史上最大のスポーケン洪水を目撃した人は、果たしていたのだろうか。ワシントン
州のスポカナ族やネ・ペルス族らの洪水伝説は、その証言なのであろうか。だがこ
の大事件は、当時、気候が温暖化しつつあったことを示唆するとはいえ、まだ氷河
はコロンビア盆地まで押し出していたことを考えれば、まだ遠い過去のことでし
た。第一、その頃は北アメリカに、人間が住んでいなかった。
しかし一方では、狩人が氷河近くのツンドラ帯を、獲物を求めて彷徨していたとい
う説もあります。洪水の目撃者はいたのか、その可能性はあるのか、この解明は、
実はアメリカ大陸にいつ人類が渡来したのか、ということに関わりを持ちます。
最初のアメリカ人は、現在ヨーロッパから来たというよりは、アジアからの移住者
であると結論付けられ明らかになっています。しかしアジアの人間がアメリカに移
住したのは船に乗ってと考える人もいたし、筏で太平洋を横断したのだとみる人も
います。大部分の人々は、ベーリング陸橋を経由して、アメリカ本土に渡ったと信
じていたようです。
アメリカ国立大学アカデミーとソ連科学アカデミーの共同に加わった13人の人類学
者、考古学者らは、アリューシャン列島のほぼ真中にあるアナングラ島で、石刃な
ど数種類の生活道具を発見しました。
ローリンソンによると、「アリューシャン列島では、これまで多くの探査で人骨や
石やナイフが発見されてきたが、いずれも紀元前5000年頃のものばかりだった。こ
のため、最初のアメリカ人はシベリアから来たという、有力学説を直接に裏付ける
証拠とはならなかったが、最近の探査で、9000年前の石ナイフが発見され、しかも
これがシベリア大陸から発見されたものと一致したので、9000年前シベリアとアラ
スカを結ぶ�猊昂襪靴伸疥Χ兇世辰織戞璽螢鵐鯵ざ�を伝わって、アリューシャン人
がアメリカに渡ったことがはっきりした」ということでした。
ところがアメリカではすでに1万1000年前頃には、インディアンの狩猟文化が確立し
ていたといわれています。それゆえシベリアに住む石器時代のパイオニアたちが、
アメリカへ第一歩を印したのは、実は9000年よりも前に遡ると考えられています。
考古学者らによると、少なくとも1万5000年前には、シベリア原野には旧石器時代人
達が住んでいたという。氷河拡張期(4万〜1万7000年前)には、ベーリング海峡一帯
は凍りついて、海水位はずっと下がっていたはずである。したがってこの陸橋を使
えば、足をぬらさずアラスカへじかに歩いて渡ることができたはずである。しかし1
万2000〜1万4000年頃になると、気候もゆるみ氷もとけて海水位は上昇してきた。し
かし冬の結氷期を選べば、まだアラスカへ渡るにも困難はなかったであろうと言い
ます。
マーチンは「アメリカ発見」という論文の中で、「ベーリング陸橋を渡ってやって
きた旧石器時代のパイオニアたちは、眼の前に広がる豊かな未開発の2600万平方キ
ロに及ぶ大陸を発見した。彼らは、もうこれ以上豊かな土地を見つけることは不可
能だ」と記しています。
なぜ彼らはシベリア原野から極地に近づき、陸橋を越えて東方へと渡ったのだろう
か。それはいうまでもなく、そこには豊富な大型野生生物がいたからに他ならな
い。マンモスをはじめとした獲物を追って、新大陸に踏み込んだというのが真相で
しょう。
当時、北アメリカを覆っていた巨大な氷河を横断できたのだろうか。太平洋岸沿い
にアラスカから南下するルートは、ほとんど前進不可能であったろう。高いカナデ
ィアン・ロッキーから落ちる谷氷河は入り江を埋め、流氷に襲われる危険の多い道
である。コルディエラ氷河の中を通るルートはさらに困難です。
もっとも希望的なルートといえば、東のローレンシア氷河と西のコルディエラ氷河
との境界ルートです。これらの両氷河が東と西に向かって退却したとき、かろうじ
て南下できる一本の道が確保されるからです。ではこの長い「廻廊」は、いつでき
たのであろうか。それはおそらくウィスコンシン氷河拡張期の前後だと言われてい
るのです。
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