各種の世論調査を見てみますと、多くの人が常に老後への不安をあげています。人
は誰でも年をとり、年をとったときの生活費をどうするのか、そのことに無関心な
人はあまりいないと思います。その意味において、年金問題は高齢化社会の在り方
をよく考えていくうえで、最も重要なファクターの1つだと思うのです。
去年、公表された社会保障分野における緊急に取り組むべき5つの対策では、社会保
障制度は高齢化社会で最も重要な制度であることは論をまちません。宙に浮いた年
金記録問題を始めとする様々な不祥事や、また、障害者自立支援法のみならず、後
期高齢者医療制度にみるような制度の不備やほころびが露呈するなど厚生労働行政
に対する不信感、不安が広がっています。
こうした事例を受けて年金や医療など高齢化社会に対応できる体制へと組織を立て
直す狙いも込めて、政府は、�’�金等高齢化社会への対応、��医療体制の強化、��
子育て支援、�と鸚亀�労働者の支援、�ジ�労行政の信頼の回復、という5つの安心プ
ランを打ち出しました。こうした5つの安心プランで本当に安心できる社会を構築で
きるのか、我々は厳しくチェックしていかなければなりません。
我が国の年金制度が、どのような制度になっているのかというと、大きく3つの制度
からなっています。サラリーマンが加入する厚生年金制度は昭和29年に始まりまし
た。公務員の共済年金制度は昭和33年、そして国民年金制度が昭和36年にスタート
し、これをもって我が国の年金制度は皆年金となったのです。しかし、これらの制
度は法律も制度の内容も全く異なり、バラバラの状態でした。
特に、農業や自営業者等が加入する国民年金は高度経済成長期に加入者の減少が続
き、財政基盤が不安定となってきたこと等から、昭和61年度から各年金制度に共通
する基礎年金制度が導入されました。各年金制度とも、共通する基礎年金の上に自
前の制度を上乗せするように整えたのです。ただし、国民年金制度は、国民年金が
即、基礎年金として給付される仕組みになっています。
基礎年金が導入され、全くバラバラだった各制度に部分的共通年金が出来たとは言
え、いまだ3つの制度が併存している状態であることは事実です。政府も、国民の前
で負担と給付に格差があることは望ましくないとして、昭和59年に公的年金制度の
一元化の閣議決定を行いましたが、実際の統合となるとそれまでの経緯等から利害
が複雑に絡み合い、一元化は容易なことではありません。
それでも平成16年には国家公務員共済と地方公務員共済の統合が行われました。ま
た、平成19年には厚生年金と共済年金との統合法案が国会に提出されましたが現在
継続審議中で、一元化にはまだ長い道のりが必要です。一方、年金財政について
は、我が国の年金制度は「積み立て方式」ではなく、支払われた保険料を現在の受
給者にそのまま給付する、いわゆる「賦課方式」がとられています。
この方式の下では、少子高齢化の進行と共に保険料を納める若者の数が少なくなる
一方で、年金を受け取る高齢者の数が増加し、その結果保険料がそのままでは、保
険料の総額が必要な給付額に達しなくなります。そのため、平成16年の見直しの際
に、今後毎年保険料を引き上げていく一方で、受け取る年金の額を例え物価が上昇
しても物価の上昇率よりも低く押さえることとしました。
政府は、社会保障審議会等で基礎年金の受給資格期間を25年から10年程度に短縮し
たり、パート社員の厚生年金の適用を拡大することなどを議論していると伝えられ
ています。平成16年に政府は年金制度の改革を行いましたが、抜本改革にはほど遠
く、年金問題は今新たな局面を迎えていると言っても過言ではありません。その根
っこに横たわっている問題は、国民年金の実質的な納付率が今や50％を下回ってい
ることです。
国民皆年金を前提としている制度で、2人に1人にしか保険料を支払っていない状況
では、制度そのものが崩壊してしまいかねません。そのため、基礎年金の財政状況
を改善しようとして、平成21年度から国庫負担の割合を3分の1から2分の1に引き上
げることとしています。必要な財源は2兆3000億円と言われていますが、しかしその
財源確保の目途は未だ立っていないのです。
年金制度では、まず基礎年金をしっかりとした揺るぎない制度として確立すること
が最も大切です。この問題については、民主党をはじめ政府与党の中からも、基礎
年金部分の全額税方式がもっとも望ましいとする意見が急速に高まっています。現
状は既に述べたように国民年金保険料の納付率が半分程度と極めて低く、将来年金
をもらえない人が大量に出ることが想定されます。そうした無年金者は生活保護を
受ける可能性が高いと思われます。
生活保護については、現在でもまじめに働いて保険料を納めた人が受け取る基礎年
金の額より、生活保護の支給額の方が多い場合があることが問題となっています
が、全額税方式にすれば、こうした問題もクリアされていくものと思います。ま
た、「基礎年金」、「皆年金」という主旨に照らして、全国民を対象にした税方式
の方が、より制度としての意義が高いと言えるでしょう。
もう一つ、今年年金制度を揺るがす大きな問題が持ち上がっています。いわゆる
「宙に浮いた5000万件の年金記録」問題です。政府の年金管理体制には、開いた口
がふさがりません。平成19年の参議院選挙の最中に政府は、5000万件全ての照合を
終えて、問題を解決すると公約したにもかかわらず、未だに2000万件の記録が宙に
浮いたままです。今後新たな組織の下で行われる年金記録管理体制及び年金の運用
に国民の厳しい目を向けていく必要があると思います。
|