戻って来た街は、昼間に比べると大分陽射しが弱くなり、また幾分か暑さも和らいでい た。駅を出ると、昼間のような人ごみは無くなってはいたものの、まだまだ混雑は続いて いて、迷子の放送が近くの交番からしばしば聞こえてきた。足早に家へと向かう。だんだ ん家が近づいてくると、涼しい潮風が僅かに感じられる様になった。グラウンドがある町 より田舎ではないが、近くには海もあり、平屋建ての家もまだまだ何軒か残っている。東 京などに比べたらずっと田舎な所だろう、だけどこの潮風を感じられる町は大好きだ。 家の窓から覗けばもう海が見えるのだから、当然窓を開け放っておけば何時でも涼しい潮 風を感じることが出来る。こんな自然と共存できる場所は今の時代そうそう無いだろうな ぁ、そう考えると空しくなってくる。鉄筋の灰色の建物ばかり眺めて生活するよりはよっ ぽど良い場所だと思うんだけどなぁ・・・。
「泉輝ー。明日部活どうするよ?1年は学習会だろ、2年は宿泊だし、俺ら3年しか居な くなるんだよな。部長お前だし、俺も明日はちょっと用事あるから出られねぇし。」 「・・・瑞黄が出られなくて、聖も出られねぇって言ってたよな?んで、祐も出られねぇ って言ってたし、出られんのオレと耀太だけかよ。・・・じゃあ別にやんなくてもいいだ ろ。んな人数少なくちゃ練習にもなんねぇし。その代わり次二日連続だかんな?」 「はいはい、わかったよ。もう直ぐ大会だし、俺ら3年は最後だからな、ここで負けたら 悔しいし、絶対優勝してぇよなー。同じ区に全国経験校が居るんだもんなー。」 「オレらだって全国2位まで1年の頃行っただろ。実力にはそんなに差はねぇよ。」 「だな。じゃあごめんなぁー、もう帰らねぇと兄貴に怒られる。じゃあなー!」
最後の大会、それはもう1週間半後に迫って来ていた。小さな学校で、部員も少ない中で 泉輝や瑞黄たちは1年生のときに早く全国大会を経験していた。去年は事情があって大会 に出場することが出来なかったが、今年こそ一昨年の屈辱を晴らすべく、と部員が全員団 結して頑張っていた。特に3年生は、気合が入り、下級生のリードも完璧にしている。
「・・・相阪泉輝くん?ですよね・・・?」
そう声を掛けられ、振り向いた後ろには、セミロングくらいの綺麗な栗毛を潮風に靡か せ、裾がレースになっているワンピースを着ている女の子が居た。 しかし、今までの記憶を辿ってみても会った記憶すらない。一体誰なのだろう。
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「あっ・・・あのね、貴方たち二人、いつもあの町のサッカーグラウンド使っていたでし ょう?あそこはね、あたしのお父さんが趣味のサッカーをずっと続けるために、って荒れ てた所を直して使えるようにしたところなの。ずっと前に。」
グラウンド?父親?・・・・頭の中はこんがらがった。オレらの使っているあのグラウン ドは、この女の父親が管理して、直して・・・ということになるのか?でもずっと前って 如何言うことなんだ?何でこの女はオレの名前を知っているんだ?そして一体この女は何 故今オレの前に居るのか?たくさんの疑問はいっぺんにオレの頭の中を駆け巡り、混乱さ せていった。思考回路は、完全にストップしている状態だ。何も考えられない。
「・・・オレらが使ったらマズイトコだったか・・・・・・?」
やっと出てきた言葉は、ほんの短いが、必要最低限のことは伝わる言葉だった。 すると女は、慌てた様子を見せ、こう言った。
「ううん!!全然マズくなんてないの、寧ろそっちの方が人の役に立つから、ってお父さ んも喜ぶと思うわ。それに、あそこのグラウンドには何か不思議な言い伝え?って言うか 何て言うのかなぁ、ジンクスみたいのがあって。あのグラウンドはね、本当にサッカーを 心から好きと思う人じゃないと使えないんだって。そして、無事使えたと言う人は何か大 会とかで優勝できるって言うの、大きい小さい関わらずにね。あたしは勿論確かめたこと もないから本当かなんて知らないんだけどね。でも、貴方たちはきっと良いことがあると 思う。お父さん、あのグラウンド使ってくれるサッカー好きな子の事はきっと見守ってい てくれると思うから。だから頑張ってね!じゃああたしはこれで・・・」
やっと整理のついた思考回路は、この女の事について色々と導き出してきた。
「アンタ・・・・前オレと会ったことあるよな?」 「・・・思い出してくれたのね?うん、泉輝くんは小学校6年生のとき同級生だったの」 「名前は・・・・・何て言うんだよ?」 「藤宮茜。じゃあ・・・応援してるから。頑張ってね!」
オレは、何故かこの女の言葉に妙に説得力を感じていた。
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