開業医と勤務医の所得に大きな格差がある点については、勤務医の処遇を大幅に改 善することが必要でしょう。また、産科医、小児科医の不足については、産科、小 児科の診察報酬の点数を引き上げるなどの対応が必要です。医療訴訟については、 大変難しい問題を含んでいます。
訴訟を起こす患者側の気持ちもよく分かりますが、医療側が敗訴した場合には、以 降、その診療科の医師になることが敬遠され、結果的に医師の偏在や不足を招くこ とになりかねません。産科医、小児科医の不足には、実は訴訟事件があるともいわ れています。
こうした問題について最近注目されているのが、訴訟と示談(和解)との中間に当た る「裁判外紛争解決手続」(ADR)と言われるものです。訴訟は裁判官が判断を下しま すが、医師訴訟の場合、裁判官は医療の専門家ではなく、医学的に正しい判断がで きるとは限らないともいわれています。
しかし、ADRでは専門家の医師が第三者の立場で仲介役をつとめる方法などもあり、 専門性の点でも問題が少ないものと考えられています。医療過誤を極力減らす努力 は、なお一層続けていかなければなりませんが、医療訴訟についても、各国の動向 等を参考にしながら、よりよい手法を見つけ出していく努力が求められています。
これまで政府は全体として医師は不足していないとして、医者を増やすことに消極 的でしたが、ここに来て医学部の定員を増やす方針を打ち出すなど、医師の確保に 力を入れることにしましたが、遅きに失したと言わざるを得ません。
今後地方の高齢化がますます進む中で、地域の医療をどのように確保していくの か、大きな問題です。例えば、一定期間地域で医療活動をしてもらった場合には何 らかの特典を与える等々、さまざまなアイデアを出していくことが必要でしょう。
医療についても、我が国は皆保険制度をとっています。昭和36年に国民健康保険制 度が全国で施行されるようになり、これをもって皆保険制度が整いました。しか し、年金同様健康保険制度もさまざまな制度が併存しています。
平成20年の10月以降保険者が国から全国単位の公法人に代わりますが、中小企業等 が加入するいわゆる「政府管掌健康保険」、大手企業等の「組合健康保険」、公務 員の「共済保険」、そして市町村が行う「国民健康保険」などがあります。
共通して言えることは、高齢化に伴い老人医療費をいかにして確保するかというこ とです。昭和58年に老人保険制度が創設され、各保険組合等から拠出金を受けてそ の費用を賄ってきました。
しかし、各保険組合等からの拠出金制度でも、増え続ける老人医療費を賄うのが困 難になってきとして、政府は平成20年度から75歳以上の全ての高齢者を対象に、こ れまでの老人保険制度を廃止し、後期高齢者医療制度を新たに創設して、75歳以上 の高齢者から保険料を納めてもらう制度をスタートしました。
ところが国民の間から、この後期高齢者医療制度は大きな批判を受けることになり ました。なぜ75歳で線引きをし、老人を差別するような扱い方をするのか、それほ ど多くもない年金からなぜ勝手に保険料を天引きするのか等々高齢者の怒りが渦巻 いています。
余りにも唐突な政府の新施策は、国民の間に全くと言っていいほど理解されていま せんでした。明らかに説明不足で、自治体の準備不足も重なり、政府の勝手な思い 込みも甚だしいものでした。
政府もようやく、保険料の払い込みは家族が行ってもいいことにしたり、天引きで はなく他の方法での払い込みを認める等々の改善案をまとめました。この一件ほ ど、政府の政策が国民の理解と協力なくしては推し進められないことを示した事例 はありませんでした。
国民の信頼を失った政策は、一旦撤回して、全てを白紙に戻してから、新たな政策 を提案すべきでしょう。民主党はこの後期高齢者医療制度し一旦廃止すべきだとの 結論に達し、平成20年5月23日廃止法案を参議院に提出し、現在衆議院で継続審議と なっています。手間暇かかるようでも、この方が国民の信頼を得る近道でしょう。
また、医師不足に対しては、民主党は医師養成数を現在の年8000人弱から5割増とす る医師確保策をまとめ、法案化する予定です。その中には、医師が不足する地域に 医師を振り分ける「支援センター」の設置も盛り込み、地域医療の確保に全力をあ げて取り組む決意のようです。
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