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お母様のその言葉が私には一瞬理解できず、固まってしまいました。
俺……いや、私が言えた義理ではありませんが、ほぼ初対面の人に自分の娘の身体を預けたままにしておくだけでなく、学校へ行けだなんて……
元の娘の心配はしないのでしょうか。私にはちょっと理解できませんわね。
……それにしてもさっきから違和感が拭えませんわ。自分が自分だという確固たる自信があるのに、それを否定する自分も居て。おかしい。自分が定まらない。
俺の様子を不審に思ったのか、母親が近づいてきて……
「どうしたの?やっぱり嫌だったかしら?」
「ああ、いえ、なんだかさっきから俺が、私が、よく分からなくなってきて……
違和感があって、こう……水と油を無理やり混ぜたような感覚があって……
自分が何かっていうことが分からなくなってきましたの……」
いつしか口調がおかしくなっていた。言っている事も。だが、それすらも今の自分では気付かない。
どうなっているのだろうか、自分は。平常でありながら、狂っている。
このままだとどうなるのか。得体の知れない悪寒が体中を駆け巡った。
身体は震えていた。急に怖くなった。何が怖いのかも分からない。
思わず地面に向かって倒れこんだ。立って居られなかった。
だがその時だった。突然身体が、心が軽くなった。悪寒も消えている。
意識もはっきりしてきたので、周りの様子を確認すると……
「ごめんなさい。一般人のあなたにはちょっとやり過ぎちゃったわね。
あせって、またドジ踏むところだった」
……抱きとめられていた。深く。そりゃもう深く。
まるで当然だと言わんばかりに胸に顔を押し付けられている。これは俺には刺激がツヨスギル。
「わっ、わわぁ!?」
「あらあら、強く抱きしめすぎちゃったかしら。ふふふ」
この人、絶対分かっててやってるだろ。俺は女性経験豊富じゃないんだぞ。
だからこうして憑依薬で女の子の身体を……って、あれ?
「俺……私じゃなくなってる……?」
「そうよ。あなたには魂の結合はまだ早すぎた。だから、もう一度勝手にいじくらせてもらったわ」
「い、いじくる……?何かいやーな雰囲気が……」
「あらぁ、心配しないでよ。この白川葵、二度もヘマはしないわよ。
あなたに施した術式を変更して、魂の切り替えが利くようにしたわ。
そうね……さしずめ、魂のコーティングってとこかしら。
これからは意図的に、薫子として振舞えると思うわ。普段はそのままでね。」
これだけでなく、葵さんは他のこともいろいろと交えて俺に起こった異変について説明してくれた。
魂のコーティング。葵さんが行ったその術によって俺は助かったようだ。
魂の結合なんて術は、普通はこんな風に短時間で行うものではなく、もっと時間をかけて徐々に行うもので、葵さんのうっかりでいきなりやられた俺はかなり危険な状態だったらしい。
ちなみに、放って置けば廃人確定コースなんだそうな。……うっかりってレベルじゃねーぞ!
だが、ここでまた俺の頭の中にあの疑問が浮かびだした。
――何故、こうも俺に括るのか。良くしてくれるのか。
跡継ぎだとか、才能だとかじゃない、もっとちがう理由があるのではないか?
そう思い、緊張しながらも聞いてみた。
すると――
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