「……朝…か。練習…。…今日は休みだった…」
大会まで、あと少しと迫っていた。 仁王の思いつきで出来たダブルスの技は予想以上に上手くいったみたいで、 タカさんと石田君。二人のダブルスは、もうかなり出来上がっている。
「僕は………」
二人の技が出来たあの日、仁王に言われた事を思い出した。
『正直言わせてもらう。今のままのお前じゃもう通用しないぞ。だが、お前なら出 来る。大会までのパワーアップ……やってみせろ』
確かに、最近僕は通用しなくなってきた。
樹に返された『つばめ返し』 英二の助けが無かったら、どうなってただろうか。
切原にスマッシュで返された『白鯨』 『羆落とし』で何とか切り抜けられたけど…。
そして、その『羆落とし』
橘に、ラケットを飛ばされ、ガットに穴を開けられた。 返すことしか、出来なかった―――
僕の返し球(カウンター)が、効かなくなってきてる。 仁王にそれを、見抜かれてしまった。 彼の観察眼。興味無いだけで、実際は乾や柳より凄いんじゃないかと、少し思って しまう。
4つ目の返し球(フォースカウンター)もあるが、あれが使えるケースは結構稀だ。 使ったところで、それまで攻略されたら世話無い。
天才天才と煽てられてきたが、皆が本気になって攻略すれば、こんなもんだ。 切原がいつぞや、僕に言ってたな。
『天才ってさぁ… 一度潰れると案外モロいんだよなぁ』
確かに、彼の言う通りかもしれない。一度潰れた天才は、脆い。
が、僕はこのまま崩れるつもりはない。 脆いなら、頑強なものにもう一度作り直せばよい。
仁王の言った通り、大会までにパワーアップを計る。 これまでの仲間、敵が教えてくれた。限界なんか無い。僕ならきっと、出来るはず だ。
やってやる…。カウンターの進化…。 それに必要なのは…………。
―――とにかく僕は外に出た。 練習が休みといっても、こんな天気のいい中、何もしないのはもったいない。
軽く走りながら、これからどうするか考えてみる。 まず早急に改善が必要なのは『羆落とし』かもしれない。
四つの返し球(フォースカウンター)の中でも一番使い勝手が良く、 テニスの決め球『スマッシュ』を封じれる事がウリだったが、あれが一番破られて る。
『蜉蝣包み』を習得するため、ボール3球をいっぺんに打ち返すという練習した場 所に行ってみる事にした。 結構遠いけど、走ってれば30分もあれば着く。
それにあそこは、仁王とは違う僕にとっての穴場で、少なくとも近隣の学校の人間 と会った事は一度も無かった。
結構設備も良く。スマッシュをイメージしたボールを打ち返す練習も出来たと思 う。
ともかく、腕時計のストップウォッチ機能で計って25分13秒。ベストタイムで 僕はそこに着いた。
中は結構広く、スマッシュを打ち返す練習が出来る場所がイマイチ分からず、中を 少し彷徨ってた。
すると、先ほども言ったが、僕が『蜉蝣包み』の練習をしたあの場所に、結構な人 だかりが出来ていた。 気になったので、人垣に入り込んで、見えるトコまで進む。
パーカーを着て、フードを被った男がボールを打ってる。 僕も流石に驚かされた。その男はいっぺんに『5球』ものボールを打ち返している のだ。
男がまた、飛んでくる5球の球を打ち返したら、機械は止まった。
「チッ… もう終わりかよ…」
小さく呟くと、その男はネットをくぐり、そこから出る。 自然に人だかりは彼の為に一歩後にさがり、彼が通れる道を作った。
その道を通り抜け、出口に向かう男。外に出る直前、彼はフードを取った。 後姿だったけど、その髪型には見覚えがあった。
「あ………跡部!」
「?」
思わず叫んでしまった。本当に思わず。 あまり、今は会いたくなかった。このままやり過ごせば良かったのに。 僕は、人違いである事を祈った。
「…あーん? 不二か?」
やはりこの男は、氷帝学園テニス部部長・跡部 景吾、その人だった…。
数秒間、見合ったまま沈黙が続く。もう先ほどのギャラリーは散らばっていた。
「てめぇ… ずっと見てやがったのか…?」
先に彼の方が口を開いた。
「いや… ついさっきだよ。君が5球もの球をいっぺんに打ち返すのを、2回ほど 見ただけさ」
「……ククク…そうか、それはすまなかったな」
「? どういう意味だい?」
意味が分からなかったので、聞いた。 彼からは、思いも寄らない返答が返って来た。
「いや…『5球程度しか』打ち返さないようなの見ても、詰まらなかったろ?」
彼は何と『5球程度しか』と言ってのけた。 しかし、彼が言うと、虚勢には感じないのが不思議だ。 彼はいつも大きい口を叩くが、それ相応の実力を、彼は確かに持っているのだ。
「時に不二よ… お前は今度の大会…出るのか?」
正しい固有名詞は言わなかったが、言わずとも分かると思ったのだろう。 実際、今『今度の大会』なんて言われ、思い浮かぶのは一つしかなかった。
「……出るよ」
「ほう… 一体誰のチームで?」
「それは言えないよ…」
「ハッ…敵に情報は洩らせないってか…?」
「まあ、そういう事だね…」
仁王にも口止めされてるし。
「じゃあ、俺のチームを教えてやろう。橘に真田……そして越前だ!」
「!」
驚いた。まず僕が何も言わなかったのに自ら自分のチームメイトをバラす事。 そして何より、そのチームメイトに……だ。
まず、彼、跡部。 手塚と並ぶ関東の超強豪。 相手の弱点を見抜く『インサイト』という技を持つ。とにかく厄介な男だ。 多少ナルシストで、自らをとても高く評価してるが、決して自信過剰じゃない。
元九州二強の橘。 超攻撃的なテニスは相手に反撃のチャンスを与えない。 先述したが、彼のスマッシュは僕の『羆落とし』でも返せない程の威力だった。 猛獣のようなオーラを使う、元祖のような男だ。
中学テニス界の皇帝・真田。 彼も跡部と同じく関東の超強豪。純粋な実力は跡部を上回るかもしれない。 『風林火山』と名付けられたタイプの全く違う技を4つ持ってる。 『林』と『山』は見た事ないが、いずれも強い事は間違いない。
…そして青学(ウチ)の、越前。 一年生ながら、上記の3人をも凌駕し得る実力を持ち得てる。 彼に何より驚かされるのは、その成長スピードだ。 試合の途中ですら、彼は何らかの糸口を見つけ、成長する。 僕が知り得る範囲では、彼は公式戦負け無しだ。 もうもはや、手塚すら超えつつある…。
青学の柱を奪い取る事を期待されてる超一年生(スーパールーキー)。
反則的なまでの、オールスターチームだった。
「何故俺がお前に情報を洩らしたか分かるか? それを知ろうが、お前ら…いやど のチームにも勝ち目は無ぇからだ!ハハハハハハ!」
「言っとくが…テメーの使うカウンターなんて小細工、俺には通用しないぜ…」
…そんなの、分かっていた。 手塚や跡部には勝てなくても、仕方なしと思ってた。 勝ちに執着できない。手塚にも指摘された事があった。
けど、手塚と跡部の戦いを見て、勝利への執着心を知り、 そして僕は切原戦で、勝ちへの執着心、執念に縋り、勝利した。
僕はもう…誰にも負けたくない!
「じゃあな不二。次は大会で会おうぜ」
彼がまた僕に背を向ける。
「…仁王、タカさん、石田君」
「あ?」
何を血迷ったか帰ろうとする跡部に、僕はチームのメンバーを教えてしまった。 そしてその後も、何も考えぬまま、僕は喋り始めた。 熱くなってしまったのだろうか…。
「言っとくけど、僕らのチームだってどこにも負けない」
「もちろん跡部、僕は君に負ける気もない…!」
「……ハッ! 下んねぇ大言壮語だな…」
「まあ、せいぜい俺らと当るまで負けねぇこった」
「悪いけど、大言壮語を吐いてるのは君の方だよ」
「………」
跡部は軽く笑みをこぼし、自動ドアから去っていった。
「………そうだ」
そうだ。僕は誰にも負けない。負ける訳には行かない。 最初は嫌だったけど、会ってよかった。 跡部のお陰で俄然、やる気が沸いてきた。
跡部… 君が通用しないと言ってたカウンターを、見違える物に仕上げてあげる よ…。
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