テニスの王子様―小説掲示板
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582/ (削除)
・投稿者/
・投稿日/ 2007/04/22(Sun) 08:58:29
・IP/



579/ ルドルフに現れた天使
・投稿者/ りん
・投稿日/ 2007/04/03(Tue) 14:25:34
・IP/ 121.82.184.175

    今日から私遥野綾奈は、六角中から聖ルドルフ転校することになった。

    理由を言うとある人に怒られそうなのでヒミツです


    「それでは遥野さん自己紹介よろしくお願いします」

    「あっはい」

    緊張していたので、深呼吸をし、あたりを見回した
    喋っている人、絵を書いている人、外を見ている人などいっぱいいる

    「六角中から来ました。遥野綾奈です」
    「遥野!?」

    転校生に興味なかったのか外を見ていた中の一人の男の人が,急に立ち上がった

    赤いハチマキに、白いグローブ。
    見たところ知らない人だ

    「どうかしたか?」
    「ぁ、いえ…」

    「それじゃあ席は窓側の一番後ろな」
    「ぁはい」

    その席はハチマキの人の隣の席


    「ちょっとこの後、二時間目終わった後でいいんだけど、話があるんだ。ちょっと
    いいかな?」
    「あ、はい」

    (私、この人の気に障るようなこと何かしたかなあ?)

    綾奈がそんなことを考えている中、綾なの後ろの席のアヒルみたいな男は、
    ちゃんとそのやり取りを聞いていた。



    二時間目が終ると、すぐハチマキの人は、話しかけてきた。

    「それじゃあちょっといい?」
    「…ハア」

    そして、私の手を引っ張り教室から出て行く。
    なぜか、アヒルみたいな人も、一緒についてきた。

    (もしかして…私のことなんか知ってる?)



578/ (削除)
・投稿者/
・投稿日/ 2007/03/31(Sat) 23:43:24
・IP/



566/ (削除)
・投稿者/
・投稿日/ 2007/02/14(Wed) 23:44:10
・IP/



567/ 第一話 いざ!!出陣
・投稿者/ わっか
・投稿日/ 2007/02/15(Thu) 00:11:01
・IP/ 210.194.193.26

    「宜しくお願いします!!」


    「ではシングルス3の試合を始めるので両校のシングルス3の選手はですね
    ・・・コートに残ってください。」

    リョーマはバックからラケットを出して持ちネット前に戻る。



    「では・・・。シングルス3 青春学園 越前リョーマ 対 光朝日中学校 佐尾山 友
    亮の試合を始めます。」

    「Which?」

    佐尾山がリョーマのほうに手を伸ばし問う。


    「・・・Rough」

    カラカラカラ ポトン
    マークは上を向いた。


    「6ゲームマッチ 0-0プレイ!佐尾山 トゥ サーブ」

    「ドラァ!」
    スパン!!ガラガラ・・・
    佐尾山が放ったサーブは強烈なトップスピンがかかっていた為、越前の頭を遥かに
    越えて行く。

    「15-0!!」



    「トォ!!」
    バコン!
    リョーマはなんとかジャンプして届いたものの浮いてしまったためスマッシュを打
    たれ決められてしまう。



    「1-0!佐尾山リード」
    1ポイントもとれないまま1ゲーム取られてしまう。

    「まだまだだね。それじゃ行くよ」

    右手に持ち替えリョーマはサーブを放う。

    「うぁ!!」

    ツイスト回転をかけたため、佐尾山の顔面に向かって跳ねる。
    リョーマは完全に主導権を掴み、相手のサーブもライジングで返し、見事勝利す
    る。

    「ゲームセット!ウォンバイ越前!!6-1!!」





    この調子で青学は準決勝も勝ち進んだ。
    だがやはり決勝戦の相手はそうあまくない。
    ノーシードでそれも全て一敗もせずに封じてきたらしい。
    そんな中、乾が決勝戦のオーダー表を片手に発表を始める。


    「色々考えた結果S3桃城、D2.河村・海堂!S2が越前!!D1が俺・菊丸でS1が不二だ。」

    菊丸が何故か爆笑している。






    しばらく経ってアナウンスが流れ、選手はコートに集合した。
    「これより東京都地区予選決勝戦不動峰中VS青春学園の試合を始めます!!
    では両チームのオーダーを確認します。
    S3!!伊武深司 対 桃城武!!
    D2!!橘桔平・桜井雅也ペア 対 河村隆・海堂薫ペア
    S2!!神尾アキラ 対 越前リョーマ
    D1!!内村京介・森辰徳ペア 対 菊丸英二・乾貞治ペア
    S1!!石田鉄 対 不二周助!!間違いなどはありませんか?
    では始めますのでS3の選手は準備終了次第コートに入ってください。」



    「あの九州地区2強の橘がダブルス!?あいつらがどこまで粘れるか・・・良いデータが
    取れそうだ。」
    乾が一人呟く。

    それを聞いてしまった桃城は
    「そうなんすか!?余計俺は負けられねーなー。負けられねーよ。」

    「こんなハイテンションなのとやるのか・・・まぁ仕方ないけど・・・。」

    桃城がボヤキに気を取られていたとき審判が開始の合図をする。
    「6ゲームマッチ 0-0プレイ!桃城 トゥ サーブ」

    桃城が弾丸サーブを放つ。
    伊武はいきなりの強烈なサーブにタイミングが合わずスライス気味のロブを上げて
    しまう。
    桃城が高くジャンプして放ったスマッシュは良い打球音とともに綺麗に伊武の横を
    抜けていく。
    「15-0!!」

    ちなみに、この桃城が放ったスマッシュはダンクスマッシュという桃城の十八番で
    ある。


    次の桃城のサーブも弾丸サーブ。運良く落ちていた小石にぶつかり伊武は反応でき
    なかった。
    「30-0!!」

    次は普通のスライスサーブを打った。そのサーブは伊武の真正面を突き、
    伊武は体勢を崩したもののドロップを放つ。
    「30-15!」

    桃城はストレートを打ってくると思っていたのが外れてペースを崩してしまう。

    「ゲーム!不動峰! 1-0!チェンジコート!!」

    「桃城!!ペースを乱されたな。まぁまだこれからだよ!頑張りな。」

    ---やっぱ負けられねーな。負けられねーよ。

    桃城はしっかりと構えなおした。

    パコンッ!!




    伊武がサーブを放った。

    「なーんだ普通のサー・・・!!」
    普通のサーブだと思う桃城だが、それは桃城の早とちりであり、
    実際は桃城の顔面に向かって飛んできた。

    「ツイストサーブかよ!?」
    桃城はかなり吃驚していた。

    「15-0!!」

568/ (削除)
・投稿者/
・投稿日/ 2007/02/15(Thu) 00:37:08
・IP/

570/ 第二話 スライスばかり
・投稿者/ わっか
・投稿日/ 2007/02/19(Mon) 16:35:51
・IP/ 210.194.193.26

    「ツイストサーブ?勝手に名前つけないで欲しいよなぁ・・・
    全く。キックサーブって名前があるのになぁ・・・。」
    伊武がそうぼやく。

    もう一度キックサーブを放つ。
    「越前のやつと大して変わらねーな。変わらねーよ。」
    そう言いながら桃城はラケットに当てる。
    しかしボールはコートの外に出ていった。

    「アウト!!30-0!!」



    「ゲーム!2-0!!伊武リード!」
    結局残りの二回も返すことが出来なかった。
    だが、最後の一回は完全にスイートスポットに当てた。




    桃城は気をとりなおして弾丸サーブを放つ。
    伊武はスライスでストレートに返した。

    丁度バックの打ちやすい位置に球がきたため桃城はジャックナイフを放ったが
    伊武は少し崩しながらもロブで返した。
    流石にジャックナイフを放った後にはダンクスマッシュは打てず、
    後ろに下がってバウンドした球をしっかりとスマッシュで返す。
    伊武はなんとかラケットに当てるが、スライスのロブになってしまう。

    後ろに下がっていた桃城はダンクスマッシュを打つ体勢に入った。
    しかし強烈なスピンがかかっていた為ホイップして桃城は空振りをしてしまう。

    「0-15!!」




    その頃・・・不動峰サイドでは

    「まだ深司のスポットが出てない・・・。いつもならそろそろ出すのに・・・」
    石田が呟く。

    石田は伊武のゲームをいつも見ているだけに不思議に思っていた。

    「あぁ。今日はスポット使わないで行こうかな・・・ってボヤいてたぜ。」
    神尾が石田に言う。

    石田にはその意味が全く判らなかった。
    いつもの伊武なら試合を早目に終わらせるためスポットも3ゲーム目あたりから出
    していた。

    神尾も理由は知らなかった。





    「ゲーム伊武!!3-0!!」

    -----あいつ・・・スライスしか打ってこない・・・。

    桃城はそのことには気付いていた。

    一方、橘はその訳を知っているそうだ。



    コートを入れ替え、再び伊武がサーブを放つ。
    もちろんキックサーブだ。

    桃城は4回受けて返し方を考えた。
    やはり曲者。ただ受けていただけではない。

    ボールに向かって走っていく桃城。


    「ライジングショットか・・・残念ながら返せませんね・・・。」
    聖ルドルフ学院の観月が呟く。
    彼のデータも乾を超すかもしれないほど凄いそうだ。

    観月の呟き通りボールはアウトになる。
    彼は各プレイヤーの微妙な癖まで把握しているようだ。

    「15-0!!」

    つぎは後ろまで下がってロブを放つ。
    伊武は冷静にドロップショットを放つ。やはりスライスが掛かっている。

    桃城も馬鹿ではない。それくらいのことは予想していた。
    走って前に行きドロップで返す。

    伊武は走っても追いつかないと思ったのかその場から動かなかった。
    「15-15!!」





    キックサーブの返し方を一つ考えたものの伊武のテクニックも相当なものだ。
    桃城はこの後うまく前後に振られてしまう。



    「ゲーム伊武!!4-0!!」




    そのときだった。
    「桃城・・・負けたら承知しねーぞ。」
    海堂が桃城に聞こえるくらいの声で言う。

    「お前に言われたくねぇぜ。」
    桃城の目つきが変わった。ライバルに言われたのが相当きいたようだ。

572/ 第三話 サイレントスポット
・投稿者/ わっか
・投稿日/ 2007/02/22(Thu) 16:23:46
・IP/ 210.194.193.26

    海堂の発言で集中してる雰囲気を見せる桃城。





    「オラァァァッッ!!」

    バゴンッッ!!

    ボールは今までとは比べ物にならないほど威力が増している。

    「クッッッ!!」




    カランカラッカラン

    伊武はラケットを弾かれた。

    「15-0!!」







    「ゲーム桃城!!1-4!!」


    伊武はキックサーブを打つのを止めスライスのサーブを放った。
    透かさず桃城はジャックナイフを放つ。やはりスピードも上がっている。




    「0-15!!」

    次もその次もスライスサーブ。

    「ゲーム桃城!!2-4!」











    「橘さん。そろそろやっても良いですか?」

    「いや。マッチポイントまで待て。対策を考えられないためにな。」






    桃城はこの会話を薄っすら聞いた。内容は全く判らないが
    相手がマッチポイントに何かをしてくることは分かった。


    弾丸サーブを打つ桃城。伊武は全く動かなかった。

    「15-0!!」

    「30-0!!」

    「40-0!!」

    「ゲーム桃城!!3-4!!」






    桃城は伊武が今やる気を出していないことに当然気付いていた。
    だが・・・これは橘に言われたことを果たすための策略だったのだ。

    つぎもやはりスライスのサーブだ。
    軽く返す桃城。伊武はスライスでショートクロスを放つ。
    桃城はいきなりやる気を出し前に詰めていたことに気付かず、動けなかった。

    「15-0!!」

    次のラリーはすごい長く続く。それもそのはず。桃城が伊武に対抗して
    トップスピンばかり打っているからだ。

    -----それは命取りだ・・・。
    伊武は心の中でそう思う。








    長いラリーを伊武がドロップで終わらせた。

    「30-0!!」

    あと二点で終わり。そんな中伊武はロブをあげてしまう。
    思いっきり放たれたダンクスマッシュは伊武の顔面へ。
    反射的にラケットを振った伊武。

    カンッ!!

    ポトッ

    「40-0!!伊武マッチポイント!!」

    たまたまフレームにあたり、ネット向こう側へ落ちた。








    伊武は力を振り絞ってスライスのサーブを放つ。
    負けてられないと言わんばかりにジャックナイフを打つ桃城。

    「どりゃぁ!!」

    スッ!!

    スライスのドロップはネットに当たる。
    強烈なスピンが掛かったボールはネットの上を転がり桃城のコートに入った。

    桃城はネットギリギリに飛び込む。
    ボールはベースライン上に落ちる。
    だが伊武はすぐに追いついてトップスピンのロブを放った。

    「ダーンクースーマッ・・・!!!! うっ・・・」

    桃城はボールがラケットに当たったのと同時にラケットを離した。

    パチン!!

    桃城のラケットに当てただけのボールはネットの上で止まった。

    そのときだった。
    ヒュゥゥゥゥ!!追い風が吹いたのだ。

    ポコン・・・ポンポンポン

    「ゲームセット!ウォンバイ!!伊武!!6-4!!」

    サイレントスポット・・・。
    下回転の球をずっと返し続けた後に
    上回転を打ったため腕が痺れたのだ。






    「負けちゃいました!!すみません・・・。」

    「バーニング!!桃城任せとけ!!おら!海堂絶対勝つぜヒート!!」








    ----数分後

    「これより青春学園VS不動峰!ダブルス2の試合を開始します。」

    「6ゲームマッチ 0-0プレイ!海堂 トゥ サーブ」

    「フシュゥゥゥゥ・・・」

    「タカさんがサービスラインの後ろまで下がってる・・・どんな戦略かな!?見物だね。
    クスッ」
    不二が乾に言う。

    「まぁ二人とも前衛向きのプレイヤーじゃないからなダブルの後衛とか・・・。」

    途中まで話した乾はノートを開き始めた。

    そもそも何でこんなオーダーになっているのか。
    それは菊丸の遊び心だった。
    試合が始まる前、菊丸が乾にクジを引かせそれで決めたのだ。
    もちろん、先ほどの乾の「考えた結果」と言うのも嘘である。







    海堂がサーブを放った。レシーバーは橘。
    乾によると全国区の男だ。

    海堂のサーブをコーナーにドライブ気味に返してくる。
    先ほどサービスラインまで下がっていた河村が後ろまで下がり
    海堂はネットに詰めて行った。



    「「海堂がサービスダッシュ!?」」
    青学三年一同が同時に言う。もちろん乾も驚いていた。

    「バーニング!!」
    河村は両手で波動球を放つ。

    ドゴォォンッッ!!

    「出た!河村先輩の波動球!!」
    堀尾が叫ぶ。
    桜井が前で取ろうとするがフレームにあたった。

    「15-0!!」

    また河村がサービスラインまで下がり海堂がサーブを放つ。
    海堂がサービスダッシュし河村が後ろへ。

    桜井がドロップを打つ。ボールは海堂の足元に来た。
    スネイクを打つ構えに入った海堂。
    だが予想以上に際どい球が来たためストレートで打ち返す。

    「うらぁ!」
    それを読んでいた橘は即座にフォアのパッシングショットを決める。

    「15-15!!」



532/ 1話目─訪れた関東ジュニアオープンテニス─
・投稿者/ 來一
・投稿日/ 2006/10/11(Wed) 10:06:25
・IP/ 221.78.11.143

    「はぁァ!!」


    パァン


    鳳が前衛の河村のサイドを抜く…


    「いったぞォ!!石田ァ!!」


    「任せて下さい…!!」


    石田はフォアハンドの体勢でラケットを両手で握った。


    「ヌン…!!」


    ズバァァァン…!!


    ボールはインパクト後、恐ろしい打撃音と球速で相手のコートに突き進んでいく






















    カラン…カランカラン…



    「…っく…!!」


    あの高速の両手フォアハンドに追いつくことができた南だが、球威に押されてラケ
    ットが弾き飛ばされる…


    決して南の握力が弱いわけじゃない。あの打球の…石田のストロークの球威が並外
    れているのだ。


    「0−40!」


    「…大会の初戦だっつうのに…快調やのう。あの二人。」


    「フフ。だってボク等の目標は優勝だよ?初戦で負けるわけにはいかないじゃな
    い。」


    ベンチコートに座り、チーム全体の指揮を取るのがこの銀髪の男。仁王雅治。


    そしてその男の隣でS2を勤める、長髪の男が不二周助。

























    ─関東大会終了後、全国大会まであと少しという期間に、ある特定された生徒達に
    ある任務が告げられる…



    『この1ヶ月の間に、自分を含むメンバーを4人集め大会に参加しろ』



    …察しのとおり、この大会である。



533/ 2話目 1・2ゲーム
・投稿者/ キリ
・投稿日/ 2006/10/12(Thu) 14:50:38
・IP/ 125.203.144.107

    ものの10分前まで、開会式をやっていた。
    伴田から軽くルールの説明があった後、オジイのお話。
    やけに長い上に、話すのが遅く、声も小さい。
    誰もが朝会の校長の話より長い話を聞くという奇跡を初体験した瞬間だった。
    最後の黒船の話など、一体この大会と何の関係があったのだろう。
    倒れる者がいなかったのは奇跡と言えよう。

    その長い長い話が終わると、今度は榊が身を乗り出して言った。
    その声は、先ほどのオジイの話で麻痺してしまってたのか、やけに早口でデカイ声
    に聞こえた。
    本当は、いつもの調子で話していたのだろうが。


    『それではこれより一回戦 第一試合を開始する』
    『リーダー 仁王 雅治!』


    『はーい』


    『鳳 長太郎!』


    『はい!』


    『ネットを挟んで仁王のチームは北側、鳳は南側に入り整列しろ』


    並んで挨拶した後は、審判にオーダー表を渡して、ついに対戦相手が明らかとな
    る。


    『ダブルス! 石田君・河村君VS南君・鳳君』


    『シングルス2! 不二君VS佐伯君』


    『シングルス1! 仁王君VS伊武君』


    審判が言い終わった瞬間、不二、石田、河村、仁王チームの3人が、いっぺんにリ
    ーダーの方を見た。
    案の定満面の笑みだった。自分の予想が当ったのがよほど嬉しかったのであろう。

    もちろん鳳チームの人間は、何故仁王が笑ってるかなど、知ったこっちゃない。

    10分間の作戦タイムの後、ダブルスの開始となった。


    『ウム… ここまではいい感じに予想通り。河村、石田、あの二人を相手にするに
    あたってのアドバイスと行こうかの』
    『鳳と南……こいつらは二人とも全国区のダブルスプレイヤーだ。ダブルスとは何
    たるかを、確り心得ている』

    『厄介なのは南…。卓越した基本的なプレイ… ダブルスじゃ無駄に派手に攻め立
    てるテニスよりよっぽど厄介だ』
    『おそらく既に鳳とのサインも決めているだろう。試合中、お前等のプレイを見
    て、すぐ穴を見つけてそこを突いて来るぞ』


    二人ともゴクリと喉を鳴らす。
    散々二人でダブルスの練習を積み重ねてきたが、試合は初めて。
    その初めての相手が、ダブルス慣れしたプレイヤーだ。多少の緊張は、当たり前だ
    ろう。


    『だが…勝てる。おそらく奴ら、ダブルスはあまりやらないお前等の事を甘く見て
    る。そして…河村、前に言ったな? 『小技をさせる暇もなくパワーでゴリ押し
    だ』と』

    『ダブルスが上手い奴は皆ちょこまかと相手をイラつかせる小技が得意だ。かくい
    う俺がそうだ』


    遠回しに自分はダブルスが上手いと言っている仁王。
    しかし、関東大会決勝の仁王のプレイを思い出してみたら、なるほどと3人とも納
    得した。


    『そして、この南もまさしくそういう奴。だから勝負は……序盤』

    『ラリーを続けるな。相手に考える暇も与えるな。パワーでねじ伏せろ。叩き潰
    せ!』


    とりあえず言うべき事をぶちまけた仁王は、最後に一言こう呟いた。


    『1・2ゲーム目は……必ず奪え……』


    そして現在。仁王に言われた通りに二人はパワーでおしまくっている。


    「バーニングッ!!」


    河村の両手波動球が炸裂する。


    「くッ!」


    鳳も南も、取れない。


    『―――…ゲーム河村・石田! 2−0!』


    「しゃぁ! グレイトォ!」


    仁王の指令通り、2ゲーム連取に成功した。


    「スマン…。今のは俺が取るべきだった…」


    「いえ……仕方ないですよあれは…」


    今のところ、河村達は失点していなかった。
    全て。2人はパワーショットで決めている。

    「凄いや。二人とも絶好調だね。このまま次も……」


    「…俺が奴等に『1・2ゲーム目を取れ』言ったのは、先手必勝の意味も確かにあ
    るが、他にも…」


    「? 他にも…?」


    「さ――――――

















    何かが破裂するような音があたりに響く、
    その音が聞こえたと思ったら、既にボールは石田の数メートル後にある金網に吸い
    込まれていた。

    レシーバーの石田は、テイクバックすら出来なかった。


    打球音に掻き消されて、不二の耳には届かなかった仁王の声。
    仁王は気を取り直して、もう一度言う。


    「……3ゲーム目は…確実に落とすからだ」


    「さあ、反撃です」


    サーバーの鳳は静かにそういった。

534/ 第3話目 流れ
・投稿者/ 來一
・投稿日/ 2006/10/12(Thu) 22:21:03
・IP/ 221.78.11.143

    「15−0!」


    レシーバー石田は、テイクバックどころか、球筋すら確認出来なかった。


    ──そうだった・・このゲームのサーバーは・・・──


    またもや不二に見せ付けた氷帝戦での脅威、スカッドサーブ。


    「一球・・・入魂!」


    スッパァァァァァァン──!!


    先程と同じ、破裂音が空気を切り裂く。


    「30−0!」


    河村は意地でも打ち返そうとした。・・・・が、ラケットに触れもしない。


    「確実にこのダブルスは厳しいものになる。」


    銀色に透き通った前髪を、すっと仁王は巻き上げた。


    「・・・まず、このゲームは取られてしまったも同然・・・か。」


    そう呟くと、不二の目線はトスを上げる鳳に向った。・・・直後、一気にフェンスにめり

    む。


    「40−0!」


    「このゲームで一気に流れが変わることは分っている。1・2ゲーム目を取らせたのも、
    正直言って保険にもならねぇかもしれねぇぞ・・・。」


    ──自分に、一つでも絶対だと信じられるもの程、成功すれば調子が上がり、崩されれば
    とこ
    とん崩れ落ちる。


    確かに先程までのゲームでは調子を上げていた河村と石田だが、次のゲームではそうは行
    かない。このサービスゲームで鳳が流れに乗せるのだ。


    一度流れに乗ってしまえば、何も苦労することなく点を取れる。そして・・・その流れを

    き戻すのは相当難しいのである。


    メンタルが大きく左右するこのスポーツにおいて、どうすれば先に流れを奪えるか、それ
    が大事になるのであるが、鳳は必ず流れを奪えるゲームがある。


    簡単に言えば、鳳にはポイントを取れるどころか、流れまでもを確実に引き寄せるとんで
    もない武器を持っていることになるのだ。──


    「ゲーム!南・鳳。1−2」


    そしてこの後、調子を取り戻した南側の、えげつない反撃のステージとなる。

536/ 第4話 戦略
・投稿者/ キリ
・投稿日/ 2006/10/13(Fri) 20:56:32
・IP/ 222.150.160.136

    「サンキュー、鳳。お前のお陰で流れを奪えたよ」


    ベンチに座り、ドリンクを飲んでる鳳に話しかけた南。


    「あまり調子に乗せ過ぎちゃうとあの二人はやばそうですからね。…それより、こ
    こからは南さんが頑張ってくれるんですよね?」


    「…ハハ、さすが。分かってるじゃないか」
    「今までのゲームだけで分かったよ…。やっぱりあの二人はダブルス経験が浅い
    な」


    南は、既にそれぞれのポジションについてる河村と石田を見て、不敵に笑った。
    そして仁王はその南を見ていた。何かしてくる。そう彼は直感した。


    ―――そうだ… さっきのゲームはただただ呆気に取られていただけだったけど、
    まだ他のゲームは落としちゃない。上手く行ってる。
    ―――もう一度…このゲームで流れを取り戻す。

    「バー……ニンッ!」


    しっかりタメを作り、勢いのあるサーブが放たれた。
    スカッドサーブとは比べ物にならないのは当然だが、充分なスピードだ。

    しかし、そのくらいのサーブなら、南も易々と返球する事が出来た。

    そのリターンは、前衛の石田がギリギリ取れないくらいの、低い弾道ながらも、深
    いロブ。
    さらにコーナーギリギリというかなりえげつないコースをついたボールだ。


    「タカさん…!」


    「おう… 任せ…なッ!」


    後衛の河村も、体勢を崩しながらも何とか返球。
    山形となったボールは鳳の頭を超え、再び南のフォアサイドへ。

    絶好のチャンスボール。
    フォアを打ち込む…さらに悪ければ、グランドスマッシュを打ってくるかもしれな
    い。
    そう思った河村と石田は、身構えた。

    ニッと笑んだ南。彼が打ったのは…


    ―――また―――ロブ――――――?


    河村のカバーに入ってた石田の頭上を、ボールは再び超えていった。正クロスのロ
    プ。
    予想外のボールに反応が遅れた河村だったが、また、何とか追いつき打ち返す。

    悉く、南は石田の頭上を超えるロブばかり打ってくる。
    河村の返球には、力強いショットを打てるようなチャンスボールも多々あるのに、
    だ。

    それを見てる仁王の表情が、どんどん険しくなっていく。


    「厄介だな…。奴等、いや、南か。あいつはやはりよく分かってる。あいつらにと
    って、打ち込まれるより、ああ揺さ振られる方が苦痛だという事を」


    「…ああもギリギリの所に打たれたら、タカさんもハードヒットが出来ない。前衛
    の石田君もロブ相手じゃ仕事が出来ない」
    「どちらのパワーショットも、キッチリ封じられている。君があそこまで南を危険
    視してたのも頷けるよ」


    これこそ、南の考案したパワーショット封じの戦略。
    前衛の石田は頭の上を抜かれたら、打てる訳が無いし、後衛の河村もコーナーから
    コーナーまでのダッシュの為、波動球を打つのに必要なタメをつくる事が出来な
    い。
    たった2ゲーム、彼等の攻撃を見ただけで南はそれを見抜いた。
    地味地味と言われてるが、まさしくその地味な動きが、ダブルスで勝利を摑 むのに
    重要になるのだ。

    仁王の言ってた通り、彼はダブルスの全国区。
    危惧していた事が、起こってしまった。


    「けど…この状態じゃどちらかがミスするまで一向に決まらないんじゃないか
    な?」


    「…南は、穴を見つけるのに長けてる。何か少しでもヘマをするとそこを容赦なく
    突いてくるぞ」


    「く……!」


    河村の打ったゆるいボールに、南は悠々と追いつき、テイクバックをする。


    ―――また石田の頭上を抜くロブを打つ気か…! そうは…させない!


    河村はまたコーナーをついてくると読み、先回りする為早急にダッシュを開始し
    た。
    それを見た南の目が光る。仁王もそれに気付く。


    「河村ァ! 戻れぇ!」


    ついつい怒鳴ってしまった仁王。
    しかし、もう遅かった。


    ―――…しまった! まだ……石田君がカバーに入ってない…!


    そうまだ石田がカバーに入る前に、河村は動いてしまった。
    ずっと石田は、無意識にロブが上げられたのを確認した後動いてたので、河村が動
    いてることにも気付けなかった。
    つまり今二人は、縦一列で並んでしまっている。

    ダブルスで、最もやってはいけない事。
    ほんのコンマ1秒のズレのせいで起きた事だったが、南はそれを見逃さなかった。

    彼の渾身のフォアが、誰もいない左サイドに叩きつけられる。
    もちろん、取れる訳が無い。取る人間がいないのだから。


    『0−15!』


    呆然としてしまう河村と石田。
    まさか、こんな形で決められるとは考えてなかったのだ。


    「…俺にはお前等みたいに、相手のラケットを弾き飛ばす程のパワーショットを打
    つ事なんて出来ないし、鳳みたいに、誰も触れる事すら出来ないスピードボールを
    打つ事も出来ない」
    「けど…ダブルスなら…俺は戦略によって、ただのフォアを誰も取れないボールにするこ
    とが出来るんだ」


    静かに河村達に語った南。
    ちょっと今まで、上手く行っていたからと言って、彼等は、自分じゃ分からない程
    度だが、油断してしまっていたのだ。
    しかし、ダブルスの全国区という壁は、彼等の想像以上に厚く、高い。

538/ 第5話 金網からの視線
・投稿者/ 來一
・投稿日/ 2006/10/15(Sun) 16:59:14
・IP/ 221.78.11.143

    「…これが全国区…か。…ックク。」


    仁王は利き手である左手で口元を軽く抑え、目を細くしてかすかに笑う。


    「…仁王?…どうしたの?」


    「…いや、なんでも。」


    「そう…。」


    不二に何故笑っているのか問われても、仁王は答えようとはしない。


    しかし、不二は感づいていた。


    …全国区の圧倒的な壁。手を伸ばしてもの届きそうにないその壁を目の当たりに
    し、大抵の人間ならその壁の高さに足がすくんで、萎縮されるのが落ちである。


    だが仁王はその壁を目の当たりにしても、その何を考えているか全く読めないあの
    瞳で、怪しく微笑んでいたのだ。


    不二は、仁王がその場にふさわしくない行動を行った場合、何かをたくらんでいる
    証拠とみた。


    それはこの仁王とチームを組んだ一ヶ月の間に、仁王を見て不二が確信したこと
    だ。──





    そして、一方その仁王側のチームの選手の、河村と石田には、


    気迫は消えてはいなかった。


    「…おい。石田。」


    「…はい。」


    …二人は先程あの高く、厚いダブルスの壁を見せ付けられ、一時はダブルスに対す
    る自信は全て消え去っていた。


    「特攻…いくぞ…!!」


    だが、その自信を取り戻させるほどの何かを、


    「…任せて…ください…!!」


    彼等は磨いたきたのである。


    「…ピヨ。」


    仁王が先程から怪しく口元をニヤつかせていた理由は、この二人だった。



    「始めに言ったろ?不二?」


    仁王は表情を変えずに、そのまま怪しく微笑んでいる唇で不二を見た。



    「相手が小細工を使えないぐらいの、パワーでごり押しに特化するって。」











    「…ぬうぉー!!…ぬどりゃぁ!!」


    河村は高々とトスを上げ、力強いタメで一気にラケットを振りぬいたのだが…


    ──ズバァァァン!!──


    先程のサーブとは比べ物にならない、打撃音が放たれた。


    「…速い!」


    レシーバーの鳳は、恐ろしい球速で突き刺さってくる河村のサーブに向かって、レ
    シーブのテイクバックを行った。


    ボォォン!


    打球が地面に突き刺ったにも関わらず、そのまま球威を落とさずに跳ね上がってきた。


    それを、鳳は構えたフォームから振り、インパクトしたと同時に、


    ギュォォォン──!!


    「(…重!!)」


    恐ろしい打球の重量が、鳳を襲う。


    ポン


    苦し紛れに放たれたレシーブボールは、緩いロブだ。


    それを前衛のポジションの石田は見逃さない。──

    「…構うかぁァァァ───!!」


    ──パアァァン!!──


    石田は自分の限界まで高々くジャンプし、空中で力の限りスマッシュを振りぬいてゆく。


    「…っく!」


    南はその恐ろしい球威のスマッシュに回り込み、打ち返そうとした。──


    ズウィィィィ!!───


    ───ボォン!!


    「っな…!!」













    「15−15!!」


    だが南は、ラケットに打球を触れさせることさえできない。


    …確かに南はスマッシュを打ち返す、ベストポジションに回りこみ、基本に忠実な
    綺麗なフォームでラケットを振った。


    ──しかし、打球は南を一瞬で抜けていった。──



    ──理由は単純である。


    打球は地面をえぐり、地面に突き刺さったスマッシュは低い弾道で突き進んでいっ
    たからだ。


    …これが彼等の潜在能力。叩きのめされれば叩きのめされるほど、それに反発して
    普段以上の実力を発揮する。


    それを仁王は気づいており、同時にその能力を目醒めさせていたのだ。












    「…おー♪青学の桃城君並のスマッシュじゃなーい♪」


    「…ああ。奴等の底力、甘く見てもらったら困る。」


    試合が始まってからずっと、仁王はベンチコートの後ろの金網から視線を感じてい
    た。…それは不二も同じだ。


    だが仁王はその視線の正体を確認しようともせずに、気にはとめていなかったが


    しかし今、その視線の正体が自ら話しかけてきたのだ。


    「…お前は…山吹の…千石だろ。」


    「…ご名答。」


    いや、確認しようとしなかったのではない。


    すでに正体に気がついていたのだから、確認する必要が無かったのだ。


    「……確か俺らの次に試合だよな。」


    「ああ。俺は…シングルス2で出場するよ。…そして二試合目も、シングルス2出場
    だ。」


    千石は、自分が次の試合に勝利することを宣言した。


    「ほう。…俺らの二試合目のオーダー…知りたいか?」


    そして仁王も、遠まわしに勝利を宣言した。


    「…うん。お願い♪」


    「…不二だ。」


    隣にいる不二を、仁王は指差した。


    「ふふ。よろしくね。」


    不二は千石に微笑みながら軽く挨拶をしたが、目は鋭く千石に向かっていた。


    「…こちらこそ。」


    千石も同じように、不二に鋭い視線を送った。








    「鳳…奴等…ペースを上げて特攻に持ち込む気だ。」


    南はさっきのあの二人の動きを見て、二人の作戦を悟ったつもりだ。



    ─…特攻を仕掛けてくる。とにかく、奴等はペース配分に気を配るつもりは無いだろう。



    ─やり方は大分違うが…さっき、俺があいつ等に≪壁≫ってのを見せてやったときみたい
    に、自分達のパワーを見せ付けて、俺らを萎縮させる気だな…


    ほんの少しだったが、南は油断していた。


    全国区のダブルスと、そこらの一般的な技術のダブルスの違いを見せつけた南は、これで
    奴等はダブルスに自信がなくなる。


    その上、ストロークもミスを気にしすぎたりしてソフトに返してくるはず…


    だが見当違い。


    ──彼等の精神力は強い…油断しすぎてたな。──





    「…今ある選択肢は二つ。…前者はこのまま二人に流れを乗せ、二人のスタミナが
    切れた頃に、まだ体力を消耗していないこっちが特攻を仕掛け一気に逆転…。」


    この作戦がもっとも最適である。爆発力がウリの相手なのであることを逆に利用
    し、爆発後の攻撃できなくなった状態を畳み掛ける。…というものだ。


    「後者は…俺らも全力でぶつかっていく…。さぁ、お前にこれからの作戦を任せ
    る。…さぁ、どっちでいく?」



    ──もう、負ける気なんて俺はさらさらないぜ。鳳。


    だが、やっぱ俺の精神力は弱い。緒戦から油断するくらいだ。


    …ここは、お前に任せる。

    お前があの氷帝で、一人の男を正レギュラーに復帰させたことは聞いている。


    お前のとおりしていれば、負ける気がしないんだ。


    今まで、お前は俺を頼ってきてコトがあったよな。結構。…


    今度は、俺がお前を頼る番だ。…お前を信じる。──











    ──もう、都大会の二の舞はゴメンだ!────

540/ 第6話 逃げ
・投稿者/ キリ
・投稿日/ 2006/10/15(Sun) 20:32:07
・IP/ 218.47.144.44

    「……その判断を、俺に?」


    唐突な南の問い。作戦は全て南任せにする気だった鳳は驚いた。
    南と言う男も、どうするのが正解なのかは分からない。
    だからここは、相棒の意見を尊重しようという訳だ。


    「気負う必要は無いよ。お前の判断で結果どうなろうが、俺はお前を責める気なん
    てさらさら無い」


    「…そんな言い方、止めて下さいよ。負けてもいいみたいじゃないですか」


    「そんな訳じゃないよ。やばくなったら作戦を変更すればいい話じゃないか。とに
    かく俺は、お前に決めて欲しいんだ。さあ、どうする?」


    「………」


    鳳は、黙り込んでしまった。
    どんなに気負う必要は無いなどと言われても、彼の感じてるプレッシャーは相当な
    ものだろう。
    所詮、南の言ってる事は気休め。本当は、責任重大。

    ダブルスでは、ミスした相棒を責めるなどという事は、普通しない。
    どんなに酷いミスをしようが、笑顔でドンマイと言い合えるのがいいダブルスだ。
    例え、心の中では不安に思っていても、それを表情に出す訳には行かない。ペア
    に、敵にも、伝わってはいけない。

    味方にそれが伝わってしまうと、そいつが責任を感じてしまう。
    敵にそれが伝わってしまうと、敵に精神的な余裕が生まれる。

    鳳も南も、それぞれの学校で、今述べたような『理想の相棒』がいる。
    だから、鳳には分かっていた。
    南は無理して、平静を装っていると。本当は、不安だと。
    分かってた。南も、いいダブルスプレイヤーだと知ってるからこそ。


    「もうちょっと…待ってもらえますか?」


    「え?」


    色々試行錯誤した結果、鳳が出した答は、コレ。


    「とりあえず、このゲーム中は今まで通りやってみませんか? このゲームが終わ
    って、それまでの彼等のプレイを研究した結果、俺は自分の中で最良だと思える答
    を出します」


    「…分かった。そうしようか」


    「ハイ。だから…さっきのロブで揺さ振る作戦、もっかいやってみましょう」


    「………ああ、分かった」


    実は南は、自分で作った戦略ながら、いや、自分で作った戦略だからこそ、それの
    弱点は熟知していた。
    少し考えれば分かる、単純なものである。少なくともダブルス慣れしてる人間な
    ら、一発で気付く。
    だから仁王も、見た瞬間、その作戦の意味にも弱点にも気付いた。
    だが、伝える術が無い。基本、チェンジコートの際にしか、リーダーのアドバイス
    は許されていない。それ以外の時に助言を行うのは厳禁だ。
    ただでさえ、さっきの「戻れぇ!」の発言で、仁王は目を付けられてる。
    次何かしたら、最悪の場合、退場させられかねない。

    それをどうにか出来ないかと考えてる間に、既に二人は構えていた。


    「! あいつら…」


    「……クッ」

    ―――もしかしたら…そう思っていた。『それ』に気付きかねないんじゃないかっ
    て…

    ―――けど、こいつらのダブルス経験の浅さから、大丈夫だろうとタカを括ってた
    が…

    ―――どうやら少し、甘かったみたいだな……


    ベースライン上で構えるレシーバーの河村。レシーバーがその位置にいるのは当た
    り前だ。
    しかし、同時に石田も、河村と逆サイドのベースライン上で、構えていた。
    つまり、この状態は…


    「後衛を…二人にした……?」


    試合を観戦していた千石が、金網越しに目を凝らした。
    確かに、目を疑う光景だ。W後衛など、普通はやらない。


    「…これで、さっき南の使ったパワーショット封じを、封じる事が出来る」


    よく分かっていない感じの千石に、仁王は特別に、このフォーメーションの意味を
    解説してやる事にした。


    「…ああ、そうか。なるほどー!」


    しかし、詳しい説明に入る前に、千石は自らで答に行き着いた。

    千石も馬鹿じゃない。このくらいのことには気付く。
    二人とも後衛で構えてたら、どちらにロブを上がろうが、二人とも、急いでボール
    を追うという事をしなくてもよくなる。
    動く事になっても、最大でコートの横幅の半分の距離という訳だ。


    ―――しかし…気付いていないのかな…これにも、対処法があるって事を。


    南はラケットを少し引きつつ、サーブの威力を吸収した。
    そして勢いが殺されたボールで、彼はスライス気味のバックをコンパクトに振りぬ
    いて、ドロップショットを打った。


    ―――あくまで動きが軽くなるのは、横限定の話。縦の動きは話が別だ!

    ―――これで――前に出ざるを得ないだろう!


    確かに、ここで前に出て来たら、もう一度後に下がるチャンスは無い。
    再び、あのロブ攻めをする事が出来る。

    しかし、それはラリーが続いたらの話なのである。


    「!」

    ―――な…! コイツのダッシュ… 横の動きとは比にならないくらい…速い!


    「ククク…残念だな、南。『河村隆』という男相手に、ドロップを使うのは間違い
    だ」


    河村と石田のラリーを見て以来、河村の練習メニューに、ダッシュを加えた。
    彼の瞬発力を上げる為。スピードを上げる為。
    まあ、ダッシュをやってるのだから、これらの向上の為だというのは当たり前だ。
    問題は、何故河村だけがそれをやる必要があったのかだ。
    別に他のメンバーに比べて酷く足が遅かった訳でもない。


    全ては―――ダッシュ波動球の完成度をより高くする為―――


    「ぬぅ…どぉ…りゃァァァァ!」


    渾身のパワーで放たれたダッシュ波動球。
    両手でラケット握り、ボレーをしようとする鳳。
    今まで、鳳は数回程度は波動球を返してきた。
    実は彼は、少なくとも南よりはパワーがあった。
    あんなサーブが打てるのだ。パワーが全然無い訳が無い。

    しかし、この球の前には『その程度』のパワーも無意味。
    鳳の手は自然とラケットを放してしまい、それでも尚勢いを無くさぬその打球は、
    金網に突き刺さった。

    結局は、ダッシュ波動球により、そのゲームも河村・石田が流れを奪い、4ゲーム
    目は彼等が奪った。

    鳳が、真の答を出す時が来た。



    「………俺の考えでは、スタミナ切れを狙う方が良いかと…」


    「確かに…あのパワーショットは異常だ。あんなの打ち続けてたら、二人ともすぐ
    エネルギーが無くなる。…よし、それでいこう」


    結局、選ばれたのは前者。
    その後のゲームは、なるべく粘って、早くエネルギーを消耗させる作戦を行った。
    それを見ていた仁王は、即二人の狙いに気付いた。


    「クク…お前等は『逃げ』を選んでしまったという訳か。残念ながら、それも間違
    ってるぜよ」


    二人とも、両手でラケットを握り、何とかパワーショットを返しているが、点を決
    めようという気迫は感じられなかった。仁王はそれを見て気付いた。
    それはもう既に作戦じゃなく、ただの『逃げ』の選択だった。
    鳳は、それに気付いていない。


    「遠慮すんなよ…二人とも。あいつらの思惑通り、パワーショットを打ちまくって
    やれ」
    「次のチェンジコートが楽しみだ…。クク…その作戦は、俺達にとってはスカッド
    サーブ攻略の鍵になるんだよ」


    後者の方を選択していた方が、仁王は厄介と思ったかもしれない。
    仁王はそんな選択肢があった事など、知らない訳だが。
    しかし、鳳が前者を選択してしまった事によって、仁王は勝利を確信した。

544/ 第7話 奇妙なラリー
・投稿者/ 來一
・投稿日/ 2006/10/19(Thu) 22:00:35
・IP/ 221.78.11.143

    「っでぇい!!」


    スパァン


    先程の4ゲーム目を奪取した河村と石田。


    チェンジサーバーとなり、現在サーバーとなっているのは南は、


    上げたトスに向かって、タメを作って一気にラケットを振り下ろす…


    「…っふん!」


    パァン


    南のサーブは特にコースをついていなかったため、石田はいつもの痛快な速度と球
    威を誇るフォアハンドのフラットボールで返球することが出来た。
    まぁ、一応サーブをレシーブするのであるから、多少振りぬき方はアウトの無いよ
    う、コンパクトなものになっていたため、速度や球威は多少減少している。
    …だがいくらレシーブのスイングでも、打ったのはフォアハンドの石田であり、
    威力は申し分ない。


    「っと!」


    ッパァン


    そして鳳は、その石田の激烈な球速と球威を的確に捉え、フォアハンドで弾くよう
    にボレーを放つ。


    打球は、石田の逆を突くが、後ろには河村が居る。


    いつ、あのロブ攻めの作戦が来ても対応出来るように、二人の陣形は常にW後衛な
    のだ。


    「…波動球!!」


    バァァン!!



    河村は大振りからあの激烈なほどに球威を誇る元祖石田の技である、波動球を繰り
    出す。…やはり何度耳にしてもあの打撃音には皆、驚愕するだろう。





    …正直河村の中では、ここでダッシュ波動球を打ち一気に決めたいところだった
    が、ボールはダッシュする必要が無い…いや、ダッシュすると逆に間合いがつまり
    ミスショットが出てしまう…よって、この状況で最良とされるショットを、河村は
    『波動球』と読んだのだ。


    波動球は、恐ろしい球威と共に、相手前衛である鳳に突き進んで行く…



    「…南さん!任せました!」


    鳳は真正面であるであり、絶好のミドルボレーが打てるボールでありながら波動球
    を避け、南に後を任せた。


    決して鳳は波動球を返せないわけではないはずだ。・・・パワーは並の選手以上は確実に
    ある
    ため、『波動球』の何倍の威力もある『ダッシュ波動球』には歯が立たないとして
    も、『波動球』ほどのボールなら返せるパワーはあるはずだ。


    しかし、それを後衛の南に任せた。



    「…ピヨ。」


    …当然、仁王もこの行動を見て、相手の戦い方が変わったていることに、一目で気
    がついた。


    『相手が一気にぶつかってくるのに対抗せず、ただ相手のエネルギーが切れるまで
    待つ』という、仁王が『逃げ』と判断した、この戦い方の元々の狙いは同じである
    はずだ。…だが、今までは一応、ポイントを奪うというような気迫は見せず、ラリ
    ーをただ長引かせているような印象があった。…しかし、来るボールに対しては全
    て的確に無駄の無いよう捉えていた。


    しかし、今回は、取れるはずのいい打球をわざと後ろに回した。…


    そしてその『波動球』を返球する側の南は、


    ベースライン上から2メートル以上は慣れた位置で、南は構えていた。


    「っは!!」


    パァン


    両手でしっかり握ったラケットに『波動球』がインパクトしても、南はラケットを弾かれ
    ること無く打ち返した。


    「なるほど…あれほど後ろに下がっていれば、球威に押される心配が無い、というわけ
    か。」


    不二が頷く。…確かに、あれほど下がって打ち返せば球威に押される心配なく返せるだろ
    う。しかし、コートにはかなり広報に下がっている南と、ネットに張り付いている鳳。


    やはり、位置的に取れない打球が存在する。コースを突かれてしまえば、ラリー展開は一
    気に相手側に向かうだろう。



    そして、この奇妙な返し方が明らかに意図的な作戦であることが分かる理由が、


    一つある。


    …あの球威を誇る『波動球』の速度が並大抵の物のわけが無い。かなりのスピード
    ボールであるのは絶対だ。


    あのボールに追いつけた、唯一の理由。それはやはり、


    鳳が『波動球』を避けるのを、わかって先に回りこんでいたからである。


    そして南の両手で返したボールはさほど速度はなく、さらに河村のフォアハンドと
    いう、さっき鳳がボレーした位置と同じ位置にバウンドした。


    「…!!っどりゃぁ!!」


    ズバァァン!!


    当然、河村から放たれたのは、『波動球』。


    その打球はまたもや先程と同じように、鳳の正面を突いていた。


    そしてさらに・・・


    鳳は『波動球』を避け、南に任せるというまったく同じパターン。


    「・・・。」


    仁王は黙って試合を見ていた。・・・違和感はもう通り過ぎ、たった2打で、コレは明
    らかに作戦が変わっていることを、彼は完全に理解していた。


    「・・・鳳は打球を全て避け、後は南に任せる・・・か。」


    独り言のように仁王は呟いたが、それを不二は聞き逃さずに反応した。


    「『波動球』をタカさんに必要に打たせ続け、体力の減少を図るんだろうけど…、いくら
    後方に下がって返していても『波動球』。…確実に先に南の握力と体力が底をつくよ
    ね。…仁王は、どう思う?」


    一言も、仁王は相手の作戦の狙いを、不二には話していなかった。


    しかしそれを不二が分かっているということは、やはり不二もさっきの相手の『逃げ』に
    気がついていた。


    「…今のところは…わからん。」


    仁王は人差し指と中指をあわせて眉間に立て、険しく試合を見つめている。



    「…っだぁ!!」


    ズバァァン!!!


    先程のようなラリー展開を、2,3周繰り返したあけあって、元々スタミナがあるはずの
    河村も、息を切らしていた。


    あの『波動球』何度も打ち続けているのだ、腕はかなり悲鳴を上げているだろう。


    一方、『波動球』を返し続け、南の握力が限界に来ているはずなのだが、


    「っは!!」


    パァァン


    案の定、打球はみるみる打ちに球威が失せている…が、


    全くラケットを弾かれる様子は無い…


    やはり、あれほど後方に下がっている故に、衝撃は最小限になるのだろうか。


    …そうでなければ、このようにラリーを繋げることなど出来やしない。


    「(何なんだ…!?あいつ…さっきから河村さんばっかに打ちやがって…!!)」


    石田にも、河村が集中的に狙われているのが分かっていた。


    確かに、ここで前に出てしまえば揺さぶるロブの戦法の餌食となる。


    ──ここは待つ。──


    …それしか選択しは無かった。


    「(…さっきから『波動球』で攻めているつもりだったが…あんな後ろ返された効果が無
    い…!!──だが、コースを突いてみれば…どうだろう…!?)」


    河村が考えたことは至ってシンプルでありながら、もっとも最良の方法に出た。


    「どりゃァ!!」


    ズバァァァン──


    このラリー中、『波動球』を打ち続けていたせいか、


    腕に疲労が溜まっているた河村の『波動球』の威力は多少落ちていた。だが球威は通常の
    何倍も余っているのが『波動球』だ。


    しかし、このボールは今までのように思うまま、力の限り飛ばそうとはせず、


    …南の逆側、相手前衛に鳳がいる位置を狙って見た。…



    パァン


    やはり、鳳は避け、南が両手で取った。


    相変わらず、わざと河村のフォアに落としてくる…。


    「…っぢィ…!!」


    ズバァァァン!!!──


    それを『波動球』で河村が返球。…そろそろ河村の腕が限界に来ていることだろうが、


    ここで、河村は力を振り絞り、また南がいる位置と逆に、『波動球』を突き刺した。


    「…ゆさぶる…か。」


    仁王は少し頷いたような様子を見せたが、決して余裕は見せることは無かった。


    そして、南がそれを返球するとまた逆サイドに『波動球』。


    そしてそれをまた逆サイドに『波動球』。



    「(…揺さぶって…来たか!!)」


    パァン


    何とか両手で追いついたものの、体制を崩して閉まった南。


    「…グレイトォォォォ!!」


    河村は、もう腕が痙攣寸前だ。


    だが、最後の力を振り絞り、思い切り振り抜いた。


    ──ズバァァン!!


    「0−15!」


    当然、ポイントを奪取した河村。


    「…確かに結果的に、タカさんの腕に疲労を溜めたのはいいとして、…正直南とは思えな
    い戦いからだったね。」



    「河村も…相手にパワーをねじ伏せられると、反抗期みたいにさらに強いショットを打っ
    てくる。というようなことは認めてやる…だが、あの『波動球』を両手で返していたから
    といって、反動が無いわけが絶対に無い。」


    二人の言うとおり、この方法はあまりにも無謀だ。


    確かに河村のパワーショットは河村の腕を疲労させることで、一時的に打たせなくするこ
    とが可能となった。


    だが代償が大きいはずだ。


    いくら両手で返してミスがなかったといえども、腕を痛めていないという保証は無い。


    南の握力は、現在の状態ではサーブを返す程度がも限界だろう。


    ダブルスプレイヤーの戦いとしては、色々と不審な点がある。


    穴を突かれることを嫌うダブルスプレイヤーは、


    滅多に相手にダメージを与えるために、自分を代償にまではしない。


    それはダブルスが得意である仁王にとって、一番わかることだ。


    「…もしや…『打ち返せない』…か?」


    仁王が『打ち返せない』と言った理由は、この試合中に一度だけ鳳にあった。


    そしてその確信できる理由は一つ…それ以外に、理由がなかった。


    …さっきの4ゲーム目を奪取した打球は、河村の『ダッシュ波動球』。


    これを鳳が返そうとした際、当然ラケットを弾かれた。


    そのラケットを南が拾い、鳳に向って投げ渡したのだが、


    ラケットをしっかり掴んだはずが、手から滑り落ちてしまっていた。


    それを拾い上げた鳳だか、二度も・・・


    手からラケットを滑り落としてしまった。


    …もう、気づいただろう。


    鳳はボレーをしなかったのかったのではなく、出来なかったのだ──

549/ 第8話 悪魔
・投稿者/ キリ
・投稿日/ 2006/10/21(Sat) 23:12:20
・IP/ 222.150.162.93

    鳳は、ダッシュ波動球を返球しようとしたが為、腕を痛めてしまっていた。
    それを聞いた南が考えたのは『次の鳳のサービスゲームまで、彼を休ませる事』
    難しい事である。全てのボールは、自分で拾わなければならない。
    別に取られてもいいゲームであっても、それは河村達の腕を潰してからの話。そし
    て、鳳の腕が良くなってからの話。
    何もしないまますぐゲームを取られたのでは意味が無い。粘らなければ意味が無い
    のだ。


    ―――もう河村の腕は限界に近い事だろう。次に狙うのは…石田。

    ―――次の次のゲームが、鳳のサービスゲームだ。それまで彼をなるべく長く休ま
    せる。

    ―――それまでのゲームはくれてやってもいい。そこから挽回する!

    ―――……それまでは、持ってくれよ。俺の腕…………


    「……フーム、なるほど」


    仁王は大体の事を理解した。
    しかし、彼等に伝える術が無いのでは話にならない。


    ―――面倒だな…。奴等にアドバイスを送れるのは、このゲームが終わってから。

    ―――このゲームで…南の術中に嵌ってしまってからじゃ遅い。

    ―――…あいつら自身で、気付くしかない。


    次は石田のリターンだった。
    南が放ったサーブは、明らかにスピード・威力共に衰えていた。

    そして石田が返球したボールは………ネットに引っ掛かった。


    「!!」


    『フィ… 15−15!』


    それを見ていた全ての人間が驚いた。
    石田へと放たれたサーブは明らかに絶好球。
    彼がこんなミスをしてしまうような打球では無かった。

    しかし、この行為には意味があった。
    要するに、わざとミスしたのだ。


    ―――石田…… それでいい。


    石田も既に気付いていたのだ。鳳の腕の状態に。相手の思惑に。
    よってここでわざとミスをしたのは、鳳に休む暇を与えない為。
    既に河村にはこの事は伝えてある。『次のサーブはわざと見逃して下さい』という
    こともちゃんと言っている。

    しかし、その石田の考えに、気付くことのできない南ではない。
    狙ってミスったことも、その目的、このサーブを河村が打ち返さない事も、南には
    分かっていた。


    ―――上等だよ!


    南はサーブを打つ。しかし、その打球はヒョロヒョロのアンダーサーブ。
    打球は、ネットに引っ掛かった。


    ―――! まさか南さん…


    『ダブルフォルト! 15−30!』


    そっちがその気ならと言わんばかりの、『わざとミス』のお返し。
    両者がこれを続けていたら、デュースが延々と続き、結果鳳を休ましてしまう事に
    なる。

    打とうがミスしようが、彼の思惑通り。こんなにもどかしい事は無い。


    ―――ならば、こっちの腕が潰れる前に決めるしかない!


    もちろん、河村にはもうこのゲームでは打たないよう頼んである。
    実質、今行われてるのは、石田と南のシングルスみたいなものだ。

    しかし、シングルスじゃ南に分が悪い。
    その上、彼は腕の筋肉を少し傷めてしまっている。

    そんな彼に、石田の本気のショットは取れない。


    「ぬんッ!!」


    『15−40!』


    「くッ!」


    思いの他、河村相手に時間をかけすぎてしまっていたのだ。
    ダッシュ波動球の印象が強すぎた為か、南は河村を気にしすぎていた。
    石田の存在を、忘れていた。

    南と言う人間は、ダブルスでこそ活きる。ダブルスでこそ相手にとって厄介とな
    る。
    しかし、彼等も同じだった。ダブルスだからこそ、『パワーヒッターが二人』だか
    らこそ厄介になる。
    片方を潰すと、もう片方に対処する余力を無くしてしまう。

    ダブルス経験が浅いからといって、舐めてはいけなかった。
    石田は既に、南の策を見破る力も、それを破る力も備えていた。

    南には、一つ忘れてはいけないことがあったのだ。
    彼等のリーダーが、『ダブルスでも』一度も勝つことの出来なかった、仁王だとい
    う事を。


    ―――だが…まだ試合は終わっちゃいない…!

    「らァ!」


    南は、何とか石田の打球に追いつき、河村の方に打った。
    打たなくてもいいと言われていたが、彼もボールが来たら思わずテイクバックして
    しまう。


    「河村さん! 打たなくていいッ!」


    石田の呼び掛けにより、河村はテイクバックの状態のまま体を止めた。
    もちろん、ボールはその河村の横を駆け抜けていった。


    『30−40!』


    今のところ南は、腕の痛みは気にならない。
    石田も自分の腕がやられてはいけないので、コントロールを重視し、打球の勢いは
    少し抑えていた。
    南はそれなら何とか取れた。

    南は『逃げ』を止めた。
    こうなれば、攻めるに攻めて、それで結果粘り、鳳のサービスゲームに繋ぐ―――
    という考えに彼は至った。


    「……攻撃は最大の防御……ってか?」


    仁王は半ば呆れた風に言っていた。

    しかし、予想以上に南の底力は凄く、結果そのゲームは―――


    『ゲーム南・鳳ペア! 2−3!』


    そして、仁王が待ちに待った、チェンジコートの時がやってきた。


    「いやー、鳳が腕を痛めてくれたのは幸いだったな」


    「…けど、このゲームの後半が結構長引きました。河村さんの腕が元の状態に戻り
    つつあるのはいい事ですが、それはつまり鳳の腕も言える事で…」


    石田は冷静に分析していた。
    確かに河村の腕は、ほぼ元の状態に戻っていた。
    そうは言っても、今も欠かさず氷で冷やしている訳だが。


    「そうだな。もう、あのスピードが出せる位には回復してると思うぜよ」


    「! じゃあやはり………」


    「まあ待てよ。まずは次のゲームの話をしよう。石田がサーバーだったな。それで
    だが、次のゲームとっとと全部ダブルフォルトしろ。取られて構わん」


    「!」


    驚くべき指示だった。
    確かにそれは石田が先ほどしていた事と酷似しているが、鳳の腕が回復しつつある
    今、それはもう意味が無いのでは?
    そういった意見を、石田は仁王にぶつけた。


    「何言ってる。回復しつつあるかもしれんが、回復しきっちゃいない。俺は断言出
    来るよ」


    「断言…? 何を…?」


    「次の鳳のサービスゲーム、取るのはお前らだ」


    「え! でも、スピードはもう……」


    「まあ最後まで聞けって。要はだな…」


    その後、多少時間は流れ、ゲームは再開された。
    そして石田のサーブ。


    「…………」


    「!」


    石田が打ったのは、先ほど南が打ったようなヒョロヒョロのアンダーサーブ。
    もちろん、仁王の指示通り、それはネットに掛かる。
    間髪をいれずそれを続け、一分とも掛からず、このゲームは南達のものとなった。


    『ゲーム南・鳳ペア! 3−3!』


    「…あいつら、お前のサーブを潰そうと…。けど、もう遅いぜ…」


    「はい、もう大丈夫です。さあ、このゲームで逆転してやりましょう」


    ついに、第7ゲームが開始された。


    「一球…入…魂!」


    激しい打球音と共に、鋭い打球が空を切っていく。
    しかし、そのサーブが当ったのは、地面ではなく、ネットだった。


    『フォルト!』


    「!」

    ―――いや…まだ大丈夫だ。鳳にコントロールが無い事は百も承知だ。しかし、次
    は確実に決めるはず!


    南の予想通り、セカンドサーブはほとんど勢いの変わらない打球がコートに突き刺
    さった。


    『15−0!』


    ―――ほらな…。残念だったな…このゲームも貰った!


    そして、今度は逆クロスでのサーブ。
    ファーストがまたネットに引っ掛かる。しかし、またセカンドサーブはいい感じに
    入った。


    『30−0!』


    ―――よし! いいぞ! やはりもう腕は回復している!


    しかし異常が起こったのは、次のサーブからだった。


    『ダブルフォルト! 30−15!』


    「………?」

    ―――いや…。こんな事も、そりゃあるだろう。あんなサーブを入れ続けろって方
    が無茶な話…。


    「鳳! 気にするな! 遠慮せず行け!」


    「………はい…」


    心なしか。鳳の返事に元気はなかった。
    南は特に気にしていなかったが、鳳は少し異変に気付いていた。
    しかし『気のせいだろう』と大して気にはせず、そのままサーブを打とうとした。

    しかし…

    『ダブルフォルト! 30−30!』

    『ダブルフォルト! 30−40!』


    三連続のダブルフォルト。さすがにこれは、南もおかしいと思った。
    『やはり腕が傷むのだろうか』彼はそう考えてみたが、それじゃあの速さが納得で
    きない。
    何より、鳳自身、不思議がっていた。


    石田と河村も、驚いていた。
    驚くほど、仁王が言った通りになっていたのだ。


    『俺は不思議に思ってたよ。何であんなサーブが打てる鳳を氷帝は『シングル
    スに使わないのか』ってね』
    『まあ…氷帝のシングルス層が厚いってのもあるだろうが、それだけじゃない。単
    純な話さ。奴はサーブのスピードをほとんど衰えさせず一試合を戦う事は出来る
    が、如何せんコントロールはゲームが進むにつれ落ちていく』
    『奴のスタミナと比例してるのはスピードじゃなく、コントロールだったんだ』
    『そんな奴が1ゲーム毎にサーブを打たなきゃならないシングルスが勤まる訳な
    い』

    『それこそ、最初の2ポイントくらいはとるかもしれないが、もうそっからは全
    部……』


    『ダブルフォルトだ……』


    その時、仁王は悪魔のように笑んでいた。
    これこそ『詐欺(ペテン)師』と呼ばれる彼の恐ろしさ。

    結局、鳳はよく原因も分からぬまま、サーブを打つ事になる。


    ―――落ち着け… ここで外す訳には行かない……

    ―――集中…集中するんだ………


    「ククッ…クククク……」


    ふいに笑みを洩らす仁王。
    現在、チェンジコートにより仁王チームのベンチ側にいた鳳・南には、それが聞こ
    えた。


    「しかし…鳳という男も馬鹿だ…」

    「そのスピードに踊らされて…」


    「4回ミスして2回しか入らないんじゃ、何の意味も無い……」


    その言葉は、重く鳳に圧し掛かった。


    「だ、黙れ! 仁王!」


    南も思わず、前から叫んでしまった。
    「おっと」と一言洩らすと、仁王は口を手で押さえる素振りを見せた。
    「気にすること無いぞ」なんて南のセリフ、鳳の耳には入ってこなかった。
    頭の中では、仁王のセリフが駆け回ってる。

    集中…出来るはずがなかった。


    『ダブルフォルト! ゲーム石田・河村! 4−3!』


    結局、仁王の宣言どおり、鳳のサービスゲームを奪った。
    仁王は身体的にも、精神的にも巧みに追い込み、鳳に4回もダブルフォルトさせ
    た。

    不二でもえげつないと思うほど、彼は恐ろしい男だった。

552/ 第9話 鳳の力量
・投稿者/ 來一
・投稿日/ 2006/10/26(Thu) 20:42:47
・IP/ 221.78.11.143

    「仁王君…恐ろしや…」


    金網越しの千石がぽつりと呟いた。


    「ん?…立海にゃ、他にも色々とおっかねぇのがいっぞ。」


    そのわずかな呟きは、仁王の耳に入っていた。


    「まずは真田、顔が怖い。」


    仁王に緊張は感じられない。…その口調は余裕に満ち、口元は笑っていた。


    「んで次幸村、柳、そして柳生は何を考えているかわからんからおっけねえ。」


    あまりにも警戒していないような無防備な喋り方を続ける。


    「あと切原は試合中ふつうに怖ぇし、丸井はなんでも食いそうだから怖い…なんて
    な。ックック。」


    さらに、まだその場で構えている南と鳳に対し、あの軽い喋りは二人を『とどめ』
    といっても過言ではない、挑発しているようにも十分取れる。…それを裏付けるよ
    うに、二人の顔に勝機という文字はなかった。



    「うりァ…!!」


    パァン


    河村は持ち前のパワーを十分に発揮した、強烈なフラットサーブを放つ。




    「っだ!」


    ポン


    南の軽い打撃音の、ソフトなレシーブ。


    南達はレシーブをする時は全て、スライスがロブ、浅く軽いドライブ気味のリター
    ンで返球していた。まぁ、それもそうだと納得もできる。


    あの二人の持ち技はパワー。当然ストローク中心にパワー特訓したのであろうが、
    パワー自体、全て特訓したストロークのみに影響されるわけではない。…サーブや
    スマッシュ、ボレーにも確実に影響してくる。


    つまり簡単に言えば、二人の全てのショットにおいての威力はトップクラス。それ
    を攻めのショットで返すのは難しいため、安定したディフェンスショットで返して
    いた。


    「ぬぅりゃぁ!」


    バァン!!──


    南のソフトショットは、河村の方向に向っていた。そして河村はフォアハンドを両
    手で握り、一気に振りぬく。


    そう、『両手波動球』だ。


    「南さん!取っ…!!」


    「…!?っな!!」



    ッボォン!…ポン、ポン…


    「15ー0!」


    打球は鳳と南の位置にいるちょうど間を、抜けていった。


    二人とも、十分に届く位置に、打球は突き刺さった。


    河村の打球は確かに普通のストロークよりは威力ははるかに上回っているが、1ゲ
    ームから見ている『波動球』に比べれば、十分慣れている威力のはずだ。


    それでも、二人とも見逃してしまった。…見る人によっては故意に返さなかったと取られ
    てもおかしくない。


    …ちょうどセンターのボールは普通、二人で声を掛け合い指示し、どちらが取るかしっか
    りと決められるはずなのだが、二人の敗北への不安が思考をさえぎり、声を出すことさえ
    も忘れていた。
    故に、ダブルスの初心者でもやってしまわないことを行った。…それは二人の精神状態が
    いかに追い込まれているかがはっきりわかることが、試合中に起こった。


    「…。スイマセン。俺が…返せばよかったものを…」


    「いや、鳳のせいじゃない。…確かにアレは俺のボールでもあり、お前のボールで
    もあったんだ。…俺がサポートに回らなかったせい…俺のほうから謝るのが普通
    だ。」


    二人の気迫は、徐々に徐々に沈んでいく。


    「…ックックク。情けないねぇ。」


    仁王はわざと、聞こえるように呟いた。


    「…」


    南は眉間にしわを寄せたが、もう怒鳴ることはできなかった。もしさっきのように
    怒鳴ってしまえば退場も、否定はできないからだ。













    「鳳ィ!!!」











    大きな声が佐伯が座っている方向の金網から、響いてきた。


    その声に鳳は、確かな聞き覚えがある…


    滝、萩之介───!!


    「…鳳…君は…サーブが上手くいかなかっただけでぐらいで…ゲームに負けるの
    か!?」


    「…滝…先輩…」


    佐伯側のベンチの二人もその大声に驚き、滝の方向を振り向いた。


    「俺は知っている…この俺を突きぬいて…あの宍戸をまた再び、あのコートに立た
    せた君の姿を…!!」


    …地区予選、正レギュラーから落とされた宍戸のかなりハードな猛練習に付き合いその結
    果、時間は全くかからずレギュラーに復帰させた。


    …簡単に練習内容を説明すると、宍戸はラケットを持たずに鳳の、あの時速200キロを
    軽く超えるサーブを捕らえるという、


    無理難題で人間離れした動体視力と必要とする過酷な特訓だ。…そして宍戸はその猛練習
    で、正確に捕らえられるまでずっと、鳳にサーブを打たせ続けた…


    …何か矛盾するものがあるだろう。鳳のスカッドサーブは、並外れた集中力を必要とし、
    追い込まれた精神状態や、体力の消耗が激しい場合は当然集中力が乱れ、ほとんどのサー
    ブをフォルトする。


    しかし、鳳は、かなり体力を消耗するはずのその猛練習では滅多にフォルトはせずにしっ
    かりと宍戸にボールを送っていた。


    実は、鳳がサーブに安定力がなくなったのは、この特訓後なのである。



    『宍戸さんは無理しすぎている…もう、あの人の体力は限界に来ているはず…このままサ
    ーブを打ち続けていれば、…宍戸さんは…倒れてしまうかもしれない…』


    そう、鳳は思っていた。


    そして、ついてしまったのがこのサーブの不安定さ。…


    宍戸は絶対的な執念や、やり遂げる精神があり、どんなことがあっても投げ出さない。…
    投げ出してくれない。


    サーブの速度を下げれば、すぐそれに気づき、彼はサーブを本気で打てといってくるだろ
    う…


    鳳は考えた末に、いつもと同じフォームで気づかれずに速度を下げ、宍戸の疲労度を下げ
    させるためには…


    手首をこねる方法を選んだ。


    手首をわずかにこね、コースを短いところに落とし、できるだけバウンドする位置を手前
    にすることで、バウンド後の跳ねの打球が一番低くなる位置で取らせる。


    打球は、空気抵抗と重力に押され、滞空時には速度は徐々に落ちてくるのが基本である。


    なので、鳳はバウンド後の一番最後を取らせていた。


    よって宍戸を無事に満足いくまで練習させ、無事にを練習を終えたのだが、



    手首をこねる癖を、抱えてしまった。



    「…あれ…使いなよ。鳳。」


    滝は、不意にも一言鳳に言った。


    「…あれ…?……!!」


    鳳は軽く首をかしげる。…が、すぐになにか心当たりがあることを思い出した。


    「…そう。それだよ。鳳。」


    滝は、鳳が思い出したのを気づき、口を元をにやりとさせ軽く首を上下に振る。


    「い、いえ。あれは練習中に偶然出した奴であって、練習しても滅多に上手くいかなかっ
    たんですよ!?」


    …仁王達は当たり前だが、このことは同じチーム員の伊武、佐伯、…パートナーの南でさ
    え知らないことだ。


    とうやら、氷帝のメンバー達だけが知っていること、…なのだろう。



    「…なんで上手く…いかなかったんだっけ?鳳。」


    滝は鳳に言う。…正直、この試合に参加しているメンバー全員が、何のことだ?といわん
    ばかりな表情をしているのは、当たり前だろう。


    「それは…あのショット自体、相手の打球の重さをライジングで利用するショットであっ
    て…」



    ようやく、鳳はその誰もが知らない、滝との『あれ』というのが、ショットということが
    判明した。


    「…彼等の打球なら…十分使用できるんじゃない…かな?」


    「で、でも。」


    鳳はその『ショット』を否定し続ける。


    「君は…ただ単に、失敗を恐れているだけなんだろう?…どうせこのままやってもあの二
    人に流れを押しつぶされ負けるのが落ちだ。…どうだい?試合の駆け引きとして…使って
    みるのもいいと思うよ…?」


    滝はそういうと、静かに金網から去っていった。


    「滝…さん。わかりました…。」


    鳳は何かを決意したしるしとして、ラケットグリップを強く握り締めた。



    「駆け引き…ねぇ。」


    仁王が言った。仁王は先程からあのやりとりを見て、何一言口にしなかった。


    ただ、なにか深い考えを持っているということはしっかりと表情に記されていた。



    「(…なんなんだ…あれ…って。…でも…流れは変わらない・・・返させない…!!)」


    河村は一瞬、『あれ』の存在にひるんでしまったが、いつもの強気の表情で振り切った。


    パァン



    いつもの強烈なフラットサーブ。


    「…行きます…!!」


    鳳は前方にダッシュする・・・・



    「あんなにダッシュして…ライジングを狙っているのか…?」


    「ライジング…?」



    不二の一言に、静かに試合を見つめていた仁王が呟く。


    「でやァ…!!」


    スバァァン──!!


    鳳は、ライジング気味に打球を跳ね返した…








    が、打球は何処にも見当たらない。




    「…何処行った…!?」


    河村は必死にコートを見わたす…














    ──ボォォン!!



    打球は、一気に上空から河村と石田のちょうど間を突き抜けてきた…



    「15−15!」




    「…なんじゃい…今の。」


    当然、今のショットはコートにいる誰も知るわけがない…鳳のみが知っている。


    「…パトリオット…リターン…!!」



    鳳は強気にいう。


    …簡単な原理はこうだ。


    相手の打球をかなり高くロブで突き上げ、相手の視界から打球を消す…



    そして、猛烈なトップスピンをライジングから放つために、ロブでありながら打球は威力
    を衰えずに落ちてくる。


    もっとも…鳳はこれをはじめて出したのはランキング戦の偶然…


    それ以来、使用してもアウトになるばかりだった。


    …鳳は、駆け引きとしてこのショットを使用した。

553/ 第10話 確信
・投稿者/ キリ
・投稿日/ 2006/10/31(Tue) 18:08:22
・IP/ 125.203.147.108

    『やってくれる』仁王はそう思った。
    この大会で、チェンジコート以外で味方にアドバイスになるような声援を送るのは
    原則禁止。
    しかし、鳳に声援を送ったのは海堂のチームの滝だ。

    上手い具合にルール違反にはなっていない。
    アレ以上ゲームを妨げてたら、さすがに滝は追い出されただろう。
    しかし少なくとも、鳳のチームが咎められる事はない。

    おそらく、本人はそんな事まで考えて叫んだ訳ではないのだろうが。

    しかし、そんな彼の行動が、仁王にとっては大誤算だ。
    せっかく崩れかけてた鳳の精神、滝のせいで、彼は持ち直してしまった。

    そして『パトリオットリターン』という自信に繋がるものを、彼は手に入れてしま
    った。


    『15−30!』


    ―――随分…厄介なもんを出してくれたのぅ……


    別に、パトリオットリターンが格別凄い打球という訳じゃない。
    スカッドサーブの方が、よっぽど脅威だ。

    問題はそこじゃない。鳳はパワーショットを普通に返せる技を身につけてしまった
    訳だ。
    普通にラリーを続けられてしまっては、どう転ぶか分からない。

    要は、ほぼ互角という訳だ。


    ―――いや…それすら怪しい……


    パトリオットリターン。先ほども述べたが、格段に凄い打球ではない。
    しかし、トップスピンのかかった、重いロブ。
    もちろん、かなり高く跳ねるに決まっている。

    その打球を返せない訳じゃない。返せる。返せる……が―――
    どうしても打ち返す際の体勢は、窮屈になってしまう。
    結果、彼等の持ち味のパワーショットは、威力が衰えてしまう。

    遠くから見てるギャラリーには分からないだろう。
    しかし、この試合中ずっと近くで、見て、うけてきた―――南と鳳にしてみれば、
    その差は歴然だった。


    「ぬ……どりゃ!」


    ―――! …これは……


    河村のパワーショット、見ただけで南には分かった。
    『これなら返せる』と。

    南のボレーが、綺麗に決まった。


    『15−40!』


    衰えてるとはいえ、並みのプレーヤーにとっては充分驚異的な打球には違いない。
    しかし、彼等はこの試合で、河村達のパワーショットに少し慣れてしまった。
    慣れてしまった後の衰えた打球、まだ腕に多少痛みを感じてる南でさえも、何とか
    返せるものとなっていたのだ。

    ダッシュ波動球で返そうにも、余計返し辛くなる。
    ライジングでパワーショットが打てるほど、彼等は器用ではなかった。
    もちろん、ドライブボレーでパワーショット、なんてことも出来ない。

    当面、この状況を如何にかする策は、二人には思い浮かばなかった。


    『ゲーム南・鳳! 4−4!』


    考えてるうちに、鳳にパトリオットリターンを決められてしまった。
    ロブなのに、重く速い打球。パトリオットとはよく言ったものだ。

    南が攻め方を考え、鳳がそれに従いパトリオットを打つ。
    そんな二人の戦い方に、河村と石田は手も足も出なく、


    『ゲーム南・鳳! 5−4!』


    いつしか、後1ゲーム取られたら終わりというとこまで迫っていた。


    「鳳! まさかあんなのを隠してたとはな! やってくれるぜ!」


    「南さんのサインのお陰ですよ。アレが上手くいくのも」


    「まぁ…何はともあれ、奴らには結構苦しめられたが、このゲームで決めてやろう
    ぜ!」


    「はい!」


    つい先ほどまで仁王の策にやられ、どん底に落とされていた二人だった。
    しかし、そんな暗い雰囲気はもう一切感じられず、二人は清々しい顔をしていた。

    石田がサーブを放つ、南はクロスに返球した。
    そこに容赦なく、石田は波動球を再びクロスにぶち込む。


    ―――俺を狙ってくるのは読めてるんだよ!


    鳳は南の前に割り込み、パトリオットリターンを打った。


    『0−15!』


    この打球は二人のちょうど間を突き抜けていった。(二人はまだ、W後衛の状態)
    その後も容赦なく、鳳はパトリオットリターンを打ち続ける。
    それを返そうと、今度は南がコースをついたボレーを叩き込んでくる。


    『0−40! マッチポイント南・鳳!』


    遂に、鳳と南は勝利に王手をかけた。
    二人はコート中央でハイタッチをした。


    「よし! あと1ポイントだ! 決めようぜ!」


    「……あの二人、こっちのマッチポイントだっていうのに、何つーか…表情に焦り
    が感じられませんね……」


    鳳は何か話し合ってる河村と石田を見て言った。


    「…なぁに、心配する事無い。あんなのただのハッタリさ。そうやって俺らを不安
    にさせて、ミスを誘おうって魂胆だ。仁王の考えそうな事だよ」


    「ハッタリ……そう…ですよね…」


    特に構わず、二人は定位置について構えた。

    石田から放たれる重いサーブ。
    鳳は両手バックで河村の方に返した。
    河村は何ら変哲のない、いつも通りの大きいテイクバック。
    そして同じ様に、何ら変わりのない波動球が放たれた。


    ―――いつも通りだ…やはりハッタリか! 貰った!

    「はぁッ!」


    パトリオットリターンが空中で弧を描く。
    その打球は、河村の真後ろに落ちた。二人は、全く動けなかった。


    ―――……勝ったッ!


    鳳、南、両者が同時にそう思った。
    南が鳳に駆け寄ろうとしたその瞬間、審判はけたたましい声でコールした。


    『アウト! 15−40!』


    「!」


    考えていたのとは違っていた審判のコールに、二人の顔は強張った。
    今まで、狂いなく入っていたパトリオットリターンが外れるなど、考えてもみなか
    ったのだ。
    南の頭に、一つの可能性が過ぎった。


    「鳳! まさかまた腕が………」


    「い…いえ! 腕は大丈夫です。今度こそ断言出来ます! フォームも崩れてなか
    ったと思います…」


    「…じゃあ、たまたまだろう。気にするな。最後だからちょっと気が緩んだんだろ
    う」


    気持ちを切り替え、今度こそ決める、と意気込み、二人は再び構えた。

    石田のパワーショットが、鳳の方に打たれた。
    バウンド地点に近付き、パトリオットリターンの構えを取る。
    そして、ボールを捉えた。


    ―――よし! この感じだ! 今度は外れない!


    そのまま鳳はラケットを振り抜いた。
    素早く弧を描いたボールは、鋭い音をたてバウンドした。


    『アウト! 30−40!』


    ―――! また…?


    南と鳳は、少しコート中央で会話を始めた。


    「もう一度聞くぞ。本当に腕は大丈夫なんだな?」


    「はい! 腕は何ともありません。打った時も、何の違和感も……」


    「…しかし、偶然としては片付けがたいな。ついさっき、似たような事をやられた
    のだからな」


    「また…仁王さんが……?」


    「くそッ……! 何だってんだ!」


    「パトリオットで攻めるのを…止めてみましょうか?」


    「いや、それはダメだ。それこそ奴等の思う壺…。とりあえず、同じ様にもう一度
    打ってみてくれ」


    今度こそ、偶然である事を二人は願った。
    しかし、やはり鳳の打ったパトリオットリターンは再びベースラインの少し後ろに
    落ちた。


    『40−40! ドゥース!』


    偶然である訳がなかった。二度ある事は三度あるなどと言うが、そんな言葉では片
    付けられなかった。
    鳳の腕の調子が悪い、フォームが変わってる、向こうは鋭いスライスを打ってきて
    いる。
    色んな可能性を南は考えてみたが、どれも否定された。

    鳳は自分で腕もフォームも大丈夫だと言っているし、石田と河村の打っている打球
    はどう見てもスライスじゃない。


    ―――分からない……


    悩んでいるうちに、鳳は既にパトリオットを打とうとしていた。


    ―――あれ?


    ベースラインから鳳が打つところを見て、南は何か違和感を感じた。
    もちろん、フォームとかそんなのじゃない。
    鳳があれだけ自信を持って言えるのも頷ける。
    フォームは驚くほど綺麗で、彼が最初にパトリオットを打った時のフォームと全然
    変わっていない。


    『アウト! アドバンテージサーバー!』


    この瞬間、南は違和感の正体に気付いた。
    それと同時に、今までの連続アウトの理由も。

    すぐに鳳に駆け寄った。


    「り…理由が分かったんですか! 一体それは…」


    「…浅くなっていたんだ」


    「…え?」


    「奴らが打ってきていた打球は、だんだんと、ほんの少しずつ『浅くなっていって
    た』んだ」


    「…あ、あああああ!」


    鳳もようやくその理由に気付くことができた。

    鳳の打つ『パトリオットリターン』
    重いトップスピンロブというのがウリだ。
    しかし、それはこの試合でようやくモノにできたもの。
    今までは、打ってもアウトになるばかりだった。

    滝の言葉に賭け、何とか成功できた。
    その最初の成功の感覚を、忘れてはいけない。
    鳳はそれを胸に刻み、ずっとフォームを崩さないよう意識して打ってきた。
    だから、打球は全く違わぬ軌道を描き、コートに落ちていた。

    仁王は、それに着目した。


    そして、9ゲーム目のチェンジコートの際だ。
    彼は、一縷の望みに賭けて、河村と石田にこう言った。


    『気付かれない程度に、打球を少しずつ浅くしていけ』


    今までは、自分でうまくいくと確信できる策しか託してこなかった。
    しかし、勝敗を左右する第10ゲーム。何もしないまま負かす訳にはいかなかっ
    た。

    つまり、仁王はこう考えたのだ。
    鳳のパトリオットリターンがもし常にベースラインを捉えていたら。
    それでもし、数cmでも、こちらが打球を浅くしたら。
    数cm、鳳の打球はベースラインの奥に落ちる事になる。つまり、アウト。

    フォームを全く崩さない事を、仁王は仇にしてやろうと思ったのだ。

    さすがに、マッチポイントまで追い詰められた時は焦った。
    しかし、河村と石田は仁王を信じ、頑なに打球を少しずつ浅くしていった。

    結果、仁王の予想以上に策はうまくはまった。


    「…ねぇ、南、打球が浅くなっていってる事に気付いたみたいだよ?」


    南と鳳のやり取りをずっと眺めていた不二は仁王に語りかけた。
    もちろん、仁王もそんな事にはとっくに気がついている。


    「ああ…しかし、遅すぎたな。すぐにフォームを変えろなんて言われても、出来る
    訳ない。少なくともこのゲームは貰った」


    『ゲーム石田・河村! 5−5!』


    言うとおりだった。


    「次のゲーム、鳳のサーブでまず取られる。しかしその次はまだ、フォームが調整
    出来てないパトリオットのミスが続き、こちらが取る」


    仁王の考え通りにいくなら、6−6、タイブレークにも連れ込むことになる。


    「しかし、そのゲームで鳳はパトリオットのコントロールが出来るようになるだろ
    う…。つまり勝負はタイブレーク。そっからは何の考えもない。あいつら自身の、
    底力に賭ける」

556/ 第11話 笑み
・投稿者/ 來一
・投稿日/ 2006/11/05(Sun) 18:41:47
・IP/ 221.78.11.143

    「グレイトォ!!」


    ──ズバァァン──!!!


    河村の両手波動球が炸裂する。…打球の方向は相手の後衛…鳳めがけて飛んでいっ
    た…


    「(…『波動球』の攻略は…もうとっくに済んでいるんですよ…!!)」


    ─パァン!!─シュゥゥゥゥ!!──


    鳳はパトリオットの構えを取り、無駄の無い綺麗なフォアハンドのフォームで弾き
    返すと、打球は全く狂いなく激しいトップスピン回転で突き刺さろうとしている。


    今までの鳳は無意識にも、パトリオットを決め球として使用としていたため浅くな
    り、アウトする場合がほとんどだった。


    ロブを浅くすることで滞空時間も減り、相手が構える隙を与えにくできると同時
    に、滞空時間の減少によって打球の重さは減少しにくくなる…と鳳は思っていたた
    めに体が勝手にそう打ってしまっていたと思われる。




    ついでに特徴まで詳しく説明すると、


    かなり跳ね返り際で取る分、打球の球威をそのまま利用して返すため、


    球威はまんまに影響される。…つまり回転量、重量、速度は相手のショットの威力
    が高ければ高いほど影響を受けているということになる。…


    なので、パトリオットはかなり好調の状態となっているわけだ。


    しかし、やはりパトリオットは決め球としてはあまり使うことができない。


    打球がロブであるために、全般的にW後衛の河村達には少し回りこむ程度で、打球に
    届く。


    だからといって無意味なわけはなく、パトリオットの強烈なハイバウンドと球
    威…。、


    やはり打ち返す体勢は窮屈。パワーヒットを打ち込むことは難しい。…


    あくまで相手のパワーショット封じというぐらいだろう。


    そのパトリオットの特徴に河村達は気づいているか…。…少なくとも今までのよう
    にパワーストロークを打ち続けていれば、パトリオットの餌食。…



    パァン


    石田はパトリオットに回り込み、フォアハンドで返球する。


    「(…っく…バウンドが高いんじゃ…ハードヒットが難しい…!!)」


    やはり通常とは違うハイバウンドに翻弄される石田達。


    石田の打球が前衛の南に向っていく…。


    「(…よし…!!一球でもパワーショットを封じてしまえば…こっちのもの!!)」


    パァン


    南はフォアハンドのボレーで河村のコースに深く弾き返す。



    「っな…っちィ!!」


    ポン


    河村の足元近くに落ちたボレー…当てることで精一杯なコースだ。


    打球がハードヒットしていない…限りなく詰まった、ミスショットと言える打球に
    近い返球だった。


    …一度でもパトリオットでパワーストロークを封印してしまえば、その後のボール
    を南がボレーでベースライン付近に弾くことで、ストロークにしては狭すぎる、ロ
    ーボレーにしては遠すぎる、微妙な位置にボールをつく。


    この深い、微妙な長さへのボレーの利点は、相手の返球を詰まらせることでミスを
    誘い、その緩いミスをポーチボレーなどの攻撃的なショットで決めることが可能と
    なる。


    これを的確なショットで返せる技術を、彼等は持ち合わせていない。


    …だからといって河村達はそれほど不器用でもなく、最低限、並の選手程度の技術
    は持っている。


    だが対戦相手はダブルスのスペシャリスト。…並の技術は通用しない。


    この的確なポーチボレーを打てるのも、パトリオットでパワーを封じているからで
    ある。


    パワーを封じることに成功すれば、ダブルスプレイに持ってゆくころができ、その
    後のゲームはこっちのものとなる。…


    「…はれや!!」


    パァァン!


    南は河村のミスショットに大きく構え、スマッシュを振りぬいた。


    スマッシュは先程返球してきた河村の正面に突き刺さる。


    「…ぬぉぉぉ…!!!」



    「…不二。あの構え…分かるな?」


    仁王は河村の、あの見慣れた大きく独特なフォアハンドを見て、不二に言った。


    「…ダッシュ…波動球…だよね。」


    ぽつり、と不二は呟いた。


    「(…まさか…スマッシュを…ダッシュ波動球で返すつもりか!?)」


    南は振りぬいた体勢からまだ通常の体勢に戻っていない状態にあったが、思考はす
    ばやく、瞬時に河村の打球が自分達にもっとも厄介な、『ダッシュ波動球』と判断
    した。


    「…ぬどりゃぁぁぁぁ!!!」



    ──ズバァァァン!!!───



    恐ろしい球威の弾道は南を抜き、鳳のフォアハンド側を突いた。



    誰もが、ポイントを確信した。…南側も同様に。














    だが、その『ダッシュ波動球』が送られた者がポイントを否定し、構えていた。









    「…だァァァァ…!!!」












    カラン、…カランカラン。



    案の定。鳳はラケットを弾かれる。…だが、


    ポン、…ポンポン…


    打球は、『ダッシュ波動球』によって、体勢を崩している状態の河村の、足元に落
    ちていた。


    「…ダッシュ波動球…やぶれ…たり…!!」


    鳳は額から汗を流しながらも、自信に満ちた表情だった。


    「…っな…。」


    あっけに取られる、河村。…


    「ダッシュ波動球を…パトリオットで…返した…?」




    「…。」



    不二は自分の真横にいる仁王の顔を確認した…。やはり、この試合中にも一度、見
    たことがある表情。…鳳のスカッドの弱点を見つけ、ダブルフォルトでゲームに追
    いやった時の、不気味な表情…。


    そして、不二には必死に笑いをこらえているようにも…見えた。


    仁王が不気味な笑みを浮かべる時は、勝利を確信した瞬間しかない。


    …現在は『ダッシュ波動球』が返され、河村4−3南の状態。


    タイブレークにもつれもこむことは、仁王の予想通りだ。…だが、ゲームの勝利が
    約束されたわけではない。…


    しかし、先程も述べたとおり、仁王は勝利を確信したときにしか、笑みをこぼさな
    い。…しかも、その笑みがある場合、あきらかに前もって考えていた計画、策略が
    的中した場合がほとんど。


    「…おい。鳳。」


    仁王は鳳に向って聞こえるように言った。


    「お前の腕じゃ…もう、プレイはできないよな?」





























    鳳は『ダッシュ波動球』を返したことにより、腕を痛め棄権となった。










    握手をする、両ペア。


    お互いのペアには『いい勝負をした』というような、


    不快な感情は一切ない表情であった。…だが、


    不二はこの正々堂々とした彼等のフェアプレイ精神に、感化されることはなかった。










    …もしかしたら…と、不二は考えてしまっていた。


    …仁王がもしも、タイブレークにもつれ込むことを予想し、



    鳳の棄権までも心中に浮かんでいたのなら…


    一瞬、寒気が背筋をよぎる。…自分達は、これほどまでの男と一緒に、一ヶ月間の間猛練
    習を続けていたのか…と。


    だが、寒気と同時に、またもう一つのものを感じた。


    ──…それは…緊張感。


    その寒気も、その緊張感のスリルに飲み込まれ、河村達とは違う、爆発的な闘争心ではな
    く、蒼白く静かに燃え続ける炎を燃やす…不二だった。



    …だが、仁王が本当に、鳳側の手を全て読んでいたか、それを証拠付けるすべは不二には
    なく、


    不二の、S2が静かに幕を上げるだけであった。────

558/ 第12話 天才の決断
・投稿者/ キリ
・投稿日/ 2006/11/10(Fri) 00:19:37
・IP/ 60.41.55.189

    鳳の作戦は、リーダーである自分を敢えてダブルスにして、先手必勝を狙うこと。
    鳳自身、ダブルスの方がやりやすいというのもあったが。

    意表をついたつもりだったが、仁王は全て読んでいた。
    結局のその作戦は失敗に終わり、鳳と南は敢え無く敗北した。

    鳳が腕を痛めた為、棄権。
    あっけなく、何か寂しい終わり方だったが、全てを出した二人に後悔はなかった。

    しかし、チームメイトへの罪悪感はあった。


    「―――スイマセンでした! 絶対勝ってくるって…言ってたのに…」


    鳳は佐伯と伊武に深く頭を下げた。もちろん、南も一緒に。
    特に、佐伯には本当に申し訳なく思っていた。
    次のS2、負けたらもう終わりだ。しかもそんな場面で相手は、天才・不二。
    かなりのプレッシャー感じざるを得ない。普通は。

    だが、当の佐伯の表情からはそんな思いは感じられない。
    むしろ、余裕さえ感じられる。彼は微笑んでいた。


    「気にするこたぁないよ。俺が勝って…そして伊武も勝てばいい」


    表情だけではない。
    その言葉からも感じられる、信じられないほどの余裕。


    「言ってたかな…。俺と不二って、幼馴染なんだよね」


    曖昧な記憶通り、佐伯はそんな事一言も彼等に言ってなかった。


    「これでも幼馴染なりにあいつの事は結構知ってるつもりさ。安心して待っててく
    れ」


    彼はそんな言葉だけ残して、オジイ特製の木製ラケットを手にコート中央に向かっ
    た。


    一方、仁王チーム側のベンチ際では、不二がストレッチしながら仁王と話してい
    た。


    「…ねぇ、もしかしてこうなる事まで読んでたの?」


    「こうなる事って…鳳の負傷の事を言ってるのか?」


    「ああ」


    「…そんな訳ないだろう。言ってたろ? タイブレークから何も考えてないって。
    運が良かったとしか言えない。…もし、鳳が賢くダッシュ波動球に触れすらしなか
    ったら、試合はまだ続いてた」


    「…………」


    「まあ、そんな逃げるような奴等なら、それこそあいつらが負ける訳ないんだがな
    ―――オイ、お前ら大丈夫か?」


    彼等は仁王の横に座り、ぐったりしていた。


    「はぁッ…! 一応持久力は上げてたつもりなんですけどね……」


    「まあ、充分だろう。こんな試合やりゃあそりゃ疲れる。波動球が打てる回数も随
    分増えてきたようだしな…」


    「…けど、ダッシュ波動球が取られた……」


    石田のさらに横に座ってる河村が、ボソッと言った。
    河村の超必殺技とも言えるダッシュ波動球が取られたのだ。
    一応、ショックはショックだろう。


    「へこたれんな。まだダッシュスピンは出してないだろ。あと…『アレ』もな」


    ダッシュスピンとはもちろん、河村が石田と試合した時に放った『ダッシュし、さ
    らにその勢いのまま一回転して打つ』ダッシュスピン波動球の事だ。
    ダッシュ波動球を超える威力を誇るが、反面試合中3回しか使えないというデメリ
    ットもある。
    (彼がこのショットを完成させた当初は一発しか打てなかったが、その後のトレーニ
    ング、改良の結果、3回に増えた)

    そして『アレ』とは―――まだここでは明かすべきではない。


    仁王が石田と河村と話してるうちに、不二は既にストレッチを終えていた。


    「さて、じゃあ行こうかな。佐伯もお待ちかねだし」


    不二は立ち上がり、コート中央で待ってる佐伯の方を見た。
    佐伯の方も、不二を見ていた。やはり、少し笑んでいる。

    しかし、そんな余裕気な表情に、怯む不二でもない。

    彼も、まるで佐伯に返してるかのように微笑んでみせた。
    そして、傍らに立てかけてあるラケットを拾った。


    「仁王…僕には、何かアドバイス…ある?」


    「……ない。お前は好きにやって…」


    「…フフ、有り難いよ」


    幼馴染同士の試合、S2が始まった。

    サーバーは佐伯。少しスライス気味の、充分速いサーブを放った。
    不二のリターンは、コーナーを突く鋭い打球。


    ―――変わってないな、不二。お前はそこに打ってくると思ってたよ。


    佐伯は、不二がそこに打ってくる事を予想していた。
    しかし、乾でもデータの取れない不二。
    何故佐伯にそんなことができるのかというと、小さい頃から不二と打っていた経験
    がそう教えてくれてるのだ。

    まあ、不二という人間も、よほどやる気でもでてない限り、最初の方は教科書通り
    のテニスで攻めてくる。


    佐伯は浅いロブでそれを返すと同時に、ボールを追うように前に出た。
    前衛のプレイこそ、佐伯の真骨頂。しかし、芥川や丸井のように、珍妙なボレーを
    打ってくる訳じゃない。
    彼のウリは、そのフットワークではないだろうか。

    青学の菊丸ですら、簡単には振り払えない。
    故に、ロブでも打たない限り、彼は大概の打球をボレーで返せる。

    不二は、佐伯のバックサイドを狙ったパッシングショットを打った。
    厳しいコース。だが佐伯は拾った。
    しかも拾うだけではなく、窮屈な体勢から彼はかなり鋭角なボレーを放った。


    『15−0!』


    「…ダブルスプレイヤーだと思ってたけど、シングルスでも全然いけるみたいだ
    ね、佐伯」


    「お前が言うと皮肉にしか聞こえないよ」


    次の佐伯のサーブは、センターをついてきた。
    そのコースはちょうどピッタリ、不二が一番フォアを打ちやすいポジション。

    打球は高く跳ねた。


    ―――スピンサーブ…

    「っあ!」


    不二は少しドライブのかかった打球をストレートに返球した。
    既にそこに佐伯はいて、コーナーをつくローボレーを放った。

    思わず見惚れてしまいそうなくらい綺麗なフォーム、球筋のボレー。
    基本プレーを極めてる南。しかしボレーだけ取れば、佐伯のそれは南の理想に、南
    自身より近い。


    『30−0!』


    やはり、不二は取れなかった。


    ―――今日のシングルス、S2に不二が来るという読みはやはり当った。

    ―――昔のようには行かせない。覚悟しろ、不二。

    「うおお!」


    今度はスマッシュで決めた。


    『40−0!』


    「ふ…不二がおされてる…」


    試合を見てる者達がザワザワしだしてきた。
    大概の人間が、天才のワンサイドゲームを信じて疑わなかった。
    しかし、その天才が早くも一ゲーム取られそうな状態だ。

    佐伯は不二のバックにドライブのストロークを放った。
    不二はそれを両手のバックで返球する。


    「…………」


    『ゲーム佐伯! 1−0!』


    結局、再び佐伯にボレーを決められてしまい、1ゲーム目は佐伯が奪った。


    「凄いっすよ佐伯さん! これならいけます!」


    「……ああ」


    まるでもう既に勝利が決まったかのような歓喜の声をあげる鳳。
    しかし、当の佐伯は、あまり浮かない顔をしていた。


    ―――何故だ…不二。何故………


    仁王はベンチに戻ってきた不二に何も言わなかった。
    不二も何も言わず、ちょっとだけドリンクを飲むと、早々にコートチェンジをし
    た。


    「え…ちょ、仁王! 何も言わなくていいの?」


    「…いいんだよ。あいつの好きなようにやらせる」

    ―――どうやら、『アレ』は本気みたいだな。


    仁王は、3日前の事を思い出した。


    『…何? もっかい言ってみろ、不二』


    『…今度の大会の一回戦…僕は………』




    『…カウンターを…使わない』

560/ 第13話 自分自身
・投稿者/ 來一
・投稿日/ 2006/11/22(Wed) 23:56:57
・IP/ 221.78.11.143

    「一気に決める…!!」


    ポン


    佐伯はネットのセンターラインをまたいだ位置で、待ってましたといわんばかりに
    全く無駄の無い、柔らかな体勢からのドロップボレーを左のサイドラインのライン
    上ギリギリに落す。


    「さすが佐伯さん!上手い!」


    鳳の言うとおり、佐伯はテニスをする者、全てに理想とされるような美しいドロッ
    プボレーだった。
    この試合中、佐伯は持ち前の美しいボレーショットで、現在のゲームを4−0とし
    て、1ゲームも与えずリードし続けてきている。
    もちろん、不二が並の選手以上のことは確実。…その選手に1ポイントも与えず翻
    弄し続けてきたボレーが、よほど完璧に近い状態にあることを表す。


    そして、この見事なドロップボレーが完全に不二の裏をだろう。…ベースライン付
    近で打っていた不二には、絶対に打ち返せない打球のはずだ。


    しかし不二は、打球が放たれ、ネットを越えるほんの一瞬の時間の間に、


    すでにベースラインより前に踏み込んでいた。

    鳳は佐伯のボレーに見とれ、不二の動きは全く視界に入っていなかった。


    が、視界に入れてみれば、不二が必死にボールに追いつこうとしている様なのだ。


    「っは、っは、っは…!!」


    ポン…


    不二は、飛び込むように打球に追いついていた。…そして、打球はロブ。まぁ、勢
    いつけて前にダッシュしてきた状態からは体制を作ることは出来ず、コントロール
    が効かないのは当然なのだが。


    「っな…!!」


    佐伯は一瞬、ほんの一瞬だった。ネット前にボールを落とした時にポイントを確信
    していたため、構えに入っていなかった。
    それは無意識に誰にでも起こることだ。
    …普通、極度に短く落ちたボールにどんなに拾おうとしても、大抵届きはしない。
    だが届いたのだ。


    それに、それに走りこんで追いつこうとしていたのは、あの不二。


    テクニックでプレイし、ゲームのスリルを楽しみながら少しずつ能力を放ちだして
    いくのが不二のテニス。


    よっぽどのことが無い限り、彼は今のように無理をして拾おうとはしない。


    …つまり簡単に言ってみれば、今までプレイしていた相手が、突然他のプレイヤー
    に変わったかのようなプレイをし始めた。


    「ゲーム!不二!4−1!」


    運良く出た打球が上手く佐伯を抜いてくれたか、不二は始めの1ゲームを手にし
    た。


    「…不二…。」


    佐伯がいままで対戦していた『不二周助』とは全く違う感覚だった。


    まず、先程のように不二はしつこく打球に追いついてくるようなプレイはしない。


    相手の守りが硬くなればなるほど攻め、相手の攻めが激しくなればなるほど守る。


    つまり、常に本気でプレイせず、試合の展開に応じて実力を出したり、隠したり続
    けたりしていくのが佐伯の知っている不二のテニス。


    それがそれが真っ向から否定された。


    そして、それ以上に不二はこの試合、



    ──一回も『三種類の返し技』を打っていない。──



    「…さぁ…佐伯…油断しちゃ、ダメだよ。」


    「全く…ナイスファイトだな。不二。」


    ドロップボレーを飛び込んで返した不二に、佐伯は手を差し伸べた。
    不二はその手に握り締め、そして佐伯は不二が立つのを手伝う。



    ───『…カウンターを…使わない…。』


    大会から、3日前のことだった。


    大会が3日と迫っているため、ほとんどのエントリーされたチームには練習試合が
    盛んに行われてた。


    そして、この日も不二達は、他のチームと練習試合を行った後だった。


    オーダーはもちろん現在も同じオーダーで、ダブルスは河村・石田。シングルス2
    を勤めるのが不二、そしてシングルス1が仁王。


    このオーダーには、絶対的な自信がある仁王。本人によればこのオーダーは、


    『大会では絶対にシングルス1まで回らず、自分達の勝利となる。』


    だが、前の実際の結果、そして今日の結果も似たようなものだった。


    仁王の計画通り、河村・石田で相手を破るが、


    シングルス2の不二は、…あと少しのところでいつも奪い取られる。


    結局、シングルス1の仁王が危うくゲームを奪うことが成功し、試合には勝利する
    ことが出来た。

    …そんな試合後に向った、ファーストフード店での会話だ。


    『…使わない…ねぇ。』


    仁王は腹が減ったと不二を誘い、軽いハンバーガーでも食べて帰る予定で不二を
    一緒にファーストフード店へと誘っていた。


    『いつか、言い出すことだと思ったし、そう驚きもしねぇよ。』


    仁王は全く動揺せず、口にストローでコーラを吸い込んだ。


    『とにかく…負けんなよ。』


    いままでとは違う目つきで、仁王は不二の目を見た。


    『練習試合で負けてたのはどうでもいい。…だが、試合では絶対俺まで回すんじ
    ゃ、ねぇぜ。俺はアップも何もしないつもりだ。場合によってはラケットも持って
    いかねぇぞ。』


    『わかった…よ。』────




    「…だァァァ!!」


    パァン


    先程から、不二は佐伯のきわどいボレーをラリーで粘り続けている。


    「そら!」


    パァン


    しかし、佐伯は容赦なくアングルボレーを打ち続ける。コースは見事にクロスをつ
    いた。


    …普通なら、決まっているはずのコースだったのだが…


    「りゃっぁ!!」


    パァン


    …また、不二はボレーに飛びついた。


    「ゲ、ゲーム不二!4−4!!」


    「っはァ、はァ、はァ…」


    不二は息を切らしながらも、最高のコンディションとテンション…そして今までに
    は無い、なにか強い信念が感じられる。


    「…不二…お前は…やっぱ天才やら、カウンターやらで説明できるほど…素直な男
    じゃないな…。」


    奮闘する二人。


    「なぁ、お二人さんよ。」


    「?」


    仁王は突拍子も無く、河村と石田に言った。


    「俺は不二にアドバイスを…してない理由…わかるか?」


    「あ、…確かに。さっきからアドバイス…してないよね…」


    河村は少し悩んだが、答えが見つからない。


    「教えてやろう…か。」


    「アイツはな、俺の手に負えるほど、簡単な男じゃないらしい。」











    「今…気づいたよ。仁王。」




    「衰えていたのは、カウンターじゃなくて、僕自身だったんだね。」

561/ 第14話 デジャヴ
・投稿者/ キリ
・投稿日/ 2006/11/23(Thu) 20:59:28
・IP/ 219.165.186.159

    佐伯がトップスピンロブを上げた。
    悠々と追いついた不二は、前に出ようとしてた佐伯の足元に鋭いショットを放っ
    た。


    『ゲーム不二! 5−4!』


    意図的に、三種の返し球(トリプルカウンター)を使っていない。
    そんな事、佐伯もとっくに気付いていた。

    何故なら彼は、1ゲーム目からそれを誘う球ばかり打っていたから。
    フォア側に入るスピンサーブ。バック側に入るドライブ。そして、スマッシュ。
    もちろん、打ちやすい打球が来てる事に気付かない不二じゃない。

    つまり、確実に意図的。
    三種の返し球(トリプルカウンター)を使わないという強い信念のもとに、不二はわ
    ざと頑なに違うショットで返し続けてきた。

    一回戦なんかで使ってられない。
    きっとそんな意地だろうと佐伯は思った。ほぼ、正解だ。

    傲慢なんじゃない。優勝する為に、より高い所に行く為に。


    そして―――最高のスリルを味わう為に…


    彼は、その為に、敢えて自らの足に枷をつけたのだ。


    「…はぁ〜…やっぱ、な〜」


    ふいに気が抜けるような声を出したのは、仁王。


    「不自然だったんだよ、お前は。練習の時も、練習試合の時も。やっぱお前…」


    長いラリーの中、佐伯がロブをあげてしまった。
    意図的にじゃない。ギリギリ返せる打球だった為、自然とそうなった。


    「―――っあ!」


    逸早く落下地点に入り、長いタメを作り、不二は、スマッシュを放った。
    佐伯は手を伸ばし、ボールに向かって飛んだ。しかし、取れない。


    『15−0!』


    「本番じゃないと、本気でないか」


    ボールに向かって飛び込んだ佐伯は中々立ち上がらない。
    地面にうつ伏せになってる彼の視界に、金網にあたって跳ね返り、転がってきたボ
    ールが映った。

    彼は、この感じを知っていた。


    『だッ!』


    ボールを追う少年。飛び込むものの、ラケットはボールには届かなかった。
    この少年こそ、小学生の頃の佐伯だ。


    『ゲームセットウォンバイ不二! 6−0!』


    そして、相手もまた、小学生の頃の不二だった。


    『あーあ、また負けちゃったよ』


    『でも今日はちょっと危なかったよ』


    『涼しい顔して何言ってんの…』


    幼馴染の彼らはよくこうやって近所のコートでテニスをしていた。
    と言っても、その実力の差は明白で、こう試合をやっても大概結果は変わらなかっ
    た。

    けど、佐伯は懲りず何度も不二に挑戦する。
    結局佐伯は一度も不二に勝てないまま、お互い別々の中学に進学し、あまり会う事
    はなくなった。

    佐伯は六角中で猛練習をしてきた。
    不二を越えるほど、強くなる為に。
    結局、今やってる試合がお互い3年ぶりのシングルスでの対戦となった。

    そして、佐伯は三種の返し球(トリプルカウンター)を研究し、攻略法を見出してい
    た。
    しかし、肝心のそれを不二は一度も使ってない。

    つまり、先ほども述べたが、不二が敢えて三種の返し球(トリプルカウンター)を使
    わないのは傲慢なんかじゃない。
    そして、ただ枷をつけたいだけではない。

    気付いていたのだ。佐伯が攻略法を考案してくるだろうと。
    それでこの試合中、ずっと封印し続けてたのだ。

    枷をつける事により、もう一つの枷を壊していたのだ。


    ―――全く… やっぱお前は、読めない…


    不二のドロップボレーが決まる。


    『40−0! マッチポイント・不二!』


    「スゲぇ! 4−0から一気にマッチポイントまでいきやがった!」


    「もうこれで決まりだろ!」


    不二は、左手でボールを軽くつく。
    ちらと、佐伯の方を見てみる。笑ってる。
    不二も、微笑んだ。


    ―――どうやら、簡単には勝たせてくれそうにないね

    「あッ!」


    不二が渾身のサーブを放った。
    それを佐伯も渾身のリターンで返す。


    「!」

    ―――この土壇場で…打球が重くなるなんてね…


    しかし、不二も負けじと逆サイドに深いトップスピンショットを打つ。
    何とか佐伯は拾う。ボールはネット際に落ちた。

    不二は早々とボールに追いつき跳ね際を叩いた。

    佐伯もそれをさらに鋭いショットで返す。


    「な…何だこのラリー…」


    「最後の最後でここまで粘るのか!」


    ギャラリーもざわめきだした。
    その時、不二が目を光らせた。


    ―――ここだ!


    不二は、浅いショートクロスのボレーを放った。
    大概の者が、「決まった」そう思った。


    「うおおお!」


    しかし、佐伯はそれすら拾った。再びギャラリーが沸く。
    だが、それも束の間。返球はロブとなってた。

    落下地点には構えてる不二がいた。


    「ああ! ダメだ! もう待ち構えてる!」


    「がら空きの逆サイドに……!」


    不二は、スマッシュを放った。

    佐伯は思った。「似ている」
    こんな状況とは、何回か出会った事があった。
    相手はいつも不二。そしていつも取り損ねてた。


    ―――今回こそは…!


    佐伯は、飛び込んだ。


    「! 無茶だ! 取れっこない!」


    誰もが、そう思った。
    しかし、ラケットはきちんとボールを捉えた。
    ボールは、きちんとコートに返った。


    「うおおおおおおおお! すげえ! 何て執念だアイツ!」


    佐伯は、不二のコートを見て、くすりと笑った。


    ―――はは、やっぱり、お前には敵わないな。


    既に、落下地点で構えてる不二がいた。


    ―――信じてたよ、佐伯。君ならあれを取る事を。


    不二が再び、渾身のスマッシュを放つ。


    ―――…そういや、不二。お前、知らなかっただろうな。

    ―――裕太君だけじゃないんだぜ? お前を誰よりも倒したいと思ってるの。



    ―――そして……誰よりもお前に憧れてるのは―――…


    次は佐伯も、触れる事すら出来なかった。


    『―――…ゲームセット! ウォンバイ不二! 6−4!』


    拍手喝采。両者に対し「よく頑張った」という、労いの拍手だった。

    そしてその中、コート中央でネットを挟み握手をする二人。


    「負けたよ。2回戦進出おめでとう。やっぱお前は天才だ」


    「フフ。どうも」


    「…しかし、上に行ったら多分普通に三種の返し球(トリプルカウンンター)攻略で
    きる奴ばっかだと思うよ。どうするの? さすがに使わないって訳には…」


    「……大丈夫」


    不敵な笑みを浮かべた後、不二はちらと後を見た。
    ギャラリーの中に、まだ千石はいた。あちらも笑みを浮かべ、こちらを見ている。


    「…その時は…『三種の返し球・進化版(トリプルカウンター・エボリューションバ
    ージョン)』があるから」


    「?」


    全く聞いた事の無いものだったが、この不二の自信を見る限り、よほどのものなの
    だろう。
    佐伯はそれだけ、想像がついた。


    「不二はこの試合で、全くカウンターに頼らなかった。自分自身が鍛えられた。強
    くなった。この先が、楽しみだな」


    試合後、仁王は河村と石田にそうコメントしていた。


    「さーて、じゃあ整列……」


    仁王は、ベンチから立ち上がった。
    整列だと思いベースラインに向かおうとした。
    しかし…


    『それではシングルス1! 仁王君VS伊武君の試合を始めます!』


    「………へ?」


    一気に、仁王チーム全員の顔が崩れた。
    審判に問いかけた。二勝したんだから試合は終わりじゃないのかと。


    「何言ってるんだい? ルールに書いてあっただろう?『一回戦は勝敗に関わらず
    シングルス1までやる』と」


    「…………」


    どうやら、仁王は肝心な所を読み飛ばしてしまっていたらしい。


    「…悪い。誰かラケット貸してくれないか?」


    「ほ、本当に持ってこなかったんだ…」


    試合をやらないという宣言が、ひょんな事に一回戦から崩れてしまった。
    しかし、やらないなんて言えるはずもなく。
    シングルス1、仁王VS伊武が始まる事になった。

565/ 第15話 本当の理由
・投稿者/ 來一
・投稿日/ 2006/12/19(Tue) 23:24:20
・IP/ 221.78.11.143

    ───スパァン!!


    「ゲーム!仁王!4−0!」


    現在のゲームカウントは4−0。仁王が圧倒していた。


    「さすが…仁王さん…!深司相手に、1ゲームも譲っていないなんて…!!」


    ベンチで観戦していた石田は先程、仁王にラケットを手渡していた。


    そのときの、全く見慣れない仁王の『すまない』という表情だけは、少しおかしな
    気がして明確に記憶されている。


    だが、試合が始まってみれば、石田達の表情は一変。


    「…今まで忘れかけてたけど…確かに彼は、立海大付属の…レギュラー…。」


    二試合目に試合に出た不二は、氷で冷やしたタオルで汗を拭きながら、無意識につ
    ぶやいた。


    …そう、確かに彼、『仁王雅治』は、全国大会二連勝の『王者・立海大付属付属
    中』のレギュラー陣の一人である。


    立海大の選手の個々の実力といえば、全てにおいてトップクラス。


    全てを総合したチーム力では、現在の中学テニス会の中で頂点に立つと言われる。


    …そして、もう一度言うが、彼はその『王者・立海大付属中』のレギュラー陣の一
    人。


    つまり彼は…


    「やっぱ…全国区…か。」


    河村は改めて見る本当の仁王の姿に、圧倒されていた。───













    「幸村部長ー…ほーんと、一体なんなんすかねー。この大会…。」


    ギャラリーから観戦しているのは、仁王と同じく、二年生にして立海大のレギュラ
    ーである切原赤也と、その立海大の部長の、幸村精市。


    「なんで関東大会決勝のコートなんか使っちゃって…チームごとにする試合を長引
    かせて、それをまたなんで3日間まで引き伸ばすなんて…マジ意味わかんね。」


    すねたような表情の切原。どうやら、切原はこの試合の進め方に不満があるらし
    い。


    「まー、確かにそうですよねー。チームも少ないんだし、他の庭球場を使って一日
    で終らせばいいのに…。」


    この大会で使用されるコートは関東大会決勝に使用されたコート一コートのみ。そ
    して全チームが一回戦を終えると、二回戦からは来週に引き伸ばされる。確かによ
    く考えてみれば、おかしな話だ。何故これほど試合を長引かせるのか、切原と、先
    程切原に共感した銀河中の福士ミチルは思っていた。


    「…まぁね。好戦的な赤也とかは、こういう長い大会とか嫌いでしょ? 高まるテ
    ンションをそのまま一気に出して試合したいんだよね。」


    幸村は、この言葉の後に二、三度微笑んだ。


    「その通りっすよ。全く…」


    いつものくせっ毛をかきむしる切原。


    「ったく、これだから頭の軽いヤツは嫌いなんだよ…幸村さん、この大会が本当は
    どういうものか、教えてやってあげてくださいよ。」


    日吉若。…氷帝学園中の二年レギュラーだ。


    1、2秒たち、切原は頭にきて反論してやろうかとも思っていたが、幸村が口を開
    こうとしていたので遠慮した。


    「頭が軽いってのは、言いすぎだけどね…まぁ、とりあえず俺の考えではあるけ
    ど、説明するよ。」


    幸村は微笑みながら言った。その後、切原は日吉を睨む。日吉も睨み返す。


    「…この大会が開催された表の理由…わかるよね?福士。」


    「えー、あー、はい。『関東大会後、何故、このような異様な大会を開くのかと不
    審に思っているだろう君たちに説』」
    「いちいち榊監督の声マネしなくていいっすよ…」

    日吉はあまり冗談が好きではないらしい。


    「わりぃわりぃ、ちょっとしたノリでね。ノリ。…確か、リーダーを率いて団結力
    や集団性を身につけて、その成果を示すとともに今後の糧にするとかそんなのだよ
    ね?」


    福士の言葉はあいまいだが、間違っているわけでもない。


    「…うーん、まぁそういう理由らしいけどね。でも本当は…違うことぐらい、皆も
    感づいているんじゃないかな。…この不自然に長引く大会を見ればすぐに…」


    幸村は言葉を続けた。


    「これだけ長引かせることによって、選手は前の試合の疲労を引きずることなく対
    戦させられる。最高のコンディションで。…つまり…



















    「この大会は、ホントは表向きの理由とは全く違う。そう…必ず対等な立場で戦わ
    せる…最強のチームを決める大会なんだよ!」


    この男は、跡部景吾。…この言葉の後、大きく高笑いを上げた。


    「…なるほど…であれば尚更我々に敗北は絶対に許されん!」


    「楽しみばい。」


    「ふーん…なかなか、面白そうじゃん。」────













    「ゲーム!仁王!5−0!」


    その後も、仁王はゲームを譲っては居なかった。


    そして、チェンジコートの際、仁王は挑発を試みた。


    「なぁ、伊武よお。」


    「あ?」


    「うちのとこの後輩の言葉だがな。」




















    「天才って、一度崩れると案外もろいらしいな。」


    この一言が、この一方的な試合展開が一転する一言でもあった

569/ 第16話 どうでもいい
・投稿者/ キリ
・投稿日/ 2007/02/18(Sun) 21:27:10
・IP/ 218.44.126.243

    トップスピン。スライス。トップスピン。スライス。

    ―――…チッ! またか……

    仁王はバックハンドでボールを捉えたが、手の痺れに耐え切れず、ラケットを放し
    てしまった。


    『ゲーム伊武! 1−5!』


    「…一応知っとったんだがのぅ…」


    「遂に出した…スポットだ…!」


    トップスピンとスライスを交互に打つ事により、相手の手を痺れさせる技。
    河村や石田ののようにパワーを使ってではなく、スピンで相手のラケットを弾く。
    もちろん、消耗もパワープレイヤーに比べたら全然だ。

    今まで一回も使わず、5ゲームを連取されてた伊武。

    正直彼は、2連敗の時点でやる気をなくしていた。

    この大会自体、彼にとってどうでもいい事だった。
    自分の目標は、不動峰を全国優勝させる事。
    それに全力を注いでる彼に、こんな大会、興味がなかった。

    誘われたのは自分が夜のコートに侵入して、サーブ練をしてた時だった。
    真昼間の人がいる時は、どうも彼にとってやりづらい。
    一人でやるのなら、周りもまた一人がいい。
    悪い言い方だと、下手糞が周りでガヤガヤやってると集中出来ないのだ。

    彼がその日65球目のサーブを放った直後だった。
    かごが空になったので、拾いに行こうと、逆サイドに歩いていくと、
    自分と同じように、フェンスをよじ登る3人の人影を見た。向こうも伊武の存在に
    気付いたようだ。


    『あれ? 誰かいますね……』


    『おいおい、関係者だったらヤバイな…』


    『いや、待ってくれ。…ああ、やっぱり。彼は不動峰の伊武君だよ』


    自分から名乗る気もなかったが、勝手に向こうは自己解決してた。
    何か面倒くさそうなので、もう彼はボールを拾い終えたら帰ろうと決意し、3人に
    は目もくれず、ボールを拾い始めた。

    3人がこそこそ話し始めた。
    こうも自分だけに聞こえないこそこそ話をされると、どうも自分の陰口としか思え
    ない伊武なのだが、
    結構慣れている事なので、気にせず黙々と拾い続けた。

    すると急に3人も一緒に拾い始めたのだ。


    『ハイ。大勢でやった方が速いだろ?』


    『…どうも』


    断る理由もない。
    そう感謝する訳でもないが、やりたいのならやらしとけばいい。
    そう思ってる内に落ちてるボールはなくなってた。


    『どうも…でした。じゃあ…俺は、これで……』


    『あ、待った!』


    フェンスに手を掛けた途端、鳳が声をかけてきた。


    『結構助かったよね? 俺たちが手伝って…』


    『……まあ、そりゃ』


    ここで否定するのは、さすがに失礼なものだ。


    『よし! じゃあ、感謝ついでにうちのチームに入ってよ!』


    『…………………』


    伊武の中の、謎はすべて解けた。
    何故、まともに接点もなさそうな3人が一緒にコートに来てたか。
    あのこそこそ話はなんだったのか。
    何故、ボール拾いを手伝ってくれたか。

    全て伊武を、自分達のチームに入れる為だ。
    借りを作って、断りづらくしようとしたのだ。

    彼にとって、どうでもいい大会。
    しかし、どうでもいいからこそ、『断る理由』もないので、彼はあっさり承諾し
    た。

    こんなの、練習試合のようなもの。
    本気を出す必要はない。相手の実力をはかれればいい。
    しかも相手はあの立海の仁王ときた。この上ない『練習相手』だ。

    この男に雪辱を果たすのは全国で、だ。
    今は精々、自分の圧勝に溺れてな。

    こんな風に彼は考えていた。

    だが、事情が変わった。


    ―――誰が天才だ!

    ―――俺が一番嫌いな言葉だ! 俺は…不動峰を、橘さんを勝たせる為、必死に努
    力してきた。

    ―――それを…お前みたいな『天才』が、『天才』なんて言葉で片付けるな!

    ―――誰が『脆い』だ!!


    「うああああ!」


    また、仁王はラケットを弾かれてしまった。


    『ゲーム伊武! 5−5!』


    「あの深司が…吼えた」

    「しかも追いつかれたか…」


    仁王はスポットを知っていた。
    関東での不動峰戦前に、柳から聞いてたのだ。
    もちろん、弱点も。

    だから、気付いてた。
    これはただのスポットじゃない事を。
    回転力が半端なく増えてるのだ。
    スライスで返しても、その倍のスライスで返してくるほど。

    だからスライス一辺倒で攻めるなどの攻略は効かない。
    リョーマのような二刀流などは、仁王は真似できない。


    ―――やるのー、伊武。この短期間で自分の技をここまで磨いたか。

    ―――やっぱ天才…。それも、努力の、な。





    ―――が





    ―――残念…。やっぱこの程度、か。


    この状況で、仁王は笑いを堪えていた。



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掲示板管理者:マリル
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