求めている人を見捨てることだけはオレのプライドが許さない。
     すぐさま依頼を受諾し、現場へ急行した。

     
     
     今思えば、疑うべきだった――



    「ぃよし! 気合い入れていくぞ! 」

     オレは輸送機に乗せられたAC《バルクヘッド》のコックピットの中で、自分に言い聞かせるように気合いを入れた。任務の直前になるといつもこんな感じだ。
     いつまで経っても任務前の緊張には慣れない。何の緊張も無く戦えるような、戦闘自体を楽しむようなレイヴンの気が知れないね。

     そんなことを考えていると、作戦領域に到達したとのアナウンスが入った。ちなみに、この輸送機は依頼主のレイヴンが用意してくれたものだ。気前が良い。

     輸送機からオレを乗せた《バルクヘッド》が勢い良く飛び出す。
     地面に着地するまでの間に、システムを通常モードから戦闘モードに移行させ、何のアクシデントも無く無事着地。

     手遅れになっていないかどうか確かめるため、辺りを見回してみる。煙も上がっていないし銃声も聞こえない。どうやら、テロ集団はまだ来ていないらしい。

     ……ってか、テロ集団どころか防衛目標の施設すら見当たらん。見えるのは夕日に染まった殺風景な荒野と地平線だけ。どういうこったぃ。地下か? 地下にあるのか? 依頼文しっかり読んどきゃ良かった。

     少しばかり混乱していると、レーダーに反応があった。友軍信号を発している。上か。
     見上げるとそこには軽量逆間接のACを吊るしたヘリが飛んでいた。そして、ACが投下される。
     そのACは着地すると同時に数歩下がり、オレとの距離を離す。
     このACに乗っているレイヴンが依頼主なんだろう。施設の場所を説明しに来たんだな。さぁ、早く場所を教え――


    『残念だが目標など存在しない――』


     なぬ……?


    『――騙して悪いが仕事なんでな。死んでくれ』


     一瞬、頭が真っ白になったせいで最初と最後の部分しか覚えてないが、どうやら騙されたらしいということは分かった。
     
     チクショウ! これで何度目だよ。30回超えた辺りから数えるのやめちゃったけどさ。結構な回数になるんじゃないの、これ。裏切られることにもまだ慣れない。

     このレイヴン、セリフを言い終わると同時に友軍信号を解除して攻撃してきやがった。
     とはいっても、宣戦布告をしてから攻撃を開始するとは、微妙に正々堂々としてるな。どういう訳か少し嬉しくなった。

     ここからは必死だったからあまり覚えてない。
     相手を倒す瞬間は覚えてるんだけどなぁ。
     オレの撃ったリニアライフルの弾が、相手の両肩装備の武装……何だったっけ、型番は忘れたけど、コンテナみたいなのからミサイルがメチャクチャ発射されるヤツね。
    「コンテナミサイル」って呼ばれてるんだけど、それに運良く直撃して引火。結果、大爆発。

     幸い、乗ってたレイヴンは助かったみたいだ。あまりの衝撃に、コアと脚部が切り離されてたけど。とりあえず、何とか勝てた。
     人も殺さなくて済んだし、万々歳だ。

     で、ふとモニターに目をやると、機体の破損率がとんでもないことになってた。
     平均して80%くらいだったかな? 頭部に至っては100%、つまり完全に破壊されてた。粉砕・玉砕・大喝采だよ。
     機体の修理費が切ないことになると思うけど、こうして生き残れたし早く家に帰ってごぜティーを――



    『所詮捨て駒か……。まぁいい』



     なぬ……?



     またACですよ。
     ドアハンター? モンスターハンター? 確か、そんな雰囲気の名前だったと思う。
     それにしても、何でオレなんかを狙ってんだ? 二人掛かりで来るほどじゃないだろ。懸賞金が高いって訳でもないのに。
     とんだ物好きがいたもんだな。

     どう考えても絶体絶命だけど、やすやすと死ぬ訳にはいかん。

     基本的な戦法は、リニアライフルとスナイパーライフルで確実にダメージを与えていくって感じなんだけど、オレの力量だとこっちも結構な量のダメージをもらっちまう。
     今の機体の状況だと、ちょっとした攻撃が致命傷になりかねない。
     つまり、いつもの戦い方は出来ない。
     ということは、攻撃を食らう前に倒すしかない。
     
     フフフ……オレはこんなシチュエーションも想定し、切り札としてグレネードランチャーとレーザーブレードを装備しているのさ。

     問題はどちらを使うかだ。見たところ、新たに現れたACは軽量二脚。
     軽量級相手に接近戦を挑むのはどう考えても不利だ。
     そもそも、接近すればするほど被弾する可能性が高まる。
     相手が重量級ならブレードで突っ込んだろうが。

     ……グレネードに賭けるしかないな。  

     オレが今後の方針を決めると同時に敵ACが作戦領域に到達した。
     《バルクヘッド》が火花を散らし、鈍い音を上げながら左肩のグレネードランチャーを構える。

     そして、発射。

     巨大な火球が大気を震わせ飛んでいく。

     あ、外れた。無理も無いか、すげぇ遠いもん。ロックオンすらできない距離だもん。
     
     さすが軽量級、といったところで移動速度がハンパじゃない。
     リロードをしている最中にも容赦無く接近してくる。
     
     オレのリロードはレボリューションだ!!
     
     なんて言ってるヒマも無い。
     相手の攻撃可能な距離までに、撃てても2,3発だろう。
     
     次で決めなければ。

     限界まで精神を集中し照準を合わせる。そして確実に当たる、ような気がするタイミングで発――

     ん? 何か体勢を崩したぞ?

     とりあえず

    「もらったァァァ!!! 」

     そう叫ぶと同時にグレネードをブッ放した。
     オレの希望と覚悟を乗せた榴弾は一直線に飛んでいき、着弾。大爆発。

     ご存知の通り、グレネードランチャーの威力は絶大だ。ACの象徴、と言っても過言じゃない。
     コレをまともに食らえば、例え重量級のACでもタダでは済まない。軽量級ならなおさらだ。
     二脚型だと発射体勢をとらなきゃならないのが欠点だけどね。
     それでも、この威力とカッコ良さは魅力的。
     世の中には、二脚型にも関わらず発射体勢をとらずにコレを撃てるヤツが居るらしい。
     どうすりゃそんな芸当が出来るんだろうな。コツを教えて欲しいもんだ。
     
     そのグレネードの直撃を食らった敵ACは片膝をつくように機能を停止した。

     勝った……。しかも2機に!
     生きようとする意志は何よりも強い、って聞いたことあるけどどうやら本当のようだ。

     勝ったは良いけど、何で体勢を崩したんだ?
     生死確認の意味も兼ねて敵ACに近づく。
     ある程度近づいたところで、その原因となった物体が見えた。

     最初に撃破したACの残骸に引っかかったらしい。
     勝利を確信して油断したか。捨て駒に足をすくわれるとはね。ってか、普通に気付くだろ。

     敵ACに目をやると、それはもう悲惨な状態になっていた。頭部、両腕は吹き飛び、脚部も装甲が限界まで剥がれ落ちている。
     通信を入れてみると、しっかりと反応があった。こんな状態でもレイヴンは生きていた。丈夫なコアだ。さすがに死んだかと思ったよ。

    「運が良かったな。アンタも、オレも」

     最後にそう通信を入れ、このハードな一日は終了した――


     
     ……そして今に至る、というわけだ。アレ? また脱線した?

     とりあえず疲れた。ホント疲れた。
     こんな疲れてんのに、無理矢理起こされたからね。猫に。

     ま、早起きは三文の徳っていうし、のんびりテレビでも見て過ごすか。
     そんなことを考えながら、猫に食事を振舞おうと棚にあるキャットフードを――

     んなっ! キャットフードが無い!

     ゆっくり休めると思ったのに……。



     そんなこんなで、今フィロットシティで福引きに挑もうとしている。
     ちなみに、オレは生まれも育ちもフィロットシティ。んでもって、今もフィロットシティに住んでいる。
     本来の目的であるキャットフードは、売り切れ続出で店を何軒か回ったものの難なく買うことが出来た。
     帰り際に、道端で開かれていた福引きが目に留まってね。違うな、福引きが、というよりも景品が目に留まったという方が正しいか。
     
     その景品とはなんと

     
    「I等 ごぜティー50本」

     
     見逃すわけにはいかん。絶対に!!
     オレは神様なんてもんを信じちゃいないが、この時ばかりは祈らざるを得なかったね。
     満を持して取っ手を握り、勢いよく回す。

     
     頼む、神様!!

     
     ポトン、という音とともに燃え盛る炎を閉じ込めたような色の紅玉が姿を現した。
     こ、これは……どうなんですか、店員さん!?

     一瞬とも永遠とも感じられた静寂の後、店員が宣告する。

    「おめでとうございま〜す! 見事1等で〜す! 」

     ゥゥオオオォォォッ!!!

     心の中で絶叫し会心の笑顔とガッツポーズを繰り出す。
     今日のオレはツイてるな。
     さぁ、早くオレにごぜティーを、ごぜティーを下さい!

    「では、こちらが1等の景品となります。どうぞお受け取りください」

     満面の笑顔を浮かべつつ店員に礼を述べ、景品のオロナミンG 50本をありがたく頂戴した。

     
     ……ってオイ! オロナミンGじゃねぇかァァァ!!


    「いや、ちょっ、待ってください! ごぜティーじゃないんですか!? これオロナミンGですよ!? 」

     オレは悲痛な叫びを上げる。

    「え? 1等はオロナミンGですよ? もう一度ご確認ください」

     そんな馬鹿な。オレともあろう者がごぜティーとオロナミンGを見間違えるはずが……。
     しぶしぶ、店員に言われたとおり景品の一覧を確認する。


    「I等 ごぜティー50本」


     ホレ見ろ! どこからどう見ても1等はごぜ――

     
     ん……? 「I等」? 「1等」じゃなくて「I等」? 「イチ」じゃなくて「アイ」なんすか?




     夕日が地平線の向こうにほとんど沈み、辺りが暗くなり始めた頃、オレは公園のベンチで空を見上げ放心していた。
     いやぁ、まさかまさかの大逆転だったよね。わざわざあんなに紛らわしい文字にすることないと思いますよ。
     ヌカ喜びとはまさにこの事。オレはピエロか。道化なのか。フフ、ウフフフフ……。


     ――1時間後。
     
     
     ……そろそろ家に帰るか。
     ひとしきり負のオーラは出し尽くしたし。
     たまには目先を変えてみるのも良いかも知れないし。
     そもそも、まだ冷蔵庫にごぜティーたくさんあるし。
     もう全然悔しくなんかないし。
     繰り返すようだけど全然悔しくなんかないし。
     全然……悔しくなんか……。

     
     ――1時間後。


     いつの間にか、真っ暗じゃないか。
     今のご時世、夜一人で出歩くのは危ない。
     今日はこれでも飲みながら帰ろう。
     オロナミンGが詰められた箱から一本取り出し、フタを開けようとしたその時。

    「誰か! 誰か助けてください! 」

     女性の悲鳴が聞こえた。
     一体何事かとその声がした方に目を向けると、4人の男に絡まれている若い女性が。

     
     助けを求めている人を見捨てることだけはオレのプライドが許さない。


     それに、これをきっかけに恋物語が始まるかも……。
     やっぱ、今日のオレはツイてるぞ。

    「オイ、お前らァ! うら若い女性を4人がかりとは卑怯だぞ! 恥ずかしくないのか! 」

    「あぁ? 何だとぉ?」

     そう反応するや否や、4人の男がオレを取り囲んだ。 
     
    「一人でカッコつけてんじゃねぇぞオラァ! 」

    「ォゴフッ!! 」

     一人の男が繰り出したパンチを思いっきり左頬に食らい、1メートルほど吹き飛んだ。いきなりとはやってくれるな。

    「お前ら……力にモノを言わせて女性に乱暴しようなど、例えこのオレが許しても……
     
     ……このオレは許さんぞコンチクショォォォ!!! 」

    「つじつまぐらい合わせろやぁ! 」

     違うヤツが殴りかかってきた。
     さっきは油断してモロに食らっちまったが、そうはいかないぜ。
     紙一重で避け、連中との距離を開ける。
     今度はオレの番だ!

    「セクシーコマンドーの恐ろしさ、思い知るがいい!! 」

    「セクシー……何ぃ? 」 

     言い終わらないうちにオレは「エリーゼの憂鬱」を開始する。
     
     分からない人のために説明しておこう。「エリーゼの憂鬱」とはセクシーコマンドーの基本的な技のひとつ。
     ちなみに、技と言っても相手に直接ダメージを与える訳ではない。相手のスキを無理矢理作る技だ。
     どんなに強い相手でもスキを突けば倒すことが出来るだろ?
     セクシーコマンドーはそのスキを作ることに特化しているのさ。
     基本的な技は他にも「恥じらいのひと時」「ノンストップ狂四郎」などがある。詳しく説明すると長くなりそうだからこの辺で終わりにしとくけどね。
     そうそう、セクシーな人がセクシーコマンドーを使ってもあまり効果的じゃないぞ。カフェ・オ・レにクリープを入れるようなもんだからな。

    「ハァァァァァァ……」

     全身から「これから何かするぞ」的な雰囲気をかもし出しつつ足を肩幅に開き、腰を少し落とす。
     次に両手を高く掲げ、そこから大きな弧を描きつつ手を股間のチャックに持っていく。
     ラジオ体操で深呼吸をする時の動きをイメージしてもらうと分かりやすいね。  
     連中はオレの行動に釘付けだ。まんまと術中にハマッてくれたな。
     だが、これからだ。
     
     ジィィィィィ……。

     ゆっくりとチャックを下ろしその中に手を突っ込んでゴソゴソとまさぐる。

    「オ、オメェ何やって……」

     そして、あるモノをチャックという名の4次元ポケットから勢い良く引き抜く。

     あるモノとは、さっきのオロナミンGだ。
     あらかじめ仕込んでおいた。

     オレはオロナミンGを激しく振りながらゆっくりと、一歩一歩踏みしめるように男たちに近づく。
     もはや言葉すら出ないらしい。
     ある程度まで近づいたら連中に背を向け、オロナミンGを股間にセットする。
     一瞬の間を空け、フタを開ける。
     するとどうだ。
     激しく振られたオロナミンGは、臨界点ギリギリまで高まった黄金色に輝くエネルギーの奔流を開放し凄まじい勢いで噴き出した!
     
     連中から見たら、この世のものとは思えない量&勢いの小便をしているように見えたことだろう。

    「「「「しょ、小学生じゃあるまいしいいいい!! 」」」」

     馬鹿め! スキだらけだぞ!

    「遊びは終わりだっ!! 」
      
     すかさず距離を詰め――

     
     ダニエル・ド・ミテモガイジン!!
     あ、これ攻撃の名前ね。


     オレのダニエル・ド・ミテモガイジンで男たちは次々と空中に打ち上げられ、そして落下。音から判断して骨の5,6本はいったな。
     ちゃんとカルシウム摂れよ。

     全く、口ほどにも無いヤツらだったぜ。

    「フフ……お嬢さん、お怪我はありませんか? 」

     ここで、最高にスタイリッシュで爽やかな優しさを見せる。

    「え……あ、ハイ、ど、どうもありがとうございました! い、今ちょっと急いでいるのでこれで! 」

     え!? ま、待って下さい! もうちょっと会話とかあっても……

    「本当にありがとうございましたっ! 」

     
     嗚呼……逃げるようにして去ってしまった。やっぱりドラマみたいにはいかないもんだ。
     ってか、心なしか怯えていたような気がする。これ以上関わりたくない、みたいな。
     

     もしかして、オロナミンGを小便に見せかけたのがマズかったのか。

     

     くそっ……ビンを大便に見せかけるべきだった……!!



     
     その後はコレといった出来事は無かった。もう少しで家だ。
     言い忘れてたけど、オレはアパートやマンションではなく一戸建てに住んでいる。
     ペット禁止のところばっかりでね。大金はたいて購入したよ。
     
     それにしても、今日も散々な目にあったなぁ。
     ツイてると思ったら全然ツイてないじゃん。
     キャットフード買いに行くだけだったのに。
     そんなことを考えながら鍵を開け、無事家に帰還する。
     
     ちなみに、この前は鍵を開けようとしたらポッキリ折れて面倒な事になった。
     鉄製の鍵が折れるとは夢にも思わなかったっつの。
     指紋認証とかカード認証とかハイテクなモノにした方が良いのかな。

     そんなことはさておき、お腹を空かせた猫たちにようやく食事を与えることが出来た。
     玄関で、目をギラギラに光らせた猫たちがオレを待ち構えていたのにはビビッたけど。
     あの目は百獣の王を彷彿とさせる目だった。
     弱肉強食。喰うか喰われるか。殺意の波動。まさにそんな感じ。
     
     最後の最後でこんなサプライズがあるとはね! お兄さんビックリ!

     
     少し遅めの夕食を取り、シャワーを浴びる。
     これでやっと寝れるな。いや、その前にトイレ行ってこないと。

     スムーズに排尿行為を済ませ、水を流す。

     
     ジャァァァァァァァ……ゴボッ! ゴボボッ! ボッ!


     んなっ! トイレ詰まった!

731/ 《リミット》オーバー
・投稿者/ 黒猫のしっぽ
・投稿日/ 2006/05/13(Sat) 21:16:25

    〈・・・エニワタシハレイヴンヲツクリダシタ。キット、コンドコソ、カノジョナラコノワ・・・〉
    【NEVAR】ファイル0210、0562(データの損傷により完全な解読は不可能)

    ×月○日
    これは日記ではない
    報告書などでもありはしない
    これはただの自己満足
    ただ私の過去を連ねるだけのもの
    後で誰かが見たとしても特に意味はないし
    そもそもすでに終わったことだ
    でも私は書くことにする
    自分の自己満足のために
    ――――――――――――――――――――――――――――
    ダダダダダッ
    銃声の音がする
    それは普通の音ではない
    巨大な、そう巨大な銃声、人間に持てるはずがないほど大きな銃が鳴らす音
    それはそうだ、これを持っているのは人間ではなくAC、鋼鉄の巨人【アーマード・コア】なのだから

    ダダダダダッ
    銃声が迫って来る
    いや、実際はACが迫って来ているのだが
    ・・・何故あのACはこちらに向かって来るの?
    いや、それは当然だ、ただ私が敵だからだろう
    ・・・何故、敵?
    それはそうだろう?私はこの依頼を受けた、ならば敵にレイヴンがいてもおかしくはなかろう
    ・・・何故、依頼を受けたの?
    資金、名声、地位、レイヴンには一人一人の理由がある、私もそれの一人というだけだ
    ・・・何故、レイヴンになったの?
    それこそ愚問だ、何故レイヴンになったのか?それは―――――――――
    ・・・それは?
    ―――――――何故だ?
    ・・・どうしたの?
    何故だ、私がレイヴンになったかを思い出せない
    ・・・どうして?
    それこそどうしてだろうな、そこだけが霧がかかったようになっている・・・
    ダダダダダッ
    もう銃声は目の前に迫っていた
    ・・・何故分らないのかお前は分らないのか?
    ハッキリとしたことは分らない――――ただ――――
    ・・・ただ?
    ―――――私たちはそのために生まれてきた―――――
    ・・・そうだ、だからわた・・・・・・・ジジッ
    ・・・どうしたの?
    ――――ジジッ―――――ザアァァァァァァァァァァァ
    ・・・ねえ■■■■、どうしたの?
    ァァァァァァァァァ・・・ガガッ・・・そう・だ、だか・ら・ジジッ・・お・まえ・も
    ・・・何?何を言っているの?
    き・を・・つ・・・け・ジジジジジジジジバチン――――――――
    き、を、つ、け?『気をつけろ』?ねぇ、何に?
    ――――――――――――――――――――
    そっか、もういないんだ
    ダダダダダッ
    じゃあ次は私の番なのかな?
    ダダダダダッ
    いやだな、人殺しなんて
    ダダダダダッ
    ACにだってMTにだって人が乗ってるのに
    ダダダダダッ
    でも嫌な気はしない・・・もうわたしも狂っているのかな?
    ダダダダダッ
    どうなんだろう?ねぇ■■■■、あなたはどう思う?
    ダダダダダッ
    そっか、もう死んでるんだよね、そのことを忘れてた
    ダダダダダッ
    天国に行けるといいね、いや、きっと人をたくさん殺しちゃったから地獄にしか行けないのかな?
    ダダダダダッ
    でも、やっぱり天国に行ってもらいたいなぁ
    ダダダダダッ
    そうだ!お祈りをしよう、■■■■のこと忘れる前に
    ダダダダダッ
    ■■■■、天国で幸せに暮らしてね、わたしからのお願いだよ
    ダダダダダッ
    神様、わたしの願い聞き入れてくれるかなぁ
    ダダダダッ
    うん、きっと大丈夫だよね
    ダダダッ
    だって神様は心が広いんだもん
    ダダッ
    さて、じゃあ次は・・・
    ダッ
    ・・・わたしの番だ

    グシャ
    ―――――――
    『銃ヲ取リ全テヲ薙ギ払ウ』
    ――――――
    『倒サレレバ生レ落チ』
    ―――――
    『マタ新タナ厄災トナル』
    ――――
    『ソレハマサニ永遠ノるーぷ』
    ―――
    『限界ヲ超エタソノ姿コソ』
    ――
    『りみっとおーばー』

    「みみゃ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!?!?!?」
    ゴンッ
    「ごあっ!!」
    「ふみっ!!」
    うう〜〜痛いよ〜
    :リミィ・トィキャット、レイヴン名:リミット
    :起床時間AM 4:28
    :気分:最悪
    :こうして今日のリミットの一日開始
    ――――――――――――――――――――――――――――
    今を思えばこれが私の一日が始まりだった
    別になにか凄いことが起きたという訳でもないし
    ただ、そう
    夢見が悪かっただけ、それだけの話・・・

743/ レーザーマニアの知られざる過去
・投稿者/ クルマルス
・投稿日/ 2006/05/15(Mon) 17:16:59


     よお。俺の名前はグロース、じゃなくて《PLATOON》だ。
     ん? なんで言い換えるんだって? つうか、何で名乗ったんだって?
     そりゃおめえ、なぁ? 大人の事情って奴だよ、うん。分かってんだろ?
     まあいいさ。久々だしな。
     で、聴きたい事があるんだって? ああ、分かってるよ。俺がなんでレーザー人生を始めたのか、だろ?
     話しは長いぜ? 寝るんじゃねぇぞ。……そんな子どもじゃねぇって?
     まあいいさ。……うるせぇ、始めるぞ。
     いいか。あれは、そう。気が滅入る様な曇天の日だったな……


     …その日、俺達の部隊は地上に残されて朽ち果てた、そりゃあ無残な廃都市に来てた。
     …何でかって? そりゃあ任務があったからさ。……ああ、そうだ。戦闘だよ、戦闘! 俺達の部隊は、そこに敵が潜んでるみたいだから潰して来いって命令で、その廃都市に来てたんだ。大方、残党が逃げこんだんだろうがな。
     ん? なんで推測なんだ、見てきたんだろうって?
     あー……、うん。まあ、見たっていやぁ見たな。それらしい『モノ』だったが。うん。
     で、話は戻すが、その廃都市は朽ちてはいたんだが、なかなかでかくてな。こりゃあ大変だ、ってんで二、三機ずつの小部隊に分けるように指示したんだ。
     ……ああ、そうさ。俺は部隊の隊長だったんだよ。前の隊長と副隊長が死んじまって、しょうがないからってとりあえず部隊の中で隊長達の次に操縦が上手かった俺が、急遽隊長にって訳だ。
     当時は人手不足で、ベテランはほとんど精鋭部隊に行っちまってたからな。ん?…ああ。お前には話してなかったな。ま、あの時はその必要も無かったしな。
     と、また脱線したな。年取るって恐えな。うん。
     さて、あーまぁなんだ。そう、手分けして探そうとしたんだったんだな。
     ……まっ、それが間違いだったんだがなぁ……。隊長達には及ばなかったってことだ。致命的な判断ミスだったって訳だ。
     ……最初はジャックだった。同期で、いい奴だった。俺なんかより、よっぽど隊長向きだった。それが、いきなり連絡が途絶えた。その次は、マークだった。あいつは、三日前に配属されたばかりの新米で、……顔すら覚えられなかった。次はホーク。口うるさいが、頼りになる先輩だった。お前と一緒に飲みに行ったことあっただろ? 髭面のおっさん。あ、今は俺らの方がおっさんか。……ハァ。
     ……そして、気が付いた時には、味方は俺とタッグを組んでたアハトだけになっちまった。あの時はビビッたな。誰からも応答は無いし、突然吹き始めた砂嵐が廃墟の塵やらなにやら、全部巻き上げてノイズにしちまって……、視界は利かないし電子機器は狂うわで散々だった。
     で、まぁ耐え切れなかったんだろうな。いつもは黙々とサポートしてくれてたアハトが、いきなり叫びながら砂嵐に飛び込んで行っちまってな。慌ててその後を追ったんだ。
     …その時のことはよく憶えてるよ。頭の中が何故かよく冷えてて、それなのにずっと仲間に謝り続けてた。責任、感じてたんだろうなきっと。まぁ、そのせいで砂嵐の渦を抜けた時に後悔することになったんだが。
     ……デカかった。でもってグロかった。首が二つに腕が四本、しかも先端に馬鹿でかい鋏みてぇなのが付いてた。で、八本の脚が生えた甲羅みたいな胴体の後からサソリの尻尾みたいなのが生えてた。針の付いてるとこは乗ってたMTぐらいはあったか。
     そのとんでもねぇ化け物がいきなり目の前に現れて、……アハト、ていうかアハトのMTを丸かじりにしてやがったんだ。その四本の鋏付きの腕でがっしり掴んでな。
     ……多分、叫んだ。その瞬間に何かが切れる音が聞こえたような気がしたが、よく分からなかったな。…理性の糸? …そうかもしんねぇな。
     で、その後は無我夢中さ。必死でMTを動かそうとしたんだが、そん時ばかりは動きが遅く感じられたなぁ、うん。
     ん? 他人事みたいだなって?
     当たり前だろう。あの時までの俺と今の俺は別人って言ってもいい位だからな。意味が分からん? そりゃそうだ。意味が分かるのはこれからだ。
     そして、俺は必死で逃げようとしたんだが、MTじゃ限界があった。あっと言う間に追いつかれて、もうダメか、シーニャすまねぇ。なんて思ったときに、いきなりモニターが真っ白に光ってな。すぐ近くで、何かが連続でぶち当たる音が聞こえてきたんだ。そして目を開けたところに飛び込んできたのが、馬鹿でかいレーザーライフルを右腕に持った白と青のACだったんだ。何が何だかよく分からなかったが、とにかくそのACは俺を助けてくれたらしい。俺にはそのACが希望に見えたよ。
     ……でもな。その化け物は強かったんだ。そいつをなんとか倒したACは、満身創痍。通信機から聞こえる声には、血の臭いが漂ってた。……そして、そのレイヴンは俺に愛銃を託して逝っちまった。
     俺はその時決心したんだ。こいつを使って、俺を救ってくれた恩人と俺のせいで死んじまった仲間達の分まで生きて、生き残ってやろうってな。
     そして、俺にとっては「希望」である『レーザー』の素晴らしさを世界中の人々に教えてやろうと思ったんだ。
     俺のテーマソング『The meaning of life』は「生命の意味」って訳すんだ。へへ、ぴったりだろ?

     ……さて、俺の話しはここまでだ。後はお前が知ってる通り、お前のつてを頼んでレイヴンになった。後は分かってんだろ?
     で、話ってのはなんだ? ………我々に協力しろ? お誘いってか。
     ……いいけどよ、条件があるぜ? 
     …俺の家族をアーカバレルに……何? もう行ってる!? シーニャが決めた!!? そうゆうことは早く言えよっ!
     あーでも俺、半独立ってことでいいか? アーカバレルに相手が来たってんなら作戦そっちのけでそっちに行くぜ。
     …そう言うと思ったって? まぁいいさ。
     ……じゃあ、交渉成立でいいんだな? ……OK。

822/ 『B・G・M』─LIVE in Baghded
・投稿者/ 飛鷹 那智
・投稿日/ 2006/05/28(Sun) 09:58:56

    尾を引く銃弾、飛び交う鉄塊、焼ける肉片。
    戦場とは残酷なものだ。誰が言い出したかは知らないが、人間が行う最も崇高で、愚かで、美しく、醜い、それが戦争という人間の本能を晒け出す行為だということは確かだろう。
    過去も、今も、そしてこれからも。人間という生物が絶滅しない限り続けられるであろう戦争という行為は、企業連合『トリニティ』対その他の勢力という形式で、この場でも美しい炎と醜い肉片をまき散らして推移している。
    そしてここにも一人、血と火を与えるプレゼンターがいた。同族を滅殺する為に作られた『兵器』、その中でも地上最強と謳われる陸戦の王者『アーマードコア』を第二の肉体にして。大音量の音楽と共に。

    左腕部に装備されているブレードを振るった。だが、踏み込みがやや浅かったせいか目標…MT『鉄騎』を破壊するには至らなかった。だが、戦闘力を奪うことには取り敢えず成功した様で、確認すると次の目標をレーダーで選定、AC『轟』を走らせる。
    その間も他の敵から機銃弾が花火のように飛来する。
    しかし彼女はそれに臆するどころか音量を更に上げ、自分のテンションを喚起した。
    「ちくしょう!こんなフザケた奴に!」
    一人のMTパイロットが叫んだ。
    彼はとある独立勢力の思想に同調し、志願して組織の尖兵となった。自分達の主張が正しいと信じ、意志の強さでは誰にも負けないと自負している。
    それが、戦闘中に音楽を撒き散らす様なフザケた企業の犬畜生に対して歯が立たない。
    性能の差、戦力の差という現実を見せつけられて憤慨した。納得なぞ出来るわけがなかった。
    「畜生!主義も主張もない傭兵風情に!守銭奴のレイヴンなぞに!!」
    汗ばむ指で機関砲のトリガーを引く。命中弾は、無い。

    至近まで接近した『轟』が、右腕を振りかぶる。

    彼が最後に見たものは、モニター越しにコクピットに迫る射突型ブレードの丸い円だった。

    「少し先行しすぎたかなー…?」
    レーダーを確認すると、味方のMT部隊はまだ後方で戦闘中である。と、言うより彼女が敵性集団の直中にいるだけである。
    ふと周りを見渡せば多数の銃口、砲口をこちらに向け、接近するMTで溢れかえっている。その様子は、さながら餌に集まるハイエナの群だ。
    しかし、そんな事で臆する彼女ではなかった。
    強襲部隊に居た頃でも多数の敵に的にされたことも珍しくない。そして彼女はそんな状況でも、時には独力で、時には味方に助けられ、切り抜けてきた。しかも、今彼女が乗っているのは、地上最強と謳われるACなのだ。
    頬をつり上げる様に笑うと彼女…登録ネーム『B・G・M』はコクピットに勝手に取り付けたアンプのボリュームを最大にした。ウーファーが重低音と共に震える。
    彼女は吼える。味方を喚起する様に。
    『テンション上げていこうよ! GO AHEAD!!』

842/ 闘人の復活
・投稿者/ やた
・投稿日/ 2006/06/03(Sat) 01:53:56

     これは、一羽の鴉の復活―――


    「【力】を得たことで、自分が本当に強くなったと思ったのか?」

    彼は自らの前に倒れるACの残骸に向け呟いた。
    そのACはコクピット部に大穴が空けられており、中のパイロットはおそらく絶命している。

    「扱えない程の【力】は無意味だ・・・それに振り回され遅かれ早かれいつかは自滅する・・・」

    淡々と―――

    「【力】だけでは人は強く成れん・・・それを扱える程の【技】も無ければな・・・」

    誰に言うのでもなく―――

    「だから、私は再び戦場(ここ)に戻ってきた・・・・・・」

    ただ、自らが本来在るべき場所に戻った事を、確認するかのように―――

    「【力】が全てではない。それを超えうるモノを目指すために私はここに居る・・・」


    『決闘者』の名を持つ者の静かな宣言であった。

847/ 無気力男の咆哮(シグムント)
・投稿者/ GM教官機
・投稿日/ 2006/06/05(Mon) 08:40:25

    ○月×日
    自分のガレージの中でうなだれている男が一人。
    その目には生気が宿っておらず、実年齢は二十代前半
    なのだが、その様子も相まってそれよりもかなり老けて見える。
    その彼の頭上には・・・・・猫が一匹、ぶら下がっていた。
    「・・・・ちっ・・・・・また・・・・やっちまった・・・・。」
    誰に言うでもなく独り言をつぶやく男、片手にはハンバーガーらしき物が握られていた筈だったが、
    彼の飼い猫に殆ど食い尽くされてしまった跡であった。その彼女は今、廃人同然の状態で椅子に座っている男の頭の上で大欠伸を
    している。その光景には飼い主とペットという上下関係は微塵も感じられなかった。
    「・・・・・全く、また”暴れたのか”?」
    「ん・・・・あぁ・・・・親父・・・・・か・・・」
    ACの整備をしていた親父と言われたその男、年は50代半ばだが、年齢不相応な筋肉質のがっちりした体つきについた無数の傷跡は
    それだけで、その男がかつて傭兵だった事を容易に連想させる。
    「・・・・今日は何やったんだ?」
    「あぁ・・・補給部隊の・・・・・・護衛・・・・・」
    「ACとやりあったのか?」
    父親が彼の元愛機・・・・AC『ウールヴへジン』の溶けた飴玉の如く抉られた右肩を見ながら言った。
    「あぁ・・・・こてこての・・・・火力重視で・・・・四脚で・・・・・肩にCR−WB78GL積んでやがった・・・・・」
    CR−WB78GL、実弾系の装備の中でも一、二を争うグレネ―ドキャノンだ。俺が戦場で見たくないもの
    第二位にランクインしている。堂々の第一位はCR−WBW98LX、超大型レーザーキャノンである。
    あんなもん直撃した暁にはと思うと想像もしたくなかった。そして今日、その第二位の兵器に被弾した。
    「・・・・それで、そいつは墜とせたのか?」
    レイヴン『シグムント』は力なく笑って見せた。撃墜には成功したようだ。
    「あぁ・・・・墜してやった・・・・。最後にはOBで回り込んで背中に鉛弾ぶち込んでやったさ・・・
    グレネードに引火させてやった・・・綺麗な花火だったなぁ・・・我ながらよく動けた・・・・
    ミサイルの白煙をダミーにしてOB機動で回り込んだ時は最高に決まってたぜ・・・・・録画してなかったのが悔やまれる」
    「俺がこの前教えてやった機動だろう?散々練習しといて、決まらなかったらただじゃおかん。
    そういえば、今日はやたらブースター使ってたみたいだな、かなりガタがきてる。グレネード積んでてそんなに速い奴だったのか?」
    この父親もよく気づくものだ。それだけこの機体を知っていると言う事か。
    「そう・・・そう・・・よくぞ・・・・聞いて・・・くれました・・・・。ACが肩のグレネードやられたらなんか逃げ出しちゃってさ・・・・
    他の敵部隊も足並み揃えて撤退したんで気がおさまらなかったから補給部隊置いてって追撃しちまっ・・・・た・・・・」
    父親の額に青筋が一本浮き出る。三本立つと不動明王が降臨する。
    「馬鹿者が・・・・無理に追撃する必要もなかっただろうに、そのままで依頼達成してたじゃないか。無駄に弾薬を使うな」
    「いやいや・・・・こいつのこれを見ると・・・・・・ねぇ・・・・」

    彼が見上げた先は自らの愛機の左肩についているACの撃墜マーク、他には親父の時から使ってる、
    鎧兜を纏った狼男が剣を天に掲げているエンブレムがある。機体名になった狂戦士のモデルだそうだ。

    鴉をあしらった撃墜マークは赤いのが彼の父親が撃墜した敵ACの数、最早書くスペースが無くなったため
    赤色の鴉の横に×32という文字が刻まれている。
    32機、この父親はなんだかんだで彼のレイヴン人生の中で32人もの鴉達を葬ってきたのだった。
    対する俺のマークには青色の鴉、なんともさびしいものだ、たった1羽である。今回の奴でやっと2羽、
    我ながら先が思いやられる。

    「んで、追い込んで撃墜した・・・・まではよかったんだけど・・・・・気がついたら背筋が・・・・凍ってたね・・・生きた心地がしなかった・・・・・
    なにせ、敵のミサイル陣地のど真ん中にいたんだなこれが・・・・・思いっきり誘い込まれてた」

    親父の青筋に二本目が立つ、少々やばい。ま、いっか。

    「若気の至りも命あればこそ・・・だ。何回言わせるんだ・・・・・戦場で冷静になれない奴は、すぐ死ぬぞ。」
    「あぁ・・・・・・久々に実感したよ・・・・・大暴れしてスリル満点の戦場を生き抜いた後に飲む午○ティー(レモン)は格別だ。
    飲み会の酒よりも旨かった」

    あ〜あ、言っちまった、青筋が三本目。我ながらなんと空気の読めない。親父の背後にはすでに北○真拳の如きオーラが出ている。
    やばい、親父のグレネードが装填完了・・・・・発射まで三、二、一・・・・・ま、いっか。どのみち疲れて動けんのだ。
    「こんの・・・・・馬鹿モンがぁぁぁあああ!!!!!」
    カマイタチか、ソニックウェーブか、ガレージ中に親父の叫び声がこだまする。ACまで震えてたかもしれない。
    俺の頭に乗っかっていたレジィは親父の一喝でOBの加速の如く全力疾走で逃げ出してしまっていた。
    ごめんねレジィ。悪いのは親父だから、いや、やっぱ俺か。
    だが俺は微動だにしなかった、いや、できなかったのだ。OBフル稼働にしての三次元機動に加えて無数の巡航ミサイルとのスリル満点の
    ランデヴーをやってのけたのだ。精神、肉体的にも限界で最早体は動く気力もない。
    「おぉぅい・・・・・親父〜、死人に鞭うたんでくれよ〜・・・・」
    「何が死人だ!!この大馬鹿モンが、たった一回の任務でこのザマはなんだ!!普段あまり鍛えてないからそういう事になるんだ!!!そもそも俺の機体のどこが不満なんだ、勝手に頭部変えよってからに!!」
    「え〜、・・・・だって前の・・・・・アンテナ頭ってのも・・・・あれじゃん?・・・やっぱヴィジュアルにも拘りを・・・・・」

    また更に地雷踏んじまった。
    さっきの十数倍でかい声がガレージに響く、レジィの奴はもうガレージの外まで逃げてしまったかもしれない。下手をすると明日には迷い猫の張り紙をシティ中に張る羽目になる。

    「こんの大馬鹿モンがぁぁあああ!!!俺のACをなんだと思ってるんだ―――――!!!!!」

    いや、今は俺のだって、って・・・・ダメだ。口がうまく開かん、まぁいいや。
    動けない俺をよそに親父の軽量二脚の機動についてのウンチクが始まる。
    俺は疲労困憊で動けない。親父は俺にこの後3時間は喋り続けるだろう。端から見ると全身椅子で拘束された上に説法か何かでマインドコントロールされていると思われても仕方ない光景だ。お陰で親父の機動についての講釈は段々と覚えてしまっている。
    俺も汚染されてそのうち軽量二脚推進委員会なんて立ち上げるかもしれない。

    だが、これだけ喋っても尚語り足りないと言うのはそれだけの実戦を経験して生き延びたなによりの証でもあった。こんな俺でも戦術について最低限重要な事はちゃんと聞いてはいる。普段は口うるさくて頑固で向こうみずでそれが行き過ぎてお袋に愛想尽かされてしまった男だが、それでもこの父親はレイヴンとして戦場の生き残り方を知っている数少ない人間の一人だった。事実、この父親に仕込まれたお陰でこの「ウールヴへジン」に比較的早く慣れる事ができたし、小規模ならMTの指揮も一応できたし(かなり適当だったが)、ある程度のイレギュラーな事態に見舞われても何とかなった。(今回の様な事態の他、賞金目当ての偽依頼などだけで十数件)。少なくともこの超適当&すぐに切れる自分でもA+評価がもらえると確信できるダメ人間が他の才能あるルーキーが死んでいく中でここまで生き残れた事はこの父親による所が大きい。たまにMTで僚機してくれるし。
    乗るの俺のコレクションの奴だけど・・・・。
    だがそれだけは口が裂けても言えない。言える筈がない。
    言ったら親父はそのレイヴン歴30年の知識と経験を毎日毎日エンドレステープの如く語り続けるだろう。
    俺はまだ軽量二脚推進委員会なんて立ち上げる気は微塵もない。
    しかし俺がレイヴンになってもう5ヶ月か・・・・早いもんだ。俺の同期で知っている奴は皆死んでいた。

    俺の同期で気のあった奴らが3人いた。皆良い奴だったり、努力家だったりした。
    まずはハモンド、こいつは俺達の中で一番才能があった。そして俺と一番馬が合った。何でも妹が難病を患っているらしく、手術代と生活を楽さしてやりたいからレイヴンになったのだそうだ。
    高潔な精神だ、少なくとも親父が元レイヴンで機体までもらい、成り行きでレイヴンになった俺の百万倍はいい奴だと思う。よく俺に僚機依頼を回してくれ、一番頼りになった。

    こいつなら俺の背中も任せられると思っていた。

    だがハモンドは俺達の中で一番早く死んだ。俺達四人が増援の敵ACを含む敵の大部隊に囲まれた時、しんがりになって敵部隊を牽制して
    くれたが、最後には敵ACのグレネードの直撃を受けて死んだ。最後には、残してきた妹さんの名前を叫んでいた。
    俺の十、いや、百人分でも釣りのくる死だった。この頃からだったか、俺がグレネードとか食らったらすぐ切れだす様になったのは。
    皮肉にも戦友を失ったこの日、俺の記念すべき初の撃墜スコアが刻まれた。

    ハモンドの形見のバンダナを握り締めて泣いていた妹さん、最後まで俺達に文句の一つも言わなかった。
    ただ、それだけ言うと兄の血のついた形見を握り締めて突っ伏して泣いていた。いっそのこと滅茶苦茶の責めてくれた方が楽だった。
    たまりかねて俺達に彼女の手術代と生活の援助をしないかと提案したのがレイモンド、こいつもいい奴だった。
    レイヴンネームはイリュージョン・アイ。両目の視力が5.0で、どんな敵機も見逃さない事からこの名がついた。レイヴンになった理由
    は武装集団やらの略奪で荒れ果ててしまった故郷に浄水施設等の公共施設や、自警団を立ててやりたいのだそうだ。
    立派な志だ。全てにおいて中途半端に終わる俺の様なダメ男とは持っている信念が違う。

    残った俺達は彼に賛同して、彼女に援助をする事にした。今ではその援助をする人間は俺一人になってしまった。
    レイモンドは味方の裏切りで殺された。ミサイルを念入りに浴びせられて骨も残らなかった。敵機を肉眼で確認できる目に恵まれていても敵の策謀を見抜く才能には恵まれなかったらしい。俺はミサイル一発でも激情を抑えるのに苦労する様になっていた。
    最後の一人マルクスは超がつく程の努力家で、俺達の中ではハモンドに次ぐ出世頭ではないかと言われていた。勤勉で任務に最適、かつ必要最低限の装備で出撃し、
    経費も最小限に留め、積極的に各勢力にアプローチをした。
    少なくとも家でゲームやったり趣味でMT修理やって、たまにきた依頼だけをこなす惰性的な人間(つまり俺)とは比較の仕様がない。そいつも死んだ。実力がつき始め、各勢力の間で注目され、彼の賞金額が上がったところで、同業者達に待ち伏せされて殺された。任務に必要な最小限の装備が仇になったのだ。
    動けなくなった奴に、敵のAC達はありったけの鉛弾をぶち込んだらしい。最早死体は原型を留めていなかった。マシンガンの十発でも
    当てられたものなら蜂の巣にしないと気がすまなくなっていた。

    被弾する度に戦友達の無念を思い出して切れるんじゃない。むしろ・・・むしろ俺があいつらと同じ目にあったらどうしよう、死にたくねぇ、お前が堕ちろと、情けない事やどす黒い感情を敵に向けているだけだった。全く、あいつらに会わす顔が無かった。いや、もう皆死んでいたか。

    今でも俺は、レイヴンという仕事に疑問を抱き続けている。死んだ良き戦友達にも申し訳なく思う時もあった。こんな俺が生きて、なんであいつらが死んだのだろうか・・・・と。

    だが俺はまだ突き進む、俺がレイヴンである限り。何のために?それは俺にも
    わからない。俺があいつらにもしかしたら死ぬまでわからないかもしれない。だが・・・・・だが、もし俺がこの先生き残れたら、何やっても半端者だった
    も胸を張れる一流のレイヴンになれたなら、この疑問も吹っ飛ぶのかもしれない。

    ふと、俺の機体・・・・親父を30年間、姿形を変えながらも共に駆け、今は俺の愛機であるACを見つめた。
    俺の無茶のせいで所々ミサイルやグレネードが被弾し、ぼろぼろになってしまったそのACはそれでも尚、
    俺の手足に、翼に、そして牙になってくれている。
    (なぁ・・・・親父はお前に乗って、何かを掴めたのかな・・・・・)
    俺もこいつなら、何かを見出せるのか?そういえば昔、まだ現役でいつも任務から帰って来た親父、愛想がないのは変わらないとして
    どこか誇らしげで、自信に満ちた顔してなかったか?俺もいつか、あんな風に・・・・・・
    あ、ダメだな俺。ファザコンはいかんですよ、本当、絶対美化しすぎだって、500%くらい。

    「こら、ちゃんと聞いてるのか!!」
    「ん・・・・・あぁ・・・・多分・・・」
    こうして日付が変わるまで親父のウンチクは続いていた。

    その翌日、倒した奴がC-LOWS所属のレイヴンだったらしく賞金が一銭もでない事実と成功報酬の倍の損害額の請求書により俺は丸二日、廃人同然の状態になるのだった。

    やっぱ・・・・無理かも・・・・・ホント、ダメ人間だ・・・・俺・・・・・。

864/ 人類、祟ります。「呪魂」
・投稿者/ tatari
・投稿日/ 2006/06/15(Thu) 20:48:28

    ―――――――人工の天幕は作り物の空を映す。
    地下都市を覆う広大な天蓋は気象プラントやプラネタリウムと同じ原理でスクリーンに映し出された風景で、
    その規模から一般人には人工と天然の違いは意識されない、と言ってもいい。
    もっとも「鴉」にとっては充分到達可能な狭苦しい処だが。そんな処で、一人の鴉が目を覚ました。
    「・・・朝日が、眼に染みる。・・・鬱だ」
    その人物は、現在のソドムとゴモラと言うのに相応しい、典型的なスラム街の、倒壊した廃墟の片隅に腰掛けていた。
    ここでは路上にホームレスがいる事は当たり前だが、その人物の風貌は只のホームレスとは
    かけ離れていた。全身を濃緑色の軍服とカウボーイハット、鉄筋の入った安全靴、革の手袋、最大の問題は、いくら不衛生な土地だからといって、顔をガスマスクで覆い隠している事。

    性別も年齢も容姿も人種も不明。この姿はとても浮浪者とは思えない。
    やがてその怪人はふらふらと暗い路地裏に足を進め始めた。そこで唐突に、
    「ねえ、そこのお兄さん、私を買ってくれないかい?」
    ここではそう珍しくも無い、よくある売春婦である。だが、怪人はそれを無視。
    「まあ、待っておくれ。とびきりいい目をみせてあげるから、さあ」
    怪人が歩みを止めると女は買う意思があると思い、近づくが、そこで
    「やめろ、・・・私に触れるな」
    怪人がくぐもった声を発する。
    「・・・私は、お前を買う意思は、無い」
    「そんなこといわずにさあ、一緒に・・・」
    そして女が怪人の肩に触れる瞬間、女の左腕がバッサリ斬りつけられる。
    「ヒュ、〜〜・・・?!!」
    悶絶し、引き攣った気管が乾いた音を鳴らす。が、怪人は容赦せず、
    ―――女の腕を斬り落とした。

    「ぎゃあぁぁぁああああぁあ、ぁぁぁ!!!!」

    女の悲鳴が無人の路地の澱んだ空気を掻き乱す。もっとも助ける様な人間がスラムにいる筈ないが。

    その女の腕を切り落した得物は、低木を薙ぎ払うブッシュナイフをそのまま巨大に、剛性を高めた、
    ナイフというより鉈と言われた方が納得できるガーランドHA製<ガリバーナイフ>である。
    利点より欠点の方が多い、こんなモノを持ち歩く人間は今時珍しい。

    「い、ぐぅうふ・・・・・」
    女がアスファルトの上に倒れこむと同時に二人の男がやって来た。まあ、チンピラと呼ぶに相応しい姿だ。
    「おい!貴様、その女はウチのモノだ。それをキズモノにしやがって・・・責任取って貰うか?」
    「金、アルダケダセ、臓器、売レ」
    「・・・断る」
    即答すると同時にカタコトの男に鉈を投擲。
    「なっ?糞が!」
    すぐさま小柄な男が懐に手を入れ、機関拳銃を抜くが、怪人はすでにカタコトの男を盾にし、そのまま突進する。

    「うわぉ、あああ!死ね!」

    マズルフラッシュ。だが、怪人はそのまま勢いを止めず、相方の死体を蹴り飛ばす。
    「!!」
    死体を回避しようと躊躇した男に怪人は死体の頸部を抉り、男の肝臓を突き刺す。
    「ああっ・・・・・・・」

    「・・・・・・・・・・・・・・」
    しばらく怪人は折り重なった男達の死体から戦利品としてマシンピストル、クレジットカード、IDを抜き取る。
    作業が終わり、振り返ると、泣きながら大通りに逃げようと這いずる女を見つけた。
    「・・・・・・・・・・・・・・ターン」
    そして、その頭部に鉛弾を撃ち込む。

    「・・・・・・皆、死ねばいいのに。人は、何故生きるんだ」
    そう呟き、血匂漂う裏路地から出る瞬間、ボソリと
    「・・・・・・・何故、私は生きてるんだ?」




    ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
    えと、初めまして。覗いてばかりで、今回参加を決めたtatariです。
    自分のキャラは皆様の作品で主役の引き立て役、良いに死に方を沢山経験させたくて、投稿しました。
    だけど、やっぱり人に使って欲しかったらアピールは大事!と思って始めての投稿小説を;うう、駄文ですいません;;

    ガーランドHA、ジーニーGF等の銃器メーカーの設定を見て、是非拝借させて欲しいと思いまして、
    使用しました。ごめんなさい、無断使用ですいません;
    新参者で右も左も分からない奴ですが、どうぞ話しかけてやって下さい<(_)>

879/ 鴉のルール − ウングリュック
・投稿者/ タケル
・投稿日/ 2006/06/19(Mon) 01:26:23

     今でも思い出す。レイヴンになる決意を固めた、あの日を。
     それは、まだ私が子供の頃だった。冷たい雨が降る中で、一人の男が無造作に放った一言から始まった。


     「―お前に俺が撃てるか?」

     一瞬、何のことだか理解できなかった。
     男はゆっくりと拳銃に弾を込め、戸惑う私にその握り手を向け突きつけてきた。
     ようやく言葉の意味を理解できた私は、震えながら後ずさる。

     「……そ、そんなこと」
     「簡単なことだ。銃口を私に向け、引き金を引くだけだぞ?」

     男の青い目が、鋭く私を見据える。
     その眼光に気圧され、返事すら返せず、俯く。
     その様子を見て、男は軽く溜息をつき、語り出す。

     「やはり、お前には無理だ。戦場では、一瞬の躊躇さえ許されない。
      戦場で銃を向け合った相手が親しい者だとしても。もし撃たなければ―」

     男は一瞬言葉を切り、雨の降りやまぬ空を見上げた。
     雨粒から目をかばうように、ゆっくりと瞼を閉じながら、再び口を開く。

     「―死ぬのは、お前だ。一旦、敵となった相手は殺さねばならない。
      例えそれが無抵抗な人間であろうと、その者に家族がいるのだとしても。
      ……余計な同情など、する暇はない。
      その躊躇いが、自らを殺すだろうからな」

     だが、と男は呟き、再び視線を私に落とす。
     私も顔を上げ、男の青い目を見上げた。
     
     「鴉には、鴉のルールがある。……私は、お前を止めはしない。
      自らが死ぬことを厭わず、戦場に命を投げ出す覚悟があるならば―」

     男が軽く身を屈め、私の目の高さに視線を合わせる。
     そして右手を私に突きつけ、言った。

     「この手を取るがいい。
      レイヴンには、自らの意志でなるものだ」

     僅かな間の、沈黙。
     やがて、私はおずおずと、彼の堅い手に自らの手を重ねた。
     男はうなずき、私の手を掴み、立ち上がるのに手を貸してくれた。
     
     それから私たちは連れだって、ゆっくりと同じ方向に歩き出す。
     ふと、男が尋ねた。

     「お前の名は?」

     男の問いに、私は答える。
     その一言に、確かな決意を込めて。

     「アルマ=クリューガー。……いや、オレの名前は《ウングリュック》だ」

     
     《禍》を意味する言葉。それが、私のレイヴンネーム。


    =====================================


    《お詫び》

    この小説は、ウングリュックの視点で「私」という言葉を使っていますが、
    単にこれは作者の書きやすさによるものです(笑)
    彼女は、台詞では「オレ」という一人称を使いますが、
    上記の都合から、台詞以外の時の一人称は「私」を使わせていただきます(汗)

    その為、一部、誤解を招きやすい箇所がありますが、ご了承ください。

882/ 女王様と従者と雇われ騎士団 【ノーブルレイ】
・投稿者/ まっさん
・投稿日/ 2006/06/20(Tue) 16:36:16

    「今日、この場に集めたお前たちはトリニティでもトップクラスの人材だ」
    目前の、決して大柄とは言えない老人が静かに喋りだし、それと同時に呼吸するのすら苦しく感じるほどの威圧感を放つ。
    老人の名は『ディリン・A・アールディ』、現トリニティ最高役員の一人で人の命を吸い続け生きるバケモノ。
    「お前たちに仕事を与える・・・最上位機密任務を・・・」


    〜C-LAWS〜

    「おいッ!!早く仕留めろよ!」
    「そんな事言ったって高機動型同士の戦闘で狙撃なんてしたら『姫』に当っちゃうでしょ!?ちょっとアンタらミサイル積んでんだからどうにかしなさいよっ!」
    「それこそ当っちまったら洒落にならねぇだろーが!!」
    在野のレイヴンたちが恐れるC-LAWSの精鋭たちが慌てふためく。
    「あ・・・敵機戦闘領域より離脱しようとしてます」
    「ッシャアアァァ!回り込んで即攻でボコっちまえッ!!」
    「駆動系と火器系統の破壊のみだからね!完全撃破しないよーに!」
    「『姫』がターゲット補足・・・30秒程で接触します」
    「うげッ?!急げテメェら!!!」
    「あぁぁもぉおぉぉ!私はこんな事する為にC-LAWSに入隊したワケじゃないのにぃいいぃ!」
    「・・多分・・・あの人よりマシですけど・・・」


    〜エステート社内・社長室〜

    「おはよう御座います、社長」
    役員なのにも関わらず、いつも通り定時前に出社してきた『姫』に私は深く頭を下げる。
    「おはよう、リュネ」
    下げていた頭を上げ彼女を見ると少し頬が紅潮している・・・私はこめかみに痛みを覚えた。
    「社長・・・まさか呑んでいらっしゃいませんよね・・・?」
    彼女は一瞬きょとん(死語)とし、それに答える。
    「やだぁリュネったらぁ〜♪」
    私は少し安堵し続く言葉を聞く。
    「呑んでるに決まってるでしょぉ♪♪♪」
    「社長ぉぉおッ!!!業務前から飲酒して当然とか答えないで下さいッッ!!」
    たかが秘書と社長という立場の差を一瞬忘れ思わず怒鳴る。
    「あら??私お酒呑んで業務に支障があったことあるかしら???」
    紅潮した頬に手を当て首を傾げる『姫』に私は・・・・。
    「もぉ・・・・イイです・・・」
    彼女の秘書になってから73度目の挫折をした。


    〜アールディ家〜

    普段の様子が完全に全く微塵も見えない程、緩みきった表情のディリン翁が何度も相槌を打ちながら孫娘の話を聞いている。
    「あ、お爺様」
    楽しそうに話していたレディナがふと真面目な表情になる。
    「なんだねレディナ?」
    変わらずに緩んだ表情で尋ねる。
    「お爺様が付けてくださってる護衛の方々ですけれど私に見つからないようにサポートするの大変そうですよ?♪」
    緩んでいた表情が引きつり・・・。
    「あとリュネですけど凄く真面目な子ですからあまり無理させないで上げて下さいね?」
    そして悪戯が見つかった子供のような表情になる。
    「レディナや・・・お前全部気付いているのかい・・??」
    「何のことでしょう?♪」
    そう言って彼女はにっこりと微笑んだ。

979/ Dance With Bullet 【シュトゥルムティーガー】
・投稿者/ 鉄
・投稿日/ 2006/07/13(Thu) 21:06:30




    「私の特別な”スーツ”を用意してくれ」

    ――今日も戦場に一匹の「虎」が暴れまわる。

    「これから派手なパーティが始まるのですね」

    ――その「虎」は止まることを知らず阻む物を壊していく。

    「ああ、それもダンスパーティだ」

    ――その「虎」は恐怖を知らず敵中に入っていく。

    「ではそろそろお時間ですよ」

    ――その姿を見た者は「虎」にこう名づけた。

    「レイヴン」

    ――《魔弾》と。


    「500フィート下方に第1目標機です」

    「”手続き”を済ませてから”乗り込んで”ください」

    「了解!」
    その時輸送機に”鉄の雨”が降り注いだ。

    「さあパーティの始まりだ!」
    ”雨”の犯人であるACが、燃え盛る輸送機に飛び込んだ。
    「そしたら流石のあいつもよー」
    「ははははちげえねえ」

    世間話をしている兵士たち・・・だが彼らはその目に燃え盛る物体を見た。

    「ん、なんだあれは?!」
    「おいこっちに落ちてくるぞ!」

    慌てふためく兵士たち・・・だが彼らが成せる術も無く燃え盛る輸送機は降り立つはずであった基地へ墜落した。
    「こちら《突撃虎》パーティ会場に到着した」
    「・・・・・お迎えが早いようですが」

    2機の戦闘ヘリがチェインガンをACに放ち、その後ミサイルも放つ。
    爆風が巻き起こりACが破壊されたかのように見えた。

    ヘリパイロットは震えた声でこう呟いた。

    「これで死んだ筈だよな・・・?」

    だが、彼の予想は見事にも外れる事になる

    「遅いぜ小僧!」

    爆風の中からACが飛び出し、戦闘ヘリに肉薄し「虎」は叫んだ。

    「ヘロー小僧!」
    「そしてグッバイ!」

    その瞬間ACはヘリに銃撃を浴びせ”蹴った”。

    「来るな!俺はまだ・・・」

    その後蹴りだされたヘリはボウリングのように兵士たちを蹴散らし爆発する

    「ストライク!グッドシュートティーガー!」

    そしてACはMTの方向へ落下し・・・・

    「着地成功!」

    踏みやがった!

    「3時方向から来客です」
    「更に新手が来てます」

    「畜生!これでも喰らえ!」

    「虎」は飛んでくるミサイルを交わしながら

    「凄い歓迎方法だな!お礼に”穴空きチーズ”にしてやるよ!」

    そう言うと、ACはマシンガンで発砲した。

    ――”パーティ”はまだまだ続く。

    ――だが秩序は変わらない。

    ――「虎」はこの世界をどう思い、どう行動するのか。

    ――それは「虎」自身にしか分からない。

    ――そして、今日も戦場に一匹の「虎」が暴れまわる。


1178/ レイヴンらしくないレイヴンライフ
・投稿者/ トーリス・ガリ
・投稿日/ 2006/11/29(Wed) 14:47:44

     ミサイルへの対応をもう少し単純化してもよさそうだ。
     それよりもマシンガンの照準精度に容量を使った方がいいか?
     いや、ここはもっと回避運動時の消費エネルギー効率を向上した方が無難だろうか?

    「しーちゃんまたプログラム?」

     白い肌の…というよりは青白い肌の大人しそうな少女が、後からノートパソコンの画面を覗き込んだ。
     ここはクーロンシティ日本人街のすぐそば、高校1年生の主人『エミリア=ウォルター』の屋敷。
     眼鏡で緑髪の幼い少女《C−ta》がポーカーフェイスで答える。

    「攻撃の正確さと回避時エネ――」
    「あ、ちょっと待って、補聴器…」
    「………;」

     生まれつき耳が悪いエミリアだが、慣れているはずの作業をよく忘れる。
     マイペースな天然ボケである。

    「攻撃の正確さと回避時エネルギー効率、どちらを選ぼうか思案していたところです」
    「攻撃と回避……………?」

     二人揃って暫く考える。
     先に答えを出したのはC−ta。

    「…射撃精度を上げることにしましょう」
    「…どうして?」
    「弾が無くなると攻撃できませんからね」
    「でも、エネルギーが無くなったら動けないんでしょう?」

     難しそうな顔をして首を傾げる青白い少女。
     しかし、それに対する答えは既に用意されてあった。

    「エネルギーは常時充填されます。なら、制限があるものに気を使ってあげようという事ですよ。単純な事です」
    「ふーん………」

     2度3度頷いて感心する青白い少女。
     チビっ子とあどけない少女の会話にしては物騒な内容である。

    「…あれ?」
    「エミル? どうかしました?」
    「うん…そういえばわたし、何を言いに来たんだっけ?」
    「………用事を忘れたんですか;」
    「…うん」
    「まぁ、思い出した時にまた来てく――」
    「あ、そうそう。今度ね、友達と一緒に出かけるんだけど、しーちゃんも来てくれない?」

     マイペースな天然ボケである。

    「はい? なぜ私が?」

     C−taの手を取ってにっこり笑い、

    「友達にしーちゃんの事話したら、連れて来てってお願いされちゃったの」

     などと言う。
     友人の頼みを断りきれなかったようだ。

    「私の事って…;; 一体どんな事を話したんですか…?」

     超不安げに聞いてみる。

    「すっごくカワイイんだよって、お人形さんみたいだって話したの」

     案の定だ。
     要するに弄られて引っ張り回されるのだろう。
     文字通りお人形さんである。

    「イヤです。そこはかとなく悪い予感がします」
    「でももう約束しちゃってるの………」
    「ええ!? 私の都合、考えましたか!?」
    「だって、しばらくはプログラムの改良だから特に用事は無いだろうって…」
    「にしても普通そういう約束は了承を受けてからするものでしょう…;」

     俯き、黙り込むエミリア。
     物凄く寂しそうだ。

    「……………ねぇ、どうしてもダメ?」
    「……ダメ;」

     一方、C−taは(アンドロイドなのに)冷や汗を流して顔を逸らす。
     気まずいぞC−ta。

    「お願い、ね? あ、そう! そういえば、その日『世界面白ペットフェスタ』っていうのがあって…」
    「……………」
    「それにね、ペットロボットのコーナーがあるみたいなの!」

     必死に説得を試みるエミリア
     そしてピクリと反応するC−ta。

    「よかったらついでに行ってみない?」

     C−taの心が大きく揺らぎ、2秒後に崩れた。

    「ね? それならいっしょに来てくれる?」
    「仕方ありませんね、お供しましょう!」

     即答。
     言動のわりに目が輝く…エサには弱かった。
     優等生のC−taだが、こういう所は極めて単純なようだ。

    「ほんと!? 行ってくれるの!?」
    「ええ」

     それに、考えてみるとエミリアが友人と出かける事は少ない。
     見た目通り病気がちで、立場上あまり外出できない彼女には、友達と呼べる人間がそもそも少ないのだ。
     行かないと聞いて悲しげに俯いたのも、あまりこういう機会が無いからだろう。
     それだったら、願いを聞いてあげてもいいという気がしてくる。

    「しーちゃんありがとーーーー♪♪♪」
    「……エミル…苦しいです;;」

     まだまだ未熟な屋敷の主はC−taを感謝と愛情いっぱいに抱きしめた。





     そして後日、ゴスロリの着せ替え人形はぐったりしながら町を練り歩く。



1137/ 九龍特報・後書き(1月10日更新)
・投稿者/ ケツアゴ熊ちゃん
・投稿日/ 2006/11/16(Thu) 21:50:17

     <御礼>
     さて、先ずは皆様、このようなぺーぺーが企画したリレー小説に多大なご協力を頂き、誠にありがとうございます。
     誠に勝手な話とは思いますが、このリレーもOVA-ACGの開始に順い一応の完結を見させて頂く事となります。
     とは言え、名目的には今回の更新で企画終了という事にはなりますが、今後も小説の投稿を募集します。
     九龍特報をフと思い出す事があれば、どうぞ妄想をぶちまけにいらっしゃって下さい。
     重ね重ねではありますが、多数の良作、奇作のご投稿、本当にありがとうございました。  



     <注意事項>
     ・レスは各特報のレスにお願いします。
      例えば、『特報1<大氾濫事件>』に纏わる小説を投稿される方は、『特報1<大氾濫事件>』にレスを付けて下さい。
     ・削除キーの設定をお忘れなく。万が一の時多方面の方々に迷惑を掛けなくて済みます。
     ・おやつは300円まで。メイプルシロップはおやつに入らない。
      





1138/ 九龍特報・創刊の挨拶
・投稿者/ ケツアゴ熊ちゃん
・投稿日/ 2006/11/16(Thu) 21:51:25



     あの日、レイヴン達がいた。


     あの事件が起こった時、彼等は確かにそこにいた。

     
     砲弾の降る戦場に。 
     湖面を濡らす霧の中に。
     絶望の待つ廃都市に。
     熱気渦巻くアリーナに。
     時には舞台さえもなく。


     彼等の踊った混迷のダンス。
     主役も助演も脇役も無く、彼等が綴った物語。
     誰にも何処にも語られない、”私たち”だけの小さな事件簿。
     
     
     創刊特集は、鴉達が舞った十の舞台を活字に載せてお送りします。
     それでは鴉の皆様、”かつてそうだった皆様”、どうか末永くご愛読頂けますよう一一。 


     



      一一それは、彼等が駆け抜けたクロニクル。




        

         『一一バグの数は?』「おおよそ【チンハイ湖】一杯分」


         
     「この薬は、快楽を得る為のものじゃない一一勝つ為のものなのさ」       

                               一一あの馬鹿野郎! お前等! 直ぐにあの金ピカを援護しろ!!一一                  
     「製薬会社? 何でまたこんな時に」


      『…寒ィじゃねぇかコラ。…なぁ、お宅ら。ちぃと”あったかく”なりたかねーか?』
     

                       「『ナニカ』…見付けました」                 

                   一一多分あの化け物は宇宙人だったんだよ。あの日でっかいクレーター遺して、あいつは宇宙に還ったんだ一一

                                        『総員! ”湖に気を付けろ”!』

     「ヒャハハハハハハハハハハハハh」
                     『何を言うか! 吾は神と等しい存在なるぞ!?』『いいから黙れ糞野郎』
     


             「哀レデスネ」『…ああ、俺達と同じでな』



                                   「私は《GHOST》じゃないぞー?」
                         

             一一出た! 必殺スーパーポジトロン(以下略一一


         『『『『『『『『『アハハハハハハハ?』』』』』』』』』

                   「私の眠りを妨げて下さる糞野郎共にはぁー…代わりに私の分も眠って頂きま…ぁあ眠ぃ…」 
     
                           『ぁーマイクのテスト中…ぁー…』
                   一一ネヴァート作戦?一一
                     「レイク・ミスト・ジャッベリン…!?」


      「グレ先生一一敵数、レーダーの処理能力越えてますけど」『一一少ないな』       
                       一一今この瞬間司令部が壊滅したって不思議じゃないんだ一一
                    
          「イナゴ中隊諸君! 我等はこれより盾になる! …総員死ぬ気で連中を逃がせ!!」
            一一呼びやがった! あいつ黒山羊呼びやがった!一一

      『一一本日より始まりましたレイヴンズ・ラジオ。DJはお馴染み一一』      『we well…』

         一一霧か…嫌な兆候だな一一

           
                    「I am Chinese noodle」


     「ああ、そいつは《ガランツエール》だったり《ガランシ工一ル》だったり《力゛ランシエール》だったり《ガうソツエーノレ》だったり…」

      「手が足らん! 《Dr.レイヴン》を呼べ!」               一一そう、今日が本当の【放鳥の日】一一

                             「伝令より報告! 南西第五隔壁崩壊!!」
          『誠に勝手ながら、本日をもってヴェノムチャンネルは放送終了と…』

                                   『笑えよ…』    『力も無ければ技も無い…”数”がこれ程恐ろしいか!』
                   「『Not found』だァ…?」
         「俺は確信したね。あの放送は最高にクレイジーだって」

     「知ってるかい? このラジオドラマは、あの事件があったから始まったんだよ」
                        一一その赤い瞳は、紅い紅い血を降らす一一
     
    一一だって言われたんだ! お前達を殺せば…僕たちは自由になれるって!一一


                              『こちらに付かなきゃ37564』

     「…で。つまりはどうなる?」『ええ、【九龍シティ】の約一割五分二厘が球体状に消滅すると予測されます』
     




               『レイヴン…諸君に、私は呼びかけたいと思う』
       



     一一to be next page…。


1139/ 特報1 <大氾濫事件>
・投稿者/ ケツアゴ熊ちゃん
・投稿日/ 2006/11/16(Thu) 21:54:52


     【特報1】
     
     地球歴○二○九年 ○月 ■日
     
     <大氾濫事件>

     地球歴○二○九年初頭。終結の兆しを見せ始めていた【第二次企業紛争】は、突如として混迷に引きずり戻される事となった。
     前年から急激な繁殖率の上昇を見せていたバグが、廃都【オールド・バル】を中心に氾濫。それに呼応するかのように各地のバグが一斉に外界へと溢れ出し、【ターミナル】や各勢力の地上拠点を次々と飲み込んでいった。
     発生当初は食料の枯渇による共食いによって自然消滅するだろうと見られていた氾濫は発生から半月を経ても沈静化せず、ついには【九龍シティ上層第五隔壁】にバグが侵攻。事態の重大さに気付いた企業が重い腰を上げた時には、非公式のノマドを含め死傷者は三十万以上に膨れ上がっていた。当然、これらの数は地上で各個奮戦していたレイヴン達の活躍により抑えられた方であり、企業軍が異例の共同作戦を組むのが一日遅れていれば被害者数は倍に膨れ上がったと指摘する者もいる。また、この共同作戦の裏にも各企業それぞれの思惑があった事は言うまでもない。
     企業軍とレイヴンズ=ケイジ所属レイヴン約三分の一による混成軍によって決行されたバグ掃討作戦は、当時シングルナンバーであった《ラフメーカー》、《デュエリスト》、《グレイ・グリフィス》(内一名は作戦中に死亡)を筆頭としたレイヴン達の奮戦もあり、「【チンハイ湖】をも埋め立てる」と喩えられたバグの数は急減少、鎮圧された。
     被害は地上都市十三、集落五十前後を始め、全体の死傷者は五十万超。混成軍は小隊百三十隊、大隊二隊を失い、作戦に参加したレイヴンの半数近くが死亡、ないし何らかの理由で引退を余儀なくされた。
     しかし、残存のバグは一路【オールド・バル】に集結。この事件で最大の被害を出した【ガレル砂漠産業同盟】に軍を差し向ける暇も無く、企業軍・レイヴン混成軍は後に言う女王討伐に向かう事となる。




     <特記事項>
     
     ・《ラフメーカー》
     当時のシングルナンバーにして、アリーナ(この場合、公式アリーナの事を指す)史上最大の人気を誇ったパフォーマンサー。
     大破壊以前に流行したロックソングを流しながら銃弾をばらまく戦闘スタイルは多くの観衆を魅了したが、その一方でレイヴンとしての評価も確実に積み上げていた男であり、観衆からは笑顔と興奮をもって、同業者からは冷笑と嫉妬をもって「芸人」の二つ名を与えられた。
     この作戦では孤立した集落を救う為、単騎バグで埋め尽くされた丘陵に飛び込み、押し寄せる上位バグの群と激戦を繰り広げている。その末に変異種の女王型と差し違えたが、その黄金の背中は大氾濫事件に参加した兵士達の戦意を奮い立たせ、スピーカー越しの冗談は常に聞く者の緊張を和らげたという。
     また、ある下位レイヴンとの関係が囁かれていたが、結局その詳細は明らかにされること無くこの作戦で死亡している。
     


1149/ 『小さな喜劇』
・投稿者/ ケツアゴ熊ちゃん
・投稿日/ 2006/11/16(Thu) 22:08:19



     私は、今でも時々不安になる。

     ひょっとしたら夏の夜長に私が遭遇した出来事はみんな夢で、私は恐怖のあまり気絶していただけなのかも知れない、と。
     
     それ程に、あの光景は異世界だった。さながら私達が行っていた収穫祭が、何か別の世界の惨劇を呼びこむ儀式だったかのように。

     何万という化け物に囲まれた中で、私は友人と老いた父、多くの同胞と故郷とライ麦畑を一つ失った。結局食いちぎられた小指も、二度と治る事は無かった。

     それでも、あの時の事がどうしても現実のものに思えないんだよ。単に私がそう思い込んでしまいたいと思っているだけなのだろうけど、あれは…まるでUFOにでも遭遇したみたいだった。

     いや、UFOだったらどんなに良かっただろう。地獄の中を逃げ回っていた私には、あのひどくギラギラとした姿だけが妙に現実味があって…”あいつ”に出会ってしまったからこそ、私はあの出来事を単なる妄想だと割り切れないのだと思う。
     
     …今でも、耳の片隅に聞こえるんだよ。
     確かに聞こえたような気がした、”あいつ”の寂しそうな声がね。



     でも、結局私は”あいつ”に笑いかけてやれなかった一一それだけが、ちょっとだけ心残りなんだよ。 






     ☆
     





     それは、怒濤の地獄だった。



     蟲。蟲。蟲。蟲。蟲。蟲。蟲。蟲。蟲。蟲。蟲。蟲。蟲。蟲。蟲。蟲蟲蟲。蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲、蟲。


     
     甲殻を纏った絶望が、何百何千と押し寄せる。
     四方八方全てを塞ぎ、地の果てまでも埋め尽くし。
     蟻の這い出る隙間はあっても、人の這い出る隙間は無く。
     甲虫達の行進は、人も家畜も分け隔てなく餌として隊列に加えていく。



     「Δ※ル?Σュarrrr!」



     ライ麦畑の中心で、異形の生物が叫ぶ。
     夥しいバグの節足に収穫時期に耕されてしまった土地が、畑と呼べるのかは甚だ疑問だが。
     彼等の複眼が移すのは景色を埋め尽くす同胞と、木造建築の原始的な家々。そしてその中に逃げ込んだ、二足歩行の雑食動物。
     蟲達が栄養豊富な食料を見逃すはずもなく、彼等はルビー色の複眼を見合わせると『食い残し』を捕食する為に都合六本の足を早める。
     この丘陵を埋め尽くす、他の群に御馳走を横取りされまいと。

     



     そして一一『食べ残し』であり御馳走の一つでもある少年は、かんぬきを掛けた家畜小屋の中で惨劇が通り過ぎるのを待っていた。
     年の頃は8歳か9歳…スクールで言うなら低学年にあたるくらいだろう。だが、少年の健康的に日焼けた肌は彼がスクールにも通えないノマドなのだと如実に主張している。
     
     「…! ……ッ…ッ…ッ…ッ…」

     戸を降ろした窓の外を何かが通り過ぎる度、うずくまった少年の呼吸が一段階跳ね上がる。不規則で不安定な呼吸音は、がらんどうの小屋に反響して奇妙なリズムを生み出していた。
     そんな楽章に合わせるかのように一一周囲からはただ、バグの鳴き声と生き物の断末魔。そして何かを咀嚼するような音だけが、延々と延々と響いていた。


     
     

     その日は、祭りが行われる筈だった。
     やせた土地で穫れた作物を近隣のコロニーへ売って生計を立てる、小さな村の収穫祭。祭りと言ってもサレルノや【九龍シティ】で行われるような大々的なものではなく、ささやかな御馳走を並べただけの、年に一度の食事会だ。
     その祝宴を中止したのは、地平から現れた『来訪者』の大群。
     確実に意味の違いこそあれ、押し寄せた全てが”御馳走”を求めて。
     
     時に地球歴二○九年○月■日、地図上にも記されていないこの村に、<大氾濫事件>の中核となるバグの流れ、その先端がついに到達したのだった


     ガ タ リ

     
     「…ッ!?」

     不意に何かが壁に当たった音が、少年の鼓動を跳ね上げる。
     もしかしたら、外にいた大人の誰かが助けに来てくれたのかも知れない。だが、外をバグがうろついている状況一一その上、先程バグに立ち向かおうとした大人があっさりと食い殺されるのを見た後で扉のかんぬきを外せるほどの勇気を、幼い少年が持ち合わせている筈もなかった。もっともかんぬきがあった所で、木造の扉がバグの膂力に耐えられるわけが無いのだが。
     考えれば考えれば絶望にはまっていく状況で、しかし少年はたった一つだけ他人を気に掛けている事があった。
     
     一一何処に…一体何処に…。

     息を殺して身を潜める少年の頭にあるのは、一緒に逃げていた幼馴染みの少女。彼が密かに片想いしていた、隣の農家の一人娘だ。
     しかし彼女は今ここにいない。必死に逃げ回っているうちに、いつの間にかはぐれてしまっていたのだ。

     一一…違う…違う!

     嘘を吐いた。
     自分は、自ら手を放したのだ。走るのが遅い彼女の手をあたかも偶然放してしまったように放し、後ろも振り返らずに逃げたのだ。その結果、彼は五体満足でここにいる。
     しかし一度冷静になると、胸の内に広がるのは、安堵よりも罪悪感だ。

     一一僕は…何をした?
     一一僕はあいつの友達なんだろ!? 何で何で何で手を放したりなんかしたんだよ! どうして探しに行こうとしないんだよ?!

     頭ではそう分かっていても、彼は扉を開けて彼女を助けに行こうとは思えなかった。
     心は既に決まっている。だが、恐怖に縛られた足が彫像のように動かない。
     まだ彼が外にいたのならば、彼はもう一度彼女の手を取って家の中に逃げ込んだかも知れない。だが、もう彼は小屋に逃げ込んでしまい、外にはバグがうろついているのだ。

     一一…無理だ…出られるわけ無いよ…。
     
     脳裏にもう一度だけ彼女の顔が浮かんだが、少年はそれを見なかった事にした。
     薄い壁の向こうからは、まだ少女の断末魔は聞こえてこない。

     一一そうだ、死んだって決まった訳じゃないんだ。
     一一どこかに逃げ込んでるに決まってる。生きてるに決まってるさ!
     一一大丈夫。またあいつと遊べるし手も繋げるし笑い合えるよ…

     自分勝手な少年が、無理矢理ポジティブな妄想を信じ込もうとしたとき、背にしていた木戸が激しく叩かれ一一



     『一一開けて! 誰かいるんでしょ?! 助けて!』



     酷く一一残酷なまでに聞き覚えのある声が、扉越しの少年に降り掛かった。



     ☆


     一一ッ?

     一一ッ! ? !

     一一ッッッッッッッッ!ッ!?ッ!ッ??、!ッ!ッ!ッ!ッ!



     ドアにもたれた少年の鼓動が、今までにない早さで鼓動を刻む。


     一一生きて…生きて生きてた生き生きい生きkiiuajuarわ…


     心の中で紡いだ言葉は、瞬間的な歓喜によって全く形にならなかった。
     永遠に近い沈黙の間、少年の心は少女が生きていた事への喜びと、自分が彼女を見殺しにしたという妄想からの解放に打ち震える。
     だが、永遠も過ぎれば一瞬でしかない。
     心音に支配された少年の世界に、扉越しの声が割り込んだ。
     
     『ねぇ、中に誰かいるんでしょ?! 助けて!』

     何故民家でなく家畜小屋に助けを求めているのかと思ったが、扉に鍵が掛かっていれば中に人がいると考えるのは当然だろう。 
     そう気が付いた少年はかんぬきを掛けていた事を思い出すと、急いで扉を開けようと立ち上がる。先刻まで全く動かなかった両足は、千年の封印から解かれたかのように動き出し一一少年の心に、一つの不安が沸き起こる。  

     
     もしも一一もしも、彼女が、彼女の手を放した事を怨んでいたら?
     もし、わざと手を放した事を知られていたら?

     
     一度は動いた足が再び止まり、少年の心がバグに対するものとは全く別種の恐怖に囚われる。
     心の動揺は即座に全身に伝達され、膝が、手が、全身が別々のリズムで震え始める。

     一一…だ、めだ。開けなきゃ…開けなきゃ!
     『ねぇ、開けてってば!』

     やはり、理性は既に結論を出しているのだ。だが、未だに逆境にも生命の危機にも陥ったことの無かった少年の本能は、ひたすらに罪からの逃避を望んでいた。
     
     一一…開けなきゃ…。

     だが、今此処で開けてしまえば、”自分が扉を開けるのをためらった事を彼女に知られてしまうのではないか”? そうなれば今度こそ間違いなく、彼女の恨みを買ってしまうのではないか?
     そんな想いが更に少年の身体を押さえ付け、僅かな勇気を粉々にする。
     いっそ何も考えずに扉を開けてしまえたら、どんなに良かっただろうか。たった一分にも満たない躊躇は、少年にとって取り返しの付かない『手遅れ』を呼んだ。



     ☆??gィ…



     近くは、無い。
     しかし決して遠くもない場所から、確かに耳障りな鳴き声が聞こえた。恐らくこのまま扉を開ければ、確実に見付かってしまう場所から。
     
     一一…ッッ!

     蘇ってきた死への恐怖に、頭が思考を放棄する。


     一一息を潜めろ。決して動くな。
     本能は既に叫んでいる。

     一一扉を開けろ。今すぐに。
     理性が小声で囁いた。  


     板挟みに襲われる彼を追い立てるように、迫るバグの姿を見たのだろう。少女の小さな悲鳴が上がり、ドアに伝わる震動がより一層激しくなる。

     『早く! 開けてよ! 助けて!』

     彼の懊悩を責めるように、木戸越しの叫びが少年の全身を打ちのめす。もう一度彼女を見捨てるという背徳感が、猛毒のように胸の内に広がった。
     背徳感から逃れるのは簡単だ。直ぐに扉を開ければいい。今度こそ彼女を助ければいい。
     この瞬間、彼は幼馴染みに口汚く罵られる事も覚悟して一一息を潜め、決してその場を動かなかった。


     一一…ごめん。


     覚悟は、あった。
     だが、ただの子供でしかない少年にできた覚悟と言えば、『危険を冒しても幼馴染みを救うこと』ではなく、『幼馴染みを見捨ててでも自分が生き残ること』だった。
     彼はありったけの勇気を振り絞って、扉越しのの罵倒をひたすらに受け入れる覚悟を決めたのだ。

     一一だって、僕は…僕は死にたくない!

     心に灯った後ろ向きな覚悟。
     しかし覚悟には違いない。それは少年に『何も聞かなかったことにする』力を与え、一時的にでも背徳感から逃れさせる。
     だが一一より一層激しさを増した少女の叫びは、少年の心を決して逃がそうとはしなかった。


     『ねぇ、お願い! 早く助けて! ”私はいいからぁっ”!』
     一一…?


     覚悟に塗り固められた心に、僅かな違和感が舞い込んだ。そして小さな違和感は、即座に明確な形を為して少年の心に突き立てられた。


     『私と一緒に逃げてた子がいるの! でも、途中ではぐれちゃったの! あの子、きっとまだ一人で逃げ回ってる!』
     一一一一ッ!

     
     少年の内心を、かつて無い程の動揺が包む。
     そんな彼の心を全く無視する形で、精一杯の懇願は容赦なく家畜小屋を震わせる。
     


     『だから、早く出てきてよ! 一緒にあの子を探してよぉッ!!』
     一一一一ッッッッッッッ!


     
     少女の声がまるで見当違いな事を叫んだ瞬間、少年の胸に広がったのは、背徳感でも罪悪感でもなく一一紛れもない劣等感だった。
     何故、こんな事が言えるのだろう。彼女だって、自分と同じ子供だと言うのに。その事実を反芻すれば反芻するほど、今の自分の姿がとても情けないもののように思えてくる。
     
     一一…友達だから? 僕が友達だから…君はそこまで?
     
     ならば、と少年は思う。
     自分は、彼女の事を友達とも何とも思っていなかった事に。友達だと思っていたのは、彼女だけだったという事に。
     ”だから、少年は迷わなかった”。
     ”友達でも何でもない奴の為に、命を懸ける必要は無いのだから”。

     一一そうさ。僕は…知らないんだ。こんな奴の事なんか知らないんだ一一

     もう一度、記憶の中の少女の顔が浮かんだが、彼は”友達だった”幼馴染みの顔を無理矢理頭から振り払う。気付けば理性と本能のせめぎあいは、とっくに勝負が付いていた。
     決して恐怖にかられてではなく、理性的に少女を見捨てた少年は、こちらに一一無論彼女に向かって一一近付いてくるバグの足音を聞きながら、自分だけは決して見付からぬように、そっと静かに息を殺した。
     それでも、扉は鳴りやまない。

     『お願い! あの子怖がりだから、絶対何処かに隠れて、そのまま逃げられなくなってるわ! 早く見つけてあげないと、バグに食べられちゃう!』

     バグのギチギチという鳴き声が、いよいよ近くなってくる。鳴き声に比例するように、少年の鼓動が早鐘と化す。
     それでも逃げ出す様子のない少女に、少年は僅かな苛立ちを覚えた。 

     
     『お願い…助けて…』 
     一一何で…早く逃げないんだよ!? 逃げればいいだろ?!


     それでも、少年の願いは届かない。


     一一何でそこまでするんだよ! 何で何で何で僕のために…”知らない奴”なんかの為に!


     自分本意の少年は、そこでようやく気が付いた。

     
     『開けてよ…! そんなに自分の命が大事なの?!』
     一一その通りだよ! 君が捜している奴はそういう奴なんだから、君も、早く一一


     いや、正確には思い出した。
     自分は、決して彼女に死んで欲しいなどと思っていなかった事に一一

     もっとも、彼がその想いを行動に移す時間は無かったのだが。


     『何よ…意気地なしッ!』


     最後に大きく扉が震えると、とうとう身の危険を感じたのか足音が遠ざかってゆく。
     最後の一声は少年を責めるように一一事実そうなのだが一一響いていたが、それでも少年は動かなかった。彼女を追いかけるバグの鳴き声が聞こえなくなるまで、決して動こうとしなかった。
     程なくして小屋の中に静寂が取り戻され、少年は止めていた息をゆっくりと吐き出した。

     
     一一助かった…。

     ようやく浮かんだ一言が、果たして自分が助かった事に対するものなのか、彼女がバグに食われなかった事なのか、それともこれ以上彼女の罵倒を聞かなくて済むからなのか、少年には分からなかった。
     だが、生きている。
     自分の臆病さの御陰で、自分は助かったのだ。今の少年の心には、その充実感だけで充分だった。これで彼女が生き延びてくれたら、十二分だ。
     そこまで考えて、自分が見捨てた相手の安否を考えている事に気付いて、少年は僅かに口元を綻ばせる。
     
     口元から漏れるのが、笑いではなく嗚咽だと気付いたとき一一少年は、息を殺して泣き崩れた。
     
     扉を叩く彼女の声は、もう、二度と聞こえない。 
     
     




     


     一体どれだけの時間が経っただろうか。
     少年は、妙に甲高い破裂音を聞いた気がして意識を現実に引き戻された。

     「…何?」

     どことなく、家に置いてあった猟銃の音に似ている気がする。
     もしかしたら、猟師の誰かがバグと戦っているのかも知れない。そう思ったが、こんなに連続した激しい銃声を彼は今まで聞いたことがなかった。
     一体何だろうかと思って顔を上げるが、そこで少年は音の正体に思考を巡らせることができなくなった。


     ■♂ΘゥЁ§ィg… 
     

     これ以上何かを考えようとする前に一一ノック一つで扉をぶち破ってきたバグが、少年の頭を丸ごと囓り取って行ったからだ。 




1150/ 『小さな悲劇』
・投稿者/ ケツアゴ熊ちゃん
・投稿日/ 2006/11/16(Thu) 22:09:01


     
     一一探さなきゃ。

     
     私は、脳髄を激痛に貫かれた今でもその言葉しか頭に無かった。

     
     私は…見つけてあげなくちゃならないんだ。
     誰を?
     決まってる、友達をだ。
     そう、友達なんだ。だから、一緒にここから逃げるんだ。何処だっていい、あの子を連れて逃げるんだ。
     ”私を見捨てた友達と”一一否、”私が見捨てた友達と一緒に”。

     そうだ、見捨てたんだ。
     私は、友達を見捨てたんだ。
     だって仕方ないじゃない!
     あの子、私と逃げてる時、私の足が遅いからって手を放したのよ?! 友達なのに! 友達だと思ってたのに!
     だから、私も見捨ててやったの。あの子が逃げていった方にはバグが沢山いるって教えてやらなかったの。見捨てられる前に、私が見捨ててやったのよ!
     …でも、直ぐに後悔した。
     嫌だったの。あの子がバグに食べられるなんて嫌だったの。あの子が私を友達だなんて思ってなくても、「あんな奴知らない」って思えなかったの。だって友達だから!

     だから、探さなくちゃ。
     あの子と一緒に逃げて、私を追いてった事を謝らせるの。それから、私も謝ってあげるの。
     そしたら、きっとまた二人で一一
     ううん、きっとじゃない。絶対そうしてみせる。 
     さっき助けを求めた馬小屋は扉も開けてくれなかったけど、もういい。あんな臆病者なんかに頼らない。私一人で探して見せるもの!


     …でも、それさえも出来ずに、私は一一堅い石畳の上をのたうち回っていた。



     ☆


     
     獣のような咆吼が、自分の口から迸る嗚咽だと理解するのに少女は数秒の時を要した。
     石畳に打ち付けられた全身が渦のように傷みの合唱を奏でているが、渦中にあるのは実に小さな喪失感だ。
     彼女は、小指を半分失っていた。曲がり角に差し掛かったとき、急に飛び出してきたバグに、第二関節の半ばから食いちぎられたのだ。
     熱さを伴った喪失感はたった1cmほどだというのに、脳髄を貫く激痛はくまなく全身に供給されている。断続的な激痛の奔流は、彼女を悶絶させるには充分なものだった。
     小さな噴水のように無惨な断面から吹き出す血に染まりながら、少女の心はそれでも叫ぶ。

     一一探さなきゃ。一緒に逃げなきゃ…。

     そんな彼女の意志を全く尊重する気がないかのように一一小指を咀嚼し終えたバグが、石畳に転がる『食べ残し』を完食する為に、一歩彼女に近付いた。
     
     一一逃げなきゃ…。

     驚くべき事に、この期に及んでも少女の心は折れていなかった。
     だが、無駄だった。
     立ち上がる気力は残っている。ここから走って逃げる力もある。それなのに、僅かに小指を千切られた激痛が彼女の全身を支配して、石畳に磔にしていた。
     生きたい。徐々にその思いが少年を探す使命感を上回り始めて、少女は気付く。
     結局、自分はバグの恐怖を『あの子を探す』という使命感で忘れようとしていたに過ぎない事に。
     それが本心なのかは分からなかったが、一度思い込み出すとそれがあたかも本心のように思えてくる。
     だが、自己嫌悪に陥る時間は許されない。今まで使命感で覆い隠していたバグへの恐怖が、再び鎌首をもたげてきたからだ。

     一一死にたくない。

     少女はうつぶせになったまま、一歩一歩近付いてくる化け物を見上げる。
     酷く醜悪なクリーチャーの姿はとうに見慣れてしまったものの、激しい吐き気を喚起する。思いの外整った鋭い歯は、人間の頭など軽くもぎ取ってしまうだろう。

     一一死にたくない!

     傷みを伝える信号の上から、より強い意志が神経を走り抜ける。どこまでも本能に従った叫びは、幼い身体に僅かな力を取り戻した。
     四本になった指が地面を掻き、ほんの僅かに身体が進む。少しづつ少しづつ、自分の血に塗れた石畳の上を。
     たった数cm進んだ所で逃げられる筈もないのだが、少女は薄い希望に縋って血塗れの道を這いずり続ける。
     だが一一僅かな希望さえ食い付くす存在が、少女の前に現れた。

     「…ぁッ……?」

     それは、バグだった。
     いつの間にか目の前に現れていたのは、自分の小指を奪ったのと同じ、まだ幼生のワーカー・バグだ。  
     既に、集落はバグが溢れかえっているのだ。単にそれだけだったのならば、彼女は歩みを止めなかっただろう。バグに前後を挟まれても、希望に縋り続けた事だろう。
     現れたバグの口元が、赤い鮮血に彩られていなければ。
     そして歯と歯の間に引っかかった、見覚えのある一一とても見覚えのある服の切れ端が無ければ。

     「…ぁ、…ぁあぁぁ…」

     ついさっきまで思い浮かべていた、少年が着ていた服の切れ端。
     温かい滴が頬を伝う。酷い吐き気が喉の奥から込み上げる。思い描いていた未来の一つが、どうしようもなく失われてしまった事に耐えられなくて。

     「ぁ…ぁぁぁぁああああああああッ!」

     だが、前後を挟む『現実』達は少女が耐えられ無かろうと、純粋な食欲に従うことにしたようだ。
     二匹のバグは暫く餌の権利を奪い合うように牽制し合っていたが、やがて双方のバグに動きがあり一一甲殻に覆われたその鼻先に、固いものがぶつかった。


     一一☆&Σ??
     「…………なのよ」

     軽快な感触に訝しげな声を上げるバグの足下に、鼻先で跳ねた木片が落ちた。
     バグに投げ付けられたのは、壊れた家の破片に混じった先端の鋭い木片の一つだ。石畳に散乱しているそれをもう一つ拾い上げ、少女はもう一度バグに投げ付けて、叫ぶ。
     
     「…なのよ。…何なのよあんたらぁッ! 父さんも母さんもみんなも食べて…その上あの子でも足りないの?! …ふざけないでよッ!」
      
     感情の奔流に任せて叫び散らしながら、息継ぎの合間に新たな木片を投げ付ける。
     無茶を言っているのは分かっていた。
     家畜と同じだ。弱肉強食の理に従って、自分よりも強い相手に食べられた、ただそれだけの事だ。それが企業の庇護のない外界のルールだという事は、幼ながらにも分かっていた。
     だが一一それでも豚は思うだろう。
     自分達を糧にして生きる種族など、滅んでしまえばいいのにと。

     「…ふざけないでよッ!」

     木片を掴み上げる腕が、忘れていた激痛に悲鳴を上げる。身体の一部を失った事による二次的な痛みとは言え、無闇に腕を振り回せば相当の激痛を感じている筈だ。
     それでも腕を支配する鈍痛に構わず、少女は木片を投げ付ける。
     それだけ、心が熱かった。

     「…ふざけんなよぉッ!」

     だが、それは所詮豚の一吠えでしかなかった。
     投げ付けられる木片をそよ風のように受け止めていたバグが、再び少女に近づき始めた。
     仲間と餌を取り合う事よりも、餌に逃げられる事を危惧したのだろう。前後のバグが示し合わせたように、ジリジリと少女ににじり寄る。
     対する狂気の少女は、投げる木片が無くなったのを見て取ると、逃げるどころか手近に落ちていた石ころを振り上げた。

     「…ふざけんじゃねーよ畜生!!」 
     
     ありったけの憎悪を込められた小さな石は、何度も繰り返された放物線を画いてバグの額に吸い込まれ一一



     ”少女の願いが届いたのか、小石が直撃したバグの頭が粉々に粉々に砕け散った。” 



     「一一…ッ…ッ………?」

     一度だけ大きく痙攣すると、頭を失ったバグの躰がガクガクと体液を撒き散らして崩れ落ちる。頭は熟れた果実のように、体は壊れた人形のように。
     それから数秒の間を置いて、彼女はもう一匹のバグが内側から弾けたように吹き飛んだ事に気が付いた。
     そして、少女は更に気付く。
     一体いつから聞こえていたのか、何かが激しく回転するような音と、伴奏のような破裂音。そして何より力強い力強いリズムが、夜の空気を切り裂いて、彼方から聞こえてくる事に。 


     一一…ebody…bet…t……into your place一一

     
     「…何ょ……?」

     それは、全身を殴りつけられるようなリズムだった。
     しかし、それは決して威圧的ではなく、寧ろ聞いた人の内側から際限なく力を引っ張り出してくれるような楽章。
     その奇妙なリズムの音源を、彼女が探す必要はなかった。
     少女が顔を上げたとき一一その黄金に包まれた巨人は、まるで風にでも運ばれてきたかのように堂々とそこに立っていたからだ。
     
     同時にリズムが前奏を終え、音が爆発的に膨れ上がった。
     
     
     一一We will we will rock you!!一一
     

     やけにテンポのいい絶叫が空気を震わせたかと思うと、金色の両手に握られた円筒の塊一一これもまた黄金の機関砲が、途端に轟音と銃弾を撒き散らした。
     通り過ぎたのは轟音。残されたのは破壊の跡。
     数秒の掃射が少女の頭上を通り過ぎただけで、遠目に見えていたバグ、それどころか彼女の視界にさえ入っていなかったバグが一瞬の内に駆逐され、少女は着弾の衝撃に村全体が震えた気がした。その震動が、訳も分からずに跳ね上がった自分の鼓動だとも気付かずに。


     一一Sing it一一

     
     回転する円筒から弾丸が吐き出される度に村の景観も根刮ぎにされてゆくが、不思議と恐怖は感じなかった。何となくだが、巨人が自分の事を狙ってはいないという事が分かっていたからかも知れない。
     だが、それ以外の事は、彼女には全く分からないのだった。


     一一We will we will rock you!一一
     

     この巨人が何者なのかという事も。
     何故全身が金色に塗られているのかという事も。 
     彼がたった一機でこの集落を救いに来たという事も。
     本来アリーナでしか掛けないこの曲が、彼自身を奮い立たせる為のものだという事も。

      
     一一Everybody一一


     降って湧いたような黄金色の正体に全く予想の付かないまま、少女は代わりに考える。
     もしもこの巨人がもっと早く来ていれば、あの子は死なずに済んだのではないかと。あの子に、ちゃんと謝ることが出来たのではないかと。 
     そこまで考えて、この期に及んで責任転嫁を考えている自分も最低だと気付き、自己中心な少女はますます負の感情を募らせる。
     そんな彼女を励ますように、曲は佳境に入っていたが一一結局それは、こぼれ落ちる二筋の雫を止めるのに何の力も及ぼさなかった。


     一一We will we will rock you!一一


     「…畜生……何で…なんで、よぉ……」

     
     一一We will we will rock you一一 
     

     何故、少年がここにいないのか。
     何故、自分はここにいるのか。
     何が悪かったのか。
     誰が悪かったのか。
     誰も悪くなかったのか。
     
     考えても答えは出ずに、少女は駄々をこねる子供のように小指の無くなった手を打ち付ける。
     自分の血と涙に塗れた地面に、何度も何度も何度も何度も。

     
     一一We will we will rock you…一一


     「私は…私…は…」


     一一Alright……一一



     「一一ただ…君に謝りたかっただけなのに…!」


     
     糾弾の言葉を吐く少年も、断罪の牙を打ち鳴らすバグも失った少女は、ただ、このどうしようもない罪悪感が二度と消えない事を確信しながら、血の海の中で泣きじゃくり続けた。
     










     曲が、再び安定した曲調に戻る。
     俯いた少女の瞳には、もう金色は映らない。
     だから、彼女は気付かなかった。
     巨大な女王型のバグが、地平線を遮って現れたことも。
     機関砲を構えた金色の巨人が、その巨影に猛然と立ち向かっていった事も。
     ただ一一



     『笑えよ…』



     激しい銃声と楽章の間から、確かに寂しそうな声が聞こえた気がした。
     
     




     一一『Kowloon a flash 1』 closed一一



1140/ 特報2<女神討伐>
・投稿者/ ケツアゴ熊ちゃん
・投稿日/ 2006/11/16(Thu) 21:55:50


    【特報2】
     
     地球歴○二○九年 ×月 ▼日

     <女神討伐>

     地球歴○二○九年。企業軍は史上最大規模の合同作戦を敢行した。
     学説のみによって存在を囁かれていた女神型バグ、その巣窟である廃都【オールド・バル】に集結したバグ達に対し絶滅戦争を布告したのである(ちなみにこの宣言は【九龍シティ】全土に放映され、史上第二位の瞬間視聴率を叩き出した)。
     欠員の出たシングルナンバーと下位ランカーを先陣とした混成軍は、作戦開始1時間後速やかに市街地を占拠、ここに野戦築城を敷き持久戦の構えを見せる。だが、各軍の布陣が完了した時上層に隠れていた群達が市街区に雪崩れ込み、戦況はたちまち乱戦と化した。
     【イージス第175中隊】の督戦により第一隔壁まで撤退した混成軍は、作戦の大幅な見直しを見当。現代主流のの持久・消耗戦を諦め、レイヴンを中心とした一点突破作戦により女神型の排除を計画する。
     臨時隊長とされた《ゼカリア》を含め《トクジ・フジシマ》、《HAZE》、《刃音》、風雷など多くのレイヴンによって編成された攻撃隊は瞬く間に市街、旧市街区を突破。パウダーモンキーを命綱として無謀な突貫作戦を開始する。
     部隊の約半数を失いながらもオールド・バル最深部へ到達した攻撃隊のメンバーは、学説の通り既存のデータに該当しない超大型バグを発見。更に多くのレイヴンを犠牲に出しつつもこれを撃破に至った。
     しかし女神型については多くの謎が残っており、「人語を解している節があった」「死体が光となって消えていった」などの不確定な証言が多くある。
     またこの作戦による被害により、企業間の停戦が一年は早まったと言われている。




     <特記事項>

     ・【イージス第175中隊】
     通称、イナゴ中隊。無理矢理可愛く略すと『いなちゅー』。
     部隊員全員が歩兵で構成されており、ジェットブースターを搭載したパワードスーツを着用して作戦を遂行する。空を埋め尽くすパワードスーツの群は、まさにイナゴの大群を想像させたという。
     隊員数は従来の中隊数を踏襲していたが、その殆どが味方の撤退支援の為、オールド・バル市街区にて戦死。当時の隊長も廃ビル上で部下の指揮に当たっていた際、キーパー型のエネルギー砲撃を受けて部下共々消滅した。
     
     ・パウダーモンキー
     火薬運びを示す造語。その名の通り攻撃部隊と本隊を行き来する補給部隊の役割であり、今作戦ではバグの群の中を幾度と無く突破して攻撃隊との補給路を繋いだ。
     その為、部隊の損耗率は130%超(100%を越えているのは、補充された要員も死亡しているから)。何せ、当時既にケイジを引退していた《Dr.レイヴン》までもが補給部隊として召還されたのだから、その激務は推して知るべし。

     ・《トクジ・フジシマ》
     今作戦の攻撃部隊を支えた老兵であり、中央区にて攻撃部隊に追いすがる群を数人のレイヴンと共に食い止めたが、攻撃部隊の撤収中に大破した機体が確認されている。
     世に言う【オールド・バルの悲劇】を体験した数少ないレイヴンの一人で、攻撃隊に任命されたのもその経験を買われての事だった。
     とうに喜寿を越えた身体ながらも、<女神討伐>には重度の薬物投与を受けて参戦。その使命感めいた行動から【オールド・バル】に対して何らかの思いがあったと思われる。
     
     

1151/ 『オールドバル侵攻戦 交戦記録』
・投稿者/ ケツアゴ熊ちゃん
・投稿日/ 2006/11/16(Thu) 22:09:51


     侵攻開始から3:20分 下層 市街区

     
     
     指揮官機からの号令が全軍に轟き、鴉も兵士も誰も彼もが進軍を再開したその瞬間一一とても、嫌な音がした。

     
     びきり。


     果たして、最初に異変に気付いたのは誰だったろうか。

     『何だ…?』

     誰かが放った呟きの答えは、弥が上にもその場にいた全ての存在が知ることとなった。
     MTとACの何体かが、反射的に音のした方向を仰ぐ。
     空の代わりに彼らの頭上を覆うのは、永く放置されて照明も機能を失った、重く仄暗い廃都の天井。地下都市の”空”を見上げた者のうち、目がよい者の何名かはその天井から小さな破片が降り注ぐのを見た。
     その者達の胸に例外なく去来した嫌な予感を裏付けるように一一灰色の天井に、小さな小さなヒビが走る。 


     ビき、キ、ピキリ、パキリ。


     再び、先程の音が一斉に彼らの頭上で響く。
     その音はやがて大きなうねりとなり、黒い黒い亀裂が瞬く間に区画中の天井を埋め尽くし一一


     崩壊が、始まった。


     それは、ダムを彷彿とさせる崩壊だった。
     市街区を覆う天井という天井が同時連続的に崩れ出し、せき止められていた水が決壊したようにAC達の頭上に降り注ぐ。
     しかし天井から雪崩落ちてくるのは、土石流ではなく、かと言って単なる天井の破片でもなく一一破片に混じって落下してくるモノを見て、神盾の一機がその名を叫ぶ。
     自分達が駆逐するべき、生存競争の敵の名を。

     『バグだと?! まさか、こいつら…こいつら一一一一!』
      
     ノーマルカラーの神盾の叫びは降り注ぐ異形の生物に飲み込まれ、続いて落下した巨大なコンクリ塊にその姿ごと飲み込まれた。
     だが、それは現在至る所で起こっている、壮大な落下劇のほんの一シーンでしかなかった。
     そんな神盾の末路など幕間の出来事だとでも言うように、討伐隊が布陣したC-57第一下層に、何千何万というバグが破片と共に降り注ぐ。
     何の感慨も敵意も無く、ただ食欲だけを撒き散らして。
     


     ☆



     『なッ一一ヤベッ?!』
     『《フィリップ》!』


     一際崩壊の大きかった南地区一一旧ハーヴィッツストリートに待機していた《クレイジータンク》は、《グレイフラワー》の掃射によって瓦礫の直撃を免れた。
     自由落下に身を任せるコンクリを迎え撃ったのは、カラフルで夥しいエネルギー弾の群。膨大な数のエネルギー弾に何百分割された破片は小石となって降り注ぎ、【テンミニッツ】と周囲のテンペスト達の表面で軽快な音を響かせる。一部の破片は大きすぎて迎撃しきれなかったが、いち早く正気を取り戻した《クレイジータンク》の砲撃が残りの瓦礫を打ち砕いた。

     『お、今回はジャムらなかったな。偉いぞ軍曹?』
     『五月蠅ぇよ。つーかサンキュー、助かった』

     非常事態にも当て擦りを忘れない《ジェームズ》からの通信に、《クレイジータンク》の《フィリップ》が素直に感謝の言葉を述べる。
     だが、直ぐに問答をしている状況ではないと思い直したのか、《ジェームズ》の苛立たしげな舌打ちが通信スピーカーを震わせた。

     『このバグ共…自重で天井崩しやがったってのか?』
     『バグにンな知能ある訳ねぇだろ。単に天井が老朽化してただけじゃねぇの?』
     『その脳天気さの身元が不明だし、バグもお前には言われたくねぇと思う』

     そんなやりとりをしている間に、もう崩落は収まっていた。
     《クレイジータンク》のディスプレイ画像の中では瓦礫の直撃を免れたテンペスト達が着地に成功したバグ達と交戦を始めている所であり、銃声と鳴き声の混じった音声が【テンミニッツ】のいる所まで聞こえてくる。
     通信車両は崩落に巻き込まれてしまったのか、一向に本部と繋がらない通信機を横目に《ジェームズ》は極めて個人的な事を呟いた。

     『こりゃ、10分以内にゃ終わんねぇかな…』 

     ぼやきつつ、エネルギーマシンガンの弾幕と共にバグの群に飛び込んで行く《グレイフラワー》。そんな相棒の背中を的確な砲撃で支援しながら、《フィリップ》は周囲の状況にカメラを巡らせる。
     画像の中の映るのは、とことんまでに荒廃した街。天井の落下でこれでもかという程に破壊されてしまった街並みの中で一一そこには実に単純な戦場が広がっていた。
     

     鴉が、命令を待たずに動き出す。
     兵士が、命令を待っている間に食われ出す。
     臆病者が、逃げる背中を食われ出す。
     勇敢な者が、果敢に立ち向かって食われ出す。

     
     『あのよ』 
     
     そんな周囲の様子を見ながら、《フィリップ》はブースタの出力を一段階引き上げると、【テンミニッツ】にとって非常に重い事実を口にした。



     『多分これ一一態勢立て直すにも10分以内じゃ足らねぇぞ』



     ☆



     指揮系統が徐々に回復してくる頃、その戦況を比較的冷静に見下ろしている者がいた。
     正確に言えば、者”達”がいた。
     その数、実に322名。

     
     『ヒーアジ=ハーヴィン伍長、落下してきたウォリアーに潰された模様。レミー=ジャンクシー曹長以下13名は現在ミジアンストリート”上空”で交戦中です』
     
     330人からなる歩兵中隊。
     その全隊員を統括する中隊長である男は、部下三名と共に運良く崩落から免れたエコノミービルの屋上に立っていた。
     四名の影は皆一様に黒いパワードスーツを着込んでおり、イージス軍正式採用の135式アサルトライフルを携行している。通信は全てパワードスーツ内蔵のスピーカーで行っており、この時代には標準的な歩兵兵装と言えたが、やけに巨大なバックパックがそれを全力で否定していた。

     「状況は把握した。マイザー、お前は手近なMT殿を援護してやれ。厚着連中も存外情けない」
     『オーヴァー』

     アバウトな命令に文句一つ言わない部下と早々に通信を終えるが、次々と舞い込む通信は枚挙にいとまがない。
     逐一報告と命令の応酬を続けながら、隊長一一”イージス軍所属第175歩兵中隊を束ねるホレイショー=オズリック中佐は、区画の空中に散開する部下達に目をやった”。

     
     イージス軍所属、第175歩兵中隊。
     数あるイージス社の私設部隊の中でも、一際異彩を放つのがこの中隊だ。
     隊員数が従来の中隊編成を踏襲しているのはもとより、『空飛ぶ歩兵部隊』と呼ばれるその異名が175中隊の特異性を簡潔に表していた。
     RACの技術研と共同開発された小型ジェットブースターを背嚢に積み込む彼らは、様々な作戦を遂行する特殊部隊であり、空を埋め尽くす歩兵の姿から、部隊番号をもじって【イナゴ中隊】と呼ばれる戦闘部隊だ。
     ホレイショー中佐は群を成してビルの景観に飛び込んでゆく部下達の背中を見送りつつ、冷静に戦局を観察する。
     眼下に広がる街並みでは、単騎で敵陣に切り込むACと退きながら射撃を繰り返すMT達が綺麗な二極化を見せている。
     とは言え、時間が経つにつれて徐々に連係を取る場面も増えて来たが、俄作りの連係では、バグの勢いに対抗するには少々役不足なようだ。もっとも、今残っている全軍が団結した所で、この数を物理的に蹴散らせるかは疑問だが。

     「こりゃジリ貧かね…」
     『ジリ貧ですね』『ジリ貧っすねぇ』『前に同じく』『いや、その台詞隊長が言っちゃ駄目っしょ』『つーか弾足りねぇよ』『お前らいいから撃てって』『黙れボケ』

     我知らず漏れた独り言に、戦場の何処かを飛び回っている部下達の声が口々に勝手な事を並べ立てる。
     普通の部隊であれば体罰ものであったが一一いつもの事だと口頭で諫めようとしたホレイショー中佐に、後方に控えていた副官が呼びかけた。

     「中佐、司令部から通信です」
     「おお、まだ司令部は残っていたのかね、少尉」
     「回線、開きます」

     冗談になっていない冗談がナチュラルにスルーされた事に気付き、ホレイショー中佐が無精髭の生えた口元をへの字に曲げる。が、間髪入れずに繋がれた通信に即座に事務的な声音で応答した。

     「こちらホレイショー中佐。ご無事なようで恐悦至極」

     微妙に間違った謙譲語にしばしの沈黙が流れ、ややあって通信機の奥から重々しい声が唐突な事を口走る。

     『…こちらライサンダー中佐。月並みで悪いが、いい知らせと悪い知らせがある。どちらから聞きたいか選べ』
     「…いい知らせの方からお願いしまさぁ」

     味方MTからの通信に、ホレイショー中佐は諦念の籠もったにやけ笑いを浮かべる。曲がりなりにも敬語を使っているのは、同じ階級同士でも、配属によっては敬意を払う必要があるからだ。
     交戦中なのだろうか。ひっきりなしに銃声の響く通信装置の向こうから、ライサンダー中佐が『いい知らせ』を告げる。
     
     『いい知らせは一一先刻、今作戦の指揮官、マクダフ大佐が戦死された』

     数秒間、言葉の内容を吟味し、ホレイショー中佐が控えめに質問の声を上げた。

     「…それ悪い知らせの間違いじゃねーっすか?」
     『何を言う。大佐は中将に特進。ついでに作戦の指揮権が私に転がり込んできたんだぞ? これを良い知らせと言わずに何と言一一』
     「いいです。もういいですから悪い知らせってのは?」

     不真面目極まりない態度で悪い知らせを促すと、少々渋ってからライサンダー中佐が言う。

     『同僚の昇進に何か賛辞の言葉は無いのか…まぁいい。これより我々は先刻制圧した第一隔壁まで撤退する。貴官ら175中隊にはその間、敵勢力の足止めをしてもらう』

     遠回しに捨て駒になれと言っている命令に、再び沈黙が訪れ一一ホレイショー中佐の溜息が、いともあっさりと沈黙を破る。

     「…俺達ゃ歩兵ですぜ? そうお役に立てるとも思えねぇんだが?」
     『だからこそ、だ』
     「あーそーですかよ。この先役に立ちそうもない歩兵連中は幾ら死んでも惜しくねぇってか」

     怒りか、失望か、それらを足して三で割ったような感情が、徐々に敬語の形を失わせる。
     その感情が何らかの形となって現れる前に、通信を聞いていた部下達の声が次々に怒声を吐き出した。

     『ゲェー!? 俺達ゃ捨て駒ですか!』『人非人!』『死ね、カス』『俺には故郷に残した恋人がいるんですよ?!』『おま、それ死にフラ』

     殆ど野次も同然の声。
     それを聞いたホレイショー中佐の憤怒があっと言う間に霧散してしまうが、本人達は知る由も無く。
     唯一それを読みとったライサンダー中佐が、空気を読まない台詞を吐く。

     『マーク准尉、ヒビヤ一尉、コーネリアス曹長、アボット一等兵。今の発言は上官への侮辱と受け取った』

     途端に通信機の向こうが『ゲェー!? 名前覚えられた!?』『つーか、何?! 全員の名前把握してんの?』『スゲェ!』『え? 俺の名前だけ呼ばれてない?!』『こいつ…化け物か!』などという叫びが次々と上がる。
     一連の馬鹿騒ぎが収まると、急に殊勝になった声がホレイショー中佐の鼓膜を震わせた。
     
     『辛い役目を任せるな。…言っておいて何だが、お前達には荷が勝ちすぎる』
     「だが、歩兵がやんのが一番なんだろ? お前さんの見立てだと」
     『当然だ、私の判断を疑うのか?』
     「…いーえ」

     最後だけは妙に自信のある上官に笑みを漏らしながら、ホレイショー中佐はもう一度眼下に目をやった。
     既に命令は伝達されているのか、ACもMTも瞬く間に統制を取り戻して相互支援撤退を始めている。必然的にACはMTの速度に合わせればならないため、撤退が完了するのはもう少し後になるだろう。 
     中には命令が来ていないのか、バグの群のど真ん中で二本のブレードを振り回しているACもおり、ホレイショー中佐は心の中で頭を抱える。撤退戦が長引くことで、部下の死亡率が跳ね上がる事を憂慮して。
     そんな思いは欠片も表に出す事は無く、ホレイショー中佐は不敵に言う。

     「ま、任せて下さいよ。『歩兵は死すとも一一」
     『一一降伏せず』、か。…頼んだぞ。次は地獄で落ち合おう、中佐』
     「はいよ中佐。次会うはお互い少尉って事で」
     
     MT乗りまで昇進してしまった同期に毒にも薬にもならない冗談を返し、ホレイショー中佐は通信回線を落とした。それからいくつか繋がっていた部下との回線を260個全てオープンにしようとして一一その必要が無い事に気付き、重々しい空気を乗せて語りかける。
                     
     「さて…お前ら、聞いてたな?」  
                      
     いつの間にか相手側から開かれていた通信が、重い空気の釣り合いをとるように軽いノリで声を上げる。既に部隊の五分の一が通信不能になっていたが、そんな事はお構いなしとでも言うように。


     『ええ』『聞いてましたよーっと』『了解』『全く厄介な任務ですねぇ』『厄介じゃない任務なんてあったか?』『それもそうだ』『やべ、弾倉少ね』『隊長、命令を』『作戦は?』『やべ、ライフルジャムった』『ジャムってろカス』『陣形はどうするんスか?』『陣形なんて俺達にあったか?』『無いな』『認めるなよ』『無いけどな』『無いですねぇ』『じゃ、あれだ』『よくわかんねーけど、あれだろ?』『わーってますよ隊長ー』『やべ、ブースターから煙出てる』『なんだかなぁ…』『つまりは』『あれで』『しょう?』


     いつも通りの反応に、ホレイショーもまたいつも通りの命令を下す。
     簡潔に、簡潔に、部下に全幅の信頼を置いた言葉を。

     「そうだ、”いつものように”やれ」

     後に続く号令も、底抜けな程にいつも通りに。
     


     『『『『『『陣形テキトー作戦皆無! あとは各自の判断で!』』』』』』



     バグの巣穴の真ん中で、全く不揃いな歓声が上がる。地獄のような戦場の中で、自分達の勝利を微塵も疑わないかのように。 
     後ろに控えるパワードスーツ達が、黙ってアサルトライフルを担ぎ上げる音を聞きながら、ホレイショーはもう一度戦場の景観に目を落とす。
     何の統率も無くビル群から飛翔してゆくパワードスーツの軍勢は、文月の空を埋め尽くす、イナゴの群のようでもあった。 



     一一『Kowloon a flash 2』 closed一一


1141/ 特報3<放鳥の日>
・投稿者/ ケツアゴ熊ちゃん
・投稿日/ 2006/11/16(Thu) 21:56:48


     【特報3】

     地球歴○二一○年 ◇月 Ж日

     <放鳥の日>

     外界復旧活動の為、【九龍シティ】全土に伝えられた三大企業同盟宣言。その驚きも収まらぬ内に、レイヴン達の間に電撃的な衝撃が走った。
     事件の始まりは、あるレイヴンがいつものように【ネットワーク・ナーヴ】に接続した事から始まった。
     レイヴンズ=ケイジに繋がれた筈の画面には、『404 Not found』の文字。そして同時刻には、あらゆるレイヴン達の支給端末の画面に、同じ文字が踊っていた。
     全てのレイヴン達が「ありえない」予感を抱きながら一日、また一日と経過する中、端末画面は淡々と『404 Not found』を表示し続ける。
     ここに至ってようやく【レイヴンズ=ケイジ】の消滅を認めざるを得なくなったレイヴン達は、多くの疑問を残しながらも一羽一羽新しい鳥篭を探し始めた。ある者は企業に、ある者は軍に、ある者はテロリストに、ある者は未だに【レイヴンズ=ケイジ】の復旧を信じながら。
     これが放鳥の日の全てのあらましであり、二○○年代に発生した事件の中でもダントツの謎を残す事件となっている。ただ、この混乱に紛れて大小様々な事件が発生しており、裏表問わずケイジ消滅が社会に与えた影響は非常に大きいと言えるだろう。
     この事件こそが後に言うラストレイヴン時代の幕開けであり、後生に語り継がれる多くの英雄を生む乱世の訪れを告げる梵鐘であった。 
     



     <特記事項>

     ・ラストレイヴン時代
     レイヴンズ=ケイジの存在により、二○九年代まで増加傾向にあったレイヴン達が急激に減少していった数年間の俗称。
     別名共食い世代とも呼ばれ、その名の通り企業専属レイヴン、C-LAWS所属レイヴン(後記の真・放鳥の日を参考)、在野レイヴン達による存亡を懸けた戦闘が一日単位で繰り返されていたという。また《GHOST》の目撃例が極端に減少したのも二一○年が始まりであり、様々な不可思議と事件を孕んだ時代と言われている。
     
     ・大小様々な事件
     この騒動の影で、ある製薬会社が親企業レイヴンの襲撃によって壊滅している。【レイヴンズ=ケイジ】が消滅した最中だというのに、随分仕事熱心なレイヴンも居たものである。…勘ぐり過ぎだと思われるだろうか?
     

1152/ 『真・ラーメン屋戦争(中略)』
・投稿者/ ケツアゴ熊ちゃん
・投稿日/ 2006/11/16(Thu) 22:10:40


     九龍シティ 居住区 某ラーメン屋



     「お前ら…」


     誰もくぐる者のいないのれん。
     それを潜り抜けて入店した男達と目が合った瞬間、店主は様々な想いを込めて呟いた。
     その時茹ですぎた麺が鍋の底にこびり付き始めていたが、その瞬間の店主にとっては全くどうでもいい事だった。

     「お前ら…!」

     開け放たれた引き戸を逆光にして立っているのは、確かに見覚えのある男だった。
     両腕を鉄の色に包んだ、長髪黒目のそばかすの男だ。

     その後ろには、天井に頭も付くかという大男。そいつと目があった時、メイプル味の薫風が店主の心を吹き抜けていった。
     隣には、天井に頭も付くかという程の…シークレットブーツを履いた小男。「それもうシークレットじゃねぇよ」という野暮な言葉は、心の中で封印された。
     そして最後に目に入ったのは、店内にレーザー兵器が飾られているかどうか早くも店内をチェックし始めている男だった。

     「お前ら…!!」

     自分によく似た男達。
     蘇るのは、戦いの日々。
     
     だが、言わなければならない。
     己がこの店の店主であり、彼らが客である以上。
     否、彼らが『漢』である以上一一一一

     限界に達した大型鍋が、燃え盛るコンロに耐えきれず噴きこぼれる。
     溢れ出した熱湯がサンダル履きの足を濡らし、止めどなく床に広がってゆく。完全に露出している足は、熱さを通り越して壮絶な激痛を感じている筈だ。
     だが、それもどうしようもなく込み上げてくる笑みを止める理由にはならず一一泉は実に爽やかな笑みを浮かべて、目の前の漢達に言い放った。



     「一一表に出ろ。そして二度と戻ってくるな」



     ☆
     

     10分後 居住区 表通り

     
     「いやー面白かった! タコスラーメンレーザー味(メイプルだく)を注文された時の泉君の顔ときたら! これは包まれる! 九龍全土が感動の渦に包まれるよ!」

     【九龍シティ】上層の閑静な通りを、侃々諤々の大騒動の末に店を追い出された四人の漢達が歩く。
     得意の絶頂にあるのか、先頭に立つ義手青年は頭にタンコブをこさえながらもケラケラと笑いを響かせている。
     そんな青年一一《いろは》に水を差すように、後ろを歩く三人の漢が三者三様の声を上げる。

     「いや、お前何の為に行ったんだ、あの店」
     「…もしかして、嫌がらせの為だけに俺達呼んだのか!?」
     「つーかあの店主、ちゃんと神棚にレーザーライフル飾ってくれてたな」

     対する《いろは》はメイプル臭のする大男と、恐ろしく膝から下の長さがおかしい紳士のツッコミをナチュラルにスルーすると、感心しているレーザー男一一《PLATOON》の言葉にだけ反応する。
     
     「ああ、あのライフル? 強盗撃退用だってさ。強盗さんも入店しない店だってのに、何やってんだか、ねぇ?」

     同意を求めるような言いように、【テンミニッツ】の面々は顔を見合わせて微妙な顔をするだけだった。
     が、同意を求められた本人は、瞬間的に顔を青くすると急いで今来た道を取って返そうとする。

     「マジか…俺、ちょっと店戻るわ!」
     「いやお前、今戻ったら確実にキれるぞあの店主。頭の血管が」

     走り出そうとした《PLATOON》の肩が、メイプル臭い腕に掴まれる。
     途端に甘ったるい激臭が衣服に染みこみ始めるが、そんなことは全く意に介さず《PLATOON》が息を荒げて叫ぶ。

     「…止めるな! お前には聞こえないのか?! 使われる日が来ないまま、レンズを曇らせてゆくレーザーの嘆きが! トリガーを引く指のぬくもりを知らないライフルの泣き声が!」
     「知るか」
     「今度私が伝えとくって」

     阿片中毒者の如く熱弁を振るう《PLATOON》に、「正直、泉(の血管)が切れる瞬間を見たかった」という感情丸出しで仲裁の言葉を吐く《いろは》。
     無論、こんなやりとりと繰り広げていれば…否、単に歩いているだけでも往来の注目を集めそうな濃いメンツだ。が、幸か不幸か昼時の住宅街に人の活気がある筈が無く、逆に言えば彼らを止める人間も皆無だった。
     更に言えば一一こんな地域に店を出しているから、あのラーメン屋も閑古鳥のオーケストラなのだろうが。
     一旦静かになった四人だったが、数秒間沈黙が続いたところで《いろは》が不意に《ジェームズ》を見上げる。

     「っていうかそろそろ突っ込まないとあれなんだけどさ、一体何処で買ってきたのかなそのブーツ。顔グロギャルの皆さんも真っ青なんですけど?」
     「…ぁあ?」

     不思議そうな顔をして《いろは》を見下ろす《ジェームズ》の足下には、靴。但し、靴底が人間の膝丈に匹敵する厚みを持った。
     どこぞのサーカス団からくすねてきたとしか思えない厚底靴を履きながら、《ジェームズ》は堂々と質問に答えた。

     「ド○キに決まってんだろ」
     「いや置いてねぇから! 天下のドン○にも!」
     「黙れメイプリアン。テメェはメイプルシロップ大人買いして糖尿病で逝去しろ。10分以内に」
     「うるせぇよ身長詐欺。お前こそ「小さすぎて見えませんでした」って理由で大型トラックに跳ね殺されろ。無論10分以内に」
     
     一瞬の沈黙。

     「や る か コ ラ」
     「ウホッいいパンチ」

     絶妙のコンビネーションを発揮して壮絶な殴り合いを始める【テンミニッツ】。
     あっという間に発生した乱闘に呆気に取られていた《PLATOON》が、前を歩く《いろは》に尋ねる。

     「止めなくていいのか、あれ」
     「いいんじゃない? 10分したら収まるし。戦いの後には熱い友情で結ばれてフラグが立つかも知れないし」
     「…凄惨なバッドエンドを迎えそうな気がするのは俺の気のせいか?」

     不安げな呟きを裏付けるように、シークレットブーツと巨大な拳が鮮やかなクロスカウンターを魅せる。
     互いの譲れないものから日頃の怨嗟まで様々なものを込められた一撃は戦車砲のように大地を揺らし、ここが地下でなければ電線の鴉が一斉に飛び立った事だろう。幸い、この時間帯に警邏しているガードは皆無なので補導されることは無いだろうが。
     それが分かっているのかいないのか(分かっていても放っておきそうな気はするが)、《いろは》は悠長に支給端末を取り出すと、手早くボタンを操作する。

     「それじゃあバッドフラグを叩き折る為に四人で仲良く依頼と洒落込もうかー」
     「何だそのプラン性の欠片もねぇ投げっぱなし企画は。つーかレイヴン四人も必要な依頼なんざ難易度高ぇし罠臭い」
     「いいじゃん。数多の困難と陰謀を乗り越えた先に真の友情があったり無かったり、むしろあったらいいなと思ったり?」
     「疑問系かょ」

     酔漢の戯言に等しい返答に、言及を諦めた《PLATOON》が額に手を当てて首を振る。
     色々なことを諦められた事にやはり気付いているのかいないのか、愉快そうに端末を操作していた《いろは》だったが、

     「………………あれぇ?」
     「あン? どした」

     珍しく素の声を上げる《いろは》に、どうせ下らない事だろうと思いつつ、《PLATOON》が疑問の声を投げかける。
     だが一一彼の予想に反し、困ったように微笑む《いろは》の手の中には更に珍しい、もしくは非常に見慣れたものがあった。
     正確に言うと、端末中央のディスプレイに。

     
     
     『404 Not Found』


    「…ぁあ?」

     白い画面にぽつりと踊っていた簡素な文字列に、一瞬《PLATOON》の思考が停止する。が、直ぐに時間を取り戻すと思考が軽快に回り出した。
     【レイヴンズ=ケイジ】の運営するwebページを開いていた筈だが、この画面はどういう事だろうか。もしかすると、《いろは》の悪ふざけで適当にサーバ落ちしたページが表示されているのかも知れない。
     状況からして一番考えられるのは”【レイヴンズ=ケイジ】がサーバ落ちしたという事なのだが”、《PLATOON》は一番自然に浮かんだ答えを「ありえない」と処理した。
     が、願望的な結論を許さないというかのように、《いろは》は容赦なく、軽々と目の前の状況から読みとれる事象を口にする。

     「何これ? 平家の都落ちならぬケイジのサーバ落ち?」
     「知るかよ」

     口ではそう吐き捨てたものの、指は既にポケットの端末に伸びていた。
     端末が軽快な起動音を立てるのを確認すると、我知らず汗ばんだ指が一連の手慣れたキー操作をする。ディスプレイ上のウィンドウが【ネットワークナーヴ】に接続された事を知らせると、直ぐに【レイヴンズ=ケイジ】にアクセスした。
     【レイヴンズ=ケイジ】はナーヴ上でも指折りの秘匿性を誇るHPだが、閲覧するだけならばパスワード等のアクセス制限は無い。
     これは、依頼者がレイヴンの戦歴やケイジ在籍年数等を見て傭兵をチョイスできるという利点があるのだが、この際パスワードの有無など関係なかった。
     何よりも問題な事に、《PLATOON》の端末の画面にも、『404 Not Found』の文字が踊っていたのだから。

     「…ありえねぇ」

     呟きながら、《PLATOON》は自分の奥底から漠然とした寒気が込み上げてくるのを感じていた。

     「…ここ何十年って間、たった一度もケイジが接続不能になった事なんかねぇんだぞ?」
     「発足から165年だっけ? 45年もやってれば一日くらい落ちててもおかしくないんじゃない?」

     《いろは》の相変わらずの返答に、《PLATOON》は反論しようとしたが、それが余計に不安をかき立てるだけの行為でしかないと気付いて口を噤んだ。
     
     だが、確実に何かが起きている。
     十中八九、自分達に良くない事が。
     
     何度更新しても『404 Not Found』しか表示しない端末が、更新ボタンを押し続けるしかできない自分を嘲笑っているように見えた。
     幾度も表示される淡々とした英文に、《PLATOON》の内心に言いようの無い不安が膨れ上がり始めていたが一一
       
     
     「10分以上は生かさねぇ!」
     「生身なら、ジャムらねぇぞ、コラ」


     徐々に激化してゆく後ろの状況が、それを許してくれそうもなかった。



     一一『Kowloon a flash 3』 closed一一
       
     

1142/ 特報4<チンハイ事変>
・投稿者/ ケツアゴ熊ちゃん
・投稿日/ 2006/11/16(Thu) 21:57:37


     【特報4】

     地球歴○二一○年 ◇月 ♪日

     <チンハイ事変>

     放鳥の日から約半月。未だに多くのレイヴン達が各々の陣営を定められずにいる中、外界最大の水源である【チンハイ湖】に展開したイージス軍と常駐していたプルコとの間に大規模な武力衝突が発生する。
     外界の復旧活動が進む中、この襲撃は三大企業同盟にとって異例のスタンドプレイであり、イージス社はこれを軍部の独断行動と発表、本社から鎮圧部隊が派遣される。この鎮圧部隊には企業側に従属した元ケイジ所属レイヴンも数名含まれており、【チンハイ湖】および周囲の浄水施設は三つ巴の膠着状態になった。
     だが膠着が続いて丸一日経った正午、RAC・ガーランドらが「調査」目的で送り込んだレイヴンが出現。また開戦を知らされた《スモーキングジャッカルス》が【インビジブルウォール】を伴って到着し、”五つ巴”となった戦端はなし崩しに開かれてしまう。 
     更に水上施設を狙ったテロリストや武装勢力が次々と【チンハイ湖】争奪戦に乱入。
     未曾有の大乱戦は参戦した多くのレイヴン達を巻き込み、事件は意外な結末へと収束してゆく。




     <特記事項>

     ・鎮圧部隊
     表向きには軍部の暴走を止める為に派遣された部隊であったが、本当は常駐軍の増援が目的であった可能性が高い。
     実際鎮圧部隊と常駐軍との間に大した武力衝突は発生しておらず、そもそも常駐軍の襲撃はイージス本社の勅命によるものだと語る者も多い。

     ・【チンハイ湖】
     言わずと知れた、外界随一の規模を誇る湖。 
     <チンハイ事変>後もイージス社とガレル臨時議会の支配圏に大した変化は無く、今回の件では両軍の浄水施設が幾つか壊滅したに止まった。
     なお<チンハイ事変>中は風向きの変動によりグレートウォールの寒風が平地へと吹き込み、【チンハイ湖】全体が濃霧に包まれた。

     ・【インビジブルウォール】
     レイヴンであれば一度は耳にした事があるだろう、ガレル臨時議会に所属する伝説的なスナイパーの二つ名。
     この戦闘では【チンハイ湖】上の濃霧に紛れて遠距離射撃を繰り返し、イージス軍を次々と撤退させる六面八臂の活躍を見せる。更には【チンハイ湖】を縦断して鎮圧部隊本陣に攻撃を掛けるなどの離れ業も披露し、イージス両軍から【レイク・ミスト・ジャッベリン(湖霧の槍)】と恐れられる事に。
     

1153/ 『レイク・ミスト・ジャッベリン』
・投稿者/ ケツアゴ熊ちゃん
・投稿日/ 2006/11/16(Thu) 22:11:27

     
     地球歴○二一○年 秋 夕刻
     

     【九龍シティ】から東南に数百キロメートル離れた湖。
     その世界一有名な湖畔の水辺に、亀甲紋の旗を掲げた陣営があった。
     土嚢や簡易的に作られた機関銃陣地の周囲には、バリケード代わりとでも言うようにズラリと神盾が立ち並んでいる。神盾同士の隙間には鉄騎が挟まれるように立っており、古代の城壁を彷彿とさせる光景だ。MT達のボディに刻まれた幾多もの、弾痕がそんな印象を更に強く刻みつける。
     どこまでも深く深く漂う湖霧に包まれた城壁達は、煤けたボディカラーと相まって周囲と奇妙な調和を見せていた。
     深い深い濃霧の中に、何もかもを覆い隠してしまうかのように。

      
     「やァな天気になってきやがったなぁ」


     夕霧に包まれた土嚢の中から、不意に憂いげな声が冷気を裂く。妙に親しみやすさを感じさせる、喫煙者特有のしゃがれた響きがある。
     声を上げた防寒着の男は、そう言って三脚を組んだ機関銃のバリを落とすと、そのヤスリで爪をガリガリ削りながら白い息を吐き出した。

     「本当に今日は嫌な空だ。気が滅入る。もう駄目だ。こりゃ誰か死ぬな確実に」
     「縁起でもない冗談を。というか空なんか見えんでしょう、ダービー一等軍曹」

     防寒着の男一一ダービー=スタンリー一等軍曹の軽口に答えたのは、隣で土嚢に寄りかかっていたクルーカットの軍服男だ。重々しい銃機関銃を担いだ体には青年と言って差し支えない顔が乗っており、未だに初々しさが抜けきってない印象を与える。
     青年の言うとおり空まで濃霧に包まれた陣営の中、ダービーが青年の頭を小突く。

     「ウィリアム伍長。『姿無きを見て音無きを聞く』って知ってるか? 湿度と風向きで天気くらい察しろ。昔のカンフー映画でも言ってたろ、『目で見るな、感じろ』って」
     
     どうでもいい講釈を垂れるダービーに、ウィリアム=ジョージ伍長は比較的どうでもいい事を尋ねることにした。

     「湿度と風向きじゃ人死にの有無はわからんでしょう」
     「…」
     「…」
     「…よし伍長、引き続き周囲警戒に当たれ」
     「ラジャー」

     微妙な沈黙が過ぎ去り、一等軍曹は南に、伍長は西にコンパス付き双眼鏡を向ける。もっとも【チンハイ湖】から立ち上る濃霧は、百メートル先も白く塗り潰してしまっているのだが。
     完全にレーダー頼りの状況の中、二人が別々の方向を見張っているのは、湖に面した東側以外どこからプルコの反撃が来るか分からないから一一”という訳でもない”。

     「知ってます? さっきラジオで聴きましたけど、”この作戦って俺達の独断らしいですよ?”」
     
     彼らが警戒しなければならないのは、水源施設を襲撃されたプルコ達の逆襲だけではない。
     彼らが相手にするべきは、先刻対岸に到着したという<スモーキングジャッカルズ>に、各企業が派遣してくるだろうレイヴン。
     それに一一彼らと所属を同じくするイージス軍であったりとか。

     「ぁあ、俺もさっき聞いてた。『今回の水源施設襲撃は、軍部の強硬派による独断行動である』ってな。いやー、俺達強硬派だったんだな。初耳だよ」
     「笑い事じゃないんですけどね」
     「ハハハ」

     皮肉げに笑うダービーだが、その目には楽観的な光が揺れている。
     上下する肩に合わせて揺れているのは亀甲印の腕章であり、無論彼らはイージス軍に所属する陸士達だ。現在は水源施設奪取作戦…もとい【チンハイ湖】奪取作戦に参加し、根強い抵抗を続けるプルコと霧越しのにらみ合いを続けている。
     だが、その最中に飛び込んできたのが「本社はこの作戦に一切関与していない、全ては軍部の独断行動」という公式発表だった。
     恐らく本社の筋書きとしては、秘密裏かつ電撃的に【チンハイ湖】を制圧して、事件が明るみに出る前に全てを終わらせてしまおうと踏んでいたのだろうが、プルコ達の意外な粘りによってそれが叶わなくなった。その為軍部の行動が明るみに出るに辺り、他者の批判を避ける為に実動部隊を切り捨てた一一ウィリアム伍長はそう理解していた。
     少なくとも、この時は。

     「今は小康状態ですけど…鎮圧部隊が来たらオシマイですよ俺等。幸いこの霧ですし、今の内に逃げといた方がいいんじゃないですか?」

     ウィリアム伍長も本気で言っている訳ではないのだろうが、口調には不安を誤魔化すためか必要以上の明るさがこもっている。
     対するダービーは爪を削っていたヤスリをくわえると、些か緊張感の無い態度で言う。本社に切り捨てられたにしては、あまりにも緩んだ態度で。

     「いやぁ、そうでもないさ」
     「?」

     思いの外重みのない言動に違和感を覚え、ウィリアムは傍らの上官に目を向ける。もっとも、ヤスリをくわえるのも奇妙ではあったが、それはヘビースモーカーな一等軍曹の「煙草を吸うと、先に付いた火を目印に狙撃手に狙われる」というジンクスを避ける為の代償行為だ。
     その癖の所為か、前歯だけ削れてイルカの八重歯ようになっている一等軍曹の顔。見慣れた上官の顔をマジマジと見つめながら、ウィリアム伍長は問いかける。

     「…どういうこってす? ガレルにでも亡命する気ですか?」
     
     自分でも突拍子もないと思ったのか、やや自信なさげな質問に、ダービー一等軍曹は愉快そうに笑う。
     見当違いな事を訊く子供を見るような目に、それとはまた別の感情を灯らせて。

     「伍長、私はそんなに愛社精神に乏しいように見えるか?」
     「へ? ぁあいや、スイマセン」

     反射的に謝ってしまうウィリアムに、ダービーが更に笑って語り出す。
     自分が如何に愛社精神に溢れているかという事を、延々と、延々と。

     「ウィリアム伍長。私はな、イージス社が好きだ。愛していると言ってもいい。会社の為を思えばこそ、出世欲も捨て、反骨心も持たず、従順な軍人として理不尽な命令にも耐えられる。どんな困難な任務でも笑顔で遂行できる。君もそうだろう? ウィリアム伍長」
     「ぇ? はぁ…まぁ」

     自分達は今し方その本社に裏切られたばかりではないか。
     頭に浮かんだ反論を飲み込みながら、ウィリアムは曖昧に首肯する。
     表面的でも同意を得られた事に満足したのか、ダービーは満足そうに頷くと、そのまま話を再開した。

     「そうか、安心した。君にも愛社精神があると知って本当に安心した。だからウィリアム伍長。君には話してやろう。君にだけは打ち明けてやろう。我々がこの後どうなるのかをね」
     「ぁ、あの…一等軍曹?」

     ウィリアムの背中に一本の冷たい筋が走る。冷たさの原因は周囲の寒さではなく、どこか薄ら寒いダービーの態度だと気付いたからだ。
     問いかけるウィリアムを全く無視する形でダービーは予言者のように語り出す。やはり、どこか不自然な笑いを貼り付けながら。
     
     「我々が愛するイージス社は、貴重な水源を奪取するべく我々をここに派遣した。水は莫大な利益をもたらすし、ガレルのテロ屋どもへの打撃にもなるからな。単純な話だ。が、この情勢でそんな事をすれば他者に批判を浴びせられる事は目に見えている。我が社が世論さえも牛耳っていた頃ならいざ知らず、今はガーランドよりの報道社も多いからな」
     「…」
     「そこで、だ。本社のお偉方は考えた訳だ。一番槍を軍部の暴走という形にしてしまえば、『責任をもって弊社の部隊を鎮圧する』という名目で堂々と大部隊を派遣できるとな! そして愚鈍なプルコ達は、押し寄せる大部隊を見るなり攻撃を加えてくるだろう! そうなれば! 後は正当防衛の旗を掲げて【チンハイ湖】全域を一気に制圧する!」

     霧に映えるダービーの顔が、徐々に感情を帯びて赤色に映え始める。
     長い付き合いだった上官の豹変を前に、対するウィリアムの顔は青く青く。
     
     「あの…一等軍曹? 何で、そんな…いぇ、そうなったら我々はどうなるんですか!? 説明して下さい!」

     ようやく事態の異常さに叫ぶウィリアムに、ダービーは変わらぬ笑顔で微笑み続ける。結局柔らかい笑顔も、ウィリアムの恐怖を余計に煽るだけだったのだが。

     「我々かね? 我々は当然鎮圧部隊に応戦する。当然だ。彼らは私達を制圧に来るのだからな。兵の大半が真実を知らされていない以上、戦闘は本格的なものになるだろう。だから我々は頃合いを見て、鎮圧部隊に降伏する! 捕虜という形で悠々とシティに戻れる手筈になっている訳だ! 兵士数名の遺体を水源施設襲撃の首謀者として差し出す代わりにな!」 
     
     ダービーの朗々とした叫びに、ウィリアムは声を失って重機関銃を取り落とす。同時に噛み砕かれた金ヤスリが落ち、霧の中に奇妙な重奏を生み出した。
     ダービーは一旦顔の赤みを引かせると、もう一度柔和な笑顔を浮かべて優しい声でもはや独白にしか鳴っていない言葉を紡ぐ。

     「彼ら五名は反乱の首謀者として葬られる事になるが、彼らの名を我々は決して忘れる事はないだろう」

     まるで葬儀を執り行う神父のように、厳かに五人の名を謳いあげる。


     「ジャクソン=エイモンド少尉」


     カチャリ。
     ダービーの右手が腰のホルスターに触れた音だ。


     「リチャード=クラレンス准尉」


     チキリ。
     ダービーの右手に握られたサイドアームが、ウィリアムの鼻先に向けられた音だ。


     「リッチモンド=バウチャー曹長」
     

     カチリ。
     銃の安全装置が外された音だ。


     「スタンリー=サリー三等軍曹」

     カチカチカチカチカチ。
     ウィリアム伍長の歯が、不規則に打ち鳴らされる音だ。
     その独奏を満足そうに聞き届けると、ダービー一等軍曹は笑顔で五人目の男の名を告げた。



     「一一ウィリアム=ジョージ伍長」
     

     

     ズドン。


     
     一一『Kowloon a flash 4』 closed…?


1154/ 『レイク・ミスト・ジャッベリン・続』
・投稿者/ ケツアゴ熊ちゃん
・投稿日/ 2006/11/16(Thu) 22:12:09

     高らかに響いた銃声が鳴り響く前に目を瞑ったウィリアム伍長だったが、覚悟してい熱い痛みと、それに伴う永遠の闇はいつまで経ってもやって来なかった。

     「…。……?」


     ズドン。  


     しかし、相変わらず”連続した単発の”銃声は響き続けている。
     一体何が起きているのか、ウィリアムは意を決して目の前に待っているだろう銃口を覚悟して目を開き一一
     視界が黒から白に切り替わった瞬間、目の前に銃口は存在しなかった。いや、それどころかダービー=スタンリー一等軍曹自体が存在しなかった。
     
     「…え?」

     まるで、今までの事が白昼夢だったかのような消失。  
     だが、当然何もかもが無くなっていた訳ではない。
     解放されたウィリアムの視界には、まず全てを包む霧が映り、周囲に積み上げられた土嚢が映り、そして視界の端に映ったのは、

     「………え?」

     視界の隅に転がっていたのは、手だった。
     ダービー一等軍曹が握っていた、黒光りするリボルバー。そのトリガーを引こうとしていた手首から先が、まるで誰かが忘れて置いていったように離れた場所に転がっている。
     その時点でウィリアムはダービーが何処かに行った訳ではないと確信し、さりとて目の前の光景を受け入れる事が出来ず、もう一つの事に気が付いた。
     先程までダービーが立っていた場所。平坦だった湖畔の地面が、深く深く抉れているという事に一一

     
     ズドン。
     ガコン。


     今度の音は、ワンセットだった。
     もう一度遠い銃声が聞こえた瞬間、ウィリアムの呆けた顔が赤く染まった。
     彼の顔に血が集まった訳ではない。只管に、遙か頭上で発生した光源が、彼の顔を煌々と照らし出していたのだ。
     その事に気付いた彼がふと空を仰いだ時一一”丁度コクピットから炎を上げた鉄騎が、こちらに倒れ込んでくる所だった”。

     「な一一一一一一ぁああああああああああッ!?」

     轟音。
     再び地面を襲った衝撃に、ウィリアムは死を覚悟したが…そもそも鉄騎が立っていたのは機関銃陣地の遙か手前であり、彼を押し潰すには鉄騎の全長は少々不足だった。
     激しく巻き上げられた土嚢の土が舞い上がり、湖畔を白と茶のマーブルに染め上げる。

     「ぁ…」

     自分の命の心配で精一杯だったウィリアム伍長はそこでようやく周囲に目を向ける余裕を得て、やはり絶句した。
     ヒューマンシールドのように立ち並んでいたMT達。それが今し方の鉄騎と同じように、遠くから響く銃声に合わせて次々と倒れてゆく光景を見て。
     まるで縁日の射的を思わせる光景だったが、彼の軍人としての経験は即座に敵襲と判断する。
     彼は迷わず敵の姿を確認する為、銃撃手がいると思しき方向に目を向け一一


     「一一あれ……?」


     振り向いた先にあったものは、”何も無かった”。
     彼が目を向けた方向には、静かに湖面が揺らめいているだけで、その先には鬱蒼とした霧がそびえているだけだったのだ。
     だが、彼は見た。そもそも、戦場に潜む敵を発見する為に、軍人には目の良さもスキルの一つとして重宝される。
     だからこそ、彼は見た。
     青い青い湖面の上。白い白い湖霧の中から、少し遅れた銃声に合わせて鈍色の弾丸が飛び出してきた事に。
     飛び出した弾丸は彼の頭上を遙かに飛び越え、見事に遠方に立っていた神盾の後頭部を撃ち抜いた。
     だが、彼にはもうそんな光景は関係なかった。
     黒煙を上げて倒れた神盾が、足下で哨戒していた歩兵を大勢巻き込んでいった事も。
     この銃撃の一発目が、着弾した地面ごとダービー一等軍曹を叩き潰してしまったのだと理解できた事も。
     
     ただ一一深い深い霧の向こうに、一瞬だけ白いダルメシアンカラーが見えた事だけは確かだった。

     
     「…レイク・ミスト・ジャッベリン…」   


     遠くで誰かがそう呟いたのが、冷たい風に乗ってウィリアムの耳にまで届いてきた。
     背中の雫が一筋流れ、湖から吹き込んできた風が汗ばんだ体を冷たく撫でていく。
     ようやく態勢を整えたMT達が自分の頭上を飛び越えてゆくのを茫然と眺めながら、彼は完全に理解する。


     ダービー一等軍曹の言葉が本当だろうが冗談だろうが白昼夢だろうが一一今この瞬間を生き残らなければ、どうにもならないという事に。
     
       

     
     一一『Kowloon a flash 4』 closed一一


1143/ 特報5<凶鳥の日>
・投稿者/ ケツアゴ熊ちゃん
・投稿日/ 2006/11/16(Thu) 21:58:50


     【特報5】

     地球歴○二一○年 ※月 ♂日

     <凶鳥の日>

     【C-LAWS】設立宣言から数ヶ月、実動部隊としての立場を固めつつあったC-LAWSに最高難易度の命令が舞い込んだ。イージス社専属レイヴン《天狼星》が突然イージス社施設を破壊し離反、【九龍シティ】からの脱走を計ったのである。
     当時人材不足が慢性化していた【C-LAWS】は、止む得ず限られた人材で《天狼星》狩りを開始する。 
     しかし追跡を命じられたレイヴン達は追撃中、相次いで音信不通に。やがて、大破した機体がシティのそこかしこで見付かるという事態が幾度と無く繰り返された。
     事態を重く見た【C-LAWS】隊長《ゼカリア》は、状況を打破する為に『ネヴァート作戦』を提唱。《天狼星》を【C-36地区】へと追い込み、機体、搭乗者の双方に寒波責めを加える事に成功。自らが追い詰められた事を悟った《天狼星》は、機体を自爆させてしまう。
     だが、運良く一命を取り留めていた《天狼星》は同郷の同胞に救出されて【九龍シティ】を脱出。
     捕食者の名を持つ賞金稼ぎが裏社会にその名を知らしめるのは、その僅か数ヶ月後の事であった。 




     <特記事項>

     ・【C-36地区】
     【九龍シティ】北区画、最下層付近に位置する”元”居住区画。
     現在は空調設備の破損により絶対零度となっており、霜の降る廃街は冷凍貯蔵庫を彷彿とさせる。また武装勢力の潜伏先としても有名だが、《天狼星》を救出したのもこの内の一団だと思われる。
     
     

1155/ 『ニブルヘイムのフェンリル一人』
・投稿者/ ケツアゴ熊ちゃん
・投稿日/ 2006/11/16(Thu) 22:13:25


     九龍シティ C-36地区 某スラム


     だが一一《WA04-ARIES》から放たれたのは、収束しきれなかったエネルギーが拡散してゆく物悲しい音色だけだった。

     『ぁア…!? 弾切れだと…!』

     辛うじて作動している空調の風が天井に、まとわりついた霜を降り注がせる極寒世界。しかし決して銀世界は想起できないシティの中、《ヘヴンズファイヤ》と《メガリス・メガデス改》の決着は、あまりにもあっさりと付いてしまった。
     《メガリス・メガデス改》の側面に回り込んでいた《ヘヴンズファイヤ》は、《WA04-ARIES》が作動しないと見て取るや即座にOBでの離脱を試みる。
     いずれも長大な《メガリス・メガデス改》の武装は、タンク型の旋回力の低さも相まって至近距離まで接近していた《ヘヴンズファイヤ》を捉えることが出来ない一一筈だった。
     直後頭上に射出された、《C05-SELENA》のオービット以外は。
     
     『てめッ…』

     一対の球体の存在を忘れていた自分への憤慨を込めた罵声は、着弾した青色の閃光に飲み込まれる事になった。
     補助攻撃装置とはいえ、《C05-SELENA》の出力はEO随一であり、オプショナルパーツとの組み合わせによっては下手な武装を遙かに上回る威力を発揮する。
     レーザーの着弾衝撃に後押しされる形となったOBは、《ヘヴンズファイヤ》の巨体をマンガのように吹き飛ばし、50mほどストリートを飛ばされた所でようやく停止した。結局それは、コンデンサ残量がだけの話なのだが。
     路面を覆う氷の所為で止まるに止まれず、背中からビルに突っ込む形で停止した《ヘヴンズファイヤ》。コクピットが自動車事故並の衝撃に見舞われ、《天狼星》が次に見たのは、悠然とHiレーザーライフル、通称カラサワを構えた《メガリス・メガデス改》の姿だった。
     
     『一一「なんでこんなに弾切れが早ェのか?」って顔してやがるぜ? いやまぁ、こっから顔は見えないんだけどな?』
     
     完全に優位に立った《メガリス・メガデス改》のスピーカーから、余裕に満ちた声が放たれる。内容自体は、先刻《天狼星》の叫びを聞き咎めただけだろう。
     
     一一分かった、死ね。いいから死ね。

     激突の余波から立ち直った《天狼星》が、心の中でそう叫ぶ。
     単に声を出せるまでには回復していなかっただけの事なのだが、返答するつもりが無いと見たのだろう。いい聴衆を得たと言わんばかりに《メガリス・メガデス改》から『レーザー談義』が開始される。

     『レーザーってのは、気紛れな女みたいなもんでな、気温の違いで微妙に出力に差が出やがる。寒けりゃその分高出力…分かるだろ? その反面、余分に出力しまくった代償として、消費エネルギー量は跳ね上がり一一』

     そこで一旦言葉を切ると、左手に握ったデュアルライフルの銃口で《ヘヴンズファイヤ》の腕部、沈黙した腕部一体型のレーザー発射装置を指し示した。

     『一一このザマって訳だ。《WA04-ARIES》は元々弾数が多いからな、100発撃っても110発分のエネルギーを消費してましたって事だ。気温に合わせて出力調整してるほど、アンタが繊細だとも思えなかったんでな』
     一一五月蠅ぇ、殺す。絶対殺す。

     確かに寒冷地で運用される事が殆ど無いACのエネルギー武装には、コスト削減の為に自動出力調整が搭載されていないものが大半だが、気温に合わせて出力を微調整しているレイヴンなど、このマニアぐらいのものだろう。
     そこまで分析した所で、《天狼星》は《メガリス・メガデス改》の肩にも搭載されているエクステンション、《JIREN》を作動させる。耳障りな警告音が一瞬で鳴り収まった。
     チャージングに陥っていたコンデンサが即座に満たされた事を確認すると、《ヘヴンズファイヤ》が飛び起きるようにブースターを噴かした。

     『ンなに好きならレーザーと寝てやがれ!』
     『魅力的な話だが…浮気したら殺されっからなぁ、平手で』

     本気で悩んでいるような口調と共に一一《ヘヴンズファイヤ》の猛禽類のかぎ爪を彷彿とさせる腕が吹き飛んだ。
     本来ならばカラサワと言えどパーツ一つ吹き飛ばす威力は無かったのだが、彼の手によって出力を限界まで上げられていたのだろう。
     根本から折れ飛んだ腕を残して廃ビルの陰に滑り込んだ《ヘヴンズファイヤ》の背中に、レーザー談義の続きが飛ぶ。

     『言ったろ? ここじゃレーザー出力は鰻登りだって。それにこのネヴァートなんちゃらの為にウチの連中がそこかしこの空調壊して回ってるからよ、いつもより20度は低いんじゃねぇの? 流石にコクピットん中も寒くてしょうがねぇや』
     『あァ…? 逃げた猟犬一匹捕まえんのにどんだけ人員割いてんだよ手前ら』
     『あんたなぁ…昨日と合わせてウチのメンバー4人棺桶送りにしてんだからよ、温厚で有名な隊長も動くぜそりゃ』

     緊張感に欠ける返答が終わるか終わらないかの内に、青い衝撃が《ヘヴンズファイヤ》を掠めていった。見ると遮蔽にしていたビルの壁面がごっそりと抉れており、その穴からカラサワを構えた《メガリス・メガデス改》と目が合った。

     一一馬鹿力が…ッ!

     なりふり構わずブースターを噴かした《ヘヴンズファイヤ》が数秒前まで立っていた空間を、黄色の衝撃が貫いた。
     その二秒後に青色の光が。またその次には黄色の光が。
     通り過ぎていった景観が凄まじい速度で薙ぎ倒され、或いは貫かれてゆく。その通常では有り得ない高火力兵器の早撃ちを見て《天狼星》は理解する。

     一一こいつ…一射毎に武装を切り替えてやがる!

     ACの武装は高火力になるに比例して、必然的に銃身の冷却を待つリロードタイムが長くなる。その為、レイヴンの中には無駄なリロード時間の間に発射可能な他の武器に切り替える事で高速射撃を可能にする者がいると聞いた事がある。
     《ヘヴンズファイヤ》を追うように、恐らく《JIREN》も併用しているだろう射撃は容赦なく老朽化したビルを吹き飛ばしてゆく。
     絶え間なく、絶え間なく、シューティングゲームでもするかのように。
      
     『〜♪』

     その合間から聞こえてきた、のどかなカントリー調の鼻歌に、《天狼星》の苛立ちは最高潮を迎える事となった。
     
     『テメェ…』
     
     馬鹿にされたと思ったのだろう。普段蒼白な顔が赫怒に染まり、《ヘヴンズファイヤ》が《メガリス・メガデス改》に向かって転身する。
     傭兵としての経験と本能は、逃亡が最良の手段だと叫んでいる。よしや、C-36地区は通常より天井が低く作られている為、得意とする降下攻撃は行えない。その上残った左肩のオービットだけでは、いかにも無謀の一言だ。

     一一知るか。殺す。殺されようがぶっ殺す。

     矛盾した思考に応じるように、《ヘヴンズファイヤ》が軽くステップを踏む。踏みとどまったその直ぐ横を黄色のレーザーが掠めていったが、それは本来右腕があった空間を貫くだけだった。
     
     『避けんなよ。折角お前の為だけに発射されたレーザーが可哀想だと思わねぇのかよ』
     『ならお前が当たってやれ』
     
     収束音。
     途端に《ヘヴンズファイヤ》の姿が霞み、レーダー上の《メガリス・メガデス改》の反応が一瞬で目の前に現れる。
     それは単に、OBの暴力的な加速で《ヘヴンズファイヤ》が接近しただけの事だったのだが、へし折れた《WB02L-GERYON》にとっては全く意味のない事だった。

     『一一ッ?! 俺の愛しいイザベラがぁッ!』
     『パーツに名前付けてんじゃねぇよ変態』

     《ヘヴンズファイヤ》の巨大な脚に”蹴り折られた”肩部用キャノンが、破片を撒き散らしながら中を舞う。
     その蹴撃は足を掲げただけの、所謂『ラ○ダーキック』だったが、OBの加速と相まって《メガリス・メガデス改》本体にも恐ろしいインパクトを伝わらせた。
     丁度蹴り飛ばされた《WB02L-GERYON》が発射寸前だった為に、《メガリス・メガデス改》は次の射撃に移れない。それをいい事にもう一度《ヘヴンズファイヤ》は重い脚撃を振り下ろそうとする。
     相手がタンク型だけに転倒は狙えないだろうが、スイッチの入っている《天狼星》は全く気にしなかった。
     まずは鈍重な脚部を踏み潰そうと、滑らかながら威圧的なフォルムの右足を振り上げ一一そのまま振り下ろせなくなった。


     カツン。


     原因は、音。
     ひどく渇いた金属音が、《ヘヴンズファイヤ》の胸辺りで鳴る。
     より正確に言えば、《ヘヴンズファイヤ》のコアに突き付けられた、デュアルレーザーライフルの銃口が。

     一一だが、どうせリロードタイムに入って一一一一

     そこまで考えて、《天狼星》の本能が言いようのない警鐘を鳴らす。
     そして、思い出す。
     先刻ビルを貫いた高速射撃の中、”赤色のレーザーだけが一度も飛んでこなかった事に”。
     それに気付いた《天狼星》が何かを叫ぼうとする前に、無駄に熱い男の叫びが極寒の空気を震わせた。

     『テメ…』
     『イザベラ…お前の死は無駄にはしねぇッ!』

     半分泣きの入った叫びが轟いたとき、全てが遅かった。
     蹴撃の届く範囲まで接近していた《ヘヴンズファイヤ》は、オービットの最低射程が確保出来ない。
     一辺の容赦も無く、今まで一度もトリガーを引かれずにいたレーザーライフルのトリガーが引かれる。
     放たれた鮮やかなレーザーは、数百分の一秒間だけ大気中を赤く突き進み一一《天狼星》は視界が赤一色に塗り潰されるのを感じた。
     だが、次の瞬間恐ろしい衝撃と共に襲ってきた黄色の光は、ブラックアウトした《天狼星》の意識は遂に感じる事はできなかった。



     ☆ 


     
     『イザベラ…お前の仇は、妹のアリシアが取ったぜ…』


     蹴り壊されたイザベラの横で、全く同じ型のエネルギーキャノンが発射の衝撃に打ち震える。
     その一撃に殴り飛ばされた《ヘヴンズファイヤ》が、バランス操作もできなかったのか力無く後ろに仰け反った。とうとう機体はビルに衝突し、凍り付いた窓ガラスが雪のように降り注いだ。
     そうしてビルに持たれ込むように停止した《ヘヴンズファイヤ》に目をやって、《PLATOON》が心底残念そうに口にした。

     『…こんな事になんなきゃレーザー談義の一つでもできたんだろうけどよ、残念だわ…って聞こえてねぇか?』
     
     返事が無い事を見て取ると一一《メガリス・メガデス改》は、近付いてくる駆動音にゆっくりと振り向いた。
     レーダー上には点が三つ。いずれも敵反応ではなく、コンピュータに登録されている【C-LAWS】所属ACのシグナルだ。
     
     『よぉーう、遅かったじゃねぇか。丁度カタ付いちまった所だぜ?』
     『…そのようだ』

     《メガリス・メガデス改》の数十メートル手前で停止したAC達の先頭に立つ二脚型が、《PLATOON》の軽口とは対照的に重々しい声を上げる。
     他の二機に見覚えはなかったが、先頭に立つ灰色のACだけは嫌と言うほどに知っていた。恐らく、殆どのレイヴンが。

     『無駄足させちまったなぁ《グレイ・グリフィス》さんよ。ま、恨むんならレーザーの強さをうら一一』 
     『…お前で処理できる程度の相手なら、惜しくはない』

     自慢も含めた皮肉を軽い侮辱で返される事となったが、《PLATOON》は軽く肩を竦めただけだった。
     元シングルナンバーと平然と会話を続ける《PLATOON》に、新人と思しきAC達が畏敬とも呆れとも付かない視線を向けている。もっとも、本人にしてみればレーザーを使わないレイヴンに敬意も恐怖も抱く必要はないと考えているだけだろうが。

     『如何ほどの強者と心躍らせていたが…期待違いだったか』
     『いやよ、こいつ二次紛争中殆ど投獄されてたんだからそりゃ感も腕も鈍りまくりだってーの。ま、その状態で4機も返り討ちに出来たのは一重にレーザーの御陰だろうけどな!』

     何故か得意げに倒れ伏した《ヘヴンズファイヤ》の拡散レーザーを指し示す《メガリス・メガデス改》。
     が、至福の時に横やりを入れるかのように、《ヘヴンズファイヤ》のスピーカーが怨嗟に満ちた雑音を上げる。

     『一一…ッガ…テメェら…聞いてりゃナメてくれやがって…!』
     『何だもう意識あんのかよ。ってーかアリシアの威力はその程度って言いてぇのか? 軽くショックだよコラ』

     口振りからすると、気絶してから数秒で意識は戻っていたのだろう。
     アリシアにコアを直撃されながらも立ち上がろうとする《ヘヴンズファイヤ》に、半ば呆れた口調で《PLATOON》が声を上げる。

     『お前なぁ、諦めろって。俺ら捕殺命令は出されてねぇんだ。もっぺん監獄に戻るだけだろうが』

     そう言いながらもカラサワの銃口を向けたのは、相手が油断ならないというよりは単なる癖のようなものだったに違いない。
     実際今まで彼が相手にしてきた中では、ほぼ機体が機能停止している状態で攻撃してくる者や、いくら高出力レーザーを直撃されても向かってくる者がいた。
     その為油断はできなかったのだが一一《PLATOON》は思い知る事となる。
     銃口を向けていてもまだ、《天狼星》というレイヴンには警戒が足りなかったという事に。

     『あァ…何言ってんだよ変態野郎』
     『だから投降しろって言ってんだよ。悪いようにゃ多分し一一』
     『一一だから、よ』

     それは、何の前触れも無かった。 
     極自然に、それでいて何の脈絡も無く。
     まるで当然極まりない質問でもされたかのように一一



     『”今から自爆しようって奴に、何言ってんだよテメェ”』
     
      

     『『『一一は?』』』

     《PLATOON》と、《クレイモア》の後ろに控えていた二機の声が奇妙な重奏を生み出したが、その声はエネルギーがチャージされてゆくような音に掻き消された。
     その場にいた大半のレイヴンには音の正体は掴めなかったが、エネルギー知識に精通している《PLATOON》は直ぐにその正体が浮かび上がった。
     《ヘヴンズファイヤ》のくびれた胴あたりから聞こえてくる音は、紛れもなくジェネレーターにエネルギーが溜まってゆく音だという事に。
     但し一一絶えず機体に供給されている筈のエネルギーが、逆流してジェネレーターに溜まっていく音だという事に一一


     『ヤベ…下がれ一一!』

     
     《メガリス・メガデス改》が最大速度で後退した瞬間、《ヘヴンズファイヤ》の胸辺りから赤い爆発が巻き起こった。
     僅かに遅れて響いた爆音が容赦なく四羽の鴉を打ち据え、AC達の装甲を明るく照らす。 
     エネルギー残量があまり無かったのか、爆発の規模自体はそれ程ではなかったのだが、インサイドに残っていた爆雷に引火した爆炎は、灼熱の吹雪となって荒れ果てたストリートを吹き抜けていった。
     赤い赤い爆風の中に、ほんの僅かに赤黒い色を交えながら一一

     




     爆炎が冷たい風にさらわれていった後には、4体のACと、ACだったものが一つ。
     ビルの壁面に出来たクレーターと、通りの所々に散らばったパーツの破片を交互に見ながら、最初に口を開いたのは《PLATOON》だった。

     『…こりゃー、何だ。しょうがねぇわな。後は回収部隊にでも任せようや』
     『既に此方に向かっているそうだ。我々には撤退命令が下りた』

     《クレイモア》は《PLATOON》の呟きにそう答えると、《ヘヴンズファイヤ》の残骸には興味を無くしたようで呆気に取られる隊員を置いて歩き出す。
     《PLATOON》も暫く灰色の背中を見送っていたが、こちらの画面にも撤退命令が届いているのを見ると自らも後に続く事にした。
     
     『ぁあ、やっぱ簡単に命捨てるような奴と同業者とは思いたくねぇや。休暇届けでも出して、久々にアーカバレルにでも帰っかなぁ…』

     そうぼやいて去ってゆく《メガリス・メガデス改》につられ、二機のACも慌ててその後を追ってゆく。
     やはり、黒煙を上げる残骸をに一瞥も向ける事は無く。


     だから、彼らは気付かなかった。
     彼らの一連の行動を、ビルの隙間から見上げていた人影達がいた事に。
     そして、彼らの撤退を見届けるなり、《ヘヴンズファイヤ》の残骸へ駆け寄っていった事に一一
     


     一一『Kowloon a flash 5』 closed一一

     

1144/ 特報6<カタリナ大武闘大会>
・投稿者/ ケツアゴ熊ちゃん
・投稿日/ 2006/11/16(Thu) 22:00:10

     
     【特報6】

     地球歴○二一○年 ?月 ?日

     <カタリナ大武闘大会>

     闇アリーナ総本山の一つ【カタリナ・アリーナ】にて、大規模なトーナメント戦が催された。
     優勝者には試合で死亡した全てのレイヴンの賞金を与えられるという報償を掲げ、興行成績向上に乗り出したのである。大会には賞金稼ぎや在野レイヴン、企業専属レイヴンから、”個人的に”エントリーした【C-LAWS】所属レイヴンなど、実にバラエティに富んだ選手が集結した。
     この大会は一部の民間企業により(”新鋭MT”同士の試合として)全国放送され、史上一位の視聴率を叩き出す。
     参加レイヴンの《エディナス》が転倒した相手選手に攻撃せず時間切れで両者失格になったり、落盤地区で【スーパーポジトロンミサイルα】が使用されたりと様々なアクシデントはあったが、やがて準決勝に残った《シュトゥルムティーガー》、《デュエリスト》、《天狼星》、《グレイ・グリフィス》の試合組抽選中に事件は発生した。 
     突如として、死亡選手の機体の約半数が《GHOST》化。しかし主審として招かれていた黒山羊の活躍により、事態は急速に収束に向かう。残りも覚醒した《レイテンシー》の手によってことごとく破壊され、試合は滞り無く行われた。 
     尚、決勝の《グレイ・グリフィス》VS《デュエリスト》戦は弾切れによる引き分けで決着している。




     <特記事項>

     ・死亡選手の機体の約半数が《GHOST》化
     第二次企業紛争集結後、初めての《GHOST》目撃例である。また、十機近いACが同時に《GHOST》化した事も前代未聞の事態であり、企業は参加した【C-LAWS】レイヴンに映像情報の提出を求める。
      
     ・《レイテンシー》
     大会第一試合、《ハウト》の駆る《ベイオネット》の接射によりコクピットを貫通され死亡…と思われたが、破壊された機体を牽引中、散弾は搭乗者を直撃していなかった事が発覚。本人は穴だらけのコクピットの中で幸せそうに寝息を立てており、作業員達を呆れさせる。
     《GHOST》発生の際には、黒山羊の暴れる騒音によって気絶状態から覚醒。安眠妨害により眠っていた戦闘センスを目覚めさせた《レイテンシー》は、黒山羊と共に居並ぶ《GHOST》達を薙ぎ倒す大立ち回りを演じる。
      
     

1156/ 『カタリナ・アリーナ運営委員会一同より』
・投稿者/ ケツアゴ熊ちゃん
・投稿日/ 2006/11/16(Thu) 22:14:15

     
     レディース・アーンド・ジェントルメーン!


     <チンハイ事変>の禍根が渦巻きに渦巻いてひっじょーに裏世界が過ごしがたい今日この頃、傭兵諸兄はいかがお過ごしかな?
     さて、堅苦しい挨拶は抜きにして、本日は君達に美味しい話を持ってきた! 但し弱ッちい奴はノーセンキュー。他の同業者方に美味しく頂かれるのがオチなので、このメールは聞かなかった事にしてベッドに滑り込んでガタガタ震える事をオススメする!
     何分早急な事なので、鴉の諸君には音声データのみでの無礼をお許し願いたいね!
     

     





     さぁ、自らを弱者と認めた賢明な有象無象達はちゃんとメールを閉じたかな?
     …。 
     ……。
     ………よし! それではメールを閉じないでくれた、勇敢あるいは無謀なレイヴン諸君! 君達の鳥頭でも理解がかなうよう、なるべく分かり易く、手短に説明しようじゃないか!





     君達は、賞金が欲しいかーッ?!





     ………ちょ、そこ、メールを閉じようとするな! 君、無駄な時間を過ごしたと言いたげな視線は止めてくれ! 一人くらい「オー!」とか何とか反応してくれたっていいじゃないか!!
     …コホン、失礼。仕方ないな。忍耐力に乏しい諸君の為に用件だけを伝えようじゃないか。この寛大さに皆PCないし携帯の前にひれ伏して私を崇めるがいい!! …冗談だよ。



     昨日未明、我々『カタリナ・アリーナ運営委員会』は諸君達レイヴンのレイヴンによるレイヴンだけの武闘大会の開催を決定した。リンカーンもびっくりしている間に南北戦争終結という寸法だ!
     レイヴンによるレイヴン同士の一対一のデスマッチ! 賞品も豪華、優勝者は試合中に死亡したレイヴンの賞金をそっくり総取りって訳さ!
     レイヴンとしての名を挙げたいのなら、これに参加しない手は無いだろう! 
     さぁ、遠慮していたら他の連中に参加権を奪われるぞ! 女房と息子を肉屋に売ってでもエントリー枠に滑り込もう!
     邪魔な奴も邪魔じゃない奴も、リングに上がれば皆殺しだ! 出し抜け蹴散らせ奪い取れ! 莫大な賞金と名声目指して、構うことなくぶっ殺せ!

     

     盛大な共食いを勝ち抜けば、最強の座は君の物だ!!







    ■注意事項

     ※開催日時は来週?月?日AM12:00:00〜PM9:00。参加手続きは、添付の書類データに必要事項を記入してご返信下さい。尚、詳細はhttp://www.katarina.jp/まで。

     ※またエントリー枠が埋まってしまっても、参加者募集締め切りまでに”エントリー選手が何らかの理由で出場辞退を余儀なくされた場合は”新着順で参加者を選考させて頂きますので、エントリーされる方々は当日まで闇討ちや奇襲にご注意下さい。

     ※C-LAWS・企業専属レイヴンの方々の賞金は、ご本人方の実力を考慮した上で、運営委員会が負担いたします。損得勘定の事は忘れ、皆様存分に殺し合ってください。
     また、当日は有線放送が入る予定です。小さいお子様にショッキングな光景や放送禁止用語は減点の対象となりますので、良識と節度を守ったデスマッチをお願い致します。


     
     地球歴210年 ?月♪日、〜『カタリナ・アリーナ運営委員会』一同〜
     

     

1194/ [疾風の魔弾]視点:エルンスト・ヴィットマン
・投稿者/ 鉄
・投稿日/ 2006/12/09(Sat) 17:02:10

    一週間前 アーカバレルシティ ガレージ

    「エル、メールを受信したよー!」

    この出来事も、彼女のこの一言から始まった。



     ―レディース・アーンド・ジェントルメーン!


     <チンハイ事変>の禍根が渦巻きに渦巻いてひっじょーに裏世界が過ごしがたい今日この頃、傭兵諸兄はいかがお過ごしかな?
     さて、堅苦しい挨拶は抜きにして、本日は君達に美味しい話を持ってきた! 但し弱ッちい奴はノーセンキュー。他の同業者方に美味しく頂かれるのがオチなので、このメールは聞かなかった事にしてベッドに滑り込んでガタガタ震える事をオススメする!
     何分早急な事なので、鴉の諸君には音声データのみでの無礼をお許し願いたいね!―


    奇怪なメールを良く受け取る物だ。

    「・・・・何だコレは。」
    「何だって、《パーティー》の招待状じゃないの?」
    「だと良いがな・・・・」

    このメールの真意を探るべく、俺は放置した。
    この声の主のハイテンションさに付いていけないが、そこらへんは何とかした方が良さそうだ。

    『勇敢あるいは無謀なレイヴン諸君! 君達の鳥頭でも理解がかなうよう、なるべく分かり易く、手短に説明しようじゃないか!』
    『君達は、賞金が欲しいかーッ?!』

    その発言と共に彼女は腕を上げて反応した。

    「おー!」
    「・・・・・何故そこで反応する」
    「だって、定番でしょ?こんな時は乗らなきゃ損だよー」

    正直、頭が痛くなってきた。勿論、原因は隣に居る奴だが。
    さて、気を取り直して聞いて置こうか。

    『レイヴンとしての名を挙げたいのなら、これに参加しない手は無いだろう! 
     さぁ、遠慮していたら他の連中に参加権を奪われるぞ! 女房と息子を肉屋に売ってでもエントリー枠に滑り込もう!
     邪魔な奴も邪魔じゃない奴も、リングに上がれば皆殺しだ! 出し抜け蹴散らせ奪い取れ! 莫大な賞金と名声目指して、構うことなくぶっ殺せ!』


    先ほどの頭の痛みも軽く吹っ飛んだ。こんな愉しいイベントを考える奴の顔を見てみたい物だ。
    何せ、面倒な手続きも無しに思う存分殺し殺される宴を開く奴なんざぁこの時代じゃ珍しい。
    尤も、見た後は火器で吹き飛ばしたい所だが。

    「エル、なんか物騒な大会だね・・・・」
    「普通の大会では面白く無いからな、こちらの方が面白いのさ」
    「そんなものなの?」
    「ああ、そんなモノだ」

    「アル、またサボってるの!?ちゃんとやりなさーい!」

    さて、何時も道理怒号が響いた。
    彼女は一瞬ビクッと震えたが、気にせず話している。大丈夫か?

    「ほら、行って来な。でないと後々怖いぞ?」
    「エルはその大会に出るの?」
    「何も無ければ・・・・な」
    「なら、連れっていってよ」
    「構わんが、試合中はブリンダルに預けるぞ」

    ブリンダルとは、今俺のACの装甲材を張り替えている奴の事だ。ロリコン気味だが大丈夫だろうよ。
    彼女はうーんと考え込んでいるが直ぐに決めたようだ。

    「それでも良いわ。でも、私が行くからには初戦敗退なんて許さないよ」
    「そんな無様な結果を残すつもりも無いさ」
    「さてと、そろそろ行って来るわ。一週間後、楽しみにしてるよ!」

    彼女は軽い足音を立てて走って行った。今更急いでも説教が待っているのだろうがな。
    さて、最低限の手続きをしておくか。
    どんな猛者と愉しい愉しい時間が過ごせるものか、愉しみで仕方ない。

    ---------------------------------------------------------------------------

    当日 カタリナ・アリーナ

    『さぁ!第一試合が始まります。』
    『Aグリッド、《魔弾》と恐れられる純白の虎!【シュトゥルムティーガー】!』

    アリーナ時代の評判でも有ったのか、俺が入場した瞬間に歓声が響いた。
    尤も、俺が知った事ではないが。だが、サービスぐらいはしてやらないと面白くは無い。

    『レッツ、パーティー!』

    そうこれから素敵なパーティが始まる。ダンスは歪で音楽は爆音、酒も無くパートナーは血まみれ。
    義眼に登録された過去のデータを分析し『ダンス』の難度を確認する。今回は簡単に済みそうだ。

    『Bグリッド、自称《紅の狂戦士》にして攻撃的なホープ!【アクセル】!』

    今回の対戦相手とやらが入場してきた。たしか・・・・自称スナイパーだったか。
    ネームバリューが無いのか、こちらの歓声は低めだ。
    敵のアセンブルは・・・やはりデータ道理のタンク型のようだ。これなら直ぐに終るだろう。

    『自称って何だよ自称って!こいつを60秒以内に倒して証明してやる!』
    『おーっとアクセル選手大胆にも秒殺を宣言しました!本当にあの【魔弾】を倒せるのでしょうか?』
    『まあ、できるのならやってみな、弾の種類さえも分からない自称スナイパーさんよ』
    『ジョウトウだ!!! 後悔すんじゃねぇぞ!!! 』

    無謀な事をいうものだ。こんな奴を指揮していた奴を尊敬するな。俺なら初日で銃殺刑でも執行しているが。
    さて、気を取り直して戦いを愉しむか。
    フィールドは適度に障害物のある在り来たりな場所。条件は最高だ。
    『では、試合開始です! レディ?』
    『GO!』『レッツパーティー!』

    合図と共にイェーガーファウストを疾走させた。
    早速相手のタンクACが背中のエネルギーキャノンを撃ったが、狙いが甘い。
    回避行動を取る必要も無く、強力なエネルギーは通り過ぎて行った。
    確かにエネルギーキャノンは強力だろうよ。だが、撃つタイミングがてんでダメだ。

    ―此処で5秒 予告まで後55秒 距離800

    『それでもスナイパーかい?狙いが甘いぞボーイ!』
    『うるせえ!ぶっ殺す!』
    『おーっと流石魔弾と言った所か、簡単に攻撃をやり過ごしています!』

    おやおや、怒りで我を失っているのだろうか。まるでガキだ。
    今度は弾幕で遊ぶ気なのだろうか、バズーカとガトリング、EOの銃声が響く。
    今度はちゃんとした回避行動で迎えてやるとするか。

    『おやおや、熱烈なラブコールだことで!』

    左右に動き全てやり過ごす。まだ一度も発砲していないがそこは気が付いているのだろうか?
    まあ、そろそろ攻撃してやろうか。挨拶みたいな軽い攻撃をな。

    ―此処で20秒 予告まであと40秒 距離650 

    『ラブコールありがとよ!お返しだ!』

    両手に持つマシンガンで反撃をする。全てコア・頭部部分に命中。そりゃそうだ。
    タンク型である以上マトモな回避などできやしない。出切るツワモノなど一握りだ。

    『受け取ってくれたかい、坊や?』
    『テメェ・・・・!』
    『おーっと、有効打にならなかったようだ!』

    完全に怒りに身を任せているようだ。とうにこちらの有効射程に入っている事さえも理解していないだろう。
    では、そろそろ魔弾と呼ばれる所以を見せてみようか。

    ―此処で30秒 予告まであと30秒 距離300 そして、魔弾がその片鱗を見せ始める

    To be Next [凶戦士の奮闘]

1145/ 特報7<大陸横断鉄道事件>
・投稿者/ ケツアゴ熊ちゃん
・投稿日/ 2006/11/16(Thu) 22:02:51


     【特報7】
     
     地球歴○二一○年 ?月 ?日
     
     <大陸横断鉄道事件>  

     地球歴○二一○年?月?日、【アーカバレルシティ】と【九龍シティ】を繋ぐ地下メトロ、【大型輸送超特急フォンディスタ】が初運行を行った。
     この輸送特急は従来の輸送列車を肥大化させたまま運行速度を上げた試作車であり、様々な物資を積み込まれた列車は大型電磁レールを利用して【九龍シティ】から【アーカバレルシティ】へと向かう。尚、安全に万全を期す為、車両内にはACが配置されていた。 
     そして問題の11;23分。列車が地上中継点に差し掛かった時、潜伏していた【イーヴル・イーゲルス】が列車に侵入。同時に五号車に積まれたコンテナの一つにAC《ガランシエール》が潜んでいた事が監視カメラの映像により発覚。一転、車内は戦場と化した。
     しかし乱戦の最中、最後尾に積まれていた半壊ACが突如《GHOST》化。最期に搭乗していた秘密結社《Excavate Cannonball》構成員の遺志を継ぎ、自らを撃破した《M・ガーディエル》を探して車内を彷徨い始める。
     結果として防衛側ACの機転により《GHOST》はレール上に落下、【大型輸送超特急フォンディスタ】の車輪に巻き込まれてレール上の藻屑となった。一方【イーヴル・イーゲルス】がレール上に爆弾を仕掛けていた事が発覚したものの、《ガランシエール》が呼んだ《ブラックゴート》の活躍により列車は停止。
     数時間後、レール上に鎮座した満身創痍のフォンディスタには既に無粋な乗客達の姿は無く、防衛ACから提出された映像データによりこの件が発覚する事となった。
     彼等の目的が物資の簒奪であった可能性は高いが、《ガランシエール》が積み荷に紛れていた、また運行ルートが【イーヴル・イーゲルス】に露見していた事から、企業側は内通者の存在を懸念。企業を挙げた内通者探しの引き金となる。




     <特記事項> 

     ・秘密結社《Excavate Cannonball》
     奇想天外なテロを行おうとした武装勢力だが、その最中に【C-LAWS】のACを簒奪した事によりAC《M・ガーディエル》によって壊滅。回収されたACはパーツの下取りの為にアーカバレルに輸送される筈だったが、列車内で突如《GHOST》化してしまう。

     ・《ブラックゴート》   
     黒山羊。破壊狂。弾幕王。死者からの使者。ワンマン大殺界。人類災害など数多の通り名を持つ伝説的な存在であり、一時は【レイヴンズ=ケイジ】のシングルナンバーとして名を馳せた化け物。
     <放鳥の日>以後も様々な事件を”力押しで”解決しており、彼こそが最強なのではないかという声も多い。
     この事件では【大型輸送超特急フォンディスタ】のレール上に立ちふさがり、弾幕の着弾衝撃で列車を脱線させるという非人間技を見せている。

     

1157/ 『暴帝再臨』
・投稿者/ ケツアゴ熊ちゃん
・投稿日/ 2006/11/16(Thu) 22:15:06


     『さて…そいつはどうだかな?』


     高速で走行を続ける列車の中。 
     色も武装も不揃いなMT達に囲まれながら、夜色のACは静かに反論の声を上げた。
     対するMT達の先頭に立つエメラルドカラーの四脚型は、小馬鹿にしたように鼻を鳴らすと両手のマシンガンを突き付けた。
     それに応じるように周囲のMT達が一斉にレパートリーに富んだ銃を構え、貨物室にマフィア映画の一シーンのような光景が展開される。
     全てのMT達に刻まれた『ハリネズミのように武装したハリネズミ』のエンブレムが、火花を散らすACを嘲笑う。

     『ハッ、ちっとは現実を見つめたらどうよ? ありきたりだが言ってやるぜ。”この数相手に勝てるつもりか?” ”元トップランカーさんよぉ”』 

     負け惜しみにしか聞こえないAC一一《ガランシエール》の呟きに、《ガントレット》もまた安っぽい皮肉を投げ返す。
     そんなやりとりを続けながら、《ガントレット》は得意の絶頂だった。
     【イーヴル・イーゲルス】を立ち上げて早一年半。こんな些末な略奪作戦で元トップランカーの首を取る機会が得られるとは。
     実力にも統率力にも恵まれず、俗に言う二流三流のレッテルを貼られ続けた彼にとって、自分を凌駕する強者一一しかもその象徴とも言えるトップランカーを倒す事は、一種の夢想でもあった。
     誰よりも敗北を嫌い、名声を欲して止まず、終わるとも知れない雌伏の時を這いずり続けてきた雑魚の前に、力の象徴が片膝をついている。その事実を最大限に噛み締めながら、『三下』が『暴帝』に勝ち誇る。
     
     『ぁあ…もっぺん言わせて貰うぜ。王様よぉ…玉座から十三階段に転げ落ちた気分はどうだ? 所詮権力も名声も数の前にゃ蟷螂の斧なんだって思い知らされた気分はよぉなぁおい!』
     
     カメラ・アイをギラギラと輝かせ、《ファランクスD-22》が前後の脚をバタつかせる。
     そんな事をしている間に撃たれそうなものだったが、《ガランシエール》も防衛ACも夥しい量のMTに迂闊に動けないのか、攻撃は一切飛んでこなかった。その事実に、自分が完全に事態を掌握している事を確信し、《ガントレット》のテンションがまた一段と跳ね上がる。
     が、天井知らずの余裕に水を差すかのように、《ガランシエール》が”口撃”を飛ばす。

     『数…ねぇ。…そうだよなぁ、数は力だよなぁ…認めるぜ、三下ぁ』
     『その三下に殺される手前の身の上を地獄の底で悲嘆しろ』

     全く尊大な態度を崩すことなく切り返すと、《ファランクスD-22》が片手のマシンガンを持ち上げる。合図に答えて傍らの神盾が担いだ大型ランチャーを構え、コンテナを背に立つ《ガランシエール》に向けた。
     恐らく、腕を振り下ろすのを攻撃の合図にするつもりなのだろう、不揃いなMT達が揃った動きで大小様々な銃を向けた。

     『さて、と。冥土の土産も教えねぇし最期の遺言も聞かねぇぞ、死にフラってのが立つからな』

     冗談めいた嘲笑と共に、ジャキリという多重奏が心地よいほどに鳴り響く。
     周囲のMT達が動きを止めたのを満足そうに見渡し、《ファランクスD-22》もまた高々と掲げたマシンガンを振り下ろさんとしていた。
     対する《ガランシエール》は、黄金色のレーザーライフルをダラリと下げたまま、全ての射線の交差点から動かない。
     とうとう十三段目まで登り詰めた緊迫は、昇華の刃となって王者の首を落とそうとしていた。

     
     一方、完全に事態から置いて行かれる形となった防衛ACは、逃げるにしろ攻撃するにしろ、銃撃が始まった時が好機だと踏んでいた。
     《ガントレット》はこちらを見くびっているのか、こちらに向けられた銃口は一つもなく、またMT達の意識も《ガランシエール》に集中している。その間に、《ファランクスD-22》を撃てればと。
     銃を目立たないように構えたACは、その瞬間を逃すまいと、貨物室の中に神経を張り巡らせ一一ある一点に意識を集中させた。
     神経の辿り着く先は《ガランシエール》でも《ファランクスD-22》でもなく、積み上げられたコンテナの上。壁の照明も届かない闇の中に、ふと小さな光が揺らめいている事に気が付いたからだ。
     その光は丁度カメラ・アイくらいの大きさで、それがどんどんと大きくなっていて、”しかも、それが一つや二つではなく”一一
     

     腹に来る着地音が鳴り響き、全ての状況が一変した。

     
     続いて響いた轟音は、高く高く積み上げられたコンテナの上から飛び降りたシルエットが、神盾のランチャーを撃ち抜いた音だ。

     『…なッ!』

     落下してきたACに慌てて発射されたランチャーの弾は、しかし砲口を通過する事なく砲身の中で炸裂した。   
     発射寸前だった弾頭が、砲身ごと”黄金のレーザーライフルに貫かれて”。
     肩口で起こった爆発に横転した神盾の横で、隣に立っていた《ファランクスD-22》が爆風のアオリを喰らって蹌踉めいた。
     突如《ガランシエール》の前に立ちふさがったACに、【イーヴル・イーゲルス】達は混乱しながらも手に手に持った銃を振り向けた。
     だが、夥しい銃口が無骨なオーケストラを奏でようとする前に、それを許さない存在”達”が更に高みより舞い降りた。

     
     轟音、轟音、また轟音。


     まるで砲弾の嵐のように、着地音が世界を揺らす。
     《ガランシエール》と【イーヴル・イーゲルス】の間に立ちふさがるようにコンテナ群から舞い降りてきたのは、都合三体の二脚型AC。 
     列車の走行音と相まって歪な大合唱がコンテナの山に反響する中、その場にいたレーダーを搭載したMT達は気が付いた。
     突如として現れた4体のAC。その反応が、今も現在進行形で増え続けているという事に。

     『何だよ、これ…』
     
     誰かの蚊の鳴くような呟きに、答える者は誰もいなかった。
     ただ、その代わりとでも言うように、その貨物室に積み込まれていたコンテナというコンテナの蓋が一斉に音を立てて開いた。
     その中から現れた『反応』達は瞬く間に【イーヴル・イーゲルス】達の周囲に舞い降り一一

     『何だよ…何だってんだよこりゃぁよぉぉおッッッ!!』

     《ガントレット》が自らを取り巻く異常に耐えきれず悲鳴を上げた時一一《ファランクスD-22》達は、自分達を遙かに凌駕する数のACに囲まれていた。
     だが、《ガントレット》が異常と感じたのは単にそれだけの事ではない。
     無論、何十というACに囲まれるという時点で充分に異常だったのだが一一何よりも異常だったのは、自分達を包囲する機体全てが《ガランシエール》と同じ構成の機体だった事だ。
     あまりの反応にフリーズしていた《ファランクスD-22》のコンピュータが、そこでようやく事務的な合成音を紡ぎ出す。
     淡々と、あまりにも淡々と。


     『AC、《ガラソツエール》です。エネルギー兵器を主体とした戦闘スタイルを…』
     『…ッ?!』


     その音声に覆い被さるように、更に複数のアナウンスが。

     
     『AC、《力゛ランシ工ール》です。エネルギー兵器を主体と…』
     『AC、《ガうソシエール》です。エネルギ…』
     『AC、《ガランシエ一ル》です』
     『AC、《ガランシエーノレ》です』
     『AC、《力゛うソツ工一ノレ》です』
     

     もはや、明白だった。
     

     『AC、《ガランツエール》です』『AC、《ガラソシエール》です』『エネルギー兵器を主体とした』『《ガランツエーノレ》です』『気を付けましょう』『《力゛ランツエーノレ》です』『AC、《ガランシ工一ル》です』 『AC』『中距離戦闘を得意とする』『有効でしょう』『《ガラン『AC、《ガラソシ』です』『A』『C『『『AC『』『』『A』CAAAACA、A一一一一


     気の狂うような電子音の渦が収まったとき、彼らは射線の中にいた。
     トリガーを引くでもなく、距離を詰めてくるでもなく、まるで背信者を処刑する教徒のように銃口を向ける《ガランシエール》達。
     円形に包囲する形では同士討ちになる可能性もあるが、それをも計算のうちだとでも言うかのように。

     『一一数は、力だ』

     不意に、大量の贋物の中に埋没した《ガランシエール》が、囁くように呟いた。

     『数は力だ。お前もそう思うだろう? けどな、俺はあれだ、”欲しいんだよ”』

     一体何が言いたいのかと罵声を浴びせたかったが、あまりに直接的な圧力に喉が枯れたように声が出ない。
     そんな【イーヴル・イーゲルス】達を無視する形で、《ノストラダムス》は己の望みを、淡々と淡々と淡々と。

     『数だけじゃねぇ、俺は質も欲しいんだよ。…いや、質だけじゃねぇ、権力もだ。いや名声も、美も、身分も、女も男も老人も子供も地下も地上も御伽話みてぇな超能力も魔法も伝説の剣も一切合切なにもかも一一”今手前が吸ってる空気から蟻んこの足一本まで、何もかもが欲しいんだよ、俺は”』
     
     どうしようもなく狂った男の、どうしようもなく強欲な言葉。
     だが、状況が状況だけにその言葉は力ある響きをもって【イーヴル・イーゲルス】達の心臓を掴む。
     その事実を誤魔化そうとして舌打ちをした《ガントレット》は、そこで自分の口が動くことに気付いて最も単純な疑問を投げかける。

     『何だテメェら…何でこんな…』
     『…ぁ? こいつらの機体か? ”買ったに決まってんだろうが”』

     虚勢さえも失った《ガントレット》の疑問に、《ノストラダムス》が実にあっさりとありえない言葉を返す。
     現在《ファランクスD-22》達を取り囲んでいるACは三十近くにも上り、それらを構成するパーツ全てを買える財力を持った人間など、地下にもそうはいないだろう。ただでさえ《ガランシエール》のアセンブルは高級ブランドで堅められているというのに。
     そんな疑問など全く問題ないとでも言いたげに、《ノストラダムス》は種明かしを始める。

     『株だよ、株ぅ』
     『…ぁあ?』
     『まだケイジがあった頃よぉ…幾つかAC製造担当してる子会社に投資しといたんだよ。もう何人も役員送り込んでよ、殆ど俺の会社っつってもいい。笑えるよなぁ…企業が一在野レイヴンにヘコヘコして言いなりになってるのを見るのは! 一番最高なのは、”ライバル会社をちょっと襲撃するだけで、簡単にマネーゲームに勝てる”って事なんだけどなぁ!』

     狂々と叫びながら、《ノストラダムス》が更に自分の空気を濃くする。
     貪欲に貪欲に、全ての空気を奪い尽くさんと。

     『ホントは、こいつらアーカバレルの方で動いて貰う為に載といたんだわ。コンテナの積み込み担当してたのが俺の息の掛かった会社でよ…ま、そっちに資金裂いちまった所為で、こいつらの内装は69シリーズになっちまったんだけどな?』

     マンガによく見られるような、絶対優位の種明かし。
     恐らく、周囲のACに乗っているのは、トップランカー時代から増えに増えた、王者の影武者達なのだろう。
     ふと、《ガランシエール》思い出したように《ファランクスD-22》を見下ろすと、今までのそれとは全く違う威圧感をもって奇妙な事を言い出した。

     『…ああ、そういやよぉ、何処まで話したっけか? さっきの俺が何もかも欲しいって話よぉ』
     『…何だと?』

     しかし威圧感には違いなく、【イーヴル・イーゲルス】の面々の背中に冷たい筋を走らせた。
     だが一一次の瞬間その冷たさは直ぐに熱い焦燥に変わり、嫌な予感は明確な警報に変わる事となった。
     シンクロナイズドスイミングのように一斉に構えられた、三十近い黄金のレーザーライフルによって。


     『いや…だからほら…俺は欲張りだからよ、今この瞬間も欲しくて欲しくて堪らねぇんだ』



     
     『だから、よ一一”お前の命もくれよ”、三下ぁ』
     


     一一『Kowloon a flash 7』 closed一一


1146/ 特報8<真・放鳥の日>
・投稿者/ ケツアゴ熊ちゃん
・投稿日/ 2006/11/16(Thu) 22:03:38

     
     【特報8】
     
     地球歴○二一一年 バレンタインデェ
     
     <真・放鳥の日> 
     
     端的に言えば【C-LAWS】隊長《ゼカリア》及びそれに賛同した隊員による【C-LAWS】離反事件だが、一部のレイヴンには「本当の鳥篭をブチ破った」として<真・放鳥の日>と呼ばれている。
     兼ねてから数々の事件裏で不審行動を取っていた【C-LAWS】隊長《ゼカリア》が、突如自らに賛同する【C-LAWS】隊員を率いて企業からの独立を宣言、当初15機からなる部隊を組んで【九龍シティ】内の通信施設を占拠した。
     更に、反乱部隊壊滅を受けて現場に急行した隊員達が《ゼカリア》の説得により寝返る始末。また施設から海賊放送による呼びかけが為され、《ゼカリア》の演説に賛同した隊員達によって反乱部隊は三十近くに膨れ上がる(この時【C-LAWS】の隊員数は総勢三十六名であり、隊員の実に六分の五が離反した事になる)。
     事態を重く見た軍はもう一つの実動部隊【デルタ】により反乱部隊排除作戦が敢行されるが、《ゼカリア》指揮の元迎撃態勢を整えた隊員達は通信施設を砦に籠城戦を展開。敵部隊が疲弊した隙を突き、誰一人として欠ける事なく【九龍シティ】を脱出する。
     この件によって危うくレイヴンの存在を世間に露見させそうになった企業は、《ゼカリア》及び離反隊員に相場の三割り増しの賞金額を掛け、ここに至り企業と離反派との対立は確かなものとなった。  
     また、残された元・【C-LAWS】隊員は各企業の専属として迎え入れられ、この事件を境に実動部隊【C-LAWS】は軍部から抹消。レイヴン情勢は日に日に激化の一途を辿る。




     <特記事項>

     ・《ゼカリア》
     元・実動部隊【C-LAWS】隊長であり、【第二次企業紛争】後期に死亡したと噂される元シングルナンバー。
     噂の真偽は兎も角本人のカリスマ性は【第二次企業紛争】の頃から全く衰えておらず、十五名近くのレイヴンを説得した手腕はこの紛争において見えない脅威の一つと言える。元々傭兵よりも指導者としての資質が優れていたようで、指揮官というよりは煽動者と言った方がしっくり来るだろう。
     最近、自分が《GHOST》だという疑いを掛けられているのが悩みの種なんだとか。 
     
     ・海賊放送
     残留した【C-LAWS】隊員の離反を促すべく放送された、一夜限りのラジオ番組。
     内容はDJ《メンティス》とMC《インフォモチーフ》によるトーク番組で、匿名希望さん(元企業専属)をゲストに招いて企業の暴露話をする傍らスカコアミュージックを流すという滅茶苦茶なコンセプトの元放映開始。
     企業の不正や汚職を始め、ある企業重役の息子の溺愛ぶりだとか、とある製品課長の奇行だとか、その上司の終わりっぷりだとか、ある御曹司と令嬢と執事のかけあいだとか、ガーランド社長アンドールズの小学生時代の文集だとか何でも来いだコノヤロー精神で当人達が完全武装で乗り込んで来そうな話を次々と暴露。
     その一方で《ゼカリア》のレイヴン精神論だの通称グレ師匠の「こちらに付かなきゃ37564(古ッ?!)」宣言などが盛り込まれ、【九龍シティ】の夜は阿鼻叫喚のカオスと化した。
     また、DJ《メンティス》の糞野郎発言やMC《インフォモチーフ》の私は神である発言など、番組中に不適切な発言が乱発しました事をここでお詫び致します(【C-LAWS】一同)。



1158/ 『C-LAWSFM』
・投稿者/ ケツアゴ熊ちゃん
・投稿日/ 2006/11/16(Thu) 22:15:55



     (バックにビタースウィーツサ○バが流れている…



     《インフォモチーフ》(以下イ)「今日も元気に地べたを這いずっておるか愚民共。今夜から始まったというか今夜限りの海賊ラジオ【C-LAWSFM】。進行は吾、DJ《インフォモチーフ》とそこの塵芥である。ラジオの前にひれ伏して有り難く拝聴するがよいぞ」


     《メンティス》(以下メ)「誰が塵芥ですか糞野郎。あ、申し遅れましたね。私MCの《メンティス》です。今夜限りの放送ですが、どうぞ最後までお付き合い下さい糞野郎共」 
     

     イ「本性はみ出とるぞ、本性。…それはさておき本日最初のコーナーは『【C-LAWS】に100の質問』…の予定だったが、んなダラダラ答えてられんので最も多かった質問を幾つか取り上げてしんぜようぞ」
     

     メ「実は100も質問が集まらなかっただけじゃ…」


     イ「黙れ糞野郎」 


     メ「Σ( ̄□ ̄;)<ちょ、それ、私の台詞…」


     イ「ガタガタ抜かすでない、神の御前である。さて、本日最初の質問は、『《スリートゲイザー》さんは本当に《ストリートゲイザー》じゃないんですか?』であるぞ! お便りをくれたのは【九龍シティ】在住、ラジオネーム《ゼカリア》さん(年齢不詳)、とな」


     メ「…隊長酷?! ま、どうでもいいですね。という訳で早速噂の本人に通信を繋いでみましょう。追撃部隊迎撃中の《スリートゲイザー》さーん?」


     《ストリートゲイザー》(以下ス)『一一左腕損傷! 隊長、このままでは持ちこたえられませ…ぁ、もしもしー?」


     メ「あれ、お取り込み中でした?」

      
     ス『いえ、少々味方部隊が劣勢なだけです。所で、私の名前がストリートになっているのはささやかな嫌がらせでしょうか』


     メ「あれ、本当ですね。失礼しました《ストリートゲイザー》さん」

     
     ス『…今から【トリニティ】に寝返っていいですか?』


     イ&メ「「心の底からごめんなさい」」

     
     ス『そろそろ《アリオルムナス》のAPが少なくなって来たので、手短にお願いします』

     
     イ「そうカッカするでない。負けるぞ。…さて、貴様への質問じゃ。【九龍シティ】在住の《ゼカリア》(年齢不詳)さんから、『《スリートゲイザー》さんは本当に《ストリートゲイザー》じゃないんですか?』との事じゃ。とっとと答えぃ」

     
     ス『…オー○事電話していいですか? それはともかくとして、私は断じて《ストリートゲイザー》ではありません。と言うか直訳すると<街路を見つめる者>ってなんですかソレ。私に道を観測させて何がしたいですかマジで。全くもって失礼な話です。死ねばいいのに』

     
     メ「成る程、質問の答えは「死ねばいいのに」。《ストリートゲイザー》さん、有り難う御座いましたからさっさと消えろ糞野郎」


     ス『ぁ、テメまたストリートって一一(通信中断

     
     イ「……(^^;)」


     メ「では次の質問行ってみましょう。《インフォモチーフ》さん、お願いします」


     イ「うむ、次のお手紙は…お、丁度良いではないか。ラジオネーム、【C-LAWS】有志一同さんから、『隊長が《GHOST》だという噂がありますが、本当ですか?』との質問じゃ」


     メ「これはまた思い切った質問ですね。って言うかこの有志私も参加してます」

     
     イ「うむ、吾もじゃ」


     メ「…」


     イ「…」


     メ「それでは早速本人に繋いでみましょうか」


     イ「うむ。現在上層東地区のベーカーストリートでサボっている《ゼカリア》隊長ー?」


     《ゼカリア》(以下ゼ)『もしもし、私だ。堂々とラジオで現在位置を放送して頂いた御陰で【デルタ】の連中に見付かった所だどうしてくれる《インフォモチーフ》』


     イ「頑張って逃げるがよい。所で、《ストリートゲイザー》さん曰わく「死ねばいいのに」だそうです」


     ゼ『ふーん。じゃ、彼クビね』


     メ「隊長《ストリートゲイザー》さんには容赦ないですね。っていうかツンデレ? …ところで質問に移らせてもらいますが、『隊長が《GHOST》だという噂がありますが、本当ですか?』との質問が来ているのですが、どうでしょう?」


     ゼ『…………………………………………そんな訳ないだろう』


     イ「何じゃその《Redemption》張りの間は。…まあよいわ。ちなみに隊員からは、『こないだ構え無しでキャノン撃ってませんでした?』との声もあるが」


     ゼ『プラズマの仕業です』 

     
     イ「…」

     
     メ「《AGNUS-DEI》のコクピットから常識を逸する笑い声が聞こえたとの噂も…」  


     ゼ『全てはプラズマで説明できます』
     

     イ「…」


     メ「…」


     ゼ『…』


     メ「ところでゼカリア隊長、こないだ私の彼女殺しましたよねw」


     ゼ『その件については黙秘させて頂こうかなw』


     メ(何やら携帯を取り出して)「…あ、【デルタ】の皆さん? 今《ゼカリア》が東地区三丁目のロイヤル○スト前を逃走中ですよー」

     
     ゼ『おまwwwwちょwwwwwwww』

     



     AD「一端CM入りまーす」



     
     一一『Kowloon a flash 8』 closed…? 


1170/ 『レポート:敗軍の司令部にて』
・投稿者/ 前条
・投稿日/ 2006/11/24(Fri) 02:42:19

     離反した【C-LAWS】隊員は一人として欠ける事無く、【九龍都】を脱出。
     トリニティ側に留まった隊員は各企業の専属となり、トリニティより【C-LAWS】の名を持つ部隊は消滅。
     以降、【C-LAWS】とは≪ゼカリア≫に付き従った二十余名のレイヴンで構成される反企業勢力を指す単語となる。
     なお、総攻撃を行った【デルタ】は投入戦力の二割を喪失。叛乱部隊と交戦したトリニティ側レイヴンにも損害が発生。
     大損害を出しながら、確たる戦果を何一つ挙げる事の出来なかった鎮圧部隊指揮官に非難が集中した――これが、【真・放鳥の日】と呼ばれる事件の広く知られた顛末だろう。

     当記事は――その当日、鎮圧部隊司令部に詰めていた記者によるレポートである。



     【C-LAWS】叛乱――その報は、【C-LAWS】の存在を知る全ての人間に衝撃を与え、混乱の渦へと引きずり込んだ。本社の御膝元で叛乱を起こされたイージスは、【九龍都】全市にバグ大量発生と称した戒厳令を布き、投入可能な全戦力に緊急出動を命令した。
     順次到着するシティに駐留していたガーランド・RAC両社の部隊や、クーロンシティ・ガードの部隊を吸収し、統一された作戦行動が困難なまでの規模に膨れ上がった合同鎮圧部隊。その指揮を執るべく臨時に派遣されたのが、中佐の階級章を胸に下げて仮設テントに足を踏み入れた男だった。男の歩みは、僅かにぎこちないものだった。

    「ふん――俺が初めてだろうな。こんな数のACを敵に回して、指揮を執る人間は。貧乏籤を引かされたかな?」
    「いえ……マオ中佐が、それだけ期待されているという事でしょう。こちらの戦力も、かつてのカルナーウェン攻略作戦を彷彿とさせる規模です」
    「……あの時は、敵にACは一機しかいなかったよ――さて、状況の報告を」

     大敗北を喫したその作戦には大尉として参加し、右脚と最も信頼する部下を失った経験を持つマオは、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべて報告を促した。

    「はっ。新たに≪メーザータンク≫及び≪カルテット≫≪長元坊≫の三機が友軍信号を解除、叛乱部隊に合流しました」

     そう。叛乱部隊鎮圧の為に派遣された【C-LAWS】隊員は、彼等の隊長にして叛乱の首謀者である≪ゼカリア≫の説得により、次々に離反。当初、十五機であった叛乱部隊は三十近い数にまで増加していた。実に、全隊員の六割以上が≪ゼカリア≫に付き従って離反した計算になる。状況の推移によっては、離反隊員は更に増加する恐れもあった。

    「チッ……残りの連中もアテにはならんな」

     新たに苦虫を三匹ほども口に放り込んで咀嚼中のマオに、副官が報告を続ける。

    「我が社の専属レイヴンですが……≪コード・ジャクリーヌ≫≪カトウ ケイ≫の両名は配備完了。≪オートマティック・ダン≫は、三十分前に輸送機でメルビンドを進発。また、ACを含むガード部隊が合流しています」
    「ああ……確か、≪W・アープ≫だったか? ……フォートレイドの道楽息子はどうした?」

     ACに搭乗してクーロンシティ・ガードの一部隊を率いる女傑の名を、マオは記憶の片隅から引き摺り出して反芻した。世界最大の都市だけあって、【九龍都】のガードは優秀だ。ガード部隊とはいえ、それなりの戦力として期待出来る筈だった。
     しかし、肝心な一人が足りなかった。リャオ派幹部エリック=フォートレイドの長男、カイル=フォートレイド――レイヴン≪フィラメント≫――その名が、副官の報告には欠けていた。

    「その……休暇中で、連絡が取れないとのこと……」
    「……まあ、いい。他社の専属も、おいおい向かってくるだろうが……」

     言い辛そうに答えた副官に、マオは溜息を吐いた。それが本当ならば呆れる他はないし、嘘だとしてもマオの立場ではどうにもならない。

    「それと……先刻、≪アレクサンドライト≫というレイヴンを雇用したと本社から連絡が。在野レイヴンの模様ですが……」
    「在野? 上の連中も形振り構っちゃいられなくなった、って事か」

     緊急時とはいえ、無茶をするものだ。マオは、上層部の苦労を慮って首を振った。どんな形にしろ、表立って在野レイヴンを雇ったとなれば、ガーランド・RACからの非難を受けることは間違いない。第一にしてからが、【C-LAWS】の精鋭を相手に、在野レイヴンがどれだけ役に立つものかも判らない。最悪、レイヴンの精神やら理想やらを掲げる≪ゼカリア≫の説得に応じて寝返らないとも限らないのだ。元々、企業に従属する意思のないレイヴンが、今日の在野レイヴンと呼ばれる存在なのである。事後処理を考慮の外に置くにせよ、在野レイヴンの雇用がそう有効だとは、マオは思っていなかった。

    「……ま、戦力が多いに越した事はないが」
    「どうなさいますか、中佐。全部隊、攻撃準備は完了しておりますが……」
    「攻撃? 馬鹿言え、相手の思う壺だ。包囲態勢のまま守備を固め、現在位置の確保に努めるよう伝達しろ」

     【C-LAWS】が占拠した通信施設とその周辺街区は、ACの機動力を生かすに十分なだけのスペースが存在する。そんなところに大部隊を投入しても、【C-LAWS】の精鋭に翻弄され、大被害を出すのは目に見えている。かつて、戦死した指揮官に代わってカルナーウェン近郊で指揮を執った際は、大敗こそしたものの、残存部隊を無事に撤退させた手腕を評価され、戦傷勲章と共に少佐昇進の辞令を受け取った。それが、二度あると考えるほどにはマオは愚かではない。尤も、大佐を飛び越えて准将への特進は、十分に有り得る話だったが。

    「……守備ですか? しかし、それでは……叛乱が長期化すれば、呼応する勢力や在野レイヴンが現れないとも限りません」
    「いいんだよ。そんな事は、御偉方の考えることだ。いいか? こうして包囲を続ける限り、連中もそうそう手は出せん。攻撃に移るのは、増援が到着してからでも遅くはない」

     訝しげな表情を浮かべる副官に、マオは説明を続けた。≪ゼカリア≫に付き従っているのは、ニ十数名のレイヴンのみ。戦力としては莫大な規模ではあるが、レイヴンに交代要員は存在しないし、整備員も随伴していない。また、施設への送水・送電をストップさせている。食料とて、さしたる量は無いだろう。幾ら強靭な体力と精神力を併せ持つレイヴンといえど、生身の人間――ではない者も存在するが――長期に渡る篭城は不可能である。マオは、そうした後に投降を呼び掛ける腹積もりだった。

    「包囲を続行したまま、小部隊による攻撃を繰り返して、連中に消耗と出血を強いる。我々と違って、連中は補給も整備も受けられないからな」
    「はっ、了解しました」

     各部隊へ命令を伝達すべく、通信士の元へ走り出した副官の背を見遣って、マオはもう一度だけ溜息を吐いた。副官の懸念は、ある意味では当たっている。実際に各反抗勢力が歩調を合わせて蜂起しようとも、トリニティはその程度で倒れる程にヤワではない。だが、上層部はそのような事態を必要以上に恐れ、作戦指揮に介入してくるだろう。そうなれば、無謀と判っている総攻撃を行う以外にはない。それまでに、どれだけ叛乱部隊を消耗させる事が出来るか。マオにとって、それが一番の難問だった。



    『全ては理想の為、復活の為――』
    『――≪ゼカリア≫隊長の演説の最中ですが、ここで一曲――』



    『――トリニティに与した≪アレクサンドラ・伊藤(仮名)≫さんへ、≪ゼカリア≫隊長からのメッセージが――』
    『――仮名になってませんね、糞野郎』



    『――このような研究は、神である吾ならば兎も角、人間が踏み入っていい領域ではない――』
    『全く非人道的な実験ですよね――ところで、誰が神なんですか、糞野郎』



    『ここでフォートレイド家嫡男とアーレンクライン財閥当主の恥ずかしい会話を大暴露――』
    『――これは凄いですね、ロリ野郎』



    「――【デルタ】が?」

     包囲を開始して、六時間。一向に進展せぬ状況に業を煮やした軍上層部は、【C-LAWS】に並ぶ実働部隊【デルタ】の出動を決定。これ以降、事態は急速に進展する事となる。

    「はっ。これだけの戦力を擁しながら、消極的に過ぎると――こちらが動かねば、【デルタ】だけで総攻撃を行う……との事」
    「チッ、猪共が……そう簡単にいくものかよ。攻撃衝力の尽きた隙を突かれて、逆撃されるのが関の山だ。勝手にやらせておけ」

     予想はしていた事とはいえ、マオは現時点での総攻撃に賛同する気にはなれなかった。真っ当な理由があるなら兎も角として、これまで募りに募った【C-LAWS】への対抗心ばかりで総攻撃を主張する【デルタ】に付き合って部隊を消耗するつもりは、欠片もなかった。
     しかし、動き出した状況は、既にマオのコントロールを脱して加速を始めていた。仮設の指揮テントの中に、予想外の事態を報告するオペレータの声が響いた。

    「これは……一部部隊が、【デルタ】に同調する様子を見せています!」
    「……なんだと? 何処の部隊だ、馬鹿野郎……指揮官を呼び出せ!!」
    「駄目です、中佐! コールに応じません!」

     展開中のガーランド部隊とシティ・ガードの一部が、突撃態勢に移行。また、各社の専属レイヴンのうち、血気盛んな数名が【デルタ】と共に前進を開始していた。この重要な局面で、包囲部隊が寄せ集めの混成部隊である事がマイナスに働いたのだ。
     既に、それらを止める手段はマオの手には残されていなかった。副官が、疲労に満ちた声を挙げた。

    「陣形が崩れれば、どのみち敵の反抗は防げません……中佐?」
    「……包囲網の一部を手薄にしておけ、そこからお帰り願うとしよう」

     これまで、小規模な挺身隊による攻撃を幾度となく繰り返し、叛乱部隊を心身・弾薬の両面で圧迫してはきたものの、その代償として、挺身隊の大半が未帰還もしくは再出撃が不可能なまでに破損している。本来ならば、部隊の再編成が必要だった。総攻撃を行うのであれば、最低でも明朝までは待つべきだとマオは考えていた。【デルタ】が撃退された後に予想される叛乱部隊の逆撃を防ぐ為にも、マオは指揮下の部隊を動かすつもりはなかった。だが、その目論見は脆くも崩れ去った。かくなる上は、予想される大損害を低減する為の手段を講じる必要があった。ここで全部隊が壊滅すれば、以後の作戦行動に少なからずの影響をもたらす。叛乱部隊や各反抗勢力への対処は元より、現在でさえ御世辞にも良いとは云えない【九龍都】の治安にも悪影響を与えるだろう。そんな事態だけは、避けなければならなかった。

    「それは……宜しいのですか?」
    「無謀な戦いで部下を死なせるのは、もう御免なんでな。俺のクビ程度で済むなら、安いものだろうよ」

     意図的に叛乱部隊を脱出させたとなれば、少なくとも更迭・降格――あるいは、本当に首が胴から離れるかもしれない。その覚悟を悟ったのだろう。副官もそれ以上の反論は行わず、マオの示した方針の範囲内で、幾つかの提案を行った。

    「では……そのルートに、トラップを仕掛けるよう手配します。レイヴンも幾人か。上手くすれば、上への言い訳になるかもしれません」
    「……手早くしろよ。【デルタ】の連中が、そう戦線を維持出来るとも思えんからな」
    「ははっ……あれだけ大きな口を叩いたんです、少しは保って貰いませんと」

     二人の男は互いに一瞬の笑みを浮かべると、其々の役割を果たす為に全力を尽くした。
     もし、全力で叛乱部隊の脱出の阻止に当たっていれば、数機のACは破壊出来たかもしれない。だが、その数十倍の人命が代償として失われていただろう。
     もし、【デルタ】が無理な総攻撃を行わなければ。もし、彼の指揮下に置かれた部隊が命令無視をしなければ。もし、叛乱部隊が彼の行うつもりだった降伏勧告に応じていれば――歴史に、IFはない。しかし、選ばれる事のなかったその未来では、流れる血の量は遥かに少ないものとなっていただろう。そう、私は思う。

     ――この記事が、彼の名誉を回復する事を願って止まない。

1172/ 『rebellion』-1-
・投稿者/ スペランカー
・投稿日/ 2006/11/24(Fri) 02:46:30

     トリニティの移動指令部として運用されている陸上艦「崑崙」。全長約450m、全幅約250mの双胴型の大型地上艦である。100機以上のMTや戦闘機を搭載でき、乗員は最大で7500名だが、通常航行に必要な人員は1000名程度で平気である。これ程少ない人数で運用できるのも大部分を無人化した艦を正確に制御できる高性能な中枢コンピュータのおかげなのである。普段はアーカバレルとの物資輸送路が集中するクーロン北部からチンハイ湖岸沿いにチンハイ湖東へ出る経路を巡回するだけである。基本的に航行しっぱなしのこの艦は輸送機で必要な物資が運ばれてくる。

    「白鶴の着艦を確認。物資の搬入はそのまま継続。」

     指令センターを兼ねる崑崙の艦橋は普段以上に騒がしい。
     理由はトリニティの実動部隊C-LAWSが反乱を起こした為だ。昨日未明にC-LAWSの隊長ゼカリアがクーロンシティの通信施設を占拠してからトリニティ本部との連絡が取れていない。物資の搬入作業を急がせながら通信手段の復帰を急がせる。
     崑崙のブリッジは周囲を見渡せるように長大なスクリーンのようにガラスがはめ込まれている。戦闘時は外側の防壁が覆い、そのまま外界を映すスクリーンとなる。スクリーン上部には、航路ディスプレイなどが並び、最先端の技術が用いられている。そしてブリッジ内の一段低くなった所はCDC(戦闘指令センター)となっており、出撃中の戦闘機やMTの位置やその機体情報を映すディスプレイや長距離索敵などの各種レーダーディスプレイ、艦載武装のコントロール卓や発着艦状態を表示するディスプレイなどで埋め尽くされている。
     それら全てを見渡せるブリッジ中央の一段高い場所にある艦長卓に座ったネイルソン・ハワード中将は女性職員の持ってきた搬入物資の受領証にサインをしていた。どこかで見たようだが、印象の薄い顔だな、と思ったが特に気に止めずにサインする。最後の一枚にサインを書こうとしたその時――

    「!?」

     艦の外で爆音が鳴り響く。そしてハワード中将は何事かと腰を浮かせるが、女性職員が拳銃を中将に向ける。

    「…動かないで」
    「貴様ッ! 何の――」

     ブリッジ外部で銃声。そしてシステムの一部がダウンする。それと同時に銃を手にした黒衣の集団がなだれ込んでくる。そして抵抗する通信員を射殺し、代わりに席について行動を開始する。
     そして中将に拳銃を向けている女は黒衣の集団に指示を出す。その冷ややかな声と冷徹な眼差しに少々は憶えがあった。

    「ローレライ! 貴様、何故ここに!」

     女は編んでいた髪をほどき、顎を引いて眼鏡を外す。

    「見て分からないかしら? この艦をいただく為よ。」

     ローレライは感情を見せずに告げる。

    「ブリッジの占拠は完了した。各員はそのまま艦内の掃討を続行せよ。」
    「投降者は一ケ所に集めて監視。MT、武装のチェック急げ。」
    「《メリエス》、《ベリエス》の合流を確認。」
    「ローレライ、航路変更に艦長の暗唱コードが必要です。どうしますか?」

     操艦座席に着いていた若い部隊員が尋ねる。ローレライは艦長席に着いている中将に顔を向けるが、

    「教えるはずが無いだろう」

     と、中将は一蹴する。するとローレライは後ろに控えていた部隊員に合図を送る。

    「別室で自白剤を投与、コードを聞き出しなさい。多少無理をしても構わない。」
    「了解した。」

     と、部隊員は少々を拘束し両脇に1名ずつ、そして背後に1名立たせて中将を連行する。

    「ぐっ、貴様……」

     その言葉を最後に中将はブリッジから姿を消した。


             ●


     輸送機が崑崙のデッキに着艦する。ブレーキを掛けたギアが耳障りな音を立てる。
     ストーク――コウノトリと名付けられたガーランド社製の輸送機だ。設計自体は旧式だが、複合装甲を用いた頑丈な造りと飛行速度の速さから、敵地侵入などでいまだに使用されている。
     胴体側面の扉が開き、中から男が降りてくる。C-LAWS隊長、セカリア。長身でしなやかな体つきだが、痩せている印象は無い。銀髪を風になびかせながら輸送機から降りる。

    「艦の奪取は完了。物資の積み込みも次の便で最後です。」

     キリーはデッキを歩くゼカリアの横に付き、状況を報告する。

    「…そうか。シャオロン基地の方はどうなっている?」
    「制圧は完了しているようです。いつでも艦の受け入れはできると。」

     甲板をブーツが弾く。砂を含む風に少しだけ眉を潜めブリッジへと向かう。

    「艦長は?」
    「自白剤を投与し艦の暗唱コードを吐かせて、今は艦長室で拘束しています。」
    「案内してくれ。」
    「はい。」


             ●


     意識がまだ少し朦朧としている。自白剤の影響が残っているのか。
     自らの艦長室の自らのイスに拘束されているハワード中将は見張りの男二人を見る。知っている顔だ。どちらも所属は違い、片方はデルタのMTパイロットだった男。もう一人はオペレーター業務についていた。何度か顔を合わせたことがある。
     艦長室のドアがノックされる。
     一人がドアを開ける。もう一人は銃を構えたが、ドアの外にいた人物を見て男は銃を下ろす。入ってきたのは男が二人。その意外な人物に中将は驚く。

    「これはハワード中将。御機嫌いかがですか? 縄が締め付けて痛い様でしたら普通の手錠に代えさせますが。」
    「ゼカリア…貴様がこの反乱の首謀者か…」
    「ええまぁ。しかし一応私が指揮してはいるがC-LAWSや他の皆はそれぞれ思惑があるようで、私の意思で全てが動いているわけではないのだが。」

     ゼカリアは付き従っていた若い男と見張り役に外に出るように促す。

    「しかし私が勝手に巻き込んだことには変わりありませんがね。」

     C-LAWSに所属するレイヴンは企業の意向で動かされているが、実際にはC-LAWSはゼカリアが集めた人材による彼の部隊と言っても良い。事実、企業はそう認識しC-LAWSを使いながらも内部に監視役を潜り込ませていたりする。故にゼカリアが反乱を実行した瞬間にC-LAWSに属する全てのレイヴン・人員が企業から反乱分子とみなされ処分の対象となる。

    「企業に従ったフリをしていたのか…この反乱を起こす為に」
    「正確には反乱を起こす為に企業に忠誠を誓ったフリをしたのでは無い。ただあのときは企業とガレルの両方を敵に回すような状態は避けたかったのだよ。雇われて味方と敵を変える身分では企業とガレルから恨みを買うのは当然だ。傭兵といえどいずれは両方から処分の対象になる。だから形の上でも企業に忠誠を誓ったのだよ。それにしてもしかし、所詮傭兵なんてものは自分しか信じない生き物だ。それを従えさせることが出来ると本気で思っているのか、貴方は?」

     侮蔑を含んだ眼差しで中将を見下ろし、髪を掻き揚げる。

    「……反乱の目的はなんだ。」

     ハワード中将はゼカリアを睨み付ける。

    「君たちもある程度は知っているだろうが、今トリニティの上層部ではレイヴンを処分しようとしている動きがある。前々から無くは無かったが、最近ではその動きが活発化してきている。」
    「……」
    「そして三社共同で開発されているACに匹敵するスペックを持ったMT。コストも半端ではないが、性能はACに匹敵する。おそらく制御を行なうのはガーランドの、あの人形の改良型。そしてそれが完成すればレイヴンという信頼性に欠ける存在は企業にとって不要になる。待っていれば捨て駒か、実験材料か。抗おうにも企業相手に私達「個」では勝ち目は無い。だから反乱を起こす必要があったのだが、君たち企業がやってくれたこの前のターミナルの一件、それで軍内部でも企業に対する不信感をあらわにする者も出始めてくれた。本当にいいタイミングだったよ。」

     ゼカリアは腕時計を見やり、そしてまたハワード中将を見下ろす。

    「そろそろ時間なので失礼させてもらう、中将。もう会うことも無いだろう。」
    「待て!」

     ゼカリアが部屋から出ると同時に見張り役だった男達が入ってきた。そして手にした短機関銃の銃床で思いきり中将の頭を殴りつけた。視界一杯に火花が散ったような景色が浮かび、そして衝撃と鈍痛が襲い、中将の意識は深く闇に沈んでいった。

1173/ 『rebellion』-2-
・投稿者/ スペランカー
・投稿日/ 2006/11/24(Fri) 02:53:49

     崑崙の食堂は意外と空いていた。反乱部隊の大半は艦内作業で、MTのパイロットも整備を手伝わされているか機上にて待機している状態だ。数名の部隊員とレイヴンがいるだけである。
     メリエス、ベリエス、フェネルの三人は食堂のカウンターに向かう。
     食堂は、単品メニューを出食レーンで自由に選ぶカフェテリア方式。食べたいものの出食レーンのカードスリットにIDカード(レイヴンの場合はC-LAWSに入った際に支給された擬似ID)を通して料理を受け取り、その際に料理に応じた分のカウンタを差し引かれるという方式だ。軍隊のくせにかなり食事には凝っているいるようで、メニューの豊富さは大手のレストランに匹敵する程である。
     メリエス達はプラスチック製のトレイを取ってカウンターに並ぶ。IDの無いフェネルの分はメリエスが自分の疑似IDを使って料理を取る。それぞれの料理をトレイに乗せ食堂隅の席に腰を降ろす。壁には大型のテレビスクリーンが掛けられているが今は何も映されていない。
     そしてしばらく食事をしていると男に声を掛けられた。

    「同席してもよろしいかな、お嬢さん方?」

     銀髪の変態紳士、クロロフォワードだ。

    「ええ、かまわな――」
    「イヤだ。」

     メリエスの了承の返事を遮ってベリエスは彼の申し出を断った。ベリエスはこういう軽薄そうな男は好きくない。以前も勝手にひとのスリーサイズを目測で測ったり、変なひらひらの衣装を送りつけてきたりとろくな目にあったことがない。

    「ちょっと、ベル。あ、どうぞクロロさん、一緒に食べましょう。」
    「それはどうも。」

     と、にこやかな笑顔を浮かべると、メリエスの向かい、ベリエスの横へと悠然と腰を降ろす。そしてふとメリエスの隣に座ったフェネルへと視線を向ける。

    「そちらのレディは?」
    「あぁ、この子は…」
    「三姉妹だったっけ?」
    「いや、そういうワケじゃあ――」
    「娘?」
    「なんでそうなるのよ!?」

     飛躍した答えに声を荒げるベリエスをたしなめ、メリエスが代わって簡単に経緯を説明する。

    「――それで、身寄りがないこの子を私達が引き取ったんです。」
    「ほう、そうなんですか。私はクロロフォワードと申します。以後お見知りおきを、お嬢さん。」

     一度立ち上がって紳士的な会釈をするクロロフォワードにフェネルは小さく会釈をする。

    「こんなヤツ相手にしちゃだめよ、フェネル。無視しなさい。」
    「まったく…あいかわらず君は酷いな。」

     頬杖をついて隣のベリエスを見やる。

    「素材は可愛いんだから、もう少し大人しくすればいいのに…」

     その言葉にベリエスの顔は、ぼっ、と耳まで赤く染まる。

    「あ、アンタにそんなことを言われる筋合いはないっ!」

     テーブルをおもいきり叩き付けて立ち上がる。が、周囲の人間が何事かとこちらを伺っているの様子を察すると、コホン、とせき払いをして静かにそして少しクロロフォワードから距離を空けて座り直す。

    「…ったく。それにしてもアンタもこの反乱に加わってたのね。」
    「企業にとってはレイヴンなんて早く始末したいモノだからな。これを機に、専属の連中なら道はあるだろうが、C-LAWSみたいな半端な連中の始末を強行してくるだろう。」
    「だろうね。今更、専属にしてくれ、って手を挙げて投降しても良くても捨て駒などの最悪の待遇での専属契約か、悪ければ銃殺。それでも向こうに残ってるヤツは、よほど強力なコネがあるか状況が読めない馬鹿か、そのどっちかでしょ。」
    「では、やっぱりC-LAWSのほとんどはこっちに来てるんでしょうか?」 とメリエス。
    「いや、どうやら数名はシャオロン基地の方に行っている。あの基地をぶん取るらしい。」
    「あの基地を?」

     ベリエスは怪訝そうに尋ねる。

    「ああ、あそこはクーロンシティの防衛基地のなかで最も遠く、またすぐ近くにターミナル、少し先にはコロニーがある。ガレルの連中とも連係が取りやすい。」
    「じゃあ、あそこを拠点とするワケね。」
    「それにしても企業軍の方達もよく反乱に加わってくれましたね。」

     デザートのモンブランにフォークを差し込みながらメリエスがつぶやく。確かにこの反乱部隊には企業軍属だった人間が500名以上、デルタからも50名以上がこの反乱に加わった者もいる。それにシャオロン基地の人員とガレル同盟からの派遣人員を足せばかなりの大部隊となる。

    「まぁ、この前の一件で企業に愛想が尽きたんだろう。」
    「まぁ、ね。」

     トリニティからのターミナル壊滅命令。ガレル砂漠産業同盟のテロリストが潜んでいるとの内用だったが真相は分からない。企業の部隊がターミナルを壊滅させてしまったからだ。住民もろとも。ベリエスもこの前の事件のことには憤りを憶える、離反する兵士の気持ちは分からなくはない。

    「あとは元からガレル側のスパイだったか。」
    「どういうこと?」
    「ああ、第二次企業紛争時に前線では市民IDの無い者やノマドをほとんど捨て駒の様な形で投入していたんだ。イージス義勇軍とかがいい例だ。任務の成功が一定以上になれば正式な市民権が与えられたそうだが。まぁそれで、その中にガレルは同士を潜り込ませていたんだよ。」

     へぇ、とつぶやき、ベリエスはチョコレートケーキを頬張る。

    「今では確か、比較的前線に近いシャオロン基地に多く配属されているハズだったな。」
    「じゃあ、ゼカリアは…」
    「ああ、たぶんその辺も考えてあの基地の占拠を計画してたんだろう。そしてこの前の一件で企業への忠誠は低下している。前線に近い程本部への忠誠は低いものだからな………まったく、大した策士だよ。」
    「……」

     ベリエスは少し驚いた様子で微笑するクロロフォワードを見つめる。そしてその視線に気付いたクロロフォワードは怪訝そうな顔で見つめ返す。

    「? どうした?」
    「アンタって、軽薄で頭の悪そうな感じだったけど、頭良かったのね…」
    「…失礼だな、君は。」

     人さし指で眼鏡を直しながら心外そうな顔でつぶやき、そして紅茶を飲もうとカップに口を近付ける。
     その瞬間、赤色ランプが点滅し警報が流れた。

    「!」

     食堂にいた全ての人間が動きを止める。



             ●


     同日、AM10:53
     ブリッジが急に慌ただしくなる。長距離レーダーに反応。書き換えの終わったシステムは本来は味方であるIFFを敵性と判断している。

    「追撃部隊か。意外と速かったな。DEFCON-1発令。」

     艦長席に腰を下ろしたゼカリアはブリッジに指示を出す。

    「ブリッジより発令。DEFCON-2からDEFCON-1に移行。待機中の航空機は準次出撃。繰り返す――」
    「全方位にジャミングを開始。」
    「艦内外周部の隔壁を閉鎖。非戦闘員の艦内の移動を禁止する。」

     ブリッジの周囲を見渡せる巨大なガラスの外側を防壁が覆い、そのガラスに外界が映し出される。そしてスクリーン上部に戦闘機やMTの出撃状況が表示されている。スクリーンの一部にはフライトデッキが映し出されており、出撃の様子が映し出される。

    「ルーク1・ルーク2発艦。続けてルーク3・ルーク4発艦。」
    「武装のシステムへの書き換えはまだ済んでいない。艦載武装のモードをマニュアルに。砲手は全周囲警戒。」
    「ポイント5〜6のストークよりテンペスト無人機を出撃。陽動を開始。」
    「狙撃・迎撃装備のACはデッキ上にて防衛網を突破した敵機の迎撃。残りのACは艦内で待機。」


             ●


     レイテンシーは薄暗いコクピットに納まり、ふぁ、と欠伸をしながらシステムを立ち上げてゆく。

    「あと五分、寝かせておいてくださいよ……」

     眠い眼を擦りながら制御卓を操作する。

    『しっかりしろ! 敵はもう近付いてきてるんだぞ!』

     オペレーターがモニター越しで怒鳴っているが、半覚醒の脳ではその迫力は大して感じ取れない。

    「そんなこと言ったって…………ぐ〜」
    『寝るなッ!』

     オペレーターが怒鳴った途端に、ぶち、そんなような音がモニター越しに聞こえたような気がした。そして今までは穏やかだった彼女の表情が豹変する。

    「――ったくうるさいわね! 人がリラックスしてるときに!」
    『はぁ………始まった…』

     オペレーターはため息を吐く。彼女は安眠を妨害されると機嫌が悪くなるのだ。しかし普段よりキレているときの方が射撃の精度が上がるため、実際こっちのモードの時の方が都合がいい。オペレーターはそう思いながらACとのシステム回線をチェックし、異常が無いことを確認する。

    『システムチェック、OKだ。何の問題も無い。』
    「了解! …くそ、人の安眠を妨害しやがって…」

     苛ついている眼で前方のガイドを確認し、リフト上へと機体を誘導する。機体を固定。ロック解除。リフトが上昇する。心地よい振動が彼女の怒りを収め眠りへと導いてゆく。しかしその度にオペレーターの怒号と彼女が怒声が飛んだ。


             ●


     軽くウェーブのかかった薄い金色の髪を丁寧に纏めあげヘルメットを被る。システムオールグリーン。異常は無い。
     カサンドラは自機をリフトフロアへと誘導する。整備員がハンドサインで「三番リフトへ」と言っている。指示に従って自機を進める。隣のリフトではタンクタイプのACがリフトで上昇してゆく。あの双子の片割れのAC《スロウン》だ。リフトが降りてきて停止。自らのACをリフトに乗せる。機体の状態を安定させて固定する。リフトロックが解除され、リフトが内部機材剥き出しのエレベーター内を昇ってゆく。彼女はシートに体を預け、前進の力を抜いてリラックスする。感情が昂るとESP能力が暴発してしまうことがあるのだ。
     黄色の回転灯が回り、デッキへのハッチが開く。デッキへ到着しリフトが停止する。

    『《トランクイロ》はデッキ後方にて防衛網を突破した敵機を迎撃してくれ。』
    「了解。」

     そうつぶやき自機を指定された場所へ誘導する。雲間から射し込む陽射しが《トランクイロ》の装甲を照らしあげる。


             ●


    『テンペスト無人機、企業軍と接触。戦闘開始。』
    「始まったか……」

     戦闘が始まった、そのかなり後方。MT運搬用の無人ホバークラフト「スネイル」。その機上で待機する脚部ローラーを砂漠様に換装した神盾のコクピットの中でファーム中尉はつぶやく。

    『自分は、こんな大規模な戦闘は初めてです。』

     ファーム中尉機のすぐ後ろの神盾に乗るチャド少尉が通信を入れてきた。

    「そうか…」
    『これで良かったんですかね…企業に敵対して…』
    「わからん。ただ、俺は企業の為に命を掛けて戦うなんてことはもうできないだろうからな。お前は良かったのか?」
    『自分も同じ気持ちですが……でも勝ち目なんてあるん――うわッ!』

     砲弾が近くに着弾し、砂を大量に撒き上げる。

    「クソ、無人機だけじゃ抑えきれんか……今は生き残ることだけに集中しろ!」
    『はい!』

     キックペダルを踏み込み、神盾を奔らせる。
     反乱部隊C-LAWSにとっての長い一日の始まりだった。



    ――――――――――――――――――――――――
    あとがき

    とりあえず二話完結の話です。
    反乱部隊VS追撃部隊を書きたい人は書いちゃっても構いませんが、これはオレ設定ですので無視しちゃってもいいです。

1175/ 『C-LAWSのプラズマな日々』
・投稿者/ 捜査官候補生
・投稿日/ 2006/11/25(Sat) 12:28:36

    好評だったららしくついに毎週放送されることになった。

    AD「あんまり危険な発言しないでくださいよ。打ち切りになりますから」

    《インフォモチーフ》(以下イ)「今日もやってきたいつものメンバーでお送りする。DJは妾、『インフォモチーフ』じゃ」
    《メンティス》(以下メ)「私MCの《メンティス》です。いつものようにダラダラいきます。どうぞ最後までお付き合い下さい糞野郎共」 



    イ「はじめのコーナーは『お手軽5分神様講座』じゃ」

    メ「どんなコーナーですか。糞野郎」

    イ「これを聞けば愚民どもでも、神様気分を味わえるのだ」

    メ「気分だけですかい」

    イ「愚民は誰でもあこがれる神」

    メ「世の中広いからあこがれない糞もいるだろうさ」

    イ「まあ、それは気にしないでくくれ。まあ、妾が神なのだからいうことに間違いはないのじゃ」

    メ「まあ、ともかく――で、何をするんです?」

    イ「………………」

    メ「………………」

    イ「台本に書いてないではないか。まあ、よい。次のコーナー――」

    メ「何もやってないし!?」



    イ「次のコーナーは『今日のニュース』だ。今日の目玉の事件は――」

    メ「『ゼカリア隊長』のACがついに撃破されましたというやつですね。糞野郎」

    イ「一々、糞野郎いうな馬鹿者。で、あ、ビデオが届いておるな?
    では、スタートさせてくれ。スピーカーの前の皆の者は音で臨場感を楽しむがよい」

    激しい戦闘音。
    そしてひときわ大きい爆音。

    イ「これ本当に隊長なのか?」

    メ「そーいう触れ込みです。まあ、とても響きのいい爆発音ですからいいじゃないですか」

    イ「それもそうか。何だか、いいもの聞かせていただいた気分じゃ。なにか問題ある気もするが――」

    メ「そんなことより次のコーナー行きましょう。次のコーナーは――」

    イ「まて、緊急のニュースだそうじゃ。どうした?現場から中継だ」


    ゼガリア(以下ゼ)『もしもし、私だ。敵は大部隊を率いて私の部隊に迫っている。現場の指揮を私がとっている』

    イ「生きてるしwww、さっきの誰なのじゃw」

    ゼ『さっきのは私だ』

    メ「おまwwwwちょwwwwwwwwどうやって機体を短時間で復活させて」

    ゼ『すべてプラズマで説明できます』


    急に大爆発と共にノイズが混じる。


    ゼ『――いきなり味方MT部隊が撃破されてしまったようだ』

    メ「生きてられます?」

    ゼ『プラズマがあれば生きてられます』

    メ「じゃあ、そのままがんばってください」

    ゼ『おまwwwwちょwwwwwwww』

    イ「じゃあ、がんばるのじゃぞ」


    AD「一端CM入りまーす」


    ゼ『破壊完了した』

    メ「おまwwwwちょwwwwwwww武器もう無いだろwww」

    ゼ『すべてプラズマで説明できます』

    イ「…」

    メ「…」

    ゼ『…』

    イ「まあ、来週からはここからは隊長を交えてのコーナーが始まるぞ。楽しみに待つがよい」

1200/ 『りんごのかけら』
・投稿者/ ケツアゴ熊ちゃん
・投稿日/ 2006/12/11(Mon) 22:04:30

     昔々、ほんの少し昔のこと。


     大昔の輝きを失った世界に、たくさんの鴉たちが生きていました。
     餌もなく、なんの楽しみもない毎日。
     そんな時、ある群の鴉があるものを見つけてきました。
     

     その鴉に案内されてついていった先で、鴉たちは目を丸くしました。ある小高い丘に、とてもとても大きなりんごがあったのです。
     鴉達の群は喜んでりんごをついばみ始めましたが、丘一杯の大きさのりんごはいくら食べてもなくなりません。
     いつしか群の鴉はほかの群の鴉を呼び、たくさんの鴉がりんごをついばみ始めました。


     ですが、りんごはとても大きくて、二日目にも三日目にもりんごは無くなる様子はありませんでした。そして、だんだんりんごは熟れ始めてしまいました。
     ある群の鴉の、偉大なリーダーが言いました。 


     「とてもじゃないが、もうこのりんごは食べられない。我々で新しいりんごを作ろう」
     

     その言葉に、腐り始めたりんごを食べていた鴉たちの多くが賛成しました。頭の良くない他の鴉たちにも、いつしかりんごがまずくなっていたのが分かっていたのです。
     偉大なリーダーの下に集まった鴉たちは、新しいりんごを作る計画を話し合いました。ですが、新しいりんごを作ろうにも、丘の上は腐ったりんごが一つ入るのがやっとなのです。
     鴉のリーダーは言いました。
     

     「腐ったりんごを壊してしまおう。その種を使って新しいりんごを作るんだ」
     

     鴉たちはリーダーの言葉に賛成でしたが、問題が一つありました。もう数羽しか残っていませんでしたが、まだ腐ったりんごを啄んでいる鴉たちがいたのです。
     りんごが腐っていることを分かっている鴉、それすらも分からずに、腐肉にたかるうじ虫ごとりんごを食べ続ける鴉。彼らはリーダーの説得にも耳をかたむけず、腐ったりんごをついばみ続けました。
     とうとうリーダーは決断しました。


     「我々は、あくまで団結してあの腐ったりんごを叩き壊そう。私に賛同するものはついてこい」


     そうして、鴉たちのあらそいが始まりました。
     リーダーの下に集まった鴉たちが、りんごを攻撃し始めました。赤黒いりんごの皮がするどい爪に切り裂かれ、中から腐った汁が溢れ出します。
     数羽しか残っていなかった鴉たちも、黙ってはいません。りんごに群がる鴉達に、必死に攻撃をくわえました。
     やがて飛び散るのはりんごの果肉ではなく、鴉たちの血や、肉になってしまいました。


     「もう腐っているのは分かっている。それでも、まだ食べられるじゃないか」
     

     それが、数羽の鴉たちの言い分でした。


     「もっとおいしいりんごを食べる手だてがあるのに、なんで腐ったりんごを捨てないんだ」


     リーダーの言うことは正しかったでしょう。
     ですが、数羽の鴉たちは断固として聞きませんでした。
     数羽の鴉たちは、知っていたからです。
     

     そのりんごが、自分たちの飢えを満たしてくれたことを、
     その初めて口に含んだ時の、みずみずしさを知っていたからです。
     彼らにとっては、この腐ったりんごが他の何よりもおいしいりんごだったのです。

      
     鴉たちはそれからも、ずっとずっとあらそい続けました。 
     日が経つごとに鴉たちは一羽、一羽と減ってゆき、あんなに大きかったりんごも、鴉たちの爪に削られてだんだん小さくなっていきました。
     そして、鴉たちはとうとう一匹もいなくなってしまいました。
     


     残ったのは、腐ったりんごのかけらだけでした。

     

     ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐



     -0215年版国語教科書-(ヴァレリー・ロイド著/鴉のクロニクルより抜粋)
      



1214/ 『Last Dance With Bullet 』
・投稿者/ 鉄
・投稿日/ 2007/01/06(Sat) 19:45:10

    −離反から数日後


    C-LAWSが離反した今、俺の立場は企業に飼われた鴉さ。
    それでも、俺のやることは変わらねえ。
    ただ、目標を射抜く弾丸に成るだけだ。
    だが、今回はいつもとは勝手が違う。
    そう、今日は大きすぎるパーティ故、何人か相方が居る。
    それも、最新鋭のヘビィなブツだ。
    MTとは思えぬ高スペックを誇る機体。
    名前は、”バイヨネット”とか言ったか。
    そんな銃剣が2本も付いてきているのさ。
    これなら、ACが4機でも来ても勝てるだろうよ。

    「こちらティーガー、パーティ会場に到達した。」
    「こちらオーナー、了解。今回はゲストが居るわ。」
    「で、俺がそのゲストだ。コードネームはパンサーだ。」
    「同じくゲストだ。コードネームはグリズリーで頼む。」
    「こちら、ティガー。良いパーティにしようぜ。」

    今回は、ジュディはお休みだ。その代わり、デルタのオペレーターが登坂さ。
    とは言え、こちらの流儀でやらせてもらう。
    同類の処理は同類が一番わかっているのさ。

    今回のパーティはこの地区に展開されたACの撃破。
    予想される数は2。明らかにこちらの優位だが、油断は死を招くぜ?
    さあ、パーティの始まりだ。

    「「「さあ、パーティだ!」」」
    3人ともノッているな。流石古巣の連中だ。
    イエーガーファウストを先頭にして哨戒を始める。
    数分もしないうちにレーダーに反応した。
    …反応は12。どうやら、敵はMTも配備していたようだ。

    「オーナーより各機、どうやら敵ACは4機とMTは8機。ACのうち1機は傍観しているようね。」
    「こちらグリズリー、了解。MTの排除にかかる。大物は任せた。」
    「こちらティーガー、任された。さて、派手なパーティになりそうだ!」

    思うもんじゃないな。本当に4機も出てくるとはよ。
    さて、義眼内データべースから敵ACを照合する。

    「エルザ」と新顔2名と”狂犬の旦那”か。
    ”狂犬”は傍観しているようだからよ、殺気立っている奴らを相手にしてやるか。

    「パンサーさんよ、集団から殺るぞ。」
    「あいよ、ちゃっちゃと終わらせようぜ。」

    さて、敵さんも動き出したようだ。
    戦力を分析。オーソドックスな逆足のようだ。防御は疎か気味だが。
    もう1機は接近戦重視の軽2脚。
    そして、砲戦重視の安価なタンク。

    対するこちらは接近戦重視の機体が2機。混戦に持ち込むか。
    早速バイヨネットの兵装が火を噴く。難なくかわされているが。
    まあ、しょうがないだろうよ。さて、そうしている間にイエーガーファウストは敵に接近しようとしている。
    当然、敵から迎撃としてグレネードが飛んでくる。脳が警鐘を酷く鳴らす。

    『迂闊な奴めっ!』

    −危険

    問題ない。簡単に飛んでくるグレネードをかわす。続いてライフルによる射撃。かわしきれない。

    −危険

    仕方なく分厚い装甲で受ける。問題ない。今度はこちらから攻撃を放つ。
    逆足ACに容赦なく砲弾が突き刺さる。これぐらいでは有効打にならないだろう。
    バイヨネットの援護が地味に効いている。これなら狂犬の旦那との決戦まで弾を温存できる。
    だが、そうも行かなかった。

    「こちらパンサー、でっかい一撃を食らった、動けそうに無い!後は…」
    「パンサーからの通信が途絶しました。」

    そう、目の前でブレードでコクピットを抉られていた。
    あばよ、短い付き合いだったぜ。

    敵はAC4機。状況にして4vs1。勝率は0。グリズリーを呼び戻すのに時間も掛かるだろう。
    最早、逃げることは不可能だろう。だが、軍門に下る気も無い。
    元より、退けば彼女たちに身の保証はできないだろう。
    なら、道は一つ。
    とうに覚悟は出来ている。
    イエーガーファウストを敵のど真ん中に突っ込ませる。

    −危険

    分かっている、だがそれがどうした。元より、この命は4年前に捨てたモノだ。
    今失おうが問題はない。俺は今、1発の魔弾となる。
    当然、敵の集中砲火が降り注ぐが、問題ない。
    射線上から素早く脱出し、全て回避。
    そして、交された弾が行き着く先は、無防備にもキャノンを構えていた逆即ACだった。
    容赦なく弾が突き刺さり、爆風が巻き起こる追い打ちを浴びさせる。
    そして、ボロボロになった逆足ACは動かなくなった。これで1機。

    『この、バケモノ…!』
    『そんなバケモノに立ち向かったお前さんは何だ?それに、お前さんの弾でアレは死んだだけさ。』
    『コイツ…!』

    さあ興奮しろ。すればするほど楽になる。
    まだパーティは始まったばっかりだ。逝くまで愉しもうぜ。


    −暴走

    -----------------------------------------------------------------------------------------------

    タンクACに照準を合わせる。相手ももう既に腕は一本無くなり、重火器ももう見る影もない。
    だが、こちらも相当ダメージを受けている。左のマシンガンの弾は切れ、全身がボロボロだ。
    いくら被弾箇所を調整したとはいえ、満身創痍だ。
    右のマシンガンを至近距離で発砲した。
    面白いように全弾命中し、脚部の機能はもう失われた。
    そして、両腕のマシンガンをパージし、格納武装を装備する。

    「お前さんらとのダンスはこれでお仕舞いだ。」

    そう、外部スピーカーで響かせた。
    さて、保険としてブレードでコア以外切り裂く。
    これで、エルザは何もできないだろう。
    今頃、コアの中で失禁してノビているかもしれないがな。

    「こちらティーガー、敵AC3機を撃破した。グリズリー、応答しろ。」
    「こちらグリズリー、MTどもは撃破した。現在そちらに移動している。…ウワッ!」

    グリズリーとの連絡が途絶する。これで、いつも道理の戦いになった。
    そして、狂犬と対峙する。待望の戦いが始まろうとしている。
    これが生涯最後の戦いになるだろうよ。
    最期の一瞬まで、愉しもうぜ。

    『よぉ、虎。』
    『よぉ、狂犬。』
    『さあ、殺ろうぜ。俺たちにとって最大の愉しみをよ。』
    『だな、さっさと殺ろうぜ。やっと、待望の一戦さ。』
    『愉しい戦いにしようぜ。』

    −そして、

    『『さあ、殺し合おう。』』



    そして、最後の戦いが始まった。




    [ 多くのC-LAWS所属レイヴンはゼカリアに賛同し、離反した。
    だが、俺は離反しなかった。
    何故なら、俺は離反する訳にはいかない絶対的な理由が有った。
    それに、あちらにつくことに関する利点も無い上に無謀すぎる。
    十分な補給も、自由も、何もかも不確かすぎるしな。
    理由の一つに彼女たちの存在が有った。
    アルとソフィア、戦友から託された娘。
    今の俺は彼女達を守るための一発の弾丸にすぎない。
    そう、だから俺は嘗ての仲間を敵に廻し、デルタや専属レイヴンの連中と共に立ち向かった。
    その選択に、間違いは無いと俺は信じている。
    悔やむことが有るとすれば、そう。
    もう、彼女たちを見守ることができず、彼女たちを悲しませてしまったことだけだ。

    親愛なるアルとソフィアへ
    俺の代わりに、生きろ。どんな手を使っても良い。
    その為に、手は打った、詳細はブリンダルとアイアンフォードに聞いてくれ。
    約束は守れなかったけどよ,許してくれ。]

    〜回収されたイエーガーファウストのコアに残されたテキストデータより〜

    To Be ACRW But He is Dead. This story is End.

1147/ 特報9<黒山羊ノ日>
・投稿者/ ケツアゴ熊ちゃん
・投稿日/ 2006/11/16(Thu) 22:04:48


     【特報9】
     
     地球歴○二一一年 Ω月 ∞日
     
     <黒山羊ノ日> 

     ○二一一年代から続いていた黒山羊、《ブラックゴート》による被害は小都市十五、大都市一つ、軍事拠点や集落まで挙げれば両手足の指を使っても足りないほどに上っていた。
     そしてとうとう○二一一年最後の月。【九龍シティ】の電力供給の約5割を占める都市動力炉が《ブラックゴート》の手により壊滅する。
     多くの都市区画は数週間単位の停電に見舞われ、一部の区画ではゲートの開放が出来ずに閉じこめられる住人も続出。大半の上流区画は供給方法を予備電力に切り替えられた為さほどの被害は出なかったものの、動力炉の余剰電力が暴発、巨大な電弧が周辺区画を暴れ回った挙げ句に多くの居住区が爆発によって消し飛んだ。更に亀裂の入った外壁からバグが侵入するなど、二次、三次被害が続々と【九龍シティ】を蝕んでゆく。
     この事件により、軍部は兼ねてから作戦案だけで先延ばしにされていた黒山羊討伐作戦を提唱。各企業の穏健派も体面上彼等を止める事が出来ず、討伐部隊は<女神討伐>に投入された数を超える最大編成で黒山羊討伐に赴いた。



     …以後、討伐隊全隊員および《ブラックゴート》は行方不明。

     

     戦場となった丘陵には、大勢の兵器が争った跡と焼け焦げた荒地。そして地平線まで続く巨大なクレーターだけが調査隊によって確認されている。 
     この作戦での損害により各企業の保有戦力は著しく低下。こうして各企業は”本当に”手を組み、当面はガレル臨時議会・【C-LAWS】を始めとした反企業勢力のみとの抗争を余儀なくされた。
     尚、この日を境にヴェノムチャンネルは放送終了。代わりに魔法少女こリスちゃんのラジオドラマが放送開始され、一部のコアなリスナー達に人気だったんだとかなんとか。




     <特記事項>

     ・都市動力炉壊滅
     【九龍シティ】のエネルギー事情を支える動力炉として【タケミカヅチ】の愛称で親しまれていたが、動力炉の暴走によって生じたアークは周囲の物体という物体を灼き尽くし、近隣区画を文字通り『ズタズタに』引き裂いた。
     電弧によって炭化した隔壁は続く炉心暴発に耐えられる筈もなく、動力炉の周辺地域は球体状に消滅した。



1213/ 『某レイヴンとの非公式な会談』
・投稿者/ ケツアゴ熊ちゃん
・投稿日/ 2006/12/27(Wed) 21:48:21

     某日 昼 駒烏の憩い亭 
     
     



     …あるレイヴンについて聞きたいって?
     昼間の酒場に呼び出して何かと思ったら、そういう話か。確かにこの時間帯なら大抵誰もいないわな。
     で、一体俺に誰の事を聞きたいんだ? 悪いが、【C-LAWS】隊員の話だったら別の奴に聞いた方が早いぜ。あの部隊は横の繋がりが殆ど無かったからな、俺よりモグリの情報屋にでも当たった方が一一
     …。
     ……。
     …………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………今なんつった?
     「は?」じゃねぇよ。今なんて言ったかって聞いてるんだ。いいから早く答えてくれ。マジで早く。
     

     …《ブラックゴート》って言ったか今?


     …ああ、そうだ、OK、今のが聞き間違いじゃないなら俺を当たったのは正解だよ。奴の事なら大抵の同業者が知ってるが…わかるだろ? あいつを直接見た奴なんてのは、殆どその場で壊されちまってるからな。
     俺も、実際壊されちまった奴を二人ほど知ってるよ。
     一人は俺の相棒で、もう一人は一一まぁ、今は関係無いわな。
     いいぜ、話してやるよ。確かありゃ、俺が復讐に燃えてる頃の事だったからな、色んな意味でよく覚えてるよ。


     


     ん? 相棒の事か? …というか相棒がいたのかって顔してやがるな。ま、いいけどよ。
     俺とあいつの出会いは…この際どうでもいい。大したドラマがあった訳じゃない。相棒っつっても所謂運命共同体って奴で、単に目的が同じだったから一緒に活動してただけだしな。
     ああ、共通の目的ってのは『《ブラックゴート》をぶっ殺してぶっ殺してぶっ殺し尽くす』って事でな、そいつも俺に負けず劣らず《ブラックゴート》に復讐するって息巻いてたよ。あいつは《ブラックゴート》が暴れに暴れて大暴れしてる現場に居合わせちまったらしくてな、普通に歩いてた《ヴェノム》に偶然右足だけ踏み潰されたらしい。アホだろ。
     ま、そいつと出会った時は嬉しかったね。
     何たって俺が「《ブラックゴート》を殺すんだ」って言うと、大抵の奴は「お前アホだろ」「もっと面白い冗談を頼む」「ここに自殺志願者がいます」の三拍子だったからな。これを言って笑わなかったのは、あいつが初めてだったよ。寧ろ、「俺もだよ」って平然と返された俺の方が呆気に取られたっけな。
     仕方ないだろ? 『会ったら逃げろ』『逃げても無駄だ』そんな矛盾がサラリと成立する野郎を殺そうって言うんだ。仲間が多いに越したことは無かったし…それに正直、俺も”ビビッて”たんだ。一人で《ブラックゴート》に復讐するなんて、俺の人間並の精神には荷が重すぎたんだよ。
     だから、あいつと会った時は本当に嬉しかったんだ。一人じゃ無理でも、二人なら…いや違う。こいつとなら、《ブラックゴート》だって殺せるって思ったんだよ。根拠は全く無かったが、その時の俺は復讐心も憎悪も努力も目的も漠然とした不安も分かち合える仲間が出来て安心してたんだ。油断してたと言っても良い。
     …そう、油断してたんだよ。正直慢心してた。
     一つ問題があったんだとしたら一一”俺が油断してなかった所で、どうにもならなかったんじゃないか”って事だな。
     訳が分からないって? 
     だから、よ。復讐ってのは、自分が相手を狙うのを前提とした話だろ? だから…そうさ。
     俺達は、”狙われる側がこっちを狙ってくるなんて全く予想してなかった”って事だよ。
     
     



     知ってると思うけどな、ほら、俺達の間じゃ有名なあの事件だよ。
     <放鳥の日>ってあっただろ? つってもケイジ消滅の事じゃぁない。あの翌年に起こった、《ゼカリア》離反事件の事だよ。いや、隊員の六分の五があいつに付いて行ったんだ、【C-LAWS】離反って言った方がいいかな。
     あの事件で《ゼカリア》派に付かなかった俺はな…ああいや、俺はどっちかっていうと《ゼカリア》に付いていくつもりだったんだぜ? 当日任務で留守にしてなければな。
     結局帰ってきたら《ゼカリア》離反だの【C-LAWS】解散だの大騒ぎで、結局俺は古巣…ガーランドの特殊部隊に引き取られるっつー形で、成り行きで組まされた相棒と一緒に《ゼカリア》派の掃討なんかをやってたんだよ。
     《ゼカリア》の息が掛かってるっても、結局は烏合の衆の烏だからな。俺達はガーランドの組織力も多いに貢献してたっちゃしてたが、まぁ順調に戦果を挙げてた訳だ。
     実際俺達は【C-LAWS】隊員3人を撃墜してたし、実力だってそれなりに付いてきてた。企業レイヴンの中でもそこそこ名前は売れてきてたんだが……。

     



     そんなある日の事だ。
     俺達はその日も上から来る命令で【C-LAWS】のアジトの一つに乗り込んだんだ。
     奴等が根城にしてたのは…ほら、昔有名だった怪盗知ってるだろ? ルパンだか百面相気取りの、あのなんちゃらナイトとかいう奴だよ。ああいや、そいつとは直接関係ないんだけどな?
     あいつが防衛側に雇われてたランカー二機から逃げ切ったって有名になった話、バーティカルトラップ事件とか言ったっけか。あの時舞台になった施設、<大氾濫事件>で放棄されてたらしくてな、そこを根城にしてやがるって話だったんだ。
     ま、その情報がガセだったのかどうかは今でも分からない。兎に角MT部隊を引き連れて到着した俺達に分かったことは、なんにもなかったってことだけだ。
     ああ、そうさ。施設の外は元より、施設の中にも何も無かった。人っ子一人、バグ一人だ。
     俺達は幾つかの部隊に別れて小一時間ほど歩き回ったんだ。もしもの事を考えてあいつとは違う部隊で行動してたんだが、結局撤退しようって事になってな、連中が逃げたか最初からいなかったのか知らないが、拍子抜けしたよ。
     だけどよ、『遠足は、帰るまでが遠足だ』とはよく言ったもんだよなぁ。その通信が入ったのは、俺が帰投しようとした時だった。
     


     『ぁ…ぁあああしッぬぞ死ぬぞ死ぬぞ死ぬぞ死ぬ死ぬぞ死ぬぞ死ぬぞ死ぬぞ殺されっぞぉおおおおあああああ一一!!』



     いきなりだった。
     突然味方機反応が消滅して、いくら通信し直しても一言たりとも返答しない。正直気味が悪かったが、【C-LAWS】ACに遭遇したんだろうって事になって、俺達は反応が消えた地点に向かったんだ。
     だがよ…俺はどうしようもなく不安になった。どうしようもなく不安でしょうがなかった。
     ”消えるんだよ”。
     いや…だからよ…消えるんだよ。
     その地点に到達した部隊の機体反応が、レーダーから次々と次々と次々と次々と次々と次々と次々と次々と次々と次々と次々と次々と次から次へとッつッぎつ…ッから…ゲホ…ギッ…と、次々と次々とだ!!
     …ああいや、悪い。取り乱した。
     でもな、俺は安心したんだ。何せ、消えなかったんだよ。その地点に到達した、相棒の機体反応がな。
     だけど一一それはやっぱ油断だったんだ。どうしようもない程に油断だったんだよ。
     具体的にその油断が災いしたのは、俺がその地点に到着した時だった。
     



     俺が着くと一一そこには別になにもなかった。
     …あ? だから何だって?
     だからよ…なにもなかったんだよ。
     ”なにもなかったんだよ。”
     なにも、なにも…”施設に残ってるはずの機器も鼠も埃一つ、俺より先に入った部隊も何もかも存在してなかったんだよ”!!
     …いや、違う。違った。
     あったんだよ。あったんだ。
     まるで爆心地みたいなクレーターの跡だけが、床中に壁中にそこら中に残ってやがったんだ。まるでそこにあったモノ全部がクレーターに変わっちまったみたいに。

     「…おい…相棒?」

     俺は呼びかけたさ。呼びかけたよ。だってそいつの反応はまだあったんだ。
     それで、相棒はそこにいた。深く抉られちまったクレーターの中から、よろよろと這い出して来たんだ。但し、まるでこの数分の間竜宮城に行ってたみたいに、全身ボロボロになってよ。
     けど…俺は気付いたね。あいつが這い出して来ちまったから、気付かざるを得なかったんだよ畜生!
     そのクレーターには…もう一つ反応があったんだよ。まるであいつの反応にぴったり寄り添うようにして、クレーターの底に潜んでたもう一機の…一機の…あの、分かる……よな?

     そいつは、黒い四脚型ACだった。

     俺は直ぐに、そいつの正体に思い当たったね。
     《ブラックハート》。  
     以前《ブラックゴート》と一文字違いだったんで間違えて襲っちまったあいつ一一
     …ああ、分かってる。分かってるよ。
     あいつが居るわけ無いんだ。あいつは機関砲もグレネードランチャーも装備しちゃいなかったし…何よりあいつは俺と同じ、ガーランドの専属だったからな。
     だから、俺もあんたと同じ事を考えた。
     


     そいつが、《ブラックゴート》なんだってな。



     確信したのは、相棒の返答を聞いたときだった。
     

     『逃げろ…《シャル…ヤバイ逃げろ、逃げろ、逃げろ、逃げろ逃ャル逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろあいつがあいつがあいつがあいつがあいつががががあいついつあいつがあいつがあいつがあぁぁああぁぁああああああああ、ぁぁぁぁぁぁぁ一一一一ッ! ぁぁぁぁ!!』
       

     狂ってた。
     数分ぶりに再会したとき、あいつはもうおかしくなっちまってたんだよ。
     本当なら、そこであいつに呼びかけるなり何か言葉をかけるべきだったんだろうがよ、俺はそうしなかった。いや、何も言えなかったんだ。くそ、そんな余裕無いに決まってるじゃねぇかよ! あいつが! あいつがいるんだよ目の前でゆっくりとこっちに近付いて来るんだからよ!
     そうさ。待ち望んだ瞬間だった。数年間ずっと黒山羊に復讐する時を夢にまで見て、本当に夢の中で何度も何度もデモンストレーションして心待ちにしてたんだ。
     けどよ、結局夢は夢だったんだ。
     叫ぶ相棒を無視して黒い影に銃口を向けたまでは良かったが…引き金を引こうって思う前に、怖くて怖くて仕方がねぇ。「撃て」って叫んでる俺の脳味噌に、何度も「怖い」って言葉が覆い被さってきやがるんだよ。
     目の前で叫んでるあいつみたいに狂えたらどんなに良かった事だろうよ。
     だけどな一一すぐに、”狂ったくらいじゃ逃げられない”って事を思い知らされたんだ。
     

     『あぁああああああああァあ! ァあっあっ嗚呼アアアア亞、阿、吾嗚呼、あ一一ひッ?!』


     ”今まさに狂いつつある”相棒を轟音と共に無理矢理正気に引き戻したのは一一確認するまでも無かった。《ブラックゴート》だ。
     あいつは突然クレーターの底から飛び上がると、叫び続ける相棒の機体に”そのまま着地しやがった”。 
     信じられるか?!
     いくら四脚型っつってもACにだぞ?!
     下手すりゃ脚がぶち折れてコクピットから地面に墜落するかもしんねぇってのによ、あいつはトランポリンにでも乗るみたいにACに飛び乗りやがったんだよ!
     



     …。
     ……。
     ………。
     …………あ? それからどうなったのかって?

     知るか。
     いや、ホントに知らねぇんだ。 
     そん時ゃもう俺は逃げ出してたからな。最後にあいつが相棒を蝶みてぇに組み伏せてる所が見えたが、後はもう知らねぇ。知りたくもねぇ。   
     ああ、そうさ。
     俺は同じ復讐を誓った仲間を見捨てて逃げた。
     でもよ…仕方無いだろう? 俺は…”俺は、黒山羊を殺すまで絶対に死ねないんだから”!!
     だから、俺があそこで逃げたのは正しい。間違っちゃいない。そうだろう? …そうだよな? 




     …ん? ああ、俺が語れるのはこんぐらいだ。参考くらいにゃなったかい?
     あ、そうだ。アンタが何でこんな事調べてんのかは知らねぇけど、カメラマンさんよ。もし黒山羊の居場所が分かったら俺に連絡してくれ。これ俺のケータイのアドレスな。 
     何だよ、そんなに怖かったってのにまだ黒山羊に復讐する気なのかって?  
     
     ”逆だよ”。

     俺は、さ。怖いんだよ。
     まだ、まだあの時怖かったのが残ってるみたいに、ずっと「怖い」って言葉がずっとあれから頭から離れねぇんだよ。 
     目を、目を閉じたら、あ、あああいつの姿があの時の続きが見えてくるような気が、気がして仕方なくてよ!
     なぁ、おお、教えてくれよ! あいつはどこにいるんだよどこに消えちまったんだよ<黒山羊ノ日>からあいつはどこに消えちまったんだよ!?
     お、思うんだよ。止まると思うんだよ。あいつを見つければ殺せばこの怖いのが怖い怖い怖い怖い怖い怖し怖い怖いってのが消えると思うんだよ! 思うんだよぉッ! 
     だからッ、なぁッ、分かったら教えてくれよ! 頼むよ! 早くあいつを殺さねぇと…殺さねぇと……… 


     

1148/ 特報10<人形事件> 
・投稿者/ ケツアゴ熊ちゃん
・投稿日/ 2006/11/16(Thu) 22:05:40


     【特報10】
     
     地球歴○二一二年 ♀月 ♂日
     
     <人形事件(ヒトガタジケン)> 

     RAC所有の外郭研究機関、兼ねてから人体実験等の噂が絶えなかった外界施設が、反企業組織【屍喰鬼隊】の襲撃を受けた。
     襲撃者達はACを一体含むも施設の防衛戦力で撃退可能と思われていたが、《厄災》率いる別働隊の出現により防衛部隊は壊走。施設内では【屍喰鬼隊】総帥《霊暗眼》と被献体による戦闘が発生するも、<屍喰鬼隊第二本隊>が一足遅れで到着し、戦況の趨勢は完全に決した。
     だが、本隊の撤収前にこの施設を出自とする《イルーシャ》がリヴィエラ数機と共に到着。天秤は再び均衡を取り戻した。
     AC三機が入り乱れる激戦に次々と倒れてゆく両軍の機体。リヴィエラ達が徐々に劣勢となってゆく中、遂に《イルーシャ》の深層意識がブラックボックスとの接触を果たす。
     『ナニカ』との接触により暴走を起こした《イルーシャ》は、恐るべき戦闘力を発揮して【屍喰鬼隊】を蹂躙。
     次々とコクピットを切り裂かれ、崩れ落ちてゆく『兄弟達』。
     とうとう《厄災》が鉄屑の海に沈んだ時、《幻無》の赤い双眸が更に紅く紅く輝き一一 
     
     

1159/ 『ひとでなし達の戦争』
・投稿者/ ケツアゴ熊ちゃん
・投稿日/ 2006/11/16(Thu) 22:17:09


     走る。走る。走る。
     白く照り返す廊下の中を、足音よりも銃弾が早く。
     高い天井に反響する銃声が、白壁を赤に塗り替える。
     白衣も人も赤く塗り替え、全てを覆い隠すように。


     『【屍喰鬼隊】チャーリープラトーン、警備員三名殺害』
     『こっちはブラボー、撤退ルートの確保に成功したよ』 
     『フォックストロット1、培養室制圧したぞ』
     『筆頭ー。ゲンさんから通信きてるけど、繋いでいい?』

     インカムから漏れた声が錯綜する廊下の先で、重々しいゲートが機械音を立てて勢いよく開き、その場にいた誰よりも早く半開きの扉に大量の銃弾が飛び込んだ。

     「…なッ」
     「一体何ごッ一一!!」

     鈍色に光る来訪者を迎えるのは、事態を飲み込めていないような悲鳴と白衣の男達の驚愕の顔。だが、その光景は一瞬の内に終わりを迎え、白い室内がまた一つ赤に彩られる。
     血煙を上げて倒れる研究員が、痛みに反比例して不鮮明になってゆく視界に見たものは、室内に陳列されたアンプルや機械が次々と蹂躙されてゆく光景。
     
     一一ぁあ止めてくれあともう少しで我々は『箱』の一一一一

     その言葉を全て頭に浮かべる前に、研究員の頭を拉げた跳弾が貫いた。 
      


     
     『研究室ノ一ツを制圧シマシタ。…ソレトアルファ2、筆頭ト呼ブノハ止メテ下サイと言ッタデショウ?』   

     一瞬で沈黙した室内に踏み込んできたのは、奇妙な取り合わせの少女だった。
     包帯を巻いた銀色の髪の隙間から、一方だけ露出した灰色の瞳が室内の惨状を無感動に見渡している。肩にはバレルと固定倍率スコープでカスタマイズされた、狙撃から掃射までこなせそうな突撃銃が吊り下げられており、それだけで彼女という存在の異常性が見て取れる。
     喉に何か埋め込まれているのか、妙なイントネーションでインカムに問いかける銀髪少女。だが、それより何より異常だったのは一一

     『えー、だってその方がカッコいいじゃん』

     インカムから返ってくる実に子供らしい返事を裏付けるように、少女の後ろから数人の少年少女が惨劇の現場に踏み込んできた。思い思いの足取りで歩いてくる彼ら彼女らの手には例外なく硝煙の燻る銃が握られていた。
     この時代に女子供が銃を持つ事は珍しくないが、女子供が企業の施設を襲撃するのは珍しいを通り越して有り得ない。
     そんな『ありえない』を当然のように受け入れている子供達。その中心人物と思しき銀髪少女は二人の少年に外で見張りに立つように命じる。
     未だに無事な機器にも一通りライフル弾を浴びせると、銀髪少女はインカムに向かって返事を返す。

     「ダッテジャアリマセン。早ク繋イデ下サイ」
     『はーい。ゲンさーん』

     やはりどこまでも子供らしい返答のあと、ブツリという音と共に通信回線が切り替わる。同時に何かを貫通するような音が響き、インカムから初めて大人の声が流れ出る。
     
     『だーれがゲンさんだっつの…ぁ、《霊暗眼》? ここの防衛部隊結構堅ぇーわ。そっちどう?』
     
     外で防衛部隊を引きつけている兄妹の、まるで買い物にでも出たかのような言い草に、包帯少女一一《霊暗眼》は半壊した室内を見回して答える。

     「《”幻”無》サン。此方ハ予定ヨリ早イクライデスガ…《厄災》サン達ハマダ?」
     『ん? ぁー、やーさん? そういや高機の奴等もまだ来てねぇな。ケータイ持ってたっけあいつ?』
     「サァ、持ッテイタトシテモ番号ガワカリマセンネ一一ジュノー、アイリス、止メナサイ」

     不意に仲間が研究者の死体を蹴り付けているのを見咎めて、《霊暗眼》が二人を諫める。

     「………すいません《霊暗眼》」
     「だってさァ、許せないよこいつらァ」
     
     陰鬱な顔をした少年と、オレンジ色のおさげ髪の少女の反応に、《霊暗眼》は少しだけ困ったような顔を見せる。
     彼らの言い分も分からなくはないのだ。
     実験体として生まれ落ちた、人と似て非なる子供達。自分達が世間に受け入れられないアウトサイダーだと理解している彼らの怒りは、必然的に自分達を”そうさせた”人間達に向く。《霊暗眼》自身にしても、【屍喰鬼隊】を立ち上げたのは企業への義憤に他ならない。
     容赦なく射殺しておいてその死体を蹴るのを止めるのはどうかと思うが、それはそれ、これはこれだ。
     いくら施設を破壊しても、幾らデータを消去しても、ブレインが生きている限り同じ事は繰り返され続ける。目の前の死体が本名に崇高な、あるいは反吐の出る目的で研究を重ねていたのかは知る由もないが、倫理から外れた人間の努力も研鑽も《霊暗眼》は認めない。
     
     「モウ破壊スベキ物は無イヨウデス、行キマショウ」
     「………はい」
     「はーい、わかりましたァ」
     
     二人は暫く未練そうにしていたが、死体の白衣でブーツの血を拭き取ると他の子供達に続いて部屋を出る。
     それに続こうとした《霊暗眼》に、一連のやりとりを聞いていた《幻無》の声がカラカラと笑う。

     『ガキ共のお守りも大変だな…ってディックテメー! 俺ごと撃つなバカヤローッ!』
     「…《厄災》サン達が着イタラトーチカハ彼ラニ任セテ突入シテ下サイ」

     装甲で沢山の銃弾が跳ねる音に、《霊暗眼》は通信を終えつつ「お互い様ですね」という表情で苦笑する。
     そのまま弾倉の残りを確かめ、次の部屋を制圧する為開きっぱなしのゲートに足を向けた。


     火薬の弾ける音。


     停滞した空気を引き裂くような銃声が《霊暗眼》の聴覚を貫き、続く何発もの発砲音が空気を粉々に打ち砕いた。
     
     「!」

     最初の破裂音を聞いた瞬間、遺伝子操作により卓越した聴覚を持つ彼女が聞いたのは、弾丸が肉を抉る音と、呆けたような仲間の悲鳴。
     一秒かかる事なく廊下に飛び出すと一一通路の両脇に積まれた資材を遮蔽にして、通路の奥に掃射を浴びせる仲間の姿があった。そこから少し離れた場所には見張りに立っていた少年の一人が倒れており、傍らに座り込んだアイリスがその側頭部を押さえていた。

     「新手! 向こうの三叉路から撃ってくる! エドが撃たれた!」
     
     ぶつ切りの状況説明に少年を見下ろすと、こめかみに小指大の穴が開いている。 
     一目で致命傷と分かる銃創だったが、認めたくないのだろう。必死で溢れ出す脳漿を押し戻そうとしているアイリスに、《霊暗眼》が首を振る。

     「無駄デス。…彼ハ死ニマシタ」
     「解ってるよ! 解ってるのになに《霊暗眼》は落ち着いてんのさ!」 
     「冷静デナケレバ彼ノ仇ハ撃テマセン」
     「…ッ。…分かったよ《霊暗眼》」

     少年の頭をそっと、丁寧にアイリスが床に下ろす。
     少しの間だけ床に広がる脳漿を未練そうにしていたが、直ぐに両目に陰を灯すと腰に差していた球状の陶器を取り出した。従来のものよりもシャープなデザインをした、携行用のグレネードだ。

     「ジュノー、援護して」

     同じ施設の生まれの少女に、陰鬱な少年が得たりとばかりに頷き返した時には、アイリスは資材の陰から身を乗り出していた。
     的も同然に現れたオレンジ頭の上半身に、すかさず通路の奥から伸びた”白い腕”がライフルを向ける。

     一一パワードスーツじゃない?

     《霊暗眼》がそう思ったのも束の間、ライフルを握った腕が赤く白く弾け飛んだ。比喩ではなく、白い腕に打ち込まれた散弾が、体内で極小の鉄球をぶちまけたのだ。
     硝煙を放つショットガンの薬莢を排出したジュノーがもう一発、敵の隠れていそうなタングステンの箱に弾丸を撃ち込んだ瞬間一一榴弾砲が火を噴いた。
     ソフトボール大の榴弾が通路の向こうで渇いた音を立てた瞬間、音と光の乱舞が爆ぜる。
     密閉された空間によって恐ろしく威力の増幅された爆発は、膨大なエネルギーの逃げ場を求めて三叉路を容赦なく突き進んだ。何者がそこに立っていようが、一切合切お構いなしに。
     通路を飲み込んだ爆発に巻き上げられたハウスダストが、チリチリと灼けながら【屍喰鬼隊】達の頬を掠める。
     当然、爆風は《霊暗眼》の陣取る通路にも返ってきたが、積まれた資材がそのまま盾となって彼らの体を守ることとなった。

     「…」
     
     数秒の沈黙の後、《霊暗眼》鋭く尖らせた感覚を、粉塵の立ちこめる通路へ向ける。
     その神経が突き刺さるのは、徐々に晴れてゆく粉塵の、更に奥。こちらとは対照的に障害物が根刮ぎにされた、三叉路の中。
     生存者など全く期待できない爆心地のなか、そこにあったのは、実に浮世離れした一一しかし彼らにとって非常に見覚えのある光景だった。
     空調は正確に作動しているのか、粉塵のカーテンが取り払われた先に見えたのは、白。
     
     「…!」

     白い白い服の子供達。
     爆炎の燃え移りがチラチラと踊る患者服を纏った少年少女が、やはり白い白い肌を晒している。白一色の世界の中で、彼らの持つライフルの黒光りだけが異様に際立っていた。
     服装から察するに、警備兵の類ではないのだろうか? 一瞬そうは思ったが、《霊暗眼》にはそれより先に思い当たる節があった。

     「…実験体…」

     外郭研のホムンクルス。
     リサーチャーから聞いた単語が、瞬時に脳裏に浮かび上がる。
     《霊暗眼》の呟きを裏付けるように、至近でグレネードの直撃に見舞われた少年少女達に外傷は無い。人間の外観を保ったまま外殻と化した皮膚が、彼らを破壊の嵐から守ったのだ。
     そして彼らの救出と施設の破壊こそが、【屍喰鬼隊】の目的だったのだが一一

     「…ドシタモノデショウ」

     問題があるとすれば、どう見ても彼らが自力で脱出してきたようには見えない事だ。
     そして、何より問題だったのは一一明らかすぎる程の敵意が、こちらに叩き付けられている事だろうか。

     「何よォこいつら」
     「………何か…ヤバイよ、《霊暗眼》…」

     困惑する仲間達を代表するように、アイリスとジュノーが声を上げる。
     体に燃え移らなくても、熱さは感じているのだろうか。或いは単に邪魔だっただけか、白い子供達は衣服の燃えている所を引き千切る。  
     そうしてライフルやサブマシンガンを思い思いの早さで構え直すと、中心人物と思しき少年一一先刻右手首から先を吹き飛ばされた少年が、唸るような声を上げる。

     「誰だよお前ら」

     腕の中で散弾が弾けたのだがら、肉体精神共に相当のショックを受けている筈だろう。しかし少年は特に気にした風もなく、疑問の声を上げて見せた。
     明らかにそんな問答をしていられる事態でも雰囲気でも無かったが、襲撃者であるこちらが先に答えるのが筋だろう。
     襲撃するのにスジも何もあったものではなかったが、《霊暗眼》はそう考えると、簡潔に自分達の目的と素性を口にした。

     「武装勢力デス。貴方達ヲ救出ニ来マシタ」
     「…信じられるかよ」
     「…」
     
     一瞬だけ、白い子供達の顔に何かを期待するような色が走ったが、それは先刻の少年の言葉によって一蹴された。
     それが合図だったかのように、トリガーに指を掛ける子供達。中には銃を握る事さえ躊躇う子供もいたが、隣の子供にせっつかれるようにして手にした銃を前へ向けた。
     例外なくそんな彼らの目に浮かぶ感情を見て、《霊暗眼》は感情の薄い瞳を僅かに曇らせた。
     何かを求めているようで、何も期待していないような、それでいてもがき続けているような荒んだ目。そして、酷く見覚えのある目。
     傍らで銃を構える仲間達も、研究所から出る前は皆一様にこんな目をしていた。《霊暗眼》とて例外ではない。人間以下の人間として生まれ、物心付く前から臓腑を切り裂かれ、自分よりも研究結果しか求められなかった経験は、『子供らしさ』を根刮ぎ奪い去ってゆく。《幻無》やディックのような楽観主義者の方が稀少なのだ。
     手のない少年は吐き捨てるように言うと、三叉路に一歩後退った。
     それに伴って白い子供達が一斉に後退する中、少年が堂々と宣言する。

     「…僕たちは、お前達を殺す」
     「ソノ必要ハ在リマセン」
     「ある!」
     「何故」

     銃口を向け会う子供達の真ん中で、少年は高らかに声を上げる。
     どこまでもどこまでも、何かを期待しているようで、何も期待していないような目で。
     

     「だって一一だって”あいつらが言ったんだ”! ”お前達を殺せば、僕らは自由になれるって”! ”僕達を自由にしてくれるって”!」
     

     悲痛な叫びが廊下に反響して消え入る前に、少年の持つライフルが轟音を上げ、それを合図に白い子供達が持つ銃口が一斉に轟音を吐き出した。
     咄嗟に身を隠した【屍喰鬼隊】に資材の破片が降り注ぎ、跳弾が廊下を跳ね回る。
     その間に三叉路まで後退した少年に向かい、資材の隙間から顔を出した《霊暗眼》が問いかける。

     「ソノ彼等ヲ信用デキルトイウ根拠ハ!」
     「無いよ! それでも僕たちは、僕たちの手で自由を掴んでみたい!」
     「《霊暗眼》!」

     ジュノーの叫びが聴覚を叩くと同時に、《霊暗眼》の頬を銃弾が掠める。
     凶弾のトリガーを引いたのは、”右手を失った少年の右手”。散弾に直撃されて千切れた手首から先は、手品のように元通りになっていた。
     
     一一超再生能力(リジェネレイト)!
     「一一あの野郎ッ!」

     初めて見る実験体の能力に軽く目を見開く《霊暗眼》の横で、撃たれた事に気付いたアイリスが再びグレネードを構え直す。彼らを倒しては本末転倒だという《霊暗眼》の制止は、アイリスにつられて動き出した【屍喰鬼隊】の銃声に掻き消された。
     再び爆炎に包まれた通路の奥から、今度は爆風を物ともせずに突っ込んでくる子供がいる。次の瞬間もんどりうって倒れたそいつの後ろから、機銃を構えた少女が飛び出す一一が、もう一度着弾したグレネードが他の子供を巻き込んで少女の躰を押し潰した。
     時にはどちらかの銃弾が脇を掠め、時には跳弾が予期せぬ方向から飛来する。繰り返し、繰り返し、まるで戦争映画を繰り返し再生しているかのように。
     降って湧いたような喧噪は、収束の糸口など全く見当たらず一一


     一人として人間のいない戦争は、大混戦に陥った。 
     

      
     一一『Kowloon a flash 10』 closed一一

     

1217/ 特報0<The Last Raven>
・投稿者/ ケツアゴ熊ちゃん
・投稿日/ 2007/01/10(Wed) 21:26:06

     【特報0】
     

     
     <The Last Raven>



     地球歴○二一三年。
     三大企業連合トリニティによって企てられた、次世代型準人型兵器バイヨネット開発計画。
     それは、企業紛争末期において新型バイヨネットの暴走という結果を呼び起こし、九龍シティに多大な混乱を呼び起こした。
     
     新型バイヨネットは当時シティ内に配備されていた旧型バイヨネットを次々と破壊し九龍シティを蹂躙、東西南北あらゆる地区を破壊の渦に巻き込んだ。
     三大企業連合が、<黒山羊ノ日>を上回る最大編成で鎮圧部隊を送り込むも、数時間と待たず部隊は壊滅。その半刻後にとうとう東地区の電力供給プラントが破壊され、九龍シティの都市機能は完全に停止した。
     救命活動も消化活動もままならぬまま、九龍シティが地獄に包まれる。  


     だが――前述の十大事件を凌ぐ死傷者を記録し、九龍シティ壊滅の原因となったこの事件は、僅か半日を待たずして解決する事となる。 
     

     再編成された残存部隊が新型バイヨネットに応戦する中、突如東区画の外壁が崩壊。三層からなる隔壁を破って突入してきたのは、<真・放鳥の日>の折りC-LAWSに強奪されていた崑崙級陸上戦艦であった。
     九龍シティに突入を果たしたC-LAWSは、実動隊長《ゼカリア》を中心にバイヨネット撃破作戦を敢行。僅か三十名に満たない隊員を率い、中央区へ向かう新型バイヨネットに攻撃を開始した。
     それに呼応するかのように、スモーキングジャッカルズ連隊、九龍清浄化機構を始めとした武装勢力も次々と制圧作戦に合流。
     やがて再々編成されたデルタ本隊が最終突撃作戦を決行。
     作戦に参加した九割の兵士を犠牲に払いながらも、バイヨネットの撃破に成功した。
     
     

     しかしながら、バイヨネット暴走の原因は依然として不明。
     また、何故《ゼカリア》がバイヨネットの破壊に乗り出したのか、主義主張の異なる武装勢力達を団結させたものは一体何だったのか――全ての鴉達が姿を消した今では、誰にも解らない事である…


     

1218/ 『The Last Raven』
・投稿者/ ケツアゴ熊ちゃん
・投稿日/ 2007/01/10(Wed) 21:27:22

     それは、やたらと壮大すぎてとりとめのない事件が終わった直後のことだった。
     
     

     「鴉は、その種類によってクロウ、ルーク、レイヴンと分けられることを、貴女は知っていますか?」



     そこは一際荒れ果てた、まるで一晩中巨大怪獣が暴れ回っていたような廃墟だった。
     C-LAWSが巨大バイヨネットの強奪を目論むも、誤ってバイヨネットの暴走を引き起こす。後にそう報じられて何もかもが片付けられてしまう、そこはそういう場所なのだった。
     静閑な街――だったもの――の景観には、停止した巨大バイヨネットと鎮座した崑崙級陸上戦艦が奇妙なオブジェのようにそびえている。
     周囲にはそのバイヨネットを数回り小さくしたような機体の残骸と、鴉のエンブレムを持った残骸達が散乱している。
     数え切れない程の残骸の上には、屍肉の臭いにつられてきたのか二羽の鴉が留まっていた。

     
     「鴉が、実は一夫一妻制だということを知っていますか?」


     廃墟の中に響き渡るのは、とても静かな声だった。
     何か大きな仕事をやり遂げたような、中途半端に終わってしまいそうだった仕事がどうにか片付いたような、そんな声だった。
     “ふと、九龍シティに朝日が差した”。
     崑崙級が東地区に突入した際、彼らは船首の体当たりで外壁を突き破って来たのだ。天井もバイヨネットの攻撃で一部が破壊されてしまったらしく、そこから目映い朝日が射し込んでくる。
     街が、白い世界に包まれた。


     「鴉は群を成して生活し、仲間に危険が及んだ時は、例えその仲間が既に落命していたとしても助けようとすることを知っていますか?」


     繰り返される質問の声に滲み出ているのは、隠しようもない疲労。だが、それはどこか穏やかで。
     《AGNUS‐DEI》のコクピットの中、重ねて尋ねかける《ゼカリア》の前に一つの影が立っていた。
     ライトグリーンの複眼に光を灯した、逆間接のアーマード・コア。
     このややこしくもこんがらがった事件に巻き込まれることも厭わず駆けつけた、お人好しの鴉の一羽だ。
     そんな自分と同じ『生き残り』に対し、《ゼカリア》は次々と一羽の鳥類に関する知識を羅列する。
     

     「魔法を掛けられたアーサー王の化身」
     「主神オーディンの遣い」
     「砂漠に栄えた王朝では、太陽の鳥と崇められた」


     憧れるように、或いは羨むように、その鳥の伝承を歌いあげる声。
     だが、不意に声に悲しげな響きが混ざる。


     「だというのに――私達はこう思う。ゴミを漁り、脂肪を好み、鴉が鳴くと人が死ぬ。鴉が集まる場所では死人が出る、と」


     その朗々とした語り部に、《KABUKI》は何も答えない。
     《ゼカリア》もまた、相手の応答を望んではいなかった。
     もはや、何が起ころうと結末が変わることはない。
     そして「どうせ変わらないのだから」という諦念が、彼の口を動かしているのだった。

     
     「私の動機は、言うほど立派なものじゃぁなかった。鴉という存在のイメージが固定化され、誤解されている――それが単に気に食わなかった。そんな名前を押しつけられた、我々レイヴンが――」


     それが悔しくて悔しくて堪らないとでも言うように。


     「だから、レイヴンを正しく崇高な存在に見せたかったのかも知れない。世界に、レイヴンを知って――子供のようなことを言うようですが、正義の味方と思って欲しかったのかも知れない」


     その時、遠くからサイレンの音が響いてきた。
     高く澄んだその音はシティの降水警報で、ガード部隊が消火活動を始めたのか、それとも壊れた降水装置が勝手に作動しているのか。
     しかし、《ゼカリア》に耳にはもうその音は聞こえていない。


     「しかし…気付けば私は社会の敵になっていた」


     大仰な単語を持ち出しながら、《ゼカリア》は自分自身を嘲るように語り続ける。
     だが、やはり《KABUKI》からの返答は無い。返事があるとすれば、それは憎しみでも殺気でもなく――戦う意志。
     そうとしか言えないものが、《KABUKI》から《ゼカリア》に叩き付けられているのだった。
     《ゼカリア》はその気配を受け止めることも受け流すこともなく、ただ、寧ろ好都合だと笑う。

     
     「そんな世界など、とは何度も思った。…だが、我々がここでシティを見捨ててしまったら、それは我々が“誤解されっぱなし”ということだから――だからC-LAWSは、シティを守る為に命を賭した、英雄として死ななければならなかった…!」


     俄作りで思いついた、その場限りの虚言だったが、もしかしたらそれが自分が一番やりたかった事なのではないかと《ゼカリア》はふと思った。
     傍から聞いていれば歯の浮くような台詞だったが、知ったことではない。
     今この場所に立っているのは、自分と相手しかいないのだから。


     
     「私は、その為に全てを利用してきたんだ。ケイジも、企業も、C-LAWSも…《AMANE》も!」


     
     朗々と世界に響き渡る声。
     詭弁に過ぎないということは解っていた。
     どうせ世界は全ての事実に蓋をして、最初から何もなかったような顔をするに違いないのだ。
     だから、殆どの所はこれで終わってしまっているのだった。
     あとは、C-LAWSの《ゼカリア》さえ倒されれば。
     
     それでいいのだった。
     これで、世界からレイヴンはいなくなる。少なくとも、いなくなったことになるだろう。 
     いなくなってしまえば――途中でレイヴンを辞めた者達や、レイヴンである事を隠してきた連中が、周囲の偏見の目を恐れて生きることは無くなるのだ。
     罪滅ぼしのつもりではない。だが、何もかも“しくじってしまった”今、このエゴだけでも貫かなければならない。そうでなければ、自分が掲げてきた大儀が全く意味のないものになってしまうような気がして。
     だからこそ、《ゼカリア》は最後の仕事を終えるために、下ろしていた巨大な銃口を持ち上げて目の前の《KABUKI》に狙いを定めた。
     

     掲げたリニアライフルは、バイヨネットの攻撃からコアを庇った際の代償で銃身が大きく拉げている。まだ弾丸は残っているが、あとは銃の耐久性を信じるしかない。
     エネルギーキャノンも中折れの部分から先が折れ飛んでおり、熔解を始めているブレードの放出口は、果たしてまだ稼働するのだろうか。
     
     見ると、対する《KABUKI》も負けず劣らず酷い有様だった。
     バイヨネットの攻撃がミサイルコンテナに誘爆していたらしい。右肩を中心に装甲が根刮ぎ吹き飛んでいて、右腕に至っては数本のケーブルだけで繋がっているように見える。
     残されている武装は二丁のフィンガーマシンガンだけだったが、煤けてしまった左肩の上で、気怠げなとかげのエンブレムがその中で輝いているようだった。

     

     撃轍が上がる音。

      

     不格好なライフルの撃轍が、《AGNUS‐DEI》の右手で鳴る。
     それに呼応するように、《KABUKI》も両手の機関銃を構えた。


     満身創痍で銃を構える《KABUKI》の姿は、昇る朝日と相まって悔しいくらいに様になっていた。 
     眩しいばかりの朝日を背に立つ、誰にも負けない正義の味方。とうとう自分ではなれなかった役だ。
     果たしてこの自分の姿も、《ショートテイル》の目には格好良く映っているのだろうか。


     ――全く、未練たらしいものだ…なぁ?


     やれやれと首を振りながら、一体それは誰に問いかけた言葉だったのか。
     その答えは永遠に知られることはなく――《ゼカリア》の心中には、「鴉が集まる場所では人が死ぬ」という根も葉もないジンクスを、よりにもよって自分自身が証明してしまう事への自嘲だけが浮かんでいた。




     遠くで、もう一度サイレンが聞こえた。




     異なる二つのジェネレーターが、全く同時に唸りを上げた。




     始まる何かを予感したのか、残骸に留っていた鴉が羽ばたいた。






     朝焼けに包まれる世界の中。
     終わりの始まりを告げる銃声が、悲しいくらいに澄み渡った空に高らかに鳴り響いていった。  










     一一OVA-LR closed一一

     



1348/ 「え〜、うっそマジNX !?」
・投稿者/ ジンキ[隊長]
・投稿日/ 2007/03/24(Sat) 00:38:20
・URL/ http://badcompany.hp.infoseek.co.jp/



1349/ 後書き?
・投稿者/ ジンキ[隊長]
・投稿日/ 2007/03/24(Sat) 00:51:08
・URL/ http://badcompany.hp.infoseek.co.jp/

     あー、如何だったでしょうか?w

     最後は彼女が自害するパターンやヤヌスがホントに殺してしまうパターンなどいろいろ考えたんですが、これの前の『夢で会えたら』がややバッドエンドっぽい湿った話だったので、今回はまぁほのぼの系で。

     え、ほのぼのしてないですか?



     え〜と、うんゴメンなさい。


     感想とか貰えると、今後のためになるのですごく嬉しいわ☆



900/ アレな話
・投稿者/ ツノナシ
・投稿日/ 2006/06/24(Sat) 06:03:57

    ここは地上のターミナル

    夕暮れぐれぐれ夕暮れの

    区画を外れた路地裏で

    3つの影がゴソゴソと

    蠢いてるぞ ナンダロウ?

    クチャクチャ音が聞こえるぞ

    何かを喰ってる音みたい

    一体何を喰ってるの?

    ちょいと近づき覗いてみたら

    そこには哀れな死体がひとつ

    はらわた垂らして転がってる

    蠢く影達腕伸ばし はらわた千切る 肉千切る

    みるみるうちに肉削がれ 腹は空洞 スカスカに

    腕の動きは止まらない

    骨を手に取り 口に運ぶ

    ガリガリガリガリ齧ってく

    肋骨 鎖骨 胸骨と

    一本 一本 また一本

    みるみるうちに減っていく

    あっという間にその場から

    肉消え わた消え 骨消えた

    残ってるもの 何も無い

    ひとつの死体が無くなった

    それでもおなかが減ってるようで

    三つの影は蠢き蠢き 食い物探す

    そこにやってくる影ひとつ

    運の悪い影ひとつ

    現れたのは男の子

    小さな小さな男の子

    身包み 着ぐるみ 剥がされて

    このまま喰われてしまうのか

    続きは本編となりますが

    期待はするな あきらめろ

    次回、魔法少女対怪人軍団 第一話『魔法少女ここに推参!』

    見たら損する やめておけ



901/ 相当にアレな話
・投稿者/ ツノナシ
・投稿日/ 2006/06/24(Sat) 06:05:27

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    魔法少女対怪人軍団 第一話 「魔法少女ここに推参!」
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    「おかーさーん、おとーさーん、どこにいっちゃったの? おかーさーーん」

    ターミナルの路地裏を、彷徨う小さな男の子。

    親子一緒にターミナル、出かけてみたのはいいけれど、はぐれちゃったよお母さん。迷子になったよお父さん。

    その目に涙浮かべつつ、親を探して3時間、気付けば周りに人はなく、深くて暗い路地裏に、迷い込んでたどうしよう?

    そこに現る二つの影、遠く前方に二つの影。

    影が目に入った瞬間に、力いっぱい走り出す。

    走って走って走りぬいた。力の限り走りぬいた。

    息は切れ切れ疲れたけれども、人に会えればそれでいい。

    もしかしたらお父さんとお母さんかもしれない。

    二人が親じゃなくっても、人に会えればそれでいい。

    深くて暗い路地裏に入り込んで一時間、人には一度も会ってない。

    夜中にひとりでトイレに行けないような男の子が誰もいない路地裏を彷徨い続けてきたんだよ。

    内心びくびく怖がって、目からは涙が溢れてて、誰でもいいからしがみつき「怖かったよ」と泣き叫びたい。早く人肌に触れたい。ぬくもりが欲しい。

    走りぬいた少年は目前にいる二つの影のかたっぽに倒れるように抱きついた。

    抱きつきながらエンエンエンと泣き喚く。

    やっと人に会えた!

    少年の心はえもしれぬ喜びで一杯だ。

    少年の頭に手が触れた。

    少年が抱きついている人の手だ。

    少年はその人が頭を撫でてくれるのだと思っていた。

    そういう流れになると思っていた。

    しかし残念、少年の心は大いに裏切られる事となる。

    しかも最悪の形で。

    少年の頭に触れた手は、そのまま少年の頭をふん掴み、そして持ち上げられた。

    少年の足は地面から離れ、エレベーターのように上へ上へと上がっていく。

    そして持ち上げられたその場所で少年がその目で見たモノは……        バケモノだった。

    アリのようなヒトのような異形のバケモノだった……

    少年は叫んだ。恐怖に慄きながら声にならない声で叫んだ。

    そんな少年に寄ってくる影がひとつ。

    さっき、見た影のもう片方だ。

    焦点の合わない目で少年が見たのはやはりバケモノ。

    自分の頭を掴んでいるものと同じバケモノ。

    さらに少年は叫んだ。股間から尿を垂れ流しながら叫んだ。

    そんな少年の背後に新たな気配がひとつ。

    案の定、同じバケモノだ。

    それでも少年は叫び続ける。誰かがこの叫びを聞いてくれることを望んで叫び続ける。

    「ダマレ」

    目の前のバケモノがコトバを口にした。

    しかし、少年は叫ぶのをやめない。

    少年の頭を掴んだ手の力が強まる。

    しかし、少年は叫ぶのをやめない。

    「ダマレ」

    先程より大きく恐ろしい声でバケモノがコトバを出す。

    しかし、少年は叫ぶのをやめない。

    バケモノのコトバが解からないわけではない。

    しかし、黙ってしまえば声が届かない。

    助けてくれる人の耳に届かない。

    だから少年は叫ぶ。叫んで叫んで叫び続ける。

    だれか助けて! だれでもいいから助けて!

    「ダマラナイ ドウスル?」

    頭を掴んでいるバケモノがコトバを出す。

    「ダマラナイ ヤツ ツレテク メンドウ」

    後ろのバケモノもコトバを出す。

    「ナラ クオウ」

    横のバケモノもコトバを出す。

    「ソウダナ クウカ」

    「ソウシヨウ クオウ」

    「クオウ クオウ」

    バケモノたちの考えがまとまったようだ。

    このままでは自分は食われてしまう。

    少年は最後の力を振り絞り、叫んだ。

    腹の底から、思いっきり、力の限り、ただただひたすら、叫び続けた……




    そして現れた。



    彼女が。







    「ちょっと待ったァッ!!」




    「「「ダレダ!!」」」

    突然の声に振り向くバケモノたち。

    バケモノたちが振り向いたところにいた者はひとりの少女だった。

    場違いかつ、奇抜な格好をした少女だった。

    薄紅色のツインテールにメイド服のような服装、手に持っているのはステッキだ。

    間違ってもバケモノから少年を救ってくれるような人間には見えない。



    「天呼ぶ、地呼ぶ、人が呼ぶ、少年の声がアタシを呼ぶ♪
     森の妖精まじかる☆こリスちゃん、少年の叫びに答えて只今参上〜♪
     路地裏に蠢く怪人たちよ、さっさとオウチに帰んなさい♪」


    手に持ったステッキを正面に向け、どっかで聞いた事のある向上を垂れるアレな少女を、バケモノに頭をつかまれた少年は冷ややかな目で見つめていた。


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    次回予告

    突如現れた天下御免の魔法少女、まじかる☆こリス。
    彼女は襲い掛かるアリ男達を蹴散らす事ができるのか!?

    次回、魔法少女対怪人軍団 第二話 「遭遇! アリ男」

    期待はしちゃダメ。損するだけヨ。

942/ 確実にアレな話
・投稿者/ ツノナシ
・投稿日/ 2006/07/01(Sat) 04:15:31

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    魔法少女対怪人軍団 第二話 「遭遇! アリ男」
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    路地裏で4つの影が対峙する。

    かたや自称魔法少女、薄紅色のツインテールにメイド服っぽいアレな格好をした彼女は、オモチャっぽいステッキをホームラン宣言よろしく正面に向け口元に怪しげな笑みを浮かべている。
    かたや対する三匹のアリ型怪人、四本の腕をワサワサ動かし、歯をギチギチ鳴らしてる。その内の1匹の手にはいろいろな意味で引きつった顔をした少年の姿が。

    こんな場面を見たら君はどう思う。

    非常識極まりないこの光景を見たとしたら!

    きっと、そうきっと、おそらく、多分、絶対に、君達はこの非現実な光景を見てこう思うだろう!


    「これ、特撮番組の撮影だよね?」


    と。

    しかし、周りをよく見ていただきたい。

    彼らの周りには誰もいないのである。

    監督も、脚本家も、音声さんも、カメラマンも、若さ溢れるADさんも、だ〜れも誰もいないのである!

    そんな誰もいない状態で特撮番組なんて撮れやしないのだ!

    じゃあ今、目の前で行われているこれは何なのか!

    一体何なのか!

    もしかして、本当なのか!? 現実なのか!? 真実なのか!?

    本当に本当にここで対峙しているのはバケモノと魔法少女なのか!?

    そうとも!

    その通りだとも!

    ここで! 今! 対峙しているのは!

    紛れも無い怪人と!

    紛れも無い魔法少女なのだ!

    夢じゃない。現実だ!

    真実から目を背けたくなるのも分かる。

    しかし目を背けるな!

    今ここで行われているのは紛れも無い真実であるのだから!!



    対峙する怪人たちが思い出したかのように口を開く。

    「モリノヨウ……ヨウ……ヨウ…… ナンダッテ?」

    「マジ デ カル ナントカ ダト イッテタゾ」

    「コリス……リス……リス…… リスノ ニクッテ ウマイヨナア?」

    「アア ウマイナ リス マエ クッタガ アレ ウマカッタ」

    「リスッテ ナンダ? オレ クッタコトナイ クワセロクワセロ」

    残念無念再来年、折角目の前の魔法少女が唱えてくださったありがた〜い前口上は、怪人たちの頭には理解できなかったようだ。

    「リス メズラシイ オマエ クエナイ」

    「クイタイ オレ リス クイタイ」

    「ムリムリ クエナイ オマエ リス クエナイ」

    「クワセロ クワセロ リス クワセロ」

    しかもいつの間にやら怪人たちはリス談義に夢中になっている!

    どうするどうする魔法少女、一体この場をどう仕切る?

    ここが力の見せ所だ!


    「あんた達ねェ〜〜〜」

    おや、魔法少女の持ったスッテキの形が変わったような? 気のせいかな?

    「この天下御免の魔法少女様の目の前でぇ〜〜〜〜」

    いや、変わってる! 現在進行形で変わってる! ステッキの形がみるみるうちに別の形に変わってく。

    「なぁにをリス談義しとるんじゃぁ〜〜〜〜〜」

    そう! あの形はまさにハンマー! 某勇者ロボが持ってるぐらいデッカイ、ピコピコハンマーだ!

    そして! 魔法少女は! 今まさに! そのハンマーを! 思いっきり大地に叩き付けた!

    するとどうだろう?

    ハンマーからは怪しげな光があふれ出し、大地をマグニチュード8.5ぐらいの振動で大いに揺るがし始めたではないか!

    すごい、すごいぞ魔法少女! 自称じゃなかったんだね魔法少女! 本物だったんだね魔法少女!

    魔法少女が起こした大地震は大地を揺るがせ、建物を倒壊させ、地盤沈下を起こさせた!

    すごい、すごいよ魔法少女! 被害もすごいよ魔法少女! 明らかに第三者に被害が出てるよ! 一般市民が死屍累々だよ!

    「ふふん、正義のためには多少の犠牲は必要なのよ。あははははははははははははははははは〜〜〜〜〜〜〜」

    そうですか。そうなんですか。怖いですね魔法少女って。


    さてさて忘れちまったかもしれないが、地震を震源地でくらった怪人軍団はどうなったのだろう?

    魔法を撃ってイッちゃってる魔法少女は置いといてちょっと見てみようか。

    少年を手にしていたアリ怪人Aは流石に揺れの中では少年を掴み続ける事はできなかったのか、その手から少年を離していた。

    揺れの中、ガッチリシッカリ地面にかがみ落下する物体にも運良く当たる事は無かったようだ。

    一方、リスを食ったことが無く、食いたい喰いたいと言っていたアリ怪人Bは落下する貯水タンクが頭骸に直撃し、リスをその口に入れることなく絶命していた。

    そしてリス談義をはじめた怪人Cは、なんとか生き延びる事はできたが、落下物により手足は潰れ、まさしく虫の息になっていた。

    最後に、怪人の手から離れた少年はどうなったかというと、頭を壁にぶつけ気を失ってはいるものの、ちゃんと息をしている。死んではいないようだ。


    どのくらい時間が経っただろうか。数秒だろうか、数分だろうか。

    とにかく今、怪人Aがゆらりと立ち上がった。

    その目に憎悪の念を抱きながら、一歩、また一歩と歩を進める。

    そしてその時魔法少女は、

    「こんな大地震を起こせるなんてアタシってやっぱ天才よね♪」

    と、自分の世界に浸っていた。


    −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

    次回予告

    アリ怪人三人衆の最後のひとりが今、同胞の敵を撃たんがため魔法少女に牙を向ける!
    そして当の魔法少女はただひたすらに笑い続けていた。
    どうなる魔法少女!? その命運やいかに!! 次回、魔法少女対怪人軍団 第二話「それぞれのキモチ」
    未来へ向かってハリセンミサイルだっちゃ〜〜〜

    間違っても期待だけはしないように

947/ やっぱりアレな話
・投稿者/ ツノナシ
・投稿日/ 2006/07/03(Mon) 04:10:49

    オレ コノキモチ アジワッタコトナイ

    ナンダ コレ ワカラナイ

    イママデ カンジタコト ナイ

    ハラヘリ

    ユカイ

    イヤダ

    カナシイ

    タノシイ

    ゼンブ チガウ

    ナンダ コレ

    コノ クロイ キモチ

    アツイ キモチ

    ワカラナイ

    オレ ワカラナイ

    デモ オレ ヒトツ ワカル

    オレ アイツ チギリタイ

    オレ アイツ ヒキサキタイ

    オレ アイツ コロシタイ

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    魔法少女対怪人軍団 第三話 「それぞれのキモチ」
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    幽鬼の如く立ち上がったアリ型怪人のその目には憎悪の炎が滾っていた。

    憎悪の炎が指す場所には、奇妙な出で立ちの少女がひとり。

    己が世界に浸り続ける少女に警戒を張りつつ、アリ型怪人は戦闘準備を整える。

    6つの肢を全て地につけ、その動作を確認する。

    全ての肢がちゃんと動く、これならヤツを掴んだら決して離すことはない。爪を肉に喰いこませ引きちぎるコトだって可能だ。

    顎をギチギチギチギチとけたたましく鳴らせる。

    顎の調子も良好だ、これなら幾らでも肉を噛み千切れる。

    体に特に以上はない、ただひとつあるとすれば、この空腹感か。

    今のままでは怒りに、本能に身を任せ動いたところで、あの少女に敗れる事だろう。

    何か喰うものはないか? ただ一度、ただ一時、ヤツを引き裂き、噛み千切り、はらわたをかき回すだけの時間を作る時間があればいい。それだけのエネルギーがあればいい。

    「オレ ヲ クエ」

    背後で声が聞こえた。

    同胞だ。

    同じ月に産まれ、同じ肉を喰い、同じ時を過ごした同胞だ。

    「オレ モウ ウゴ ケナイ ダカラ クエ」

    見ると同胞は落下物に肢を潰され、腹を潰され、片肺を潰され、もはや虫の息となっていた。

    「オレ クッッッテェェ オ レ トォォ……」

    虫の息の同胞が目を別の方に向ける。そこにあるのは天から落ちてきた塊。貯水タンクと呼ばれる塊。その下にはもうひとりの同胞の肉が飛び散り、血溜まりができている。

    「オ レ ト アイ ツ ノォォ……」

    同胞は事切れた。

    怪人は喰った。

    同胞を喰った。

    一心不乱に喰った。

    ヤツに復讐を果たさんがため、血を啜り、肉を喰った。

    体に力が漲るのが分かる。

    自分には同胞の血肉が通っている。同胞の血肉が力を与えてくれるのがわかる。

    全てが整った。準備完了だ。

    同胞を殺したアイツは、まだアソコにいる。

    アソコで高笑いをしている。

    怪人は駆けた。

    6つの肢でまさしく地を這う蟲が如く、駆けた。

    怒りと本能に身を任せて。



    少女は笑っていた。

    かれこれ10分ほど笑っていた。

    自分の世界に浸りながらアヘアへと笑っていた。

    『怒りの鉄槌』

    ステッキをハンマーに変え、必殺の一撃を加える魔法だ。余波で派手な光と同時に地響きを起こす。

    とはいっても地響きなんてのは軽いもの。

    あれ揺れたかな?

    と思う程度。

    なにせ余波なのだ。

    この技の本分は文字通り必殺の威力を持つ物理攻撃にある。

    であるにもかかわらず、大地震が起きてしまった。

    何故か?

    理由は到って簡単。

    偶然の産物だ。

    彼女が鉄槌を振り下ろさなくても、その地震は起きていた。

    そう、この大地震は起こるべくして起こったものであり、彼女の魔法ではないのだ。

    しかし、彼女は勘違いしてしまった。

    魔法発動と同時に大地震が起こってしまったため、己が起こしたものであると勘違いしてしまった。

    あまりの威力の素晴らしさに、もはや笑うしかない。

    しまいにはこんな魔法を使える自分は天才だと思う始末。

    アヘアへという笑いは、イヒヒヒヒという笑いに変わり、

    イヒヒヒヒという笑いは、あははははーという笑いに変わり

    あははははーという笑いは、おーほっほっほっほっほーという笑いに変わった。

    彼女の笑いは止まらない。もはや自分が何に怒りを向けていたのかとかそういうことはスッカリサッパリ頭の中から抜けている。

    笑い笑い笑い笑い笑い笑い笑い笑い笑い笑い笑い続けた。

    喉が痛くなろうが笑い続けた。

    この笑いが止まるにはもうしばらくかかりそうだ。

    いや、かかるはずだった。

    しかし、この笑いは止められる事になる。

    もうすぐ

    そうもうすぐ

    あとちょっとで

    来る

    来るぞ

    来た

    来た

    来たぞ

    そう



    彼女の長きにわたる笑いが

    今まさに

    一撃の

    そう一撃の

    とても重い

    思いの深く篭った重い

    たった一撃の

    一撃の

    この上なき突撃で

    終わりを告げる

    終わりを告げる

    終わりを

    終わりを

    終わりを

     ・
     ・
     ・

    告げた


    −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

    次回予告

    アリ怪人の攻撃は凄まじく、後手にまわってしまう魔法少女。
    このままでは負けてしまう。そんなとき、彼女が思いついた起死回生の一手とは!
    次回、魔法少女対怪人軍団 第四話 「路地裏の死闘」
    明日に向かってハリセンミサイルだっちゃ!

    この小説モドキはAC小説モドキです。
    次々回にはACが出るはずです。多分。

    期待せず肩の力を抜いてくれ

976/ 結構アレな話
・投稿者/ ツノナシ
・投稿日/ 2006/07/09(Sun) 07:56:39

    絶え間ない笑いで見事に膨らんだ少女のお腹に重いものがぶつかった。

    と同時にピキピキっという軽快な音がわき腹から鳴り響く。

    骨の折れた音だ。

    あばらが2〜3本折れたようだ。

    痛い痛い痛くて痛くてたまらない……と、普通ならば普段ならばそう感じる事だろう。

    しかし彼女は痛みを感じなかった。

    何故か?

    簡単だ。

    彼女はハイになっていた。

    とてもとてもHighになっていた。

    ようするにイッちゃっていたのだ。

    アッチの世界に行っちまってる人間は脳内麻薬がドバドバと分泌されているため、大して痛みを感じない。

    今の今まで高笑いをしていたことで戦闘行為における邪魔者のひとつ、痛みを取り除く事に成功したのだ。

    なんたる偶然。

    なんたる奇跡。

    すごいぞすごいぞ魔法少女。

    さぁ、立ち上がって、反撃だ!

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    魔法少女対怪人軍団 第四話 「路地裏の死闘」
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    立ち上がって周りを見渡す魔法少女。

    今この天下無敵の魔法少女様に突撃してきたのはどこのどいつだ!?

    敵の姿を探す魔法少女。

    しかし、右を見ても、左を見ても、前を見ても、後ろを見ても、どこにもぶつかってきた相手の姿が見えない。

    一体どこにいったんだ?

    彼女が首を捻った瞬間、彼女のすぐ隣、紙一重の間しかないような場所に何かが落ちてきた。

    怪人だ。アリ怪人だ。先程突撃をしてきたアリ怪人だ。

    その手にはゲンコツが握られており、それが衝突したと思われるコンクリに包まれた地面はひび割れ、陥没していた。

    もし、彼女が首を捻らなければ、怪人の拳は彼女の頭に直撃し、まるでハンマーで打たれた釘のように彼女の首が体に押し込まれていたことだろう。

    背中に冷たいものが流れたのを感じた魔法少女は後ろにジャンプして距離をとる。

    アレを一撃でも喰らったら流石の魔法少女でもひとたまりもない。

    いったん距離をとり、相手の出方を見るのは好適といえよう。

    2人は2メートルほどの間を空け向かい合った。

    さあどうくる?

    次はどんな手でくる?

    そしてどうやる?

    相手をいかにして倒す?

    向かい合い、そして周囲と敵に気を配りながら、魔法少女は考える。

    あーでもない、こーでもないと頭を悩ませる。


    がらがらがしゃん


    魔法少女の背後で音がした。

    突然の音に驚き、振り向く魔法少女。

    先程の地震で老朽化していた建物が倒壊した音のようだ。

    な〜んだ、ビックリして損したな。


    ガサガサガサ ガサガサガサ


    ホッと胸を撫で下ろす彼女の背後で蟲が地を這いずるような音した。

    ――しまった

    戦闘中になんて馬鹿なことを……

    敵から気を逸らすなんて……

    彼女はチッと舌打ちし、背後から迫ってくるであろう敵を迎え撃とうとした。

    来るなら来い! 姿勢こそ整っていないがなんとか迎撃できる!

    機を見計らってまた間合いをとれば、まだまだ勝機は見える。

    間合いを取って遠距離魔法で一気に片をつける。

    そんなことを考えつつ、彼女が振り向いたそこには、          何もいなかった。


    アレ?

    相手はどこにいったんだ?


    ギチギチギチ


    顎をかき鳴らす音が聞こえた。


    どこから?


    そう、彼女の足元の辺りから……


    下ぁ!?


    完全に虚を突かれた。

    とっさに相手に向けステッキを振り下ろすが、力も気合もなにも入っていない攻撃は軽々とかわされる。

    そして、ステッキを持った手は手首の辺りで怪人に掴まれる。

    どうにかしようとステッキを持っていないほうの手で反撃を試みるも、別の手で封じられその手首を掴まれる。

    どうにか反抗しようと足で蹴りをかまそうとするものの、その足も敵怪人の手に捕まり動きを封じられる。

    これで彼女の両手両足は、アリ怪人の四本の手により身動きを封じられてしまったことになる。

    これでは、反撃できない。

    脱出を試みようと手足をじたばたさせてみるものの、緊縛が溶ける様子は無く、逆にいっそう敵の握力が増すばかり。

    どうする、魔法少女?

    そして戦いは現在進行形で続いていく。


    ギチギチギチギチギチギチ


    怪人はけたたましい音を顎で鳴らし始めた。

    そして次の瞬間、その音の発生源は頭ひとつ分前に移動した。

    噛み付きだ。

    実にシンプル。

    だが、実に強力。

    魔法少女は間一髪、頭をずらし、攻撃を避けることに成功はしたが、彼女の髪までは攻撃をかわすことができなかったようだ。

    ツインテールだったその髪は片方だけ振り乱され、その形を失っていた。

    そして一呼吸あけ、再度噛み付きが襲ってきた。

    こちらもかわすことに成功するが、かなり厳しい。

    そして今度は連続で噛み付きが襲ってきた。

    怪人が噛み付く。

    魔法少女が避ける。

    噛み付く

    噛み付く

    噛み付く

    避ける

    避ける

    避ける

    噛み付く

    噛み付く

    噛み付く

    避ける

    避ける

    避ける

    噛み付く

    噛み付く

    避ける

    避ける

    噛み付く

    噛み付く

    避ける

    避ける

    噛み付く

    避ける

    噛み付く

    避ける

    幾度無く続く攻防に疲れの見え始める両者。

    決め手の無い怪人に対し、魔法少女は閃いた!

    そうだ! なんでこんなこと今ままで気付かなかったんだ!


    怪人の噛み付きが魔法少女を襲う!

    その噛み付きをかわし、そしてェ、


    『喰らいなさいっ! これぞ必殺のォ、まじかるゥ〜〜〜 へっどっばーーっとォォッ!!!!』


    頭突きだ。頭突きをした!

    魔法少女がそのざっくばらんになった髪を振り乱し、怪人に頭突きを喰らわした!

    史上今日に到るまで、敵に頭突きを喰らわした魔法少女がいただろうか!?

    俺は知らない! 知っている人がいたら教えてくれ!


    これ以上無いタイミングでクリーンヒットした頭突きは、アリ怪人の頭に釣鐘を叩いたかのような衝撃を与えた。

    これにより、アリ怪人は地面に倒れ、魔法少女を緊縛から解放した。

    アリ怪人は立ち上がり、反撃をしようとするものの、体がものの見事に言うことを聞いてくれない。

    格ゲーで言うところのピヨってる状態だ。

    今だ! チャンスだ! 魔法少女よ一機に畳み掛けろ!


    古今東西見渡して大抵の魔法少女なるモノは必殺技を持っている。

    ミンキーモモやらファンシーララのようなアイドル系は流石に持ってはいないけど。

    ンなこたァ気にしちゃいけない。大抵のヤツァ持っている。

    ようは、ウルトラマンのスペシウム光線みたいなもんだ。

    一撃必殺、勝負の最後を締めくくる一発。

    さぁ、撃ってくれ!

    今がチャンス!

    さぁ、撃つんだ!

    魔法少女、ステッキを手にとって、今、まさに必殺技を撃ちます!

    「いくよ〜〜♪  まじかるゥ〜〜ふらーーーっしゅ♪」

    撃った!

    撃ったぞ!

    ステッキから光が溢れ一直線に敵怪人に向かう!

    そして光は怪人にぶつかり、弾けた!

    弾けた光は眼前を覆いつくす。

    そして怪人は断末魔の叫びを残し、跡形も無く消え去った。

    スゴイよ。このインフレ気味の理不尽な威力、まさしく必殺技だよ。





    そして魔法少女は敵のいたところに背を向け、締めの台詞で話をくくる……

    「これにて、一見らくちゃーーー    ズン   くおわっ!?」

    ……ハズだったのだが、決め台詞は最後まで言えなかった。

    地響きにより言わせてもらえなかった。

    怪人のいた辺りのコンクリにピキピキっと亀裂が入る。

    なんだ?

    何が起こっている!?


    そして亀裂の入った場所から黒く、そして大きな塊が飛び出してきた!

    でかい!

    でかいぞ!

    コレは一体なんだ?

    山か?

    隕石か?

    不発弾か?

    いいや、違う。

    コイツは












    バグだ。



    巨大なアリ型のバグが地面を割って現れたんだ!

    −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
    次回予告(地上波版)

    突如現れたバグと戦うため魔法少女は「KAN−SEI−TOU」に支援を求める。
    ついにACの登場だ! 果たして勝利はどちらの手に!?
    次回、魔法少女対怪人軍団 第五話 「いけいけ僕らのKAN−SEI−TOU」
    朝ごはんの前にハリセンミサイルだっちゃ!

    次回予告(VHS版)

    地面を割って現れた巨大な巨大な黒い影。
    コイツは一体何なんだ!?
    次回、魔法少女対怪人軍団 第五話 「地面を割って現れたモノ」
    朝ごはんの前にハリセンミサイルだっちゃ!



    ああ素晴しき哉怪人図鑑

    「ムシノクニ 戦闘員(オス)」
    サムライアリの特徴を持つ蟲人間。
    高度な知能を有してはおらず、寿命も非常に短い。
    しかし、こと戦闘能力においては常人のそれを遥かに超えている。
    対抗するにはパワードスーツが必要だろう。三大欲求に非常に忠実。


    特に得せぬ昆虫図鑑

    「サムライアリ」
    ハチ目・アリ科・ヤマアリ亜科に分類されるアリの一種。
    クロヤマアリなどの巣を襲って働きアリやその蛹を攫い、「奴隷」として働かせる習性が知られる。
    体長は働きアリが4mm-6mm、女王アリが7mmほど。全身が黒褐色をしている。
    他のアリに比べて、大顎が鎌状に長く発達する。
    「奴隷狩り」は主に夏の蒸し暑い日の午後に行われる。
    サムライアリの働きアリは奴隷狩りの戦闘に特殊化しており、女王の世話、卵や幼虫の世話、餌の回収なども行わない。
    (Wikipedeaより一部抜粋)

    続きを期待したら馬鹿をみます。
    それだけはやめときましょう。

1337/ 久々にアレな話
・投稿者/ ツノナシ
・投稿日/ 2007/03/17(Sat) 19:07:22

    彼ははぐれ者だった。

    どこをどうしてはぐれたのか、それは今となっては謎である。

    ただ、はぐれたことは事実である。

    周りに仲間の気配は感じられない。

    このままこの地の底で誰にも気付かれずに死んでしまうのか。

    彼らの種族に「諦め」というキモチがあるかは知らないが、彼は今諦めかけていた。

    そんなとき、彼は「声」を聞いた。

    同胞達が発する声なき声を。

    それは自分のいるちょうど真上から聞こえてきた。

    それも、この「信号(こえ)」は断末魔のものだ。

    気がつけば、彼は駆けていた。

    真上に向かって一直線に。

    先程諦めかけていた自分が嘘のように。

    −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
    魔法少女対怪人軍団 第五話 「地面を割って現れたモノ」
    −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

    地面を割って現れたソレは奇妙な姿をしていた。

    他の蟻型バグよりもひとまわりもふたまわり大きく、中量級のMTほどの図体はまだいい。

    問題は胸部から腹部にかけて生えている、3対6本の長い長い突起物だ。

    その突起物は、例えるならば、象の牙、牛の角のように、前方に湾曲し、先端は矛先のごとく尖っている。

    これが、高速で迫ってきたならば、幾重にも重ねた鉄板をも穿つだろう。

    まさに凶器である。

    その6本の凶器が今、少女に向けられている。

    少女の目と口は大きく開かれ、驚きを隠せない。

    そりゃそうだ。こんなモンが地面を割って、テメェの前に出てきた日にゃ、誰だってこうなる。

    人並みはずれた力を持ち、我が道を迷いもなく猛進する魔法少女様だって例外じゃあない。

    その凶器が前方に動き出した。

    歩いている。ゆっくり、ゆっくりとバグが歩いている。

    ソレを正面からみたとき、6本の突起物を点と捉えたときの対角線、その対角線の中央にある大きな顔、その大きな顔の横にある、大きな二つの瞳が、怒ったときの王蟲よろしく、赤い光を放ち、顔の一番手前にある、これまた大きく虎バサミのような顎が、自動ドアみたく、ぐばぁっと開く。

    魔法少女は思う。

    コイツは間違いなく、自分を殺そうとしている。

    背筋に冷たいものが流れ落ちる。

    さァ、ここで問題だ。

    キミは人並み外れた力を持っている。

    それこそ人間一人軽く殺せるせるほどの力だ。

    そんなキミの前に、自分の体躯をはるかに超えた、大きな大きなバケモノが現れた。

    さァ、キミならどうする?

    人によって答えはまちまちだろう。

    自分の力を持って、このバケモノを駆逐してくれるわぁ! ぐわははは と考える人もいるかもしれない。

    さて、では我等が魔法少女はどうしたか?



    我等が魔法少女様は脱兎の如く逃げ出した。



    って、え? 逃げるの? 逃げちゃうの?

    ああ、逃げるさ、逃げるとも!

    自分の力がどんなに凄くたって、世ン中には勝てないヤツだっているんだ。

    さっきの怪人3匹だって、やっとこさ倒せたってのに、こんなバケモノと戦えるわけがない!

    それに先程出したスペシウム光線みたいな必殺技で力はもうほとんどない。

    出し尽くしちゃってる。

    だから逃げる! 逃げてやる!

    我等が我等が魔法少女様様は、体にかすかに残った力をかき集め、腕ふり、足ふり、フリルふりふりの服をたなびかせ、ダッシュした。

    さァ、残されたバグはどうしたか。

    そりゃあモチロン追っかける!

    6つの足をわしゃわしゃと、動かし少女を追っかける!

    割れたコンクリ踏み砕き、壊れた家屋を踏み砕き、邪魔するモノは跳ね飛ばし、邪魔するヤツは串刺しだ。

    力をほとんど使い果たした魔法少女と、元気一杯にターミナルを蹂躙する巨大バグとの、楽しく愉快な「追いかけっこ」が幕を開けた。

    −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
    次回予告

    さァ、両者一斉にスタートを切りました。
    魔法少女は逃げ切れるのか?
    巨大バグは魔法少女を捕らえることができるのか?
    果たしてその結末やいかに!

    次回、魔法少女対怪人軍団 第六話「追いかけっこ」

    明日に轟けハリセンミサイルだっちゃ!

    続きはいつになるかはワカラン。期待だけはしないでネ。


    執筆者より
    今回お送りする予定でした、魔法少女対怪人軍団 第五話 「いけいけ僕らのKAN−SEI−TOU」は、都合によりお送りする事ができなくなりました。
    久々に筆が進むにまかせ書き上げたら、あら不思議。
    KAN−SEI−TOUのKの字すらありません。
    予想外です。予定外です。困った事になりました。
    ACが登場するまであと2話ぐらいかかりそうです。
    ホントにACが出せるのかどうか自分でもワカリマセン。



1229/ The opposing banquet 敵対披露宴(前置き)
・投稿者/ ate
・投稿日/ 2007/01/29(Mon) 13:53:43

    小説中、学園においてスーツ兵器の運用を教育する学科を「甲衣科」、
    1stタイプのAC・MTの運用を教育する学科を「機甲科」、
    それら装備の整備・設計を教育する学科を「機械科」と称しておりますが、
    これらは僕の創作であって、公式設定ではありません。

    そのへん含め、「俺にもそう思っていた時期がありました」みたいなノリで
    作品全体を生暖かく見逃していただければ幸いです。

    1/29  1と2と前置きをアップしました。
       フレデリックさんがいろんな意味でアレな感じですが、彼女は大好きです。
       彼女のサブキャラのブランネージュ姉妹も好きなんですが、
       キャラクター的にシリアスの大敵なので今回は当番見送りです。

    1/31  作中の時流の口調について指摘を頂きました。
       公式設定によれば、彼女は『カタカナの名前の発音がやや苦手なのか癖なのか、
       ぎこちない感じに話す(例:エミリア=>えみりあ)』ということになっておりますが、
       近作では彼女にシャープな役をやってもらうため、意図的にこれを無視しています。
       気に食わない人はごめんなさい。

    2/7  3をアップしました。
       たったこれだけの文章を書くのに10日近くかかる僕って一体。
       しかもまだクィギエリに着いてすらいません。

    2/16  4をアップしました。
       アップしておきながら5回とか手を加えてます。すんません。
       クィギエリに着く気配も全然ありません。





1230/ The opposing banquet 敵対披露宴(1)
・投稿者/ ate
・投稿日/ 2007/01/29(Mon) 13:54:41

    少年は、急いていた。
    その気になって笑顔を作れば美少女で通るだろう顔立ちに浮かぶのは焦慮の無愛想。
    階段を段飛ばしで駆け上り、短身痩躯に可能な限りの大股を使って足早に廊下を直進する。
    無個性なクリーム色のタイルにスニーカーの靴底を鳴らしながら角を曲がり、
    そこここに広がる談笑の輪もひるむことなく肩でずばずば人ごみを切り裂くようにして突っ切っていく。
    時刻は午後5時。多くの科が授業を終え、放課後を満喫する生徒達が校舎のあちこちに群れをなしている時間帯に、
    だべったり、たむろったり、待ち合わせたり、待ち構えたりしている無数の人々はたいてい急ぎも慌てもしない。
    金髪の下の白い肌には汗こそ浮かんでないものの、他人を押しのけてまで急ぐその仕草を、だからピアチェーレは見逃さなかった。
    すぐ横で『三日で見極めろ!剣術家のための芸術入門』を呼んでいた時流を小突き、囁く。

    「あれ見てよ、競歩部の自主練かな?」

    セミロングにした黒髪の下で、にやにやにまにまと絶え間なく頬が緩んでいる。
    ピアチェーレはトラブルメイカーを自称する少女であった。

    「うちの学校にあるのは競歩部ではなく競歩科じゃ、アマチュアの同好会が発足したという話は聞いておらんの」

    丁寧に本を閉じ、時流は涼やかな一重瞼を細める。
    首を傾げると、身長に匹敵するほど長い髪が僅かに揺れた。

    「だが・・・あの風貌、面構え、どこかで耳にしたような・・・ピアチェーレ、汝は彼奴の腕章を見たか?」

    ピアチェーレは愉快そうに頷く。

    「もっちろん。抹茶アイス色に銀の線が二本。時流たん、それがどうかしたの?」

    「たんはやめろ・・・・・・抹茶アイスではなく、その色は萌黄と言う。騎兵ないしは機甲兵の定色じゃ。なるほどな」

    「なるほどな、って?」

    ひとりごちる時流に、ピアチェーレが顔を近づけた。
    1センチ進めば接吻の間合いだ。時流は半歩引いた。

    「・・・・・・思うに、彼奴は機甲科に潜むという留学生じゃろう。
     女めいた容姿ながら心はますらお、本籍はマゼラノ国家保安隊に属す秀才・・・・・・聞いたことはないか?」

    「私ったら一度聞いたことは忘れないのが隠れた特技なのよ、えーっと・・・・・・」

    半秒間だけ、ピアチェーレの眉間に皺がよった。
    笑みは浮かべたままなので、なんだかやけに不自然な表情である。

    「思い出した。ティグリス=ユーフラテス、15歳男性。
     飛び級で高等2年、半年前から生徒会にも所属・・・要注意事項のフルコースって感じね」

    「うむ、どうする?」

    問いながら、時流は既に歩き出していた。切れ長の瞳が冴え冴えと冷えて鋭い。
    華奢な体格が災いしてか、少年がまだ人ごみを抜けられずにいるのを見て、ピアチェーレの笑みが深くなる。

    「さあて、今日も謎と夢とロマンを求めていってみましょうか!・・・・・・うわ、私かっこよくない!?」

    「自分で言わなければな」

    二人は少年の後を追って走り出した。ひそかに尾行して、あわよくば生徒会の動向を探る腹づもりであった。



1231/ The opposing banquet 敵対披露宴(2)
・投稿者/ ate
・投稿日/ 2007/01/29(Mon) 13:55:14

    生徒会第二執務室は、学園内におけるエリアス=リュミエールの牙城である。
    その城のひとつしかない扉を守るのは、彼女の家令として学内でも高名な、空色の髪の美女であった。
    名を、マリアンヌ=ソレイユと言い、近しい人間からはマリアと、敵対する者からは副会長子飼いの女狐と呼ばれる才媛である。
    少年が声をかけるよりも早く、有能な家令は微笑んで美しい会釈をした。

    「ティグリス君」

    ナチュラルウェーブの長髪に縁取られた笑顔は完璧に近かったが、
    少年は無愛想な表情を豪とも動かさない。三人の姉に囲まれて育った彼は、女性には至って鈍い性質であった。

    「君はやめろといつも言っているだろう」

    人ごみの中を歩いたため、乱れた襟元を直しながら言う。
    ティグリスの大人らしく振舞おうとする様は大層可愛らしかったので、
    マリアンヌはエリアス様もちいちゃい時はこんな風だったわねぇと思った。
    無意識に少年を手伝おうとして動きかけた手を強靭な意志で止めると、彼女は子供を宥める母親の笑みに笑顔を調整する。

    「年下の男の子は君付けで呼べと教育されましたので」

    ティグリスは少し考えて、目の前のドアの向こうにいるはずの女性のことを思い出した。

    「副会長には様を付けているじゃないか」

    「年下の女の子は様付けなんです」

    即答である。

    「・・・あれは女の子でいいのか?」「当たり前でしょう?」
    「当たり前なのか」「当たり前です」
    「そうか」「そうです」

    少年は金髪を忌々しそうに掻き回すと、敗北を悟って話題を変えた。
    俺は一生年上の女を言い負かすことはできんだろうな、と3時間前に姉に電話した時にも思ったのを、
    彼は思い出したのだった。

    「副会長は中か?」

    「ええ、2分前からお待ちです」

    「・・・・・・今度からそういうことは早く言ってくれ」

    「そうします。・・・・・・エリアス様?ティグリス君がいらっしゃいました」

    控えめなノックをひとつ。
    マリアンヌは重厚な質感の樫の一枚扉に両手を添えると、それをゆっくりと押し開いた。
    主の趣味か、調度の美しさが歓待よりも厳格を感じさせる部屋が徐々に覗く。
    時に磨かれて黒々と光る檜の執務机の前で、エリアス=リュミエールは腕を組んでいた。
    深い深い暗赤色の瞳が精悍に動いて少年を睨み据える。

    「ユーフラテス、あれは女の子でいいのかとはどういう意味だ」

    男子用の制服を当然のように纏う彼女は、しばしば男に間違えられる。
    射込むような視線に、ティグリスは華奢な肩を竦めた。

    「この部屋の壁がそんなに薄いとは思わなかった」

    「マリアにマイクを持たせている」

    小さく手を振って笑い、家令は音もなく部屋を辞していく。
    今度はストレートに、年下の少年をからかうお姉さんの笑みであった。
    女狐。思わず憮然としたティグリスに、主人が追撃する。

    「で? どういう意味なんだ」

    「・・・・・・別に」

    「真の男はそんな芸のない韜晦をするのか」

    女狐の子は継子でも女狐であった。
    容赦なく弱点を狙撃されて、少年は狼狽した。

    「・・・・・・くそっ、お前は女の子というよりも女というのが似合うと思っただけだ」

    「ふん、最初から素直にそう言えば良いものを」

    ことさら酷薄な笑みを浮かべて見せる副会長に、ティグリスは嘆息する。
    年上の女性には惨敗することが宿命となっているらしい彼であった。

    「・・・・・・頼むから本題に入ってくれ」

    「そうしよう、まぁ座れ」

    副会長が椅子を勧めると、ティグリスは優雅なマゼラノ式の敬礼をひとつして、それに応じる。
    会話が実務的な雰囲気に移ったことを敏に察して、安堵しているようにも見える。
    少年が椅子に完全に腰を据えるのを待って、エリアスは口を開いた。

    「お前のことだから薄々察してはいるだろうが、student'sだ」

    少年は眉ひとつ動かさなかった。ぞんざいな仕草で腕を組む。

    「またか」

    「ああ。これを見ろ」

    副会長が豪奢な机の引き出しから取り出したのは、拙劣な装丁の小冊子だった。
    水色の画用紙を表紙に使い、黒の一色刷りで「旅のしおり」と印してある。
    無造作に放られたそれを危なげなくキャッチすると、少年はページを繰り始めた。
    紙が指に弾かれて立てるぱらぱらという音だけがしばし部屋の中にこだまする。
    沈黙を破ったのは、少年が声に出して読んだ小冊子の副題だった。

    「・・・・・・『情熱と芸術と音楽と美食と絵画と舞踏と怪盗と謎と夢とロマンの町
     クィギエリをケツの毛までしゃぶり尽くす二泊五日(真夜中の打ち明け話&好きな子告白コンテスト含ム)の旅
     パーフェクトアンドアルティメット解体新書』?」

    「・・・あらゆる意味で最低最悪な表現の誤用が聞こえた気がするぞ」

    「突っ込むならこの台詞を一息に言える俺の肺活量に突っ込め・・・・・・で?」

    「ああ。これは、本来なら、絵画と服飾、図案と建築の4科から要望の出た研修旅行だったのだが」

    机に肘をついて指を組むと、エリアスは顎の華奢な線が隠れて余計に男のように見える。
    彼女の声は低く、鮮やかで、良く響いた。

    「文化の町として名高いクィギエリを、一度でも目に収めて創作の糧にしたい、と。
     そう言われては、管理部門もむげにするわけにはいくまい? 生徒の自主的な学習意欲は、我々としても後援するところだしな。
     折衝は難航したが、最終的には部門の諒解が出た。予算が捻り出され、カリキュラムの調整が始まった。
     4科全員を表に出すのは流石に不可能だったので、それぞれのクラスから1人ずつ優秀な者を選ばせた。
     8クラスで総勢8人の女子4人男子4人が、彼の地への切符を手に入れた・・・・・・ここまでは、良い。
     事がおかしくなったのは、1ヶ月前、具体的な日程が決まってからだ」

    エリアスの、暗赤色の目が細くなる。

    「・・・・・・甲衣科内部のstudent's勢力が、枠の明け渡しを要請してきた。
     学科間の学習内容に文化的な間隙を生じるのはいかがなものか等という名目でな。
     知ってのとおり、絵画や服飾といった芸術系の科は政治力に乏しい。
     すったもんだのあげく、結局この2つの学科は選抜した候補者を1人を残して取り下げざるを得なくなった。
     入れ替わりにねじ込まれたのは、甲衣科から2名、機械科から1名。
     いずれもstudent'sの息がかかった生徒で、戦闘能力も決して低くない要監視対象だ」

    「研修旅行にかこつけて、奴らが“出稼ぎ”をすると?」

    「そうだ」

    流れるような弁舌に感情を動かされた様子もなく、ティグリスは読み終わった小冊子を閉じた。
    副会長を前にその言を聞き流して本を読むなど、本来ならばとんでもない不敬であったが、双方とも全く気にしていないようだった。

    「・・・・・・俺の本籍がマゼラノ国家保安隊にあることは知っているだろう。
     本隊の許可なく戦闘可能な状態で学園を離れることは軍規違反にあたる。
     ましてクィギエリだ。MHG所属のACが、彼の地の文化財に傷ひとつ付けてみろ、
     第三課の狂犬ども脳みそを煮立たせて怒り狂うだろうな。
     俺はごめんだ。報復テロの声明文に名指しで載って有名になる気はない」

    教会第三課、通称simeonは、ヘロデトでも随一と言われる対外勢力組織である。

    「許可はもう取ってある」

    「ああ。だから今回の件は別の人間に・・・・・・何?」

    立ち上がろうとして半身を傾けていた少年の動きが止まった。
    エリアスは精悍に笑う。

    「事がおかしくなったのは一ヶ月前だと言ったはずだ。
     私がその間、手をこまねいて奴らの蠢動を傍観する理由などあるまい。
     お前は研修旅行に同行し、student's一派の行動を悉く監視しろ。
     “出稼ぎ”を強行するようなら、きついお灸をすえてやって構わん。これはもう決定事項だ」

    「・・・・・・それでは要件の半分しか満たしていないと思うが」

    「何から何まで私にやってもらいたいということか? 甘えん坊さんめ」

    「そういうことを言っているのではない!」

    揶揄されて、ティグリスは顔を真っ赤にして怒鳴った。
    こいつは使えるが、やはりまだ青いなと思いながら、エリアスは軽く手を振って少年を諌める。

    「・・・・・・教会にも無限の手があるわけではない。
     新しい火種を作るのは、奴らとしても敬遠したいところのはずだ。
     逆に、MHG所属の留学生・・・これはつまりお前のことだぞ?・・・が国内で害されれば、
     マゼラノ連合王国にヘロデト侵攻の格好の口実を与える破目になろう。
     この件で遠征するstudent'sの連中に、お前にはかすり傷ひとつ負わせるなと厳命が出ることは間違いない」

    「それで?」

    「奴らはお前という政治上の火薬を背に負って火山へ遠足にいくことになる。
     まず派手なことはできなくなるだろうし、ひょっとすると遠征そのものを諦めて枠を絵画服飾の両科に返上するかもしれん」

    「返上の方は希望的観測というものだろうな」

    「まぁな。だが、奴らが格段に動きづらくなることは確かだ」

    「・・・・・・くそっ、俺の機体は1stだぞ、移送はどうする」

    少年は忌々しそうに金髪を掻き回した。
    敗北を認めた時の、それが彼の癖であった。

    「機械科が試作した長距離移送用のトレーラーコンテナを使う。
     ある程度自走能力も備えた優れもので、クィギエリ市内の公道を走る許可も下りている。
     機械科の生徒は、その試用をも兼ねるという名目で枠を取ったからな、1stACを載せたいと言われれば断れない」

    「要監視対象という三人のパーソナルデータは控えてあるのか」

    「勿論だ」。

    「聞かせてくれ」

    「・・・・・・甲衣科高等部3年『ピアチェーレ』、本名同じ苗字不明、17歳、成績総合評価B。
     甲衣科大学部1年『赫乃 時流』、本名同じ、18歳、成績総合評価A−。
     機械科高等部3年『ウォルター=ストークス』、本名同じ、18歳、成績総合評価C+。三人とも顔見知りだな?」

    「三人とも? ウォルは俺の機の整備クルーの1人だが・・・・・・ああ、くそっ、なるほどな、あの命令はそういうことか」

    「うむ・・・・・・マリアンヌ?もういいぞ。お嬢さん方にお引取り願え」

    言葉の後半を、エリアスは胸元に隠したマイクに向けて言った。
    部屋の外で突然生じた物音に顔をしかめながら、ティグリスはひとりごちた。

    「狐女と日本人形に尾行されるまで校内を歩き回れなど、妙な指定をするものだと思っていた」

    それはピアチェーレと時流が、掣肘を解かれたマリアンヌに追われて逃走する音であった。


1246/ The opposing banquet 敵対披露宴(3)
・投稿者/ ate
・投稿日/ 2007/02/07(Wed) 11:41:21

    ウォルター=ストークスは、変態である。
    脂気の無い黒髪に同じ色の瞳が形作る、地味ながら好ましい容姿にも、
    素直で直情径行の、努力を惜しまない楽観主義者という性格にも、
    student'sの中でも右に出るものはいないと噂される、卓越した整備能力にも打ち消すことができない、それは事実であった。

    彼は、『それ』が、とりあえず動いて喋って考えてさえいれば、
    たとえその素材が何でもあろうとも――蛋白質製であろうとも、鉄製であろうとも、木製であろうとも、
    強化プラスチック製であろうともカーボンファイバー製であろうともイリジウム合金製であろうとも――自分と対等な人間だと、
    そういう変態略さずに言えば変態性欲の持ち主であったのである。

    この時代、アンドロギアを始めとする全ての自律機械は人類に盲目的服従を誓うことがその機能の第一項とされており、
    そうでない自律機械は災禍の種として忌避するのが通念……もしくはごくごく本能的な感情となっていたこの時代に、
    それは極めて異常なことだった。

    ましてや、学園の戦闘訓練用に開発された自動人形の試作機を型番をもじって「レイ」などと名付け、
    服を与え、個室を与え、プライバシーを与え、全く同等の存在として振るまい、喧嘩し、その必要もないのに共に食卓につき、
    研究措置という名目で本来ならば憲法違反級の犯罪である三原則検閲回路のスキップモジュール装置まで装備させて、
    毎日対物規格の出力で頬を張られたり首を絞められたり股間を蹴り上げられたりしながら、
    しかもそのガイノイドとほのかな恋愛感情すら通わせているというのである。

    異常は、もはや伝説級であった。
    その強さも……そして、頑固さも。

    頼まれて腕時計の修理をしてやった余所の科の下級生には12m先から礼を言われ、
    徹夜続きのチームに善意で手を貸せば常に両脇に男子生徒がついて24時間体制で監視を受け、
    卒業していく憧れの先輩に贈った花束は手ではなくレンチで受け取られて、
    それでも彼は尚レイに服を着せ、手を繋いで歩こうとしてぶっ飛ばされ、ぶっ飛ばされた先で激突した洗濯機に平謝りに謝った。

    壊れた機械を拾っては直すのが生き甲斐の養父達に引き取られ、育てられたウォルターにとって、
    アンドロギアもコンピューターも電子レンジもエアコンも、冷蔵庫も炊飯器も洗濯機も扇風機も食器洗い機に至るまで、
    全ての機械は同じミスト父ちゃんとボイ父ちゃんに面倒を見てもらっている、言うなれば兄弟姉妹であったのである。
    どんなに他人に忌まれても、昨日までの肉親をほいほい投げ捨てて奴隷扱いできるような男では、彼は無かった。

    人々の説得は――少なくとも説得という要素の混じった嫌がらせは――は徐々に納まった。
    彼らは思い知らされたのである。ウォルターの変態は、それこそかの心の最も重要な芯であり、土台であり、骨子であり、
    その変態崩れる時はすなわち彼の魂砕け散る時であろうと。
    破壊できない悪徳を避けるには、逃走しか手がない。

    彼の周囲には彼の悪徳を悪徳と思わない変人ないしは変態のみが集まる様になり、
    朱は互いを赤く染めあって血より濃い真紅を醸し出すこととなる。

    『変態合金』。『ナットファッカー』。『黒髪の破戒』。『ディスフィリア』。『無機質の愛人』。
    衆人に奉げられた幾多もの二つ名は、ウォルター=ストークスが変態の中の変態、筋金入りの変態であることの証しであった。
    ……が。

    「……。」「……。」「……。」「……。」

    かすかな駆動音をBGMに、ガーデンを出て、はや4時間。
    機械科高等部3年輸研謹製、長距離輸送用トレーラーKH3ゆ-LTT-Mk821こと愛称キューティハニー号の運転席に座るウォルターは、
    ひとりでにやにやしているピアチェーレと、なんだかそわそわしている時流、
    そしてとことん不機嫌そうなティグリスに囲まれて、一人胃を痛くしていた。
    ちなみに座席配置は、前列4席の右から2番目が運転席でウォルター、その左の左にティグリス、
    後列4席の右端が時流で左端がピアチェーレである。

    「……。」「……。」「……。」「……。」

    機械科高等部3年、輸送機械研究室が苦心に苦心を重ねて開発したKH3ゆ-LTT-Mk821の、
    本来ならば諸手を挙げて賞賛すべき静穏性が、今のウォルターには恨めしかった。
    静かだ、ああ静かだ、逆にうるさいくらいだうわぁ胃が痛ぇと思いつつ、アクセルを踏む足に力を込める。
    ガーデンを出発して4時間、車内には会話らしい会話のひとかけらすらなく、
    変態の中の変態、筋金入りの変態は、これで結構場の雰囲気に気を使う性質だったのである。

    「……。」「……。」「……。」「……。」

    定員8名のはずの研修旅行で、なぜ4人だけが、よりにもよってこの4人だけが、ひとつの車に同乗していたのには訳があった。
    ちょうどいま、ウォルターの援護を要請する視線に通算68回目の無視を決め込んだティグリス=ユーフラテスの警護が、表向きの理由である。
    マゼラノ国家保安隊に本籍を置く彼に、クィギエリまでの道中、万一のことがあってはならないからという理由で、
    管理部は移動手段に、テロに弱い都市間鉄道でなく、料金が高くて交通量の少ない私設の高速自動車道を指定。
    さらに護衛要員として甲衣科の生徒である時流とピアチェーレを、そのバックアップとして機械科の生徒であるウォルターを付けた。

    「……。」「……。」「……。」「……。」

    しかし、それは、あくまで後付の理由に過ぎない。
    この状況を強力に推進したもの、それは彼ら以外の4人、図案科と建築科に所属する4人の強い強い別行動の希望であった。
    露骨に表現すれば、ちなみにその4人は女子3人男子1人からなるのだが、
    その全員があいつらと一緒に見てまわるくらいなら自分達も旅行を自粛すると憤怒も露わに管理部に怒鳴り込んだのである。
    枠を奪い取られた絵画科・服飾科の生徒らとの交流も日頃から深いその4人は、
    来られなかった友人達の並ならぬ努力と大きな落胆を目の当たりにしていたから、
    旅行強盗の実行犯である彼らへの嫌悪もそれはそれは深かった。
    しかもその嫌悪は決して不当なものではなく、また管理部としてもstudent'sを抑えられなかった手前罪悪感を感じており、
    結局些細な行程の変更はやむ無しとされたのである。
    純粋な敵意には極めて厚顔なティグリス、鉄面皮のピアチェーレ、他者を害す覚悟を剣士として常に決めている時流とは違って、
    ウォルターは(自分の変態に関して以外は)ごく普通の、それなりに善良な青年であったから、これにも心を痛めていた。

    「……。」「……。」「……。」「……。」

    カーブだ。右足の緊張を緩めつつ大振りなハンドルを回しながら、
    自分ももしイェレットやヴァリニールをこの目で見れると告げられて、直前に撤回されたら、きっとひどく落ち込むだろうなと考える。
    まして絵画や服飾は、機械分野のように数多の設計書とスペック表、識別番号を元にVRデータで構造を再現することが難しい。
    記号化に適した工業機械とは異なり、塗付されて乾いた油の質感や布の手触り、光の反射具合などは、
    原子レベルで演算を行わない限り精密な復元が事実上不可能なのである。
    ウォルターはそっと溜め息を吐いてポケットを探り、一掴みほどの金平糖を口いっぱいに頬張った。この空間には糖分が足らない。

    「……。」「……。」「……。」「……。」

    砂糖の結晶が砕ける鈍い音だけが、しばし車内にこだまする。
    誰か一声、おいしそうねとでも言ってくれれば、会話のきっかけにもなるのにとウォルターは思ったが、それは無かった。
    ティグリスは別に甘いものが好きではなく、ピアチェーレは顔を膨らませるようにして砂糖を食う男に興味は誘われても食欲は湧かず、
    唯一ちょっと甘いものが欲しくなった時流は女の子らしくカロリー制限に気をつかっているのであった。
    沈黙。沈黙。痛いほどの沈黙。車道に縦断されているようにも見える一面の荒野を眺めながら、ウォルターは金平糖を飲み下した。
    カーナビを見ると行程はまだ半分残っており、この空気のままあと4時間も運転させられたら俺は禿げるぞと思った。



1283/ The opposing banquet 敵対披露宴(4)
・投稿者/ ate
・投稿日/ 2007/02/16(Fri) 14:19:29

    おぶわれて、アルトージェは空を見ていた。
    そこに雲はない。あるのはガスの火のように青い空と、マグネシウムの火のように明るい太陽だけだ。
    ずっと見つめているとそこだけサングラスを通したかのように色が変わるその火の玉が、アルトージェはとても好きだった。

    「イワン」

    だから仲間に声をかける。
    少女は火の眷属であり、二人の仲間は少女の供であるのだから、
    世界の半分を火が統べている間には怖いことなんかひとつもないと、そう教えてやるために。
    うなじのあたりで名前を呼ばれて、男はゆっくりと振り向いた。乾いた砂が、藁のようになった金髪から零れ落ちる。

    「どうした」

    喋ると、口元の無精ひげが目立つ。四日分の長さ。
    アルトージェは手を伸ばしてそれを触って、じゃりじゃりすると思った。

    「たいよう」

    イワンも空を見る。
    目が悪くなりそうな容赦ない光が視界を侵食する。男はただでさえ目つきの悪い目を眇めて、言った。

    「太陽がどうかしたか?」

    「きれい」

    きれい、と言われて、イワンは少しだけ笑った。
    こいつはいつもそうだ。現実ってものがわかってないと思ったのだった。

    「ほんまやね、お日様は綺麗やね」

    イワンが、そんな場合か、と言うよりも早く、ジェニーが口を挟む。
    彼女の髪も金色だが、普段の手入れが違うのが、いまは磨かれた真鍮のように光っている。
    肌が砂まみれになるのを嫌がって、しょっちゅう腕で顔をぬぐっているせいで、頬は恥じているように赤かった。
    アルトージェはジェニーにそんな風に言ってもらうのが嬉しくて、またにっこりと笑った。

    「そうなの、だからだいじょうぶ」

    どこらへんが大丈夫なのか、脳みその腐ってない俺にも教えてくれとイワンが言う前に、
    ジェニーが小さな声でほんまやねと呟いて、次の瞬間何もないところでつまづいてすっころんだ。

    「アルトージェ」

    ジェニーに手を貸してやりながら、イワンは言った。

    「ちょっと休憩にしよう」

    南北に土と砂埃とまだらな草木が、東西に舗装路が、それぞれ陽炎に揺らいでいる。
    背から降りたアルトージェの、砂まみれの風に吹かれた髪をはたいてやりながら、イワンは雲のない空を見た。
    まったく一体何でこんなことになったのかと思う。
















    三人は、遭難している。


    /∽/


    そんなことになったのは、とにもかくにもジェニーが悪いのだった。
    イエナウッドでの工作が一段落して、とりあえず手すきになったある日の夜、
    宿泊したホテルの一室で、アルトージェが映画を見たいと言い出したとジェニーが言い出したのである。

    「駄目だ」

    イワンは正論を言った。

    「映画館なんて場所であいつがはしゃぎ出したら、どんな風になるかくらいわかるだろ?
     ただでさえはこかぁMHGの庭だってのに、余計な手間増やしてどうすんだ」

    アルトージェは火が好きだが、その好きは好きの中でも特に性質の悪い好きだ。
    好きな火を見ると、それを増やしたがるのである。例えれば豚肉が好きな豚だとイワンは思っているが、
    口に出すと目の前にいる女がぎゃんぎゃん言うに違いないので黙っている。

    「せやけど」

    イワンはジェニーが方言で「でも」と言ったのに気づかなかったので、
    何が火傷だこの脳みそ糖蜜女と小声で呟いた。聞こえないふりをしてジェニーは繰り返す。

    「せやけど、もう手持ちのゲームはみーんなクリアしてもうたし、
     絵本もなんっ回も読んだし、テレビは見せれんし、
     ツルはもーあの子目ぇつぶっても折れるようになってしもてん」

    「チラシに絵でも描かせときゃいいだろうが」

    雑務というかアルトージェの世話はジェニーのほぼ担当するところである。
    イワンがあーめんどくせぇウォッカのみてぇマゼラノ王国糞食らえと思いつつ適当に返事をすると、
    ジェニーはそのやる気のない答えに眉を吊り上げた。

    「真面目に聞いて!……お絵かきも試したけど、お外描きたい言われたわ」

    「聞いてるよ、描かせればいいだろ」

    最初に誘ったときあんなにキレやがった癖に、この女は何でいちいち俺に話を振ってくるんだと思うイワン。
    することないから一戦やるかといってベッドを指差したそのアプローチに問題があったとは全然気付いていない。

    「そんなんできるはずないやん。ちょっと目ぇ離すとすぐどっかいってしまうんやから、
     迷子になったらどないするん?ちょいと交番にてわけにもいかんやろ」

    イワンは確かにそうだなと思ったが、ジェニーにそれを言うのも癪なので黙っている。

    「……それでなくても、ここんとこゲパないし、あの子機嫌悪いねん」

    ゲパとはゲパルト、つまり武力工作という意味の隠語である。
    アルトージェはそれ以外の任務にはてんで使えないため、マゼラノ軍下にあるイエナウッドでは無為の日々が続いていた。

    「……でっかいショッピングモールには警備員いっぱいおっていかれへんし、
     レンタルビデオは写真とられたらあかんからカード作れへんし、ゲーセンないし、うちらも一日5時間は仕事やろ。
     おとつい見たら、あの子のパワプロ、チーム全員オールAで投手は控えまでナックル7やで。
     さすがに可哀想と思わん?」

    ジェニーはイワンをにらみつけるのをやめて、膝に視線を落とした。
    指先を擦り合わせるようにして、爪の甘皮を押し始める。
    半端な妖精が、いよいよ甘くなってきやがったとイワンは思い、意識して困ったような表情を作った。
    感情的になられたら面倒だから、ここはとりあえず同意しておいて、後で誤魔化そうという意図である。
    イワンも世の大抵の男と同じで、敵と戦うのは得意だが、味方と戦うのは苦手なのであった。
    口を開く。

    「それは……俺も、できるものなら自由に遊ばせてやりたいが」

    ジェニーの真似をして、下を見て言った。
    太もも結構綺麗だなとか考えていることはおくびにも出さない。

    「仕方ないだろう。命令に背けば殺される。今の命令は待機だ」

    「せやけど」

    「せやけどもはらやけどもあるか」

    イワンはイワン的には精一杯のギャグを言って話をうやむやにしようとしたのだが、
    ジェニーは変な顔をしてそっぽを向いただけだった。そんな季節でもないのに、寒そうに手を擦り合わせる。

    「……せやけど、待機命令ゆうても場所が指定されてるわけちゃうやん?」

    「あのな……次の任務が決まらないのに、勝手に移動なんてできるか。
     俺は管理不行届きで銃殺。お前は敵前逃亡で銃殺。アルトージェは……あいつはほっといても死にそうだな」

    二人が面倒を見ているというか半分以上擬似家族と化しているその少女は、
    この世のとかくあらゆるものを幸福として置換認識するという非常に傍迷惑な思考パターンを持っていた。
    具体的には、傷が痛いのが楽しいといってはしゃぎ、せっかく縫合した傷を開いては、わーい、人間スプリンクラー、
    ただし元ネタはスティーブン・ノリントン監督『ブレイド』のオープニングシーン、みたいなー!とか言って真剣に死に掛けるのである。
    ただ素直で、大人しくしていろと言われれば週単位で大人しくしているため、最近ではそんなことは滅多にない。
    ジェニーは唇を尖らせる。

    「そんな言い方せんでもええのに」

    「言い繕っても中身は変らないと思うぞ」

    「だからぁ、その中身を変えようゆう話やんか」

    いつそんな話になったんだおいとイワンが言う前に、ジェニーは手品師が花を出すような鮮やかさで一束の書類を出して見せた。
    撃った撃たれたの世界ないしは振った振られたの世界でなければ、彼女は実は驚くほど優秀な女である。
    イワンは半分だけ正反対で、撃った撃たれたの世界以外ではミジンコ以下の能力しか持っていない。
    命令書に用いられる文語調でなければ、ろくに文章も読めないという体たらくであった。
    手渡された紙の束を見れば、それはただの口語調テキストで、だからイワンは2秒だけ読んで理解を放棄した。

    「どういう話だ」

    「あんな、クィギエリで3年に一度のお祭りがあんねん」

    それは≪敵対披露宴(ジ・アポウジング・バンクェット)≫というのだと、ジェニーは説明を始めた。





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掲示板管理者:RR
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